"situation"をもとに考えさせる英語
1学期に訪問した中学校の授業研究でのことです。
3年生の英語の授業で、TTでの現在完了の学習場面でした。 最初に授業者2人で簡単な”skit”を見せます。子どもたちは集中して聞こうとする姿勢を見せていました。内容は、”Have you finished your homework yet?”と聞き、”No, I have not.”と答える。しばらく時間が経った後、同じように聞かれて、今度は”Yes, I have just finished my homework.”と言うものです。 続いて、山に人が登る場面を紙の人形を使ってT1が見せます。”She is climbing the mountain.”と何度も言いながら紙人形に山を登らせます。山の頂に上った時、”She has just climbed the mountain.”と言いました。子どもたちは集中して聞いています。授業者と同時に”just has”を口にしている子どももいました。その反面、よくわからないという顔をしている子どもたちもたくさんいます。授業者は子どもたちをよく見て授業を進めています。その様子に気づいて、再び同じことを繰り返しましたが、子どもたちはよくわからないという顔のままでした。現在完了の基本的な形と訳は前時までに教えていたようですが、現在完了形と単純な過去形との違いを理解するのは子どもたちにとっては難しいことです。例えば、日本語では”I have seen the movie.”も”I saw the movie.”も、「映画を見た」と表現し、意識しなければ区別しません。このような違いを子どもたちにわからせようという、難しい場面でした。 日本語を使わずに、”situation”をもとに教えようとする授業では、このように子どもたちがわからないという表情をする場面によく出会います。”All English”で教えることがこれからは求められますが、こういう場面が多くなると思います。この状態は決して悪いことではありません。子どもたちが理解しようとしているからです。この後の学習で「ああ、そういうことか」とわかる場面があればよいのです。1時間の学習の中で一人ひとりがわかるようになる瞬間をどこかでつくることが大切になります。 今日はこのことを学習すると言って、プリントを配りました。 “I have just finished my homework.”はどんな意味ですかと子どもたちに問いかけます。子どもたちは「私はちょうど宿題を終わったところです」と訳します。同様に”She has just climbed the mountain.”の意味も問いかけて答えさせます。しかし、これらは単なる日本語訳です。”She climbed the mountain.”とどう違うのかはこの日本語だけではよくわかりせん。そのため、子どもたちは口を開いて訳は言えますが、よくわからないという表情を見せるのです。 こういったことを学習するためには、”contrast”が大切になります。時制的に教えるのに、進行形との”contrast”も意味はあるのですが、日本語訳を使ってしまうと混乱するのは「終わったところです」と言っても「終わった」という過去形とどう違うかがよくわからないことです。意図的に”just”という直後を表わす言葉を使っているので、まだ何となく理解できますが、”just”が無い現在完了形と過去形の違いは分かりにくいのです。ここでは、過去形との”contrast”の方が理解するには適切なように思いました。例えば、” Have you seen the movie?” ”Yes, I have.” “When did you see?” “I saw it last night.”といった”situation”です。 授業者はプリントに書かれている説明を読み上げます。「have+過去分詞は、今やり終わったところだという完了の意味を表します。……」と日本語で説明しますが、子どもたちは完了と言われてもよくわからないと思います。日本語では、日常的に完了を意識することはあまりないからです。日本語で説明するのであれば、”have”を意識した説明をするべきでしょう。過去分詞で表わされる状態になっている(身につけている)ということですが、だから”have seen the movie”であれば、映画を見たことを持っている、つまり経験があるということを意味するのです。”I have seen the movie.”ならば、”So, I know the story.”となるわけです。現在完了の意味する「○○した状態になっている」ことは、「終わった」という「完了」、「やったことがある」という「経験」、「その状態がまだある」という「継続」や「結果」を表すと分類することができますが、本質的には同じことなのです。 「完了用法」に線を引かせ、続いて「経験用法」というように日本語で説明しました。”situation” も意識しているのですが、それを使って考えさせることを徹底できず、子どもたち自身に気づかせるところまで行かなかったのが残念でした。”situation”と”contrast”を使って、どう違うのかを子どもたちにもう少し考えさせてほしかったと思います。 完了用法でよく使われる、”just”や”already”の文における位置の説明をした後、例文での音読をします。この音読は何が目標なのでしょうか。子どもたちは英文を見て読み上げます。この後、暗唱させるのですが、”situation”を意識して、自分で言葉を紡ぎ出すことで、言語として獲得させることが大切だと思います。最初に”skit”を見せましたが、こういう”situation”を与えて、それを英語で表現するという練習をもっとたくさん組み込むとよいでしょう。 次々に相手をローテンションしながら、プリントの例文をペアで練習します。一方が例文を読んで、それを相手が繰り返します。子どもたちは男女の別なく楽しそうに参加しますが、どうしてもテンションが上がりやすくなります。暗唱するための前段階なのですが、言ったことをそのまま繰り返せばよいので、単純な作業になりやすいからです。また、発音は互いにチェックしていないので、かなり乱暴な発音も見受けられます。 早く終わっている子どもが例文を覚えようとしているのを、授業者はきちんとほめています。こういうことがよい授業規律につながっています。 続いて全体でもう一度読んで、発音の修正も行いました。この後、授業者が日本語訳を言って、子どもがその例文を答えるという活動を行います。プリントは左右で日本語と英語が分かれているので、子どもたちは英語の面を見て答えます。言葉を発するのではなく、正解を選んで読んでいるのです。続いて、ペアで同様の活動を行いました。覚えることが中心になっていますが、”situation”を表すものを見せてそれを英語で表現するといった、話すことを意識した活動を取り入れても面白いと思います。また、例文は完了と経験が混ざっていましたが、この2つの区別を意識させたいのであれば、同じ動詞で、その違いがわかるような例で練習をした方がよいと思います。 黒板に絵を貼って、その絵の表わす”situation”に合う文を言わせます。主語を固定して、使う動詞は例文の中のどれかと同じものになっています。考えて英文を出力させるよい方法ですが、この練習では、現在完了で表現すべき”situation”であるかどうかは意識する必要はなく、必ず現在完了形を使う前提で、どの動詞を使うかを学習した例文の中から選んでいるだけです。過去形か現在完了のどちらを使う”situation”なのかを判断するものにしたいところでした。 子どもたちは、例文をそのまま使うのではなく、動詞を考える必要があるのでテンションは落ち着いています。一通り終わった後、授業者が絵ごとに答を言って”repeat”させました。先ほどと比べると声が大きくなります。授業者の正解をまねすればよいからです。続いて個別に指名して答えさせます。同じ絵を使って否定にすることにも挑戦させました。考えて言葉を出させることを意識していてよいのですが、一人答えてすぐ次の絵に移りました。そのため、指名されなかった子どもは他人事で前を向いたままです。集中して聞いているようには見えません。同じ絵で何人か言わせ、続いて全体で確認をさせるようにするとよいでしょう。一つひとつ自分が参加する場面があれば、他人事にはならないからです。 いろいろな”situation”の絵がかかれたワークシート配ります。表現するために必要な動詞の練習をして、その絵の”situation”を英文で表わすのが次の課題です。個別に子どもたちは作業をします。スモールステップを意識して一連の活動が組み立てられていますが、結局、最後まで、現在完了が過去形と”situation”としてどう異なるのかが明確にならなかったように思います。現在完了を静止画で理解することは難しいと思います。”contrast”がわかりやすい、時間を意識した”skit”を工夫 するとよいと思います。 授業者の工夫がいろいろな場面で感じられました。ただ、英語を話せるようになるための要素よりも、紙の試験の対応の方が強く意識されているように思います。3年生で高校入試の問題を意識しないわけにはいかないので悩ましいところですが、例文の暗唱に頼りすぎない進め方を工夫してほしいと思います。 この日見た子どもたちの様子で、特に気になったのが1年生でした。学級内の子どもたちの姿がばらばらになってきて、授業規律が乱れ始めていました。入学時は小学校でのよい学習習慣があったので、先生方が授業規律を強く意識しなくても上手くいっていたのですが、よい部分をほめて強化したり、中学生として身につけてほしいことは何かをしっかり指導しなかったりしたことが、この状態をつくったようです。リセットして、授業規律を一から確立させることが必要なことを伝えました。 2年生は子どもたちに自信をつけさせることをお願いしていたのですが、うまくいきはじめたようです。授業に向かうエネルギーが上がってきたのを感じました。このままよい方向に進んでくれること願いました。 授業のねらいと子どもの思考の過程を意識する(長文)
1学期に行なった小学校の授業研究でのことです。
授業は4年生で、算数の図を使って説明する発展学習の時間でした。 子どもたちが元気よく挨拶できる、活気のある学級です。挨拶の後、授業者が机の上に算数の準備ができていることをほめた上で、「この日は何もなくて大丈夫です」と言うと、子どもたちは素早く用具を片付けました。授業規律もしっかりしている学級です。授業者はいろいろな場面で子どもたちの行動をポジティブに評価していましたが、このことがその要因の一つだと思います。 この日の課題を黒板に貼り、目で読むように指示します。ほとんどの子どもが黒板を見てしっかりと読んでいました。その後、「読んでくれる人?」と声をかけますが、挙手は半分くらいです。子どもたちの様子からもっとたくさんの手が挙がると思ったのですが、ちょっと意外でした。授業者は「ありがとう」と言ってから、「声のいい○○さん」と指名します。指名された子どもは大きなはっきりした声で問題を読み上げました。それを受けて授業者は「ばっちり聞こえましたね」とほめます。子どもたちをしっかりと認め、ほめることができています。 この日の課題は、「35cmの高さの椅子の上に子どもが乗ると175cmになる時、高さ55cmの踏み台に乗ったらどれだけの高さになるのか」を考える問題です。 授業者はすぐに「いつもどおりわかっている大事な数字(正しくは数・数値?)を教えてください」と問いかけました。よく目にする進め方なのですが、私はこのような問いかけを最初にするのはよくないと思っています。問題にある数に目をつけるというのは、単なるテクニックです。そもそも大事かどうかはどうやって判断しているのでしょうか。現実の問題では、必要のない数値もあります。こういう問いかけをしていると、子どもたちは単に問題に書かれている数値を拾ってその数値を使って式を立てようとしてしまいます。中学校入試によくある、数値が具体的に示されていない問題は手がつきません(実際にこのような問題を新任の先生方に研修で解いてもらったところ、とても苦戦されたことがありました)。ここでは、まず問題文の状況を把握させることが大切です。その上で、わかっていることは何か、知りたいのは何かを押さえるのです。また、直接数値では示されませんが、椅子も踏み台も同じ子どもが乗るというのも大切な条件です。この問題解決では、図を使ってこれらのことを考えることが大きなポイントです。思考の順番が違っているのです。 考える時間がほとんどないので子どもたちはすぐに反応できません。挙手する子どもは1/3ほどです。それですぐに指名してしまうのは乱暴だと思います。子どもたちが自分の考えを持つための時間がほしいところです。指名した子どもは「35cm、175cm、55cm」と答えますが、授業者は「ありがとう」を言った後「高さ35cm、……」と言葉を足します。「高さ」を勝手に付け加えることも問題ですが、問題の状況をきちんと把握していないところで、「高さ」と言っても多くの子どもはよく理解できないと思います。 授業者は言葉を足して確認するとすぐに、「聞かれていることは何ですか?」と問いかけます。今度は挙手がもっと少なくなります。授業者が、まずこれらのことを押さえることが問題を解くために大切だと思っているのであれば、子どもたちが考えるための時間を取るべきです。授業者に確認はしませんでしたが、挙手しないだけで子どもたちはちゃんと理解していると思っていたのでしょうか。もしそうであれば、挙手に頼らず意図的に指名すべきでしょう。 指名された子どもは「何cmの高さになりますか」と答えますが、どこのことかはこれだけではわかりません。「わかった?解けそう?」と授業者が問いかけますが、子どもたちは反応しません。解けそうな子ども、困っている子どもを挙手で確認しましたが、困っている子どもは1/3以上いました。 そこで授業者は「どんな風にすると答が出るかを考えてもらいます」と言ってから、「自分の気持ちが言える人?」と問いかけました。挙手は4、5人です。どんどん発言できる子どもが減っています。授業者と反応できる子どもだけで進んで行きます。子どもたちの多くは、発表者の方を見ません。友だちの言葉を理解して考えようとはせず、後から授業者が説明するのを聞けばよいと思っているようです。子どもに発言させる意味はほとんどありません。どうやったら全員が参加できるかを考えることが必要です。 2番目に指名された子どもは、55cmから35cmを引いて、その差を175cmに足せばよいと説明します。解き方としてはほぼ完璧です。授業者は、それを聞いてわかった人と問いかけますが、挙手は半分程度です。難しかったという子どもは4、5人です。残りの子どもたちは、どういう状態なのかとても気になります。 「『難しいな』という時にどうやってやったらいいんだっけ?」と子どもたちに問いかけますが、そもそも半分の子どもたちはわかったと反応しています。彼らにとってこの問いかけは意味のあるものではありません。ここでも、挙手で指名しますが、挙手は数名です。しかも、わかったと手を挙げた子どもたちです。困っている子どもに考えさせなければ、いつも答を与えられてそれに従って活動するだけになってしまいます。 指名した子どもの「図で考える」という答を受けて、「図に表わして答を求めて説明をしよう」と今日のめあてを提示しました。子どもたちの挙手が正しければ、半分の子どもたちとっては言葉の説明を聞いて答が出せそうなのですから必然性のないめあてです。授業の展開そのものに疑問が出てきます。 子どもたちは配られたワークシートにめあてを写しますが、意欲が感じられません。多くの子どもたちがここまでの展開についてこられてないからです。「自分の考えを図にかいて考えて高さを求めます」と指示をしますが、日本語が少し変です。何をすればよいのかよくわかりません。自分の考えを図にかくとはどういうことでしょうか。問題を図で表わして、その図をもとに解き方を考えるというのが自然な流れでしょう。考えを持つために図を使うのです。授業者は解けたら、説明を考えると指示をしますが、図は考えるための道具なのか、説明のための道具なのかはっきりしません。もちろんどちらにも使えるのですが、授業者のねらいは説明するために図を使うことのように感じました。そうであれば、まずどうやって解くのかが先だと思います。しかし、先ほどの「どんな風にすると答が出るか」という問いかけの答は全員できちんと共有できていない状態です。すぐに答を求められない可能性があります。まず、図を使って考えることから始めるべきでしょう。それができれば、その図を使って説明すればよいだけです。 多くの子どもたちは見通しが持てていないために、手がつきません。授業者はすぐに気なる子どものところへ行って個別指導を始めますが、まず全体の状況をみるべきでしょう。全体の状況を把握できていれば、このまま進めてはいけないと判断できたはずです。 予定の時間になって、もう少し時間の欲しい人がいるかを確認します。たくさんの手が挙がるので2分間延長しましたが、有効なことではありません。できていないから時間がほしいだけで、延長したからといって何とかなるわけではないのです。 答が出たという子どもは、約半分ほどです。この状態で、グループで友だちがどんな図をかいたのか、どんな式を書いたのか、考え方を交流するように指示しました。子どもたちのグループ隊形になる動きが、最初の道具を片づけた時と比べてずいぶんと遅いことが気になります。この活動に対して意欲的になれていないようです。何をすればよいのかよくわからないからでしょう。 グループ隊形になったところでいったん止めて、活動の方法を、「図だけを比べてから」、「説明できる人から説明し」、「わからない人は教えてと聞き」、「聞かれたら説明をする」ようにと指示をします。図で考える、説明することがめあてであるのなら、まず図をかけるようにすることまでを何とか自力でできるようにしたいところです。図を与えられてからでは、自分でかけるようになることは難しいと思います。最初の椅子に乗ったというところだけの図を共有して、もう一つの図を自分で書かせるといったことをすべきでしょう。 図をかけていない子どもは動けません。いくつかのグループでは固まったままです。図がかけている子どもが多いグループは活発に自分の説明をし始めます。授業者は全体を見ていないので、動けていないグループに対して対応をできません。わかっている子どもが活動するだけで、時間をかける意味があまりありません。 全体で、「友だち話し合って新しい発見があった人?」と問いかけます。かなりの数の手が挙がりました。まだ困っている人も確認した後、「どんな風に考えたか教えてください」と問いかけました。挙手は1/5ほどです。ここで指名して発表させれば、またわかっている子どもだけで授業が進んでしまいます。せっかく「新しい発見があった人」がいるのですから、どんな発見かを発表させて困っている人につなぎたいところでした。 指名された子どもに、実物投影機を使って発表させます。発表を聞いていない子どもがいることが気になりました。授業者は発表者の方ばかりに注目していてそのことに気づきません。全体を見て、全員に注目させることを意識してほしいと思います。同じような図をかいている子どもを確認し、他の子どもを指名します。授業者は説明を意識していましたが、図と式と説明をきちんとつなげることが大切だと思います。「図だけを見てどんな式になったかを考える」、「図でそれぞれが問題文のどことつながっているのか、どこのことを表わしているのかを言わせる」「式の計算の結果が図のどこのことかを示させる」といったことをするとよいでしょう。 指名された子どもたちの説明は、子どもの背の高さをまず求めるものでした。2人の子どもの発表を聞いた後、授業者がこういう感じだったねとあらかじめ準備した図を黒板に貼ります。これでは、子どもたちは先生の求める答探しをするようになってしまいます。子どもたちの発表を価値付けして、それをそのまま活かすようにしてほしいと思います。 椅子と踏み台の高さの差を使って解いたと子どもに発表させます。それを聞いて理解できた子ども、よくわからなかった子どもを確認しました。わからなかったと手を挙げた子どもには「正直でよい」とほめます。よい対応なのですが、どちらにも手を挙げない子どもがたくさんいます。全員どちらなのかをはっきりさせないと自分のこととして参加しません。 ここで授業者は、今の発表者の考えを自分の言葉で説明をするように問いかけます。よい展開なのですが、指名された子どもはその場で立って説明をします。式を言葉で説明することになっていました。言葉の説明ではわかりにくいので図を使いたいのですから、前に出て図をもとに説明させることが必要です。椅子の高さと踏み台の高さの差は図のどこに現れているのかといったこと問いかけをしながら、式と図の関係をきちんと押さえることが必要です。図にどうやって表すか、図でわからないところ、知りたいところをきちんと整理することから始めなければ、図をもとに考えることはできません。そこがしっかりできていれば、そのまま解き方の説明になるのです。 結局多くの子どもたちは、わかった子ども、授業者の説明を聞くだけで、自分で図をかき、その図をもとに考え、その考えを説明する場面がありませんでした。 子どもたちの思考の順序をスモールステップで考え、どこまでをどのようにして到達させるのか、どうやって共有化するのかを考えて授業を組み立てる必要あります。この授業では、子どもたちに図を使って考えさせるのか、自分の考えを図で整理して説明させたいのかがはっきりしないまま進んでしまったことが混乱の大きな原因だと思います。前者であれば、まず問題の状況を図で表わすことをしっかりとさせる必要があります。後者であれば、どんな考え方にせよきちんと答を出させることが重要です。 授業者は子どもたちを受容することやほめることができます。発表をつなぐための基礎となる技術もあるので、子どもたちを全員参加させるために何が必要かも考えてほしいと思います。授業のねらいや子どもたちの思考の過程を明確にすることと合わせて意識すれば、大きく進歩するはずです。今後に期待したいと思います。 先生方の成長とエネルギーを感じる(長文)
私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。
この日は、少経験者と同伴で子どもたちの様子を中心に授業を見学しました。 一緒に授業を見ながら普段意識していることを聞いたりしました。一人ひとりの成長が感じられる楽しい時間でした。 子どもを見ることとはどういうことかを中心に話をしながら授業を見ました。子どもを見ると言っても、実に多様な観点があります。そういったことを具体的な場面で伝えました。例えば子どもの意欲がなく伏せっている時でも、板書を始めれば起きてノートに写すかもしれません。もしそうなら、その子どもは先生の話は聞かなくてもノートを写しておけばよいと思っているということです。すぐに注意をするといった対応ではなく、先生が話をする場面を子どもが価値を感じるようなものにしなければなりません。 授業者が話をしながら板書をしている時に、「話を聞いている」「ノートを取る」「ぼんやりしている」と子どもたちの様子がばらばらのことがあります。これは授業者が今子どもたちにどういう状態であってほしいのかを明確に意識していないということです。話を聞いてほしいのなら手を止めて顔を上げさせる必要があります。板書を写させたいのであれば、話をしても集中して聞いてもらえませんから、黙って書くことに集中した方がよいでしょう。 このようなことを伝えました。 以前は子どもが見えていなかった新人も、意識して子どもを見ようとしていました、少しずつですが進歩しています。子どもに問いかけ、子どもの言葉を受容できるようにもなっていましたが、一人の発言を受けてすぐに説明を始めていました。子どもの言葉を受け止めるだけでなく、問い返したりつないだりして全体で共有することが必要です。次の課題を意識して、一歩一歩前進してほしいと思います。 一問一答の説明型の授業からなかなか抜け出せない新人もいます。他の先生と進度を合わせるために早く先に進みたいため、一方通行になってしまうようです。授業者が説明したからわかるはずだというのでは、「これは教えたよ」というアリバイ作りの授業です。子どもたちに考えさせたいところを絞り、そこを中心に1時間の授業を組み立てるようにしてほしいと思います。授業内容に軽重をつけることが大切です。 2年目の国語の先生は、板書をできるだけ書かないようにして授業をしていると話してくれました。子どもたち自身でまとめられることを目指しています。そう簡単に上手くいくわけではありませんがよい姿勢だと思います。 評論では読んで疑問に思ったことをグループで共有して考える授業に挑戦しているそうです。しかし、最近ではマンネリになって子どもの意欲が落ちてきているようです。子どもたちの活動に対する評価や価値付けが必要です。ただ発表して終わるのではなく、意見をつないで焦点化し、再度グループで考える場面をつくることも意識することが大切です。 意欲的に新しいことに挑戦する姿勢はとてもよいことです。今後の進歩が楽しみです。 グループの発表で時間がとられることに悩んでいる先生もいました。一つひとつ全グループに発表させていると時間もかかりますし、いざ全体で考えを深めようとしても最初のグループの発表は記憶から消えています。小型のホワイトボードにグループの発表を書かせるのであれば、共通に書かれていることをピックアップし、それについて一つのグループに発表させて、追加すべきことがあるグループがあればその意見を聞くようにする。また、それらの意見に対して違う意見のグループがいればその考えを聞くといった進め方をするとよいでしょう。口頭での発表であれば、1グループの発表の後、似た意見のグループを確認して発表させて、他のグループに「今の意見になるほどと思う?」「今の説明を聞いて考えが変わった人?」とつないでいけば、時間かけずに焦点化することができます。こういった進め方を伝えました。 英語の先生と一緒に少経験者の授業を参観しました。高校1年生の英語表現です。 まず単語・用例集を見ながら全員で読みの練習をしましたが、授業者も子どもたちも本に視線が行って顔が上がりません。機器の準備のこともあるので強くは勧めませんが、スクリーンにそのページを映して顔を上げさせたいところです。また、この音読のねらいがよくわかりませんでした。発音の練習であれば、もう少し細かい発音の違いを意識させたいところですし、単語や用例を覚させたいのであれば、単に音読するよりも言葉の意味から英語を言わせた方がよいでしょう。”come”の用例を”come from” ”come across” “come out”……と連続でいくつも読ませましたが、”situation”と結びつけずに読むことの意味があまりわかりません。何となく惰性で昔からある学習方法をやっているように見えました。一つひとつの活動の意味を子どもたちも授業者も意識することが大切だと思います。 ペアで練習をさせ、発音に気をつけて聞くように指示しますが、子どもたちは具体的にどのようなチェックができるのでしょうか。発音のポイントが聞き分けられるような指示や練習はしていません。これでは、結果的に聞き流すだけになってしまいます。また、子どもたちの座席が離れていることも気になります。ペアになるように指示はしましたが、机をくっつけさせません。隣の席が空いている子どももいます。誰とペアになるのかが明確でないため、隣の女子ではなく斜め後ろの男子と練習する男子もいました。ペアをつくらずに活動しない子どももかなり目立ちます。授業者はこのことをあまり気にしていません。一つひとつの活動で子どもたちどうあってほしいかがはっきりしないまま授業をしています。 小テストでシャ−プペンシルが壊れたのか、書けなくて困っている子どもがいました。斜め後ろの子どもに助けを求めたところを、授業者が相談しているのかと注意をしました。そうではないと気づいて自分のものを貸しましたが、その時ちょっと厳しい顔をして手渡したことが気になりました。授業後に確認したのですが、わざとそういう表情をしたそうです。この感覚はちょっと違うのではないかと思います。確かに予備を持っていなかったのは本人のミスかもしれませんし、テスト中に友だち話しかけることはルール違反かもしれません。しかし、アクシデントで助けを求めたことや筆記具を借りたことを表情でよくないことだと伝えるということは、その子どもの行為を否定することにつながります。安心して頼れる先生ではないと感じられてしまう危険があります。もし注意したいのであれば、「予備も持っている必要があるね」「トラブルがあったら手を挙げて先生に伝えて」と笑顔でペンを渡して一言添えればよいのです。 小テスト中に見回りをするのですが、その時の表情もチェックをしていると感じさせるものでした。全体で話している時の表情は、以前より笑顔が増えてよくなったのですが、なぜ笑顔が必要なのかがあまり意識できていないのかもしれません。授業技術の底にある精神を理解してほしいと思います。 小テスト終了後、先日行った外部の検定試験の結果を配ります。当然のことですが、子どもたちはその中身が気になるのですぐにしまうことはしません。全体のテンションが上がっていきます。配り終えた後静かにさせて、結果の見方を説明します。配られたシートに示されているグレードが何段階あるか、数字が大きい方がよいのかどうかといったことを問いかけますが、このようなことを対話的に行う意味はありません。子どもたちはしっかりと結果を見ているのですから、自分でシートに書いてある説明を見させればよいのです。しばらく子どもたちに結果を見させていましたが、授業のど真ん中でこの時間を取る必要性は感じません。授業の最後に配れば十分でしょう。 続いて返すものがいっぱいあると言って、今度はワークを返します。チェックを入れたところは空欄になっていると告げ、前置詞が入りそうなら”in”でも”on”でも何か入れておくように話をします。書き込んでいないのはやる気がないと言いたいのかもしれませんが、これは試験対策の小手先の技術です。学ぶことの本質とはずれています。そこを声高に強調する必要はないと思います。無回答は意欲のなさの表れかもしれませんが、どうやって調べればよいか全くわからないというメッセージかもしれません。他の部分の出来具合と比べて空欄の意味を読み取るという姿勢も必要なのではないでしょうか。辞書を調べればわかるところをやっていないことも注意をしますが、子どもたちに学習の方法をきちんと伝えきれていないのか、やる気がないのか、これもよくわかりません。そこを判断してどのような指導していくのかを考えてほしいと思います。 次に前回使ったワークシートを返します。今回はこの続きからやるのでこのタイミングではこれだけを配ればよかったと思います。前回は授業者のスピーチを聞いてワークシートを埋めたのですが、その評価をどうやったかを説明します。「正しく聴き取れたかどうかではなく、聞き取ろうという努力をしたか?」「グループワークでわからなかったことをわからなかったままにしなかったかどうか?」の2点です。評価した点をこの時点で言うことはあまり意味がありません。活動する前にきちんと伝える必要があります。また、努力をしたかどうかは視点としてはよいものですが、それをどうやって判断するのかが明確でありません。特に聞き取りでは、ワークシートから読み取ると言ってもきわめて主観的になりそうな気がします。また、グループワークで聞き取れなかったことがわかるようになることはあまりありません。どのような進め方をしたのかわかりませんが、「こう言っていた」と教えられても確かめようがありません。グループで相談した後に聞き取る場面が何度もあればまた違うとは思いますが、どうだったのでしょうか。一つ間違えれば、聞き取れていないのに答だけを教わることになって、何の力もつきません。誰も聞き取れていなければ、グループにしても答すらわかりません。これで評価されるのはとてもつらいことです。できるようになるための活動、評価を意識してほしいと思います。 この日はスピーチの内容を考えるのですが、まず中身の書き方として「ストーリー型」「説明型」の2つの型を教えます。前回の授業者のスピーチはどちらの型か問いかけますが、そのことを意識して聞いていたわけではありません。返ってきたワークシート見ながら考えるわけですが、あまり意味のある活動ではありません。ペアで確認しますが、根拠を示しにくいことが気になります。ほとんど動きがありませんでした。文章の組み立てを考えるのは母語の方がよいと思います。同じテーマで2つのパターンを日本語でスピーチし、その特徴とよさを考えて理解させた方がよいでしょう。 答を子どもたち確認しますが、反応する子どもはわずかです。指名しても「わかりません」と返ってきます。反応してくれた子どもが「ストーリー型」と正解を答えてくれた後、「ストーリー型」である説明をスピーチの内容を振り返りながら行いました。「ストーリー型」という正解に対して解説をするという、従来の授業のパターンから抜け出せていません。解説の途中で、話の内容を子どもたちに確認しますが、記憶に残っていない子どもたちは参加できません。一部の反応してくれる子どもだけとのやり取りになっていました。ここで大切なのは、授業者のスピーチの構造を理解することではなく、2つのパターンのどちらかを選択するためにそれぞれの特徴を理解することと、そのパターンを意識した時どうやって文章を組み立てていくのかという方法です。子どもにつけたい力を意識して授業を組み立てる必要があります。 続いて、相手に言いたいことを伝えるために重要なのが論理的であることを伝え、ワークシートの2つの例文のどちらが論理的であるかを考えさせます。答の確認をペアでさせますが、大切なのは答ではありません。この場合であれば、2つの文章の特徴、どこがおかしいといった根拠となることです。ここでも他の場面でのペア活動と同じく、参加しない子どもが目立ちます。指示した活動でどのような子どもたちの姿が見たいのかを意識して、うまくいっていなければどうすればよいのかと考えることが必要です。 ワークシートの構成は子どもたちが考えること中心にした活動を意識したものになっているのですが、実際の授業では一問一答形式の答探しと教師の解説型の授業になっていました。授業観をどう変えていくのかが課題でしょう。 この日、中学校の先生から、中学校入試問題を、思考力を問いかけるものにしたいという相談を受けました。実際に問題の例もつくられていましたが、よく考えられていると思いました。問題例があったので、具体的なアドバイスをすることができました。私にとってもよい刺激になりました。これからの時代にふさわしい学校にどうやって変えていくのかを積極的に考え、発信していこうとされています。評価の在り方についての腹案も聞かせていただきましたが、これからこの学校をよくしていきたいという強いエネルギーを感じました。トップダウンではなく、ボトムアップからの学校改革はとても力強いものです。このエネルギーが学校全体に広がっていくことを想像すると、とてもわくわくしてきます。次回の訪問もとても楽しみです。 全員参加と全体の場での活動を意識した指示が大切
前回の日記の続きです。
授業研究は4年生の国語の説明文の授業でした。 前時の復習として、中の部屋(構成)は何段落から始まったかを全体に問いかけます。子どもたちからは、「2段落から」「2段落から7段落」と元気な声が返ってきます。明るく元気な学級です。 授業者は第2段落だけ抜き出したものを黒板に貼り、それをワークシートにしたものを配って音読をさせます。子どもたちの声はよく出ていますが、下を見て読み上げる子ども、手にワークシートを持って読み上げる子どもとバラバラです。教科書と違ってワークシートは薄いので、手に持って読もうとしている子どもはやりにくそうでした。全員での音読では声を出しているかどうかの確認は声の大きさだけでなく、口元を見ることが大切になります。大きな声であっても、全員が声を出しているとは限らないからです。顔を上げさせること意識してほしいと思います。 授業者は「まず、音読をしようか」と言って音読を始めたのですが、この場面では大きな声を出すといったいつもの目標以外にも意識させたいことがあるはずです。明確にしてから音読させた方がよいでしょう。 音読を終わって、段落の最初の文は何かと問いかけると、一人の子どもがその場で素早く読み上げます。それを受けてすぐに授業者は「筆者が走り方に工夫をし始めたきっかけについて書いてあるね」と答えました。続いて「きっかけは何?」と問いかけると、数人の子どもがすぐにその場で「大きな動作で走ることに疑問を持ったのだ」と読み上げます。授業者はそれを聞いて「なるほど、これが筆者が疑問を持ったきっかけだった」と説明を始めました。 この後も授業者の問いかけに同じ子どもたちがすぐにその場で答えてしまい、その発言をもとに授業者が説明するということが続きます。このやり取りにほとんどの子どもは参加していません。一部の子どもとの一問一答の授業になっていました。すぐに答える子どもを制して、他の子どもたち考える時間を与えたいところです。その上で、複数の子どもに答えさせ、全員に考えを共有させることをしてほしいと思います。 筆者の疑問を確認して、この日のめあて、「筆者がどうやって疑問を解決したのか考えよう」を提示しました。考えようという言葉が気になりました。正しく「読み取る」ことが最初の課題だと思います。その上で直接書かれていないことを文脈から合理的に解釈することを「考える」と分けると活動が明確になるように思います。 めあてを書かせた後、再び疑問を確認しますが、また同じ子どもがその場で答えます。ワークシートに自分で書くようにと子どもたちに指示し、しばらくして「何で疑問を感じたんだ?」と次の質問をします。しかし、ほとんどの子どもはまだワークシートに書いている途中です。答えるのは作業の速い、いつもの子どもだけになります。「400m走ると苦しくなる」という子どものつぶやきに対して、授業者は「400m走ると苦しくて、最期まで力が続かない」と言葉を足しました。子どものつぶやきを拾って、子どもの言葉を活かして授業を進めているように見えますが、都合のよい言葉を拾って、結局は授業者の言葉で説明しています。一部の子どもとのやり取りだけで進んでいることと合わせて、課題として意識してほしいと思います。 2段落で感じた疑問を3段落で解決していくと授業者が説明します。説明文では段落の関係を子どもが考えることが大切になりますが、そこを一言で説明してしまいました。 3段落に文がいくつかあるかを問いかけますが、本文を見ないで答えるのですから、根拠があるわけではありません。一人の子どもが声を上げると、続いて何人かの子どもが声を上げます。無責任に発言できる問いかけですから、子どもたちのテンションが上がります。授業者は正解の「4」がでると、即座に「そうそう4」と返しました。当然すぐに子どものテンションは下がりました。 正解かどうかは本文で確認させるべきですが、この日の課題は4つの文を正しい順番に並べ替えることなので見せるわけにもいきません。こういったことを考えると、この問いにはあまり意味はないように思いました。 4つの文を黒板に貼って、筆者が疑問をどうやって解決していったかわかるようにグループで並べ替えるようにと指示しました。グループにしてから細かい指示をしますが、子どもたちはまだごそごそしていて、視線は授業者に集中していません。指示はグループになる前にしておくということを原則にするとよいでしょう。 前時で一度全文を読んでいるので、順番を覚えている子どももいます。そのため、「どうしてこの順番になるのか考えてほしい」と追加の説明をしました。根拠はとても大事なのですが、なぜ大事なのかを子どもたちが意識することが必要だと思います。説明文を書く時に、筆者は接続語で文と文の関係を明確にするなどの工夫をしています。並べ替えることでそういった工夫に気づけるような展開を考える必要があると思います。決め手となった言葉に線を引くといった指示の方が、後の展開が楽になるかもしれません。 子どもたちは躊躇なくこれが最初と並べ替えを始めます。テンションがすぐに上がりました。並べ替えるのはわかりやすい作業です。一部の子どもが活動を引っぱって、大きな声で自分の考えを主張しています。グループの活動が説得型になっています。このことには注意が必要です。聞く側が主体となって、相手の考えを納得するような活動を意識してほしいと思います。グループで一つの答にまとめるのであれば、一つひとつみんなが納得するまで聞き合う、相談するということを、ルールとして徹底しておくことが必要だと思います。グループで考えるが、結論は各個人で出すのであれば、自分の考えを変えたところ、その理由といったことを全体で聞き合うことを前提に行うとよいでしょう。こうすることで、安直に他者の答を写すことを抑制できます。 いくつかのグループで結論が出るころには子どもたちのテンションがかなり上がっていました。相乗作用でどんどん声が大きくなっていきます。一度活動を止め、まだ活動を続けるのであれば、終わったグループに次の指示をすることが必要でしょう。 各グループの結論が黒板に貼りだされます。グループごとの相違点を簡単に確認してから、理由を聞きます。最初に発表したグループは「話がつながるから」という言葉ばかりが出てきます。「忘れた」という子どももいます。日ごろから具体的な言葉や文で根拠を説明することを習慣づけておくことが必要でしょう。このグループの説明にばかり時間をかけるわけにはいきませんが、どこか1か所を入れ替えて、「これでは話はつながらない?」と問いかけたいところです。理由を説明させると並べ替えの根拠が明確になってくると思います。 授業者は並べ替えた文を読ませて、「これで話がつながったからだそうです」とまとめました。それに対して他のグループの子どもたちがつぶやいたり話しかけたりしています。これはとてもよい場面です。授業者はすぐ次のグループの発表に移ったのですが、口を開いた子どもたちに何をしゃべったのか聞きたいところです。順番に全部のグループに発表させようとする先生が多いのですが、私はよほど時間に余裕がある時以外は勧めません。それよりも、子ども同士をつないで、補強する意見や反対意見を出させて、考えを深めることが大切だと思います。論点を焦点化して再度グループに戻すことも有効だと思います。 次のグループからは「よくわからない」という言葉出てきます。授業者は「迷った?」と聞き返し、「どこで迷った?」と問いかけました。なかなかよい返しだと思いますが、その子どもはうまく答えることができませんでした。「他の3人は?」と同じグループの子どもにつなぎますが、「わからん」と言う言葉が出てきます。最後に「話がつながっている」と先ほどのグループと同じ言葉を出しました。「話がつながった」という曖昧な答を認めたことが影響しました。結局焦点化できないまま、次のグループに移りました。 今度は「グループで話し合った時に出たことを教えてくれるかな」と問いかけますが、「忘れた」と返ってきます。活動の始めの「どうしてこの順番になるのか考えてほしい」と言う指示がうまく機能していないことがよくわかります。言葉は消えていきます。それを固定化するために、具体的な言葉や文と根拠を紐づけておく必要があるのです。話の内容そのものを再現させたければ、なるほど思ったこと、順番が決まった時の意見をワークシートに書くというように具体的に指示し、過程を残すことを習慣づけていかなければなりません。 多くの時間を割いて子どもたちが話し合ったことは全部消えて、並べ替えた結果だけが残った授業でした。 子どもたちはよい表情でグループ活動をしていましたが、野口芳宏先生がよくおっしゃるところの、「息抜きの時間」になっていたようです。グループの活動の後に共有して深めたいことを意識した時に、どのような指示をしなければいけないのかを考えることが大切です。今回の例で言えば、並べ替えた結果はなくその根拠を共有したいのですから、根拠や話し合いの過程が残るような指示をする必要があったということです。 また、ユニバーサルデザインを意識して板書でのチョークの色を変えていますが、その色を子どもたちが意識することが大切です。授業者が色を決めるのではなく、「これは何色で書いたらいい?」と子どもに選ばせることで、内容を構造化できるようになると思います。 子どもたちをよく受容して、雰囲気のよい教室をつくり出せています。課題として、「全員参加」「深めるための活動を意識した指示」「意見の焦点化」を意識してほしいと思います。 授業者の意識が子どもたちの姿をつくる
前回の日記の続きです。
4年生の国語は、戦争を題材にした物語の授業でした。 発言意欲が旺盛でよく手が挙がることから、子どもたちと授業者の関係がよいのがわかります。友だちの方を向いて聞くこともでき、発言に対してよく反応します。授業者が子どもの言葉をしっかりと受容して聞いていることと、友だちの話を聞く姿勢を取らせることを意識していることがこの雰囲気をつくっているようです。 授業者が一人ひとりの意見を受容し、子どもの発言で授業が進んで行くのですが、子どもたちは自分の考えを言いたいという思いが強いようです。テンションも上がり気味で、意見はなかなかつながりません。 一通り発言させた後で、意見をまとめて次の発問につなげますが、子どもの考えがつながらず深まらないままです。一つの意見に対して、「なるほどと思った人?」「同じように考えた人?」とつないだり、「○○に注目したんだ」と価値付けをしたりすることが必要です。子どもの意見を整理しながら焦点化し、もう一度考えさせるとよいでしょう。 子どもたちに配給の様子などを説明するために、タブレットを操作してディスプレイに資料を映しますが、まだ操作に慣れていないために、子どもから目が離れてしまいます。中には集中できていない子どももいます。注意するかどうかは別にして、子どもたちの状況を把握することは必要です。ICTを活用する時に意識してほしいことです。 6年生の算数は分数の計算の授業でした。4人グループの隊形で授業が進みます。 子どもたちは体を前に向け、授業者の指示を落ち着いてよく聞いています。指示が終わるとすぐに問題に取り組みます。何をすればよいのかよくわかっている証拠です。個人で作業をするのですが、しばらくすると自然に聞き合いが始まります。教えている子どもの声はあまり大きくありません。程よいテンションです。グループがしっかりと機能していることがわかります。 授業者が「さあ、やってみようか」と低めのテンションで声をかけると、子どもたちは素早く前を向きます。特に指示をしなくても子どもたちが動けるようになっています。さすがは6年生です。よい授業規律ができています。 挙手に頼らず指名し、指名された子どもが立ち上がると子どもたちは一斉に振り返ります。その姿から、集中して聞こうという意欲が感じられます。指名された子どもの説明は計算の方法だけでなく、なぜその数を掛けるのかといった理由もきちんと説明されていました。自然に拍手が起こります。 授業者が、「みんな一緒だった?」とポイントなる数を掛けたことだけを簡単に確認すると、子どもたちはうなずいて反応します。授業者は再度説明することはしません。子どもたちが友だちの発言をよく聞くことの理由はこういうところにもあると思います。「分数の性質がわかっていれば、計算は困らない」とまとめて授業を終えました。 子どもたちのとてもよい姿を見ることができましたが、そのために授業者がどういうことを意識しているのかが伝わる場面でした。 この続きは次回の日記で。 子どもたち全員が考える場面をつくる
前回の日記の続きです。
2年生の国語は物語の授業でした。 授業者が範読します。会話文では感情を込めて大きな声で読みますが、国語の範読ではあまり感情を込めない方がよいでしょう。登場人物の心情は文章から子どもたちが読み取るべきだからです。子どもたちに読ませる時とは逆にややトーンを落として読むとよいと思います。 授業者は範読に一生懸命のあまり、本文から目が離れません。教科書に集中できていない子どもが目につきますが気づけませんでした。子どもたちの様子を常に意識することが重要です。 子どもたちの集中が続かない理由の一つに、範読を聞く時の目的が明確でないことがあります。授業者は範読の後個人で音読をさせましたが、そうであれば、音読を意識した指示をしておくことが必要です。主人公の気持ちを考えながら範読を聞くように指示して、音読の時には気持ちを込めて読むようにさせるといった方法もあります。また、「後で気持ちを込めて読んでもらうよ」と、次にやることを先に指示をしておくことも一つの方法です。活動の目的や目標を常に意識するようにしてほしいと思います。 読み終った子どもは手を上げて合図を送ります。授業者はそれに対してわかったよとサムアップで返します。一人ひとりをきちんと見ていることを伝えるよい方法だと思いますが、待っている間にすることがないため、どうしてもごそごそし出し子どもがいます。次の指示をしておくことも必要でしょう。子どもたちは読み終えていない子どもが少なくなってくると、自然に姿勢がよくなります。状況をよくわかっています。全員が読み終った時には、しっかりと前を向いて聞く準備ができていました。よい授業規律ができていました。 今読んだ部分の話の内容を問いかけると、一部の子どもたちがその場で反応します。授業者はその答を受容しながら進んで行きますが、全員が答えているわけではありません。答えない子どもがわかっていなければ本文で確認するといったことが必要です。わかっているけれど答えなくてもよいと思っているのであれば、参加する気持ちが弱いのですから、参加を促すことが必要です。「わからなければ、教科書で確認してごらん」「隣同士で確認しよう」と活動させたり、挙手に頼らずどんどん指名したりするとよいでしょう。 子どもたちは記憶をもとに答えますが、大事なところはきちんと本文に戻って考える必要があります。空中戦になっていることが気になりました。子どもたちに読み取らせたいことを明確にして、本文をもとにしっかり考えさせる時間を取ることをしてほしいと思います。 2年生の算数のTTでの授業は、テープ図の導入の場面でした。 ブロックを並べる作業が終わった子どもたちが、することが無くてだれています。中には並べたブロックを崩してもう一度やり直して時間をつぶしている子どももいます。授業者とT2が机間指導をしていますが、黙ってチェックするだけなので、子どもたちの意欲は上がりません。机間指導をするのであれば、「すごい」「はやいね」「きちんと並べているね」といった声かけをして、子どもたちの意欲を高めることを意識してほしいと思います。 授業者は子どもたちが作業をしている時に話しますが、作業を止めないので子どもたちは聞いていません。「並べられた?」と声をかけて、一部の子どもが「うん」と答えたのを聞くと、全体でブロックを黒板に並べながらブロックの色の使い方の説明を始めました。当然ながら子どもたちの集中は切れたままで、ほとんど顔が上がりません。そのまま一部の子どもの反応で説明が進みます。まず、子どもたちに集中させるために、姿勢を整えて顔を上げさせることが必要です。 広げた教科書とノートで机がふさがれているので、重ねて手前に置き、上部に空いた細い隙間を使って一列にブロックを並べるように指示しました。まだ、2年生ですので手元から遠い狭いところでの作業はやりにくそうでした。白と赤のバラをブロックと対応させて並べさせ、続いてブロックを合わせる操作をしますが、狭いためバラバラにしてしまったり落したりします。課題を黒板に貼っておけば、教科書やノートはしばらく必要がありません。しまっておいて机を広くして作業させるべきでしょう。狭い場所での作業ということもあり、ブロックを使った作業にずいぶん時間を使ってしまいました。 ブロックでなくてもと言って、テープを取り出し黒板に貼ります。突然天下りでテープが出てくるので子どもは戸惑います。「ブロックを並べるのは大変ですね」と説明しますが、子どもたちは今までと同じことをしているだけなので特に大変だとは思っていません。続いて「何個分かわからないね。どうやったらわかるなか?」と問いかけますが、何個分かわからないことが問題だとも思っていません。授業者はテープで「ここからかここまでがいくつ?」と全体の数を問いかけますが、数人が反応するだけで他の子どもは反応しませんでした。子どもたちが自分で考えて理解する場面がなく、授業者の説明を聞いてやり方を覚えることになってしまいました。 ブロックからテープ図への移行を子どもたちが自然に考える場面をつくるとよいでしょう。例えばブロックを四角で表わし、□□□と一つずつ書くと面倒だからと、長い長方形をかいて縦線を引かせます。こうすることで、テープ図とブロック図の中間の図ができます。縦線を引いて何個あるか考えるのは面倒だからと縦線を省略しようとすることで自然にテープ図を導入できます。ここで、数が数えられなくなるのでどうしようと問いかけることで、数字であらわすことの必然性が出てきます。子どもたちとやりとりしながら考えていくことで、自然にテープ図を導入できるような流れを工夫してほしいと思います。 この続きは次回の日記で。 |
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