ICTの日常化を感じた検討会
私立の中学校高等学校で行われた公開授業の検討会に参加しました。
今回はグループごとに事前に意見を交換して、授業を見て感じたこと学んだことをプレゼンテーションしてもらう形式を取りました。試験期間ということもあり、忙しい先生方が事前に準備ができるのかを心配したのですが、杞憂でした。授業を見た感想はYammer(企業内情報共有ツール)を使って共有していましたが、直接話し合う時間を取れないグループではYammer上のやり取りだけで発表をまとめていました。子どもたちのよい姿の写真が多くのプレゼンテーションで使われていましたが、事前に授業評価のルーブリックがつくられていたことが影響していると思われます。ルーブリックでは子どもたちの姿が大きな軸の一つでしたが、それを授業者、見学者双方の先生方が意識したことが、子どもたちの笑顔や活発な活動を生み出し、検討会でその姿が多く発表されることにつながったと考えられます。今回の授業公開、検討会の仕掛けが効果的であったようです。 また、いくつかのグループでは、子どもたちの活動の様子をまとめた、学校説明会ですぐにでも使えそうなハイレベルなショートムービーを制作していました。こんなツールを使うと簡単にできますよと、紹介もしてくれました。1人1台タブレットの環境が子どもにも先生にも与えられたことが、ICT活用の日常化を促しているのを感じます。 熱が入った発表が続いたため、予定した時間をかなりオーバーしましたが先生方からは不満の表情はあまり見られませんでした。また、発表する時間を短縮するために、「授業の詳しい紹介はYammerで」という言葉が何度も出てきました。ICTの授業以外での活用が先生方に根付いてきています。 時間のない中でしたが、グループで振り返りをしていただきました。どのグループもよい表情で話し合っています。どのようなことが話されたかを3つのグループに聞きました。 1つ目のグループは、「子どもたちが笑顔で楽しそうに活動している姿がたくさん見られたが、学力は本当についているのだろうか」ということが話題になったようです。とてもよい視点だと思います。常に問いかけ続けなければならない大事なことです。先生方には、「学力」の定義を共通のものとすることをお願いしました。従来の受験対策の知識や技術ではなく、これからの子どもたちに求められる「学力」を、この学校が目指す子どもたちの姿として明確にしてほしいと思います。 2つ目のグループでは、「どこでグループを活用するのか」が話題になりました。これも大切な視点です。闇雲にグループ活動するのではなく、何のために、どのタイミングで活用するのかを授業者が意識することが必要です。実践を積み重ねてきたことで、改めてこのことを実感したのでしょう。 3つ目のグループでは、「教師が変わり続けなければならない」という言葉を自分たちの話し合いの結論として発表してくれました。全くその通りだと思います。時代の変化に耐える子どもたちを育てるためには、まず自分たちが学び、成長し続けていくことが大切だと実感しているのだと思います。今回の検討会のような、互いがよい刺激を受け合う機会が増えているからこそでしょう。 今回の検討会は試験期間中ということもあり、お休みを取っている先生もいらっしゃいました。とてもよい検討会だったので直接参加できなかったのは残念ですが、今回使用されたプレゼンテーションのスライドやムービーなどはYammerに投稿していただくことで共有することになっています。こういうところでもICTがよい働きをしてくれます。学校におけるICTの活用のよい例が溜まっていくのを感じます。 指摘を素直に受け止め動く姿勢
私立の中高等学校の授業公開の3日目に参加してきました。
高等学校でこの日見た授業では、ワークシートが多用されているのが気になりました。単に課題が書いてあるだけのものならまだよいのですが、穴埋め形式のものでは、子どもたちはどうしても穴に入る答をだけを求めてしまいます。最終的に授業者の説明を聞くことよりも答を書き写すことを優先します。試験勉強では穴埋めの答だけを覚えてくるということになりがちです。この学校では一人一台のiPadがあるので、板書や必要な情報はそこに送ればよいので、子どもたちが知識をもとに考える活動を重視してほしいと思います。 子どもたちの意見が分かれるような課題を準備し、仮説や考えをもたせる授業もありました。日ごろから子どもたちに考えさせることを意識している方です。残念だったのが、子どもたちの意見が分かれた後の展開でした。授業者がヒントを出したり、問いかけたりしながら子どもたちを誘導しているのです。もちろん正解に導くことは必要なのですが、一人の意見を受けてすぐに授業者が切り返して方向性を与えてしまうので、意見を共有して自分たちで考えることがありません。同じ意見や反対意見を発表させながら焦点化していき、子どもたち自身で考えを深めるように進めるとよいと思います。「教えること」と「考えさせること」を意識して区別し、考える課題をつくることのできる先生です。知識についてはこちらから提示すると割り切っていますが、その知識を必要とする課題を与えて自ら得ようとさせる方法もあります。現状に満足せず、より高いところを目指していただければと思います。 高校2年生の英語の発表の場面では、子どもたちは友だちの発表を真剣に聞いていました。自分が課題にしっかりと取り組んでいたから友だちの発表も気になるのです。子どもたちは一人ひとりの発表に対して、評価の観点をもとにコメントを書くのですが、具体的な基準が明確になっていないようでした。基準が明確でないとイメージで評価してしまいます。具体的な基準を授業者が設定してもよいですし、子どもたちに評価を発表させて、それは具体的に何を基準としたかを聞いて共有するという方法もあります。子どもたちに評価をさせる時は基準を意識してほしいと思います。 この授業に限らず、課題が自分のものとなっていて真剣に取り組んでいる授業では、友だちの意見や発表をとてもよい表情で聞いています。こういった子どもたちのよい姿がどの授業でも見られるようになってほしいと思います。 高校3年生は進学を意識しているのか意欲的に授業に取り組む姿を多く見ることができました。ただ、授業によって、子どもたちが話を聞かずにすぐに板書することもあれば、真剣に説明を聞いていることもあります。また、一方的に授業者が話をしているだけの授業では、伏せっている姿が目立つというようにその態度は異なります。推薦で進学する子どもが多いので、子どもたちが主体的になる場面を意識した授業を心がけていないと、進学先が決定した後の授業がどうなるか心配になってきます。 中学校の理科の授業では、地震に関していくつかの疑問を子どもたちに調べさせていました。iPadの活用は日常的なので、子どもたちは自然に作業をしています。しかし、調べたことをそのまま発表する子ども、自分の言葉で整理して発表できる子どもと発表のレベルはまちまちです。そのレベルの違いをうまく価値付けしながら、より高いものにしていくことが求められます。中には理科に興味を持ち、知識も豊富な子どもがいます。そういった子どもの発表にまわりの子どもがついていけなくなって、一部の子どもだけで進んでしまう場面もありました。レベルの高い発表に対して、「今の意見どう?○○さんの考え分かった?」とまずみんなに理解させる時間を取る必要があります。どこがわからないかを聞いて本人にわかりやすく説明させたり、時には他の子どもに説明させたりすることが必要です。よくわからないところを焦点化して、グループで確認し合ったり調べさせたりしてもよいでしょう。全員が参加できるための工夫を意識してほしいと思います。 中学校の総合的な学習の時間で、調べることや考えることなど活動すべきことは明確になっていますが、ゴールが明確になっていない授業がありました。何のためにこの活動をしているのかわからないので、最終的に達成感を得られない可能性があります。より深く考えるためにも、「誰にどうなってもらう」「調べて考えたことをもとに、何を変える」といったゴールを意識してほしいと思います。 中学の道徳ではトロッコ問題などのモラルジレンマを扱っていました。ここで注意してほしいのは、子どもたちとってこういった問題はリアリティがないということです。道徳の授業で扱うのであれば、子どもたちが自分のこととして考えやすい日常生活の中で起きる矛盾や葛藤を扱う題材を考えるとよいでしょう。 意見をまとめるように指示しましたが、子どもたちの意見がほぼ同じになった場面がありました。グループで意見をまとめる必要がないので動きは止まってしまいます。あらかじめ揺さぶるためのネタを用意しておくことが必要でした。 1グループだけ意見が分かれ、最後までまとまりません。そこで、意見がまとまらなかったグループにどのような意見が出たのか発表させました。発表に反応して口を開く子どもがいましたが、授業者はその子どもを無視して発表を評価します。「○○さん、何か言いたそうだね。何を考えたか聞かせてくれる?」とつなぐと面白い展開になったかもしれません。 ただ考えさせるだけでなく、より深く考えさせるためにどのような切り返しや発問が必要かを考えることが大切です。この学校の先生方は道徳の授業経験が少ないので、道徳の進め方について学び合うことが必要だと思います。 授業の報告をしてくれた先生がいました。 前回子どもたちが受け身なのは、子どもの発言をすべて先生が評価確認し、整理して板書をしていることが原因であると指摘させていただいた方です。 その夜いろいろと考え、翌日は他の先生とも相談して、思い切って授業の進め方を変えてみたそうです。「高校生のアルバイトは是か非か」を考え、自分の意見をまとめて英語で表現するのが課題です。別の学級の同じ場面での授業です。何に着目したかを問いかけて、一人の子どもを指名しました。今までは、授業者に向かって発表していたのを授業者でなくみんなに向かってしゃべるように指示します。授業者は後ろに移動したり、子どもたちの陰になる位置に立ったりして、発表者の視線から外れように意識したそうです。「お金」という発言をなるほどと受けて、同じようにお金に着目した人がいないか問いかけます。「お金」をキーワードに子どもの意見をつないでいきました。「自由になるお金ができる」「お金の大切さがわかる」「お金を貯めて大学へ行くための資金にできる」と同じ「お金」に着目しても異なった理由が出てきます。子どもたちは真剣に発表者の方を向いて聞こうとします。日ごろ積極的に挙手して発言しない子どもが、意見を言っていいですかと挙手をして考えを述べます。それまで出てきた意見は「お金」がアルバイトを肯定する理由として取り上げられていましたが、この子どもは高校生が大金を持つことの危険性を主張しました。みんなの意見を聞いていてどうしても自分の意見を言いたくなったのでしょう。 子どもたちの発言がひと段落した後、再度グループで相談させたところ、密度の濃いものになったそうです。最初に発言した子どもにもう一度考えを聞いたところ、答そのものは変わっていなかったのですが、その根拠となる考えは比べ物にならないほど深くなっていたそうです。子どもたちの考えを深める教師のかかわり方のきっかけをつかんだようです。今後授業が大きく進化すると思います。 指摘を素直に受け止めすぐに動こうとする姿勢がとても素晴らしいと思います。先生方のこういう姿勢が学校を大きく進化させる原動力になると思います。 今後を楽しみにしたいと思います。 |
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