工夫あふれる若手の授業
私立の中学校高等学校の研修に参加しました。先生方が子ども役になって模擬授業を行い、その後検討会を行うというものです。
模擬授業は中学校の理科の天文分野で行いました。PCや自作の教材を使った工夫あふれるものです。 最初に天文シミュレーションソフトでスクリーンにこの日の夜空を映し、牡羊座を探させます。星占いでなじみのある星座ですが、実際に意識して見たことがある人は稀です。ソフトの機能を使って星を結んで星座を表示して確認します。自分の誕生日の星座をこの日の夜空で見つけるように指示し、夕暮れから朝までの南側の空を早回しで映しました。見えた人、見えなかった人を挙手で確認して、見えなかった星座は夜空のどこにあるのかを考えさせます。「北側にある」といった意見が出ますが、受容するだけで正解か不正解は言いません。「いつ見えるだろう」と見る月日を変え、5月では見えなかった星座が見えたことを確認しました。しかし、この日には牡羊座は見えません。そこでこの日のテーマを決めました。 身近な星占いの黄道12宮とシミュレーションソフトを上手く使い、あまり星を見ない今の子どもたちでも十分に興味を惹きつけることができそうな導入でした。 授業が始まる前から、黒板の左側には「テーマ」「予想」「検証」と間を空けて書いてあります。これは、理科の実験は、この3つのことを考えるのだということを明示的に示しています。理科の見方・考え方がしっかりと意識されています。 テーマを「11月に見えた牡羊座が5月に見えないのはなぜか?」として、予想を立てさせます。子ども役の先生方も素朴に考えを口にします。導入で自分の星座が見えたり見えなかったりしたことで「なぜ?」と疑問に持てたことが自分の課題になることにつながっているように思います。大人ですので、「見る月によって変わるから公転が関係している」「昼に出ている」といった答が返ってきますが、実際の子どもたちならもっと素直な面白い考えが出てくるのではないかと思います。 実際に検証してみようということで、授業者が用意したモデル(模型)を使って考えます。1日の太陽の動きを理解するために前時に使った道具です。太陽に見立てた電球と日本の位置にくぎが打ってある小さな地球儀です。平面を表わす紙に立てた人形を磁石で地球儀のくぎに貼り付けます。授業者が準備した台紙には月ごとの地球の位置を地球儀の台座の位置で表わしてあります。そこに地球儀を、真ん中に電球を置いて考えるのです。地球儀の台座は地軸の向きを間違えないように長方形の四隅の一つを切り落としています。台紙の地球の位置を表す五角形に台座をピッタリと当てはめると地軸が正しい向きになるのです。余計な間違いを避ける工夫です。授業者の指示で牡羊座の位置を決めてから、検証に入ります。 授業者の指示に従って活動すれば、間違えたり混乱したりしないような工夫がされています。言い換えれば、子どもたちを正解に導き、わからせる授業になっています。時間がかかるのでなかなか挑戦はできないかもしれませんが、あえて不親切にして、子どもたちに地軸の向きを間違えさせるのもよいと思います。中間発表をさせて地軸の向きに焦点化してから再度考えさせることで、正しい向きを判断するためにはどのような事実を根拠にするとよいのかといった科学的な思考を身につけるきっかけになります。 子ども役の先生方の動きは、本当の子どもと似ているように思いました。わかった人は説明したくなっています。身体全体で一生懸命に説明していました。すぐにわかってしまった子ども役は、人形の位置をいろいろ変えてみています。自主的にいろいろと試すことで、新たな疑問がわき、深い学び、探求につながると思います。実際、検討会ではハワイで見た星空の違いと今回の活動を結び付けて疑問を持ったという発言がありました。体験と結びつけて考えるという学習指導要領のねらいが実現されていました。 授業者は子ども役から出てきた考えをそのまま板書していきますが、最後に「公転と位置に注目」「見える夜空が変わる」まとめました。考えるための視点を意識しているはよいのですが、授業者が最後にまとめると、結局それを待つ子どもが出てきます。「みんなの意見をもとに、自分でまとめて」と子ども自身でまとめさせたいところです。 この後、演習問題に取り組ませるのですが、子ども役は自然に先ほど使ったモデルに目がいっていました。相談する姿も見られます。検討会では、モデルが手元にないとできないのではまずいのではないかという意見も出てきました。確かに試験の時には困るかもしれませんが、まずは理解することが先でしょう。モデルが手元にあればわかるのであれば、モデルなしでも考えられるようにするのは経験です。具象と抽象を行き来することは数学などの教科でも重要なことです。様々な場面でこのような経験を積むことが大切だと思います。 今回の授業は授業者の引いたレールの上を子どもたちが進んで実感するものでしたが、授業者が子どもたちとやりとりしながらモデルを使って説明し理解させてから、北極と南極、赤道で見える星座を考え、「共通して見られる星座はあるのか、あるのならどこにあるのか」といった、より難しい課題にグループで挑戦させるともっとよかったのではないかと思います。 単なる演習ではなく、手に入れた知識やモデルを使って新たな課題を解決するような場面をつくると子どもたちがより深く考えると思います。 先生方は、模擬授業をもとに授業検討をするという研修に以前より積極的に参加してくれるようになってきました。今回の授業者の工夫やよさなど、前向きな評価がたくさん語られました。授業を改善することが教育現場に求められていると意識していただけるようになったと思います。先生方の意識の変化が子どもたちの授業評価にポジティブな形で表れてくれば、先生方の授業改善に弾みがつくと思います。12月に行われる授業評価アンケートが楽しみです。 教員生活2年目の授業者でしたが、勢いを感じさせる授業でした。今後どのように授業が変化していくのかとても楽しみです。この先生の授業を次に見る機会がとても楽しみです。 |
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