子どもの視点で授業を工夫する
前回の日記の続きです。
講師の先生の2年生の理科の授業は、硫化鉄の実験で混合物と化合物の違いを考えるものでした。 節目節目で子どもたちを静かにさせて、授業者に注目させます。子どもたちを集中させようという姿勢はとてもよいと思いますが、いざ話し出すと子どもたちの視線は下がります。子どもたちは指示されたことに従うだけで、その行動の意味は考えていないのです。集中して話を聞いてほしいことを子どもたちに伝え、聞いている子どもを「○○さんしっかり聞いてくれているね。ありがとう」と誰のことかわかるようにしてIメッセージでほめることで、よい行動を広げていくことが必要です。 鉄と硫黄の混合物を熱することで硫化鉄をつくり、鉄と異なる物質になっていることを確かめる実験を行うのですが、実験を行う必然性がわかりません。ちょっとしたやり取りでよいので、子どもたちに疑問を持たせてほしいと思います。 子どもたちを前に集めて、実験器具を見せながら説明をします。子どもたちはよく集中していたのですが、受け身の時間が長いため、最後は集中が切れる子どもが出てきました。 硫黄と鉄をよく混ぜると口頭で説明しますが、どうなればよいのかわかりません。実験が始まると、「このくらい?」と子どもたちが先生にたずねることになります。混ぜる前と後の違いを見せるか、写真に撮っておいて黒板に貼るとよいでしょう。予備実験をする際にその様子をビデオに撮っておいて、それを見せるという方法もあります。途中で画僧を止めながら、ポイントを説明すればずいぶん時間が節約できると思います。 いくつもの指示を一方的に聞くだけでは頭にきちんと残りません。ワークシートには実験の概略しか書いてありませんので、子どもたちが途中で確認できるようなものが必要です。あらかじめ手順を整理して板書しておくとよいでしょう。 ガスバーナーが机の上にないので保管場所に取りに行くことになりますが、特に指示していないのでそのことに気づかず、ボーとしているグループもあります。 全体的に子どもたちの動きが遅いのが気になりました。仲よく実験をしますが、実験の結果に興味を持っているわけではないようです。友だちがやっている様子を何となく眺めている子どもも目につきます。何のための実験かがわからず、どうなるのだろうと疑問に思っていないようです。 時間の関係もあって難しいかもしれませんが、次のような展開を考えてもよいでしょう。 子どもたちは硫黄をよく知りませんが、鉄のことはよく知っています。そこで、まず鉄の性質をたくさん出させておきます。次に硫黄という物質があると紹介してこの2つの物質をよく混ぜます。違う色の物質になったことを確認して鉄は別のものに変わったかを問いかけます。変わらないという答が大半でしょうが、どうやって確かめるかを確認します。磁石で鉄を吸い上げて見せてもよいでしょう。「混ぜても鉄は鉄のまま?どうやっても変わらない?」と問いかけます。中には予習をしていて「温めると変化する」「燃やすと変わる」といったことを言う子どももいるでしょう。それに対して、「お湯につけたら変わる?」「本当?鉄は燃えるの?」「うんと冷したらだめ?」「どのくらい温めればいいの?」と揺さぶり、子どもたちにある程度自由に実験の内容を考えたり、選ばせたりするのです。バーナーで高温にすることはその選択肢の1つにします。教科書に載っている実験以外でも変化するかもしれないと子どもたちが思ってくれれば、実験に対する興味も変わってくると思います。 授業者は常に教科書の通りに実験もやらなければいけないと思っていたようですが、こういった話をしたところ、色々と工夫をして見ようと思ってくれたようです。授業を工夫する楽しみに気づくきっかけになれば幸いです。 初任者の授業は1年生の理科の葉の構造の学習でした。実物投影機で葉の写真を見せながら授業を進めていました。 前時の観察を基に葉の特徴を発言させて写真で確認します。挙手の数はそれほど多くありません。1問1答で、発言が終わると全体で拍手をさせます。しかし、子どもたちは友だちの発言をちゃんと聞いていません。その状態で形式的に拍手させると、拍手された時も形式的なものだと知っているのでうれしいとは感じません。また、「管がある」という発言に対しては、「別の言葉で言うと?」と他の子どもを指名して、「すじ」という言葉を引き出します。子どもたちに教師の求める答探しを無意識のうちに強要することになっています。こういう時は、「○○さんの言っていることわかる?」と他の子どもに問いかけて、「わかった」「どんなもの?」と何人かをつないで、「いろいろな言い方があるけど、これのことを言っているんだよね?」と葉脈の写真で確認するとよいでしょう。表現をどうしても統一したければ、教科書ではこう書いてあるねと押さえておけば十分です。 葉脈、葉緑体、気孔、孔辺細胞といった用語を確認した後、葉の表側、裏側の違いを子どもに整理させます。裏側には気孔、孔辺細胞があることはすぐに書けるのですが、授業者の期待する葉緑体が表側に多いことは出てきません。実際に葉の表側と裏側の葉緑体がどうなっているのか観察して確認しているわけではないからです。 授業者はヒントと言って葉の表側と裏側の色の違いを伝えます。それでも、気づけない子どもが多いため、大ヒントと言って何で葉が緑色かを考えるように言いますが、ヒントという言葉には注意が必要です。教師が求める答が明確にあると伝えていることになるからです。子どもが見つけたことを全体で共有しながら吟味することが大切です。考えるための手掛かりとなるものを、まず共有するとよいでしょう。葉の横断面の写真が教科書に大きく乗っていますが、この写真は葉の表と裏の細胞の様子を同時に見ることができるので比較しやすいことを押さえておきます。これを基にして子どもに考えさせるのです。グループで取り組んでもよいと思います。 子どもから葉の表と裏側では細胞の大きさが違うという意見が出ます。授業者はなるほどと葉の表と裏の細胞の写真を見せて、確かにそう見えると受容します。しかし、すぐに「倍率がわからないと実際の大きさはわからないので何とも言えない」と否定します。先生の求める答ではないと言っているようなものです。結局一人の子どもが正解を言うと、それを先生が説明して終わるという形になりました。 スクリーンに教科書を映した後、子どもたちに教科書を開かせます。指名して読ませますが、当然どの子どもも手元の教科書を見ます。スクリーンに映す意味は何だったのでしょうか。実物投影機を積極的に使っているのですが、今一つポイントがわかっていないようでした。 子どもを受容しようとする姿勢がみられますし、ICT機器も積極的に活用しようとしています。今後子どもの視点で自分の授業を見直すことで多くのことに気づけると思います。今後の変化が楽しみです。 |
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