教師のかかわり方の大切さ実感した研究会教材は三角形の各辺上に正方形をつくり、隣り合う正方形の頂点を結んだ図形でどんな性質を見つけられるかというものです。グループに1台ずつiPadが用意され、幾何ツールを使って元の三角形をいろいろと変形させることができます。 最初の授業では、子どもたちに「大発見してほしい」と言って時間を与えます。元の三角形が正三角形の時に残りの三角形が合同になるという性質を見つけたグループをすぐに取り上げて、全体に発表させます。この時、発表に興味を示さないグループもあります。自分で調べることを優先しているのです。授業者は「なるほど」と受けて、他の性質を見つけさせます。一人紙の上で考える子どもいますし、相談しながら考える子どもいます。中にはiPadを一人で独占してしまう子どももいました。多様なかかわり方があるのはよいのですが、独占していることは気になりました。 授業者は図形の性質を考えるときに注目したことは何かを子どもたちの作業中にしゃべります。注目することとして面積も示し、ソフトで面積を測定すると何か見つかりそうと続けました。子どもたちに三角形の面積がすべて同じであることに早く気づかせたいという気持ちが前面に出ていました。 そのこともあり、子どもたちは三角形の面積が等しくなることを割と早く発見しました。すぐに発見したら何が必要かと問いかけ、本当に成り立ちそうかを全体で確認することなく、証明を考えることを課題としました。課題に取り組む前に、根拠として使えそうなことは何か整理して、合同条件、面積の公式、平行線の性質などを出させます。ゴールに向かって一直線です。この日の目標である三角形の面積がすべて等しいことの証明をこの時間内に終わらせようとして先を急ぎ過ぎているように感じました。 しばらくして、三角形の面積を考えるために頂点から垂線を下ろすことをしたもののその後どうするか困っている子どもを指名し、どこで困っているかを発表させ、ポイントを焦点化しようとしました。困り感を共有するのはよいことなのですが、自分で考えている子どもの顔が上がりません。速く進めることを優先したため、子どもたちが十分に自分の考えを追求できていなかったことが原因だと思います。子ども同士、授業者と子どもがつながらない授業になってしまいました。他の学級で事前に行なった授業で、うまく子どもたちから考えが出なかったので、研究授業では子どもたちを誘導しすぎてしまったようです。 子どもたちをとても柔らかく受け止めることのできる方なので、かなりいつもと違う授業だったようです。検討会では、予想通り焦って子どもたちを誘導したため、課題が子どもたちのものとなっていなかったことや子ども同士で考えを深めることができなかったことが指摘されました。授業者もそのことに気づいていたようです。 検討会を受けた次の授業は大きく様子が異なりました。 まず、大発見という言葉は使わずに、「いろいろ見つけて」という表現にしました。そのせいでしょうか、前の授業と比べて子どもたちが幾何ツールに向かって自由にいろいろと試しているように見えました。 今回はここに時間をかけます。子どもたちは飽きることなくさまざまなことに気づいていきます。授業者は子どもたちの動きを見てこの時間でこの時間内で証明まで行くことをやめたようです。 十分に考えさせた後、気づいたことを発表させます。三角形の形に着目するグループや元の三角形の内角とその頂点で接する他の三角形の内角は補角の関係(角の大きさを足すと180°になる)になっていることに気づいているグループもあります。最後に、三角形の面積が等しいことに気づいている子どもを指名しました。「辺の長さが広がると高さが縮む」と感覚的に理由を説明しますが、子どもたちは納得しません。おかしなことを言うという空気が流れましたが、確かめてみると確かに等しくなっています。「えー」「あっ」といった声が上がりました。どのグループもすぐに確認を始めます。面積が等しくなることを確認したあと、「どうしてなの?」と一気に子どもたちの課題になりました。もちろん授業者は意図的にこの意見を最後に出させたのですが、見事に決まりました。 前回の授業と違って、授業者の誘導はほとんどなく、子どもたちの発言が中心で進んでいきます。友だちの考えや説明をどの子どもも集中して聞いていました。補角の関係に気づいた子どもたちは、三角形を回転して元の三角形とくっつけると、それぞれができた三角形を中線で2分したものになることに気づいていました。時間をかけていろいろな性質を見つけたことが活きています。子どもたちの考えが広がりつながる授業となりました。 これがこの授業者の本来のスタイルだと思います。最初に子どもたちに考える時間を多く与えて多様な考えを引き出したことが、授業の深まりをつくり出しました。幾何ツールが多様な考えを引き出すのに役立つことがよくわかる授業でした。 同じ教材でも、進め方の違いで子どもの動きは変わります。あらためて、教師のかかわり方の大切さを実感させられました。授業者にとっても、参加者にとっても学びの多い研究会でした。 工夫あふれる若手の授業
私立の中学校高等学校の研修に参加しました。先生方が子ども役になって模擬授業を行い、その後検討会を行うというものです。
模擬授業は中学校の理科の天文分野で行いました。PCや自作の教材を使った工夫あふれるものです。 最初に天文シミュレーションソフトでスクリーンにこの日の夜空を映し、牡羊座を探させます。星占いでなじみのある星座ですが、実際に意識して見たことがある人は稀です。ソフトの機能を使って星を結んで星座を表示して確認します。自分の誕生日の星座をこの日の夜空で見つけるように指示し、夕暮れから朝までの南側の空を早回しで映しました。見えた人、見えなかった人を挙手で確認して、見えなかった星座は夜空のどこにあるのかを考えさせます。「北側にある」といった意見が出ますが、受容するだけで正解か不正解は言いません。「いつ見えるだろう」と見る月日を変え、5月では見えなかった星座が見えたことを確認しました。しかし、この日には牡羊座は見えません。そこでこの日のテーマを決めました。 身近な星占いの黄道12宮とシミュレーションソフトを上手く使い、あまり星を見ない今の子どもたちでも十分に興味を惹きつけることができそうな導入でした。 授業が始まる前から、黒板の左側には「テーマ」「予想」「検証」と間を空けて書いてあります。これは、理科の実験は、この3つのことを考えるのだということを明示的に示しています。理科の見方・考え方がしっかりと意識されています。 テーマを「11月に見えた牡羊座が5月に見えないのはなぜか?」として、予想を立てさせます。子ども役の先生方も素朴に考えを口にします。導入で自分の星座が見えたり見えなかったりしたことで「なぜ?」と疑問に持てたことが自分の課題になることにつながっているように思います。大人ですので、「見る月によって変わるから公転が関係している」「昼に出ている」といった答が返ってきますが、実際の子どもたちならもっと素直な面白い考えが出てくるのではないかと思います。 実際に検証してみようということで、授業者が用意したモデル(模型)を使って考えます。1日の太陽の動きを理解するために前時に使った道具です。太陽に見立てた電球と日本の位置にくぎが打ってある小さな地球儀です。平面を表わす紙に立てた人形を磁石で地球儀のくぎに貼り付けます。授業者が準備した台紙には月ごとの地球の位置を地球儀の台座の位置で表わしてあります。そこに地球儀を、真ん中に電球を置いて考えるのです。地球儀の台座は地軸の向きを間違えないように長方形の四隅の一つを切り落としています。台紙の地球の位置を表す五角形に台座をピッタリと当てはめると地軸が正しい向きになるのです。余計な間違いを避ける工夫です。授業者の指示で牡羊座の位置を決めてから、検証に入ります。 授業者の指示に従って活動すれば、間違えたり混乱したりしないような工夫がされています。言い換えれば、子どもたちを正解に導き、わからせる授業になっています。時間がかかるのでなかなか挑戦はできないかもしれませんが、あえて不親切にして、子どもたちに地軸の向きを間違えさせるのもよいと思います。中間発表をさせて地軸の向きに焦点化してから再度考えさせることで、正しい向きを判断するためにはどのような事実を根拠にするとよいのかといった科学的な思考を身につけるきっかけになります。 子ども役の先生方の動きは、本当の子どもと似ているように思いました。わかった人は説明したくなっています。身体全体で一生懸命に説明していました。すぐにわかってしまった子ども役は、人形の位置をいろいろ変えてみています。自主的にいろいろと試すことで、新たな疑問がわき、深い学び、探求につながると思います。実際、検討会ではハワイで見た星空の違いと今回の活動を結び付けて疑問を持ったという発言がありました。体験と結びつけて考えるという学習指導要領のねらいが実現されていました。 授業者は子ども役から出てきた考えをそのまま板書していきますが、最後に「公転と位置に注目」「見える夜空が変わる」まとめました。考えるための視点を意識しているはよいのですが、授業者が最後にまとめると、結局それを待つ子どもが出てきます。「みんなの意見をもとに、自分でまとめて」と子ども自身でまとめさせたいところです。 この後、演習問題に取り組ませるのですが、子ども役は自然に先ほど使ったモデルに目がいっていました。相談する姿も見られます。検討会では、モデルが手元にないとできないのではまずいのではないかという意見も出てきました。確かに試験の時には困るかもしれませんが、まずは理解することが先でしょう。モデルが手元にあればわかるのであれば、モデルなしでも考えられるようにするのは経験です。具象と抽象を行き来することは数学などの教科でも重要なことです。様々な場面でこのような経験を積むことが大切だと思います。 今回の授業は授業者の引いたレールの上を子どもたちが進んで実感するものでしたが、授業者が子どもたちとやりとりしながらモデルを使って説明し理解させてから、北極と南極、赤道で見える星座を考え、「共通して見られる星座はあるのか、あるのならどこにあるのか」といった、より難しい課題にグループで挑戦させるともっとよかったのではないかと思います。 単なる演習ではなく、手に入れた知識やモデルを使って新たな課題を解決するような場面をつくると子どもたちがより深く考えると思います。 先生方は、模擬授業をもとに授業検討をするという研修に以前より積極的に参加してくれるようになってきました。今回の授業者の工夫やよさなど、前向きな評価がたくさん語られました。授業を改善することが教育現場に求められていると意識していただけるようになったと思います。先生方の意識の変化が子どもたちの授業評価にポジティブな形で表れてくれば、先生方の授業改善に弾みがつくと思います。12月に行われる授業評価アンケートが楽しみです。 教員生活2年目の授業者でしたが、勢いを感じさせる授業でした。今後どのように授業が変化していくのかとても楽しみです。この先生の授業を次に見る機会がとても楽しみです。 |
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