子どもたちのかかわりたい気持ちをどうする

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は前回見ることができなかった中学校を見ることと、先生方からの相談に答えることが中心でした。

中学校は、「友だちとかかわれることがうれしい」という休校明けの子どもたちの気持ちを強く感じました。高校生はそれなりに抑制が効いていたのですが、中学生はうれしい気持ちの方が強いようです。授業中にマスクを外して友だちとしゃべっている姿も目にします。マスクをしていても、前のめりで距離が近すぎる子どももいます。その一方で友だちとかかわることに不安を感じている子どもも一定数いるように思います。必要以上にかかわることを避けているように見えました。3密に関しては、適切な状態になるように授業者がもう少し意識してコントロールする必要があるように感じました。まずは安心安全な学級であることが基本です。
中学1年生は授業規律がまだ安定せず、小学校のままという感じがしました。出身小学校ごとに授業規律は異なりますので、中学校ではこうだよと、きちんと伝える必要があります。休校が続いたため授業を進めることをどうしても優先してしまうので、一度立ち止まって、まずは授業や学級の規律を身につけさせることを優先してほしいと思います。
中学校担当の先生にこの状況についてお話ししたところ、すぐに打ち合わせで検討したいと言っていただけました。素早い対応に感心しました。

高等学校では、前回同様に子どもたちが友だちとかかわりたいがかかわれないというストレスを感じている場面に出合いました。自分の考えを伝えたり、わからないことを聞いたりしたいのでしょう。まわりの子どもに視線を送るのですが声は出せません。iPadを使って意見や考えを共有することを積極的に行うことで、ストレスを減らすことができるのではないかと思います。

裁縫の授業で、子どもが個別にやり方の説明を授業者に求めている場面がありました。3密を意識して友だちに聞くことが憚られるので、直接授業者に教えてもらおうとしたのでしょうが、濃厚接触が気になります。実技では3密に関係なく、やり方の説明を細かく分けた動画を準備し、手元でいつでも見られるようにするとよいでしょう。自分のペースでわからないところを確認しながら進めることができます。一人一台の端末があたりまえになった時には、こういった環境を準備しておくことで自学ができるようになります。その代わりに、どのようにしてかかわりながら学ぶかが教室では重視されます。これからの授業のあり方を今から考え続けてほしいと思います。

英語のリスニング力をつけるためにどうすればよいのかという相談を受けました。ただ問題文を聞いて、質問の答えを選択し、正解を教えられても聞く力はつきません。聞けたことをまわりと確認してから聞き直し、少しずつでもよいので聞けたという実感を持たせるとよいでしょう。しかし、まわりと聞き合うことも現状では難しい状態です。話す代わりに聞けたことをオンライン上で共有する方法もありますが、リアルタイム性にはやや欠けます。相談者はいろいろと考え悩んでいるようでした。そこで、前回この学校の別の先生から教えていただいた、動画や音声のファイルをiPadに配布して家庭で繰り返して聞いておくというやり方を紹介しました。聞き取れたところ、よく聞き取れなかったところを事前にオンライン上で共有して授業に臨むことで、教室で再度聞く時にかなり聞き取れるようになると思います。よい実践を教科内で共有できていないことがもったいないと思いました。新型コロナウイルスの対策等で先生方の余裕がなくなっていることもその要因だと思います。今回の公開授業の参観者が例年と比べて少ないのも気になりました。先生方の余裕をつくるためにもICTをいろいろな場面で活かすことを考える必要があると思います。

公開授業でいろいろなことに気づく

私立の中学校高等学校の公開授業を参観しました。1週間の公開期間はどの授業も自由に見ることができます。この日は新しく赴任した先生方を中心に同行していただき、子どもたちの様子を共有しました。

休校中はオンライン授業を中心に一人一台のiPadを学校全体で活用していました。学校再開後、どのように活用されているか楽しみにしていました。
衝撃的だったのが高校1年生の授業でした。iPadどころか、プロジェクターもほとんど利用されず、一方的に先生がしゃべって板書している授業がほとんどでした。子どもたちの机の上にはiPadが置かれることすらされておらず、ノートに板書を写す作業が続きます。子どもたちが考える場面はほとんどなく、授業規律も怪しい状態でした。授業者は早く授業を進めることを意識していたのか、「どうなる?」「どう思う?」と子どもに反応を求めても反応が返ってくるのを待たずにすぐに自分でしゃべり続けます。たとえ子どもから反応があっても、「そうだね」と言って自分で解説を始めます。反応するまで待ったり、他の子どもにつなげて考えを共有したりする姿勢がみられませんでした。
一方高校2、3年生ではiPadは多くの教室で普通に使われていました。ただその使い方にはかなりばらつきがありました。資料の提示や配布のツール、調べるツール、課題の結果を共有するツールと様々な活用が見られます。しかし、iPadを使いながらも教師が板書して手書きで写させる場面も多く見ました。

学校全体で授業の進め方と合わせてiPadの活用を整理する必要を感じました。
一つは板書とノートの関係をiPadの活用を意識して変えていくことです。
事前に予定している板書はスクリーンに映すかiPadで配信すれば十分です。手書きで写すことに時間をとるのではなく、集中して先生の話を聞くことに時間を割くべきです。板書は子どもたちの意見や考えをアクティブに整理するのに活用するとよいと思いますが、それも手書きで写すことにはあまり意味はありません。写真に撮らせれば十分でしょう。
一方手で写すことが意味のある場面は当然手を使わせるべきです。ただそれも、紙のノートにこだわる必要はないと思います。
漢文で返り点の練習のための例を板書している場面がありました。先生は黒板に○を縦に書いて返り点をつけたものをいくつも書いていきます。子どもたちは、上から順番に○を書きながら返り点が出てくるたびに○の横に写していきます。二が出てくればそれを書き、後から一を書いています。これならばそのまま配信すれば十分です。本来ならば、先に〇だけ写し、まずレ点、次に一二点を一から順番に、続いて上下点を上から順番にと、返り点の意味を意識しながら写させなければ手を使う意味がありません。先生は指示をしたのかもしれませんが、板書で黒板に向かっているので子どもたちの様子は見ていません。これでは時間の無駄です。子どもたちには〇だけ書いたものを配信してスクリーンに例を映し、それから写し方を指示して手で作業させれば、自然に返り点の規則が見えてくるはずです。先生は子どもの写す様子を観察していればよいのです。
この教材で子どもたちに何を活動させればよいかを考えることが大切です。ICT機器を活用するにしても、やはり教材研究が大切なのです。

もう一つは、子どもたちの考えを深めるためにどうするかです。
子どもたちがそれぞれの課題の結果をiPad上で見合うことだけでは考えは深まりません。それを元にグループや全体でその課程や根拠を聞き合う場面が必要です。今回の訪問ではその場面をほとんど見ることができませんでした。3密対策のため、子ども同士で話をさせたり、全体で意見を交流したりすることが憚られることもその要因でしょう。実際、以前から子どもたちをグループや全体の場面でかかわらせること重視していた先生からは、今回の3密対策で授業がとてもやりにくくなった、子どもたちはしゃべりたいのにしゃべれないフラストレーションがたまっているといった言葉が聞かれました。
考えを共有したり深めたりする方法は聞き合うだけではありません、ICTはそこにも活かせるはずです。ネット会議システムでグループを作り、子どもたちにイヤホンを使わせればグループで話すことも可能ですが、さすがにそこまでは難しいのなら、ネット上で考えを共有させる方法を工夫すればよいのです。課題の答や結果しか書かせていないのなら、それを共有して、そこに質問を書かせればよいのです。線を引いて「よくわからない」「どうして?」といったことを書かせて、それに答えさせるのです。課題の結果ではなく、その過程や根拠をiPad上に残させるようにすれば、やり取りはより活発になると思います。過程や根拠に「いいね」をつけあうことで自己有用感も高めることもできます。子どもたちに小グループや全体で自由に見合うことをさせ、先生はそのやり取りや書き込まれたものを全体で価値付けすればよいのです。

また、今回の休校をきっかけに、ICT機器をうまく使うことで、子どもたちが自分で学習できることがまだまだあることに気づいた方もいらっしゃいます。
英語を聞き質問の正解を選んで解答を教えられることを繰り返しても、リスニング力はつきません。何度も聞くことで聞く力がつくのですが、一斉授業の枠組みではそれも容易ではありません。CDを焼いて配り家庭で聞いてくるようにと指示しても、手間なためなかなか聞いてはくれません。今やCDプレイヤーがない家庭もけっこうあるということです。そこで、音声ファイルをiPad上で配信して聞いてくるようにと指示したところ、多くの子どもたちが積極的に取り組み事前に何度も聞いて授業に臨んだそうです。これならば手間がないので、やる気になるようです。ちょっとした手間が障害になっていたのです。やる気と手間のバランスが変わるだけで、子どもたちは学習に積極的に取り組むのです。

発表のスライドをネット上で共同作業させている先生もいらっしゃいました。しゃべることが制限されても、オンラインツールでそれに近い共同作業はできるのです。学校でも活用できるインフラが整ってきています。それを活用するだけでも障害は乗り越えることができるのです。

私がまだ気づいてないだけで、この学校でも多くの先生がいろいろな工夫をしていることと思います。そういった工夫を学校全体で共有する仕組みを作ることを担当の先生にはお願いしました。

新しく赴任された先生方には、子どもたちとのよい関係づくりと、認めることでつくる授業規律のつくり方を中心にお話ししました。子どもたちをしっかり見ることと子どもたちの状況に合わせて授業をつくることを意識してもらえればと思います。次の機会があれば、子どもたちに考えさせるためにどうするのかについて、詳しく話をしたいと思っています。

子どもたちの様子や先生方からの質問から、いろいろなことに気づけた有意義な1日でした。
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