栄養教諭の模擬授業から学ぶ
栄養教諭、栄養士の方を対象にした研修を行ってきました。模擬授業と解説、講演でした。
模擬授業は、2人の栄養教諭の方に、実際に行った授業を再現する形で行っていただきました。時間の関係で、ポイントとなるところだけを模擬授業で行いました。 一人目の方は、ベテランの方でした。担任とのTTで食べ残しとごみの関係について子どもたち考えてもらう、小学校4年生を対象にした授業です。 社会科のゴミの授業が終わったあと、それを受けて学級活動の時間に行われたものです。 最初に栄養教諭の仕事を紹介し、給食センターで給食がつくられる様子を、クイズなどを交えて説明します。ここではスライドだけを見せていただきましたが、とてもわかりやすく子どもたちの興味をひくものになっていました。最後は片付けについての話です。子どもたちは給食を食べちゃったら終わりだけれど、給食センターではまだ仕事があるということを伝えます。たくさん残ってくると調理員さんは大変だという最後のスライドを示したままにして、授業を進めます。ここからが模擬授業です。 ワークシートを使って担任が栄養士や調理員がどのような思いで給食をつくっているかを考えさせます。少し時間を与えてから子ども役に考えを聞きました。 指名は担任で進めます。最初は調理員の気持ち、一通り出た後で栄養士の気持ちを発表させます。「おいしく食べてもらいたい」「いっぱい食べてもらいたい」といった発言一つひとつを、栄養教諭は「なるほど」「確かにね」としっかりと受容します。「たくさん手を挙げてくれてうれしいな」といったIメッセージも上手に使います。「似た考えだけどちょっとだけ違うという人いるのかな」とつなぐこともしています。一般の教員でもなかなかできないことです。 担任が、一つひとつの発言を板書してから次の指名をするのでちょっとテンポが悪くなります。栄養教諭はその間板書を見ていますが、できるだけ子どもたちの方を見るようにすることが大切です。栄養教諭が指名も含めて進めるようにして、担任は板書に徹するという方法でもよかったかもしれません。また、ここは板書せずに「同じように考えた人?」と子ども同士をつないでたくさん発言させることで共有するといったやり方もあると思います。 「みんな私の気持ちをすごくよくわかってくれてうれしい」と言った後、「でも少し困ったことがあります」と続けます。困っていることは何だと思うかを子ども役に問いかけます。板書してある「いっぱい食べて大きくなってほしいな」「たくさん食べてもらえるメニューを考えている」といった子ども役の発言を読み上げて、考えやすいようにしています。スクリーンには先ほどの「残ってくるとたいへん」のスライドも残っています。もう一度困っているのは何だろうと問いかけてから挙手させます。指名された子ども役は「給食が残ってくることだと思います」と答えます。栄養教諭はそれをそのまま復唱します。板書が終わるのを待って、付け足しやほかの意見がないかをたずねますが手は挙がりません。ここは挙手に頼らず何人かに発言を求めてもよかったでしょう。 続いて、「給食の食べ残しについて考えよう」という課題を提示します。この課題は子どもたちにとっては何を答えていいかちょっとわかりにくいものです。「考えよう」という発問は、子どもたちとって何をすればいいのかわかりにくいものなのです。そこで、「残った給食はどうなるか?」と問いかけます。「みんなこれまで学習したこととつながりがあるかもしれないよ」と社会科の学習につなげようと言葉を足します。このことは大切なのですが、答を誘導しているようにも思います。最後に子どもたちから言わせたいところでした。 「ごみになると思います」という発言に対して、すぐに「そうだよね。ごみになってしまいます」と反応します。ちょっと反応が速すぎるように思いました。期待する答が出たのですが、大切な答であればあるほど、子どもたち全員にきちんと考えさせたいところです。「○○さん、どう思う?」「△△さんは?」というように何人も指名して、「みんなに大きくなってももらいたいと思ってつくっている」のに、「たくさん食べてもらえるようにメニューを考えている」のに、「ごみになる」ことを確実に押さえたいところでした。 模擬授業はここで終わりです。実際の授業はこの後、昨年の食べ残しがどのくらいあったかのグラフを見せたり、給食の残りを片付けている様子の写真を見せたりして、昨年の給食の残りが250袋分あったことを伝えます。最後に「きれいに食べられて空っぽの食缶」「たくさん残っている食缶」を見て、調理員さんはそれぞれ何を思ったかを考えてもらい、食べ残しを減らすためにはどうすればよいのか、自分ができることを考えるというものでした。 私からは、この授業での発問をもとに、子どもが根拠を持って考える発問と思いつきで答えられる発問の違い、授業者の子どもを受容する姿勢の素晴らしさを解説しました。 栄養教諭や栄養士の方は食育の授業にあたって、視覚に訴える資料をていねいにつくられることが多いようです。そのことはとてもよいことです。しかし、動画などはそれをもとに次に何を考えるのかを予め提示しておかないと、漫然と見ていて内容が頭の中にあまり残らないことがあることに注意が必要なことを伝えました。 TTについては、それぞれの役割を明確に分担するとよいことをお伝えしました。子どもたちの意見を引き出すのが難しいと感じるのであれば、そこのところは思い切って担任にまかせるというのも一つの手なのです。 最後に子どもたちの行動を変容させるのに何が必要かを考えるようにお願いしました。この教材であれば子どもたちが食べ残しを減らさなければいけないと言うだけでなく、そのための行動を起こすようにするにはどんな要素が必要かということです。食材をつくるためにどれだけのお金と人の力が必要なのかといったことを示すことも一つの方法でしょう。そういったことを考えてほしいと思いました。 もう一つの授業は新規採用から3年目の栄養教諭の方で、先日初めて行った授業を再現してくれました。ほとんど経験のない中でのことで、随分緊張したことと思います。 授業は中学校の2年生を対象とした、自分の朝食のステップアップをしようというものでした。朝食の働きを確認した後、4人の中学生の食事を示します。「寝坊した子ども」「ゆっくり食べた子ども」「自分で用意した子ども」「食欲がなかった子ども」です。自分の食事がどれに近いかを選ばせて、朝食のステップアップを目指すというのがこの日の課題です。ステップアップと言っても具体的にはどういうことかわかりません。学力アップ、運動能力アップといったことを引き出そうとするのですが、どうしても授業者が主導でしゃべりすぎてしまいます。 例として挙げた4人の食事を6つの基礎食品群で分類させたあと、足りないものに気づかせます。基礎食品群の資料など考えるために必要な材料を示したりと、よく準備をしています。しかし、基本的に一問一答で進み、どうしても授業者が解説をしてしまいます。 グループごとに、4人の中から1人の子どもを指定して、それぞれの朝食がバランスよくなるようにするのが課題でした。 それぞれシチュエーションが違うので、そのことを意識することが大切ですが、食事のバランスをよくすることに意識が行っていました。本当は自分の食事をどうステップアップするのかを考えることをしたいのでしょうが、一人ひとり置かれている環境は様々なので、それをグループや全体で扱うのは問題があると考えて、このような形をとったのだと思います。よく考えています。だからこそ、その環境で意識すべきことは何かをまず明確にするとよかったと思います。「寝坊しやすい人はどのような工夫をすればバランスのよい食事ができるのだろうか?」「朝食欲のない時は?」といったことをまず子どもたちに考えさせてから、課題に取り組むのです。食事だけでなく、自分たちの生活を見直す機会にもなったと思います。 子どもが考えるためには根拠が必要です。課題を解決するためには見通しが必要です。こういった要素を意識して授業に組み込むことが大切です。根拠となる知識や事実を明確にして与えておけば、授業者が解説しなくても子どもたちの言葉をつないでいくことで、自分たちで気づくことができるのです。 とは言っても、経験の浅い方にそれを求めるのは酷です。TTであれば、担任に助けてもらいながら少しずつできるようにしていけばよいと思います。このような場に出て挑戦してくれたことをうれしく思います。今後経験を積んでいけば、大きく進歩していくことと期待します。 講演は、「食に関する授業の進め方のポイント」についてお話させていただきました。 授業の解説でも伝えましたが、子どもたちの食に関する行動をよい方向に変化させることが大切です。しかし、子ども心の変容を促すことはそれほど簡単なことではありません。実行できない阻害要因が何かを意識して、それを取り除くにはどうするかを考えることが必要です。 栄養教諭の授業は年に何度もあるわけではありません。1回の授業でどうしても多くのことを盛り込みたくなってしまいます。活動の内容をできるだけ絞り込むことが大切です。そのためには、課題がとても重要です。子どもたちが興味を持って活動するような課題でなければなりません。そのためには、子どもたちにとって取り組む必然性が求められます。「興味・関心」が持てるもの、あれっと「疑問」を持たせるもの、絵空事でない「リアリティ」のあるものであってほしいと思います。そして、その課題に取り組むことが目指す子どもたちの姿につながることが大切です。 また、作業と思考の区別も必要です。今行うとしている活動がどちらなのかをよく考えておくことが必要です。授業の時間配分は考えることを多くしたいものです。そして、考えるためには足場となる知識が必要です。この足場がない状態で考えろと言っても、子どもたちは困ってしまいます。事前に必要となる知識を整理して、効率的に与えることが大切です。 実際に授業をするにあたっては、担任とのコラボレーションが欠かせません。TTであれば、事前にある程度時間を取って打ち合わせをすることが必要です。まず一番に伝えたいのは、子どもたちにどうなってほしいかという「思い」です。そして、担任と目標とする「子どもの姿」をしっかり共有することが大切です。自分が中心とならなければいけないと気負ってしまいがちですが、できないことは担任に助けてもらえばよいと割り切ることも必要です。一人で頑張ろうとせずに、栄養教諭にしかできないことは何か考えてそこに集中することが大切です。 単独で授業をするのであれば、子どもの状況、学級の特性など、知りたい情報を事前に担任から聞いておくことが必要です。座席表などのコピーをもらっておいて指名の時に名前で呼べるようにしておくだけでも、ずいぶんと授業の進行が楽になります。 このようなことをお話させていただきました。 日ごろ見ることがない栄養教諭の授業を見る機会をいただけて、大変多くのことを学ぶことができました。このような機会を得られたことに感謝です。 |
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