活動のねらいをはっきりさせたかった国語の授業

前回の日記の続きです。

8年生の国語の授業は、2グループに分けての少人数同時展開の授業でした。向田邦子の「字のない葉書」の一部分を父親の視点でリライトするという授業です。

若手の授業者の授業の様子です。
最初に前回予告したこの日の活動を確認しますが、子どもたちの顔が上がらないのが気になります。「父のあれ」という一人の子どもの発言をきっかけに場が和みます。以前と比べて授業者の笑顔がずいぶんと増えたように思います。授業中に「ありがとう」の言葉を何度も聞きました。そういったこととこの雰囲気は無関係ではないと思います。
「父の目線で書き直す」ことを確認し、リライト作業を通じて父の気持ちをより深く考えることができるとよいことを伝えました。
配られたプリントは、上段に本文、下段に書き直した文が例として書かれています。上下を比べて変化しているところを探させ、書き換える時に注意をする点を子どもたちに気づかせようというわけです。プリントを使って説明しますが、当然子どもたちは手元を見るので顔が上がりません。電子黒板もあるのですから、こういった機器を使って説明することで子どもたちに顔を上げさせることを意識するとよいでしょう。

授業者が例を読み上げ、子どもたちは自分のプリントで書き換えられているところに線を引きます。全体で確認をしていきますが、最初の一文で「線を引いた人?」と問いかけても手がパラパラとしか挙がりません。答を聞いているのではないので反応しやすい問いかけなのですが、なかなか手を挙げてはくれません。それでも何度も「線を引いた人?」聞くことで、手がだんだんと挙がってきます。こういった、全員に対して反応を求める姿勢が大切です。全員参加を意識していることを感じました。しかし、残念ながら全員とはなりませんでした。本当に線を引いていないのならばよいのですが、手を挙げていない子どもに確認をしたいところです。隣同士で線を引いているところを確認するといった活動を入れてもよかったかもしれません。逆に「線を引かなかった人?」と聞くといったやり方もあるかもしれません。
指名した子どもの発言を受けてすぐに授業者が説明をします。せっかくたくさん手を挙げさせたのですから、「同じところに線を引いた人?」とつなぎたいところでした。

この授業でも友だちの発言を聞こうとしない姿が目につきます。発言中に伸びをしたり、手元で関係ないことをしたりしている子どもがいます。また、この後何か提出しなければいけないものがあったのでしょうか、隙を見て内職をしている子どもが何人かいました。授業者が気づいていたのかどうかはわかりませんが、もし気づいていたのならきちんとやめさせることが必要でしょう。授業者は眠っている子どものそばによってちょっと声を大きくして説明したりもします。叱ったりせずに参加させようというのはよいことです。全員参加を意識しているからこそ、参加していない子どもたちにどのように接するかを考えることが必要になります。

例の中に父の心情を追加して書き込んだ部分があります。このことを説明した上で、次のワークシートの指定された部分に父親の心情を追加する文を書くことを指示しました。これだと、この部分の心情を読み取りなさいという課題と変わりありません。「最低一か所父親の心情を追加する」といった条件にして、どこに追加したかも含めて、全体で深めたいところでした。
個人で書き直す作業に入ってすぐに質問が出ます。授業者はその質問に答えるのですが、作業を止めないので、顔が上がりません。説明中ずっと手が動いている子どもも目立ちました。

個人作業に続いて父の心情以外についてグループで確認します。最終確認を全体で授業者が例を読み上げて行いました。例として挙げるのであればだれでもよいので、一文ごとに一人ずつ指名して読ませればよいと思いました。
父親の心情をグループで相談して、一つのものにした最後に発表するという活動を行います。「心情を想像して」と授業者は言いますが、これまでの授業での読み取りをどう活かすのでしょうか。どのような文を書くことが目標なのでしょうか。その評価はどう行うのでしょうか。ハッキリしません。また、グループで一つにするというのであれば、意見が異なった時の決定のプロセスを明確にすることが必要です。数学などは根拠を問いやすいのでまだよいのですが、国語であればここをはっきりしないと感覚になってしまいます。出てきた結論よりもその根拠となるところや過程の方が重要なのです。

グループになると、まず誰がまとめを書くかで子どもたちのテンションが上がります。しかし、まとめ役が決まるとすぐに静かになります。まとめ役が中心となってみんなの文を一つにしているグループがほとんどですが、中にはまとめ役に自分のワークシートを渡して自分たちはよそ事をしているグループもあります。また、心情の文を書いていなかった子どもがグループになってから書き始めていたりもします。子どもたちはどちらかというと表現にこだわっていました。同じようなことをどう書くかで意見を出し合っています。
この活動のねらいが表現にこだわることならば、心情面を先に押さえておくことが必要でしょう。心情面を読み取ることがねらいならば、根拠となる部分を押さえることが求められます。ここが不明確なので子どもたちの話し合いも視点がはっきりしません。
あらかじめこちらから話し合いの視点や進め方を与えておくというやり方もあると思います。また、子どもたち自身で気づかせていきたいのであれば、結論ではなくその過程を全体の場で共有して価値付けすることが必要です。何について話したのか、どうやって決めたのかといったことを発表させるのです。ただ、グループにして相談するだけでは力はつかないと思います。

最後の発表は、グループごとに書かれたものを黒板に貼りますが、時間がないためそれを読み上げるだけになりました。中には表現がおかしいグループもあります。そういった部分の修正だけでもしておきたいところでした。心情以外の単純な書き換えを、グループを使わずに隣同士で簡単に確認するなりして、時間を短縮して後半に時間をかけられようにするとよかったと思います。

次の時間はこれを元にもう一度個人で父の心情を考えることを伝えて授業は終わりました。この文を元に直接心情を考えるというのはちょっと違うように思います。次の時間を見ていないので何とも言えませんが、もしこの文章を元に心情を考えるのなら、まず、どうして父はこういう気持ちだと思ったのかの根拠を本文で確認し、それを元に心情をまとめるといったやり方で、一度本文に戻ることが必要だと思います。

もう一方のベテランの授業の様子です。
以前にもまして、常に柔らかい表情で子どもたちを見ています。机間指導をしている時でも、柔和な表情は変わりません。前回のアドバイスを素直に受け入れてくださっていることを感じます。

書き直しの例で取り上げた本文に対して、父親の視点で涙を流した心情を表わす文を追加することにグループで取り組ませていました。グループでまとめて文章を黒板に貼ります。全体の場での発表はまとめを書かなかった人に読み上げるように指示します。少しでも全員に参加を酸化作用と意識していることがわかります。国語科の授業者2人に共通しているということは、二人で授業案をつくる時から意識されているのだと思います。とてもよいことだと思います。
授業者が各グループの発表に対して、「うれしかった」「安心して」「つらい思いをさせた」「申し訳ないと後悔した」といった気持ちを表す表現を抜き出します。具体的な表現にこだわるのはとてもよいと思いますが、できれば他のグループの子どもに指摘させたいところでした。些細なことに思えますが、こういったことが、子どもたちが友だちの意見を聞いたり、参加したりするようになるために大切なことです。

ワークシートを配って次の指示をするのですが、子どもたちの顔は上がりません。すぐに作業に取りかかって手が止まらない子どももいます。授業者は「手を休めてください」と言って、手が止まるのを待つのですが、全員の手が止まらない内に話し始めてしまいました。手が止まってもワークシートから目が離れない子どもも多くいます。電子黒板などでワークシートを表示して、顔を上げさせるようにしたいところです。

それぞれが父親の視点で書き直した文を、まず心情以外のものに限ってグループで読み合います。ここで気になるのが、その文に対して◎○△をつけるという活動です。例えば「妹」を「下の娘」というように変換できていないところがあれば、評価を△にしてそれを指摘するというのです。友だちにネガティブな評価をされるというのは、人間関係を悪くする要因です。ペアを活用して「互いに見合って、違っているところや気になるところがあれば、相談して修正してもいいよ」といった活動の方がよいと思います。
子どもたちは静かに作業をしますが、気になるのが、自分の作業が終わると友だちのところにワークシートを黙って置く子どもが多いことです。ワークシートは使い方に注意をしないと、子ども同士のかかわりを無くす方向に作用します。口頭で自分の文章を伝えてから話し合うといったやり方も選択肢に入れてほしいと思います。また、グループは3人を基本としているのですが、女子だけ男子だけのグループがたくさんあることが気になります。奇数人数のグループなのでどちらかが多くなることを嫌ったのだと思いますが、4人にして男女2人ずつのグループにした方がよいように思います。

作業を終えてグループの隊形のまま、全体で確認をします。この学級では先ほどと違って子どもに発表させて進めていきました。友だちと確認し合いながら聞いている子どもいます。子どもたちは先ほどの学級と比べるとよく集中していたように思います。
最後の一文を発表した子どもは、視点を変えたので「見た」を「見ただろう」と書き換えていました。このことに気づいたかどうかを授業者が全体に問いかけます。確認をして説明した後、同じように末尾を変更したグループはないかを聞きます。「見たそうだ」と変えたグループがありました。「だろう」と「そうだ」はどう違うと発表者のグループに問い返しますが、他の子どもたちは他人事でほとんど参加していません。そのグループの問題だと思っているのです。後から聞いたのかもしれないという説明を受けて、授業者が全体に解説をしました。結局授業者がすべて判断することになっているのが残念でした。ここは、最後の表現だけを全グループに発表させて、変える必要があるかどうかから全体で話し合わせるとよかったと思います。こうすることで最後の表現をどうするかが子どもたちの課題となり、自分たちで判断させることができたように思います。とはいえ、単純な置き換えに近い部分で時間をとるのはもったいないとも言えます。◎○△の評価をやめ作業時間をもっと短くすることが必要だったように思います。

2人の授業者は互いによく連携が取れていると思います。だからこそ、授業の流れだけでなく、何をねらっているのか、どこにこだわるのかをもう少し明確にして授業をつくるとよいと思いました。

この続きは次回の日記で。

活動を学びにつなげることの難しさを感じる

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
なかなか日記の更新が追いついていませんが、時々お寄りいただければうれしく思います。

前回の日記の続きです。

ベテランの家庭科の講師の授業は、8年生の和装を体験するというものでした。
授業開始の挨拶で、授業者が特に何も言わないのに子どもたちの姿勢がよいことが印象的でした。子どもたちの礼を確認してから授業者は礼をします。ちょっとしたことですが、授業者の子どもを見る姿勢が子どもたちの姿に影響していると思います。家庭科なので一つの机に4人の子どもが座ります。普通に座れば授業者とは正対しないのですが、多くの子どもがきちんと授業者に向いて座っています。それでも授業者は「ちょっと狭いですが、体を前に向けましょう」と指示をします。子どもたちにどうあってほしいかを明確に伝えています。子どもたちは素早く反応します。続いて前時の復習で洋服と和服の違いを確認しますが、子どもたちはよく集中しています。問いかけに対して多くの子どもが口を開いてくれます。

この日の課題「浴衣を着て和服のよさを見つけよう」を黙って板書します。子どもたちはそれを興味深げに見ています。家庭科の授業に対する期待感を感じます。興味を持てる授業がいつも行われていることが想像できます。
ここで、教室の隅に置かれていたディスプレイ・ボディ(服を着せる人型)にかけてあった白布を外します。そこには女性用の浴衣がきれいに着せられています。子どもたちから「かわいい」と言う声が漏れてきます。こういう演出もなかなかです。
後ろを向けて帯も見せます。この日の課題のポイントである帯の結び方をさりげなく意識させます。この浴衣は授業者がつくったことを伝え、「いいでしょう」と言葉を足します。家庭科を学ぶことでこういったものも作れるようになることを、上手にアピールします。授業者の家庭科に対する思いが伝わってきます。

子どもたちに浴衣を着たいという気持ちにさせて、着る手順を伝えます。ステップごとにポイントが書かれた紙を1枚ずつ黒板に貼って、それを全員で読ませます。「背中心」「下前」「上前」「お端折り」といった子どもたちが日ごろ耳にしない言葉が出てきますが、ステップごとにディスプレイ・ボディに着せた浴衣を使って、具体的に説明をします。一方的な説明の場面なのですが、子どもの反応を確認しながらていねいに言葉を発しているので、実物があることも相まって、子どもたちの集中はよく続いていました。

授業者が見本を見せる場所をつくるために机の移動を指示します。後ろ側に隠してあった黒板を見せると、そこに机の移動場所が書いてあります。ムダがない提示で子どもたちの集中は途切れません。指示が的確なことと、興味をうまく持たせていることで、子どもたちは素早く行動します。
モデルを募りますが、挙手がないのですぐに出席番号で一人の女子を指名しました。さすが、実習教科です。時間をムダにしません。ここで、ちょっと子どもたちのテンションが上がりますが、授業者はカウントダウンで口を閉じさせます。
「1番は何だった?」と子どもたちに手順を確認しながら進めます。子どもたちから「背中心」と声が上がりますが、ちょっとざわざわします。突然授業者が「あっー」と声を上げ、そのまましばらく間を取ります。子どもたちが静かになって落ち着いたのを見計らって、「この後自分たちでやるんだから、そのことを意識して、見よう」と言葉をつなぎます。子どもたちの様子をよく見て、それに応じた対応をしています。さすがだと思いました。
付け帯ではなく、本物の帯を締めます。ちょっと難しいけれどきちんと帯を締められるようになってほしいという授業者の思いが伝わってきます。前で帯を結びますが、どうして前なのかを問いかけ、自分一人で締められるやり方であることを強調します。ここでも、授業者の思いが伝わってきます。途中でちょっと集中を失くしていた女子も、よく見える位置に移動して、自分でまねをしながらしっかりと見ていました。
最後にどちら向きに帯を回すのか確認します。自分で動作をする子どもがたくさんいますが、ちょっとざわついて聞いていない子どももがいます。授業者はちゃんと聞くようにと言ってから、指名しました。「右」という答に対して、「なぜが大事」と理由を求めます。上手く答えられないので他の子どもを指名しました。上前がずれることを言ってくれたので、すぐに説明を重ねました。時間のこともありますが、最初に答えた子どもや、他の子どもにもう一度確認したいところでした。

説明が終わると男女別のグループに分かれて、着付けを行います。子どもたちのテンションが急激に上がります。目標がはっきりしないので、浴衣を着るというだけの活動になってしまいます。うまく着付けができたかの評価基準を示した上で、評価場面をつくることが必要だと思います。また、男子の場合、結び方は単純なので具体的に見本を見せませんでした。そのため、よくわからないままとりあえずやってみるというノリでの活動になってしまい、女子以上にテンションが上がってしまいました。そのことに授業者は気づき、男子のグループのところに行って説明をしました。よく説明を聞いていたのですが、説明が終わるとまたテンションが上がってしまいます。自分が着終わるとふらふらする子どもが目立ちました。着付けに直接かかわらない子どもに、評価するといった役割を持たせることが必要になるのです。
着付けのチェックポイントが明確でなかったので、かなり雑になっているグループも目立ちました。途中で活動をいったん止めて、全体でチェックして、ポイントの確認をするとよかったでしょう。
途中で、動きを止めて課題を提示します。浴衣を着た時に、洋服の時とイメージがどう変化するか、どんな気持ちになるかを考えてほしいというのです。最初に提示し忘れたのかもしれませんが、このタイミングでは着終わった子どもは考えにくいかもしれません。結局、子どもたちのテンションは上がったままでした。

活動を止め、机を元の状態に戻して浴衣と帯を片付けるよう指示します。移動を終えた子どもたちは静かに席に着いて次の指示を待っています。この切り変えは立派だと思いました。指示された2分間できちんとすべてのグループが最初の状態に戻りました。「すばらしい」と授業者がほめると自然に拍手がわきました。

ワークシートを配って先ほどの課題をグループで相談して書くように指示します。「どんな感じ?」「どんなイメージ?」というのは言いやすそうに思えますが、逆に何を言えばいいのかよくわからないとも言えます。自分のワークシートに埋めることに集中する子ども、まわりと相談する子どもに分かれます。この授業でも、自分のグループ以外の友だちと話をする姿が見られました。
グループごとに発表していきます。子どもたちは静かにしていますが、顔が上がりません。聞く姿勢はこの学校の共通課題です。子ども同士をつなぐことを意識することで、聞く姿勢は変わると思います。順番に発表するのではなく、一つのグループの発表のあと、「同じようなことを考えたグループはいない?」とつないだり、「同じように動きに注目したグループはいない?」と焦点化したりするとよいでしょう。
一通り発表させた後で、板書をします。どんな意見があったかを「教えて」と聞きます。聞くことに価値を持たせるよい方法なのですが、子どもたちはあまり反応しません。子どもたちに聞くことがまだ定着していないようです。「○○さんのグループはどんな意見だっけ?」と具体的に思い出させたり、「どんな意見があったか、まわりと確認して」と相談させたりして、子どもにしつこく発信を求めることも必要だと思います。

子どもたちは体操服を着ていたのですが、「そういうだらっとした感じではなく……」と子どもから言葉を引き出そうとします。「ぴしっとしている」「特別な日に着たくなる」という言葉を受けて「どうしてそうなる」と返すと、「日本伝統の美だから」といった言葉が出てきます。ここで、子どもたちの言葉が止まります。
そこで授業者は、自分は特別な時に和服を着て、着ると背筋が伸びて気持ちが引き締まると説明します。こういった伝統文化や和服のありようについて考えさせ意見を言わせるのであれば、浴衣を着るだけではなかなか出てこないように思います。浴衣を着て歩かせ、その様子の違いを全体で共有するといったことが必要でしょう。また、浴衣は晴れ着ではありません。振り袖や紋付袴といった晴れ着を見せることも必要だと思います。ふだんは和服を着ない、晴れの日に着る、その理由に絞って考えさせてもよかったかもしれません。
子どもから引き出したい言葉に対して、どのような活動や情報が必要なのかを考えて授業を組み立てるとよかったと思います。

最後に折り目正しいという言葉と和服の折り目を関連づけて、あらかじめ用意した「和服は折り目正しく、着れば態度も礼儀正しく」とまとめを書いた紙を貼ります。せっかく子どもたちから一生懸命言葉を引き出したのに、こういった形でまとめを提示すると、「結局、先生はこれが言いたかったのか」となってしまいます。ちょっともったいないと思いました。今回は授業者の思いが強すぎたのかもしれません。思いがはっきりとしているからこそ、授業の組み立てが大切になると思います。活動を学びにつなげることの難しさを感じました。

この続きは次回の日記で。
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