スタッフの思いの強さを感じた研修会

先週末は、授業力アップの研修会にオブザーバーとして参加させていただきました。今年で13年目になりました。中心となるスタッフの方はほとんど変わっていません。通常であればマンネリになるところなのですが、毎年手を加えてよりよいものにしようとしています。
今年はいつもと違って、最初に「子どもを動かすスキル」という講座が加えられていました。授業の形を取りながら、その中に子どもを動かすためによく使われるスキルが埋め込まれていました。最初に受講者が体を動かしたり、声を出したりすることで会場をあたためることを意識していたようです。これが功を奏したのでしょう、この後の講演での反応や講座での表情は例年に比べてとてもよかったように思います。こういった細かな工夫が積み重なって今があることがよくわかります。

このスキルの講座で残念だったのが、ねらいが微妙にずれる場面があったことです。何をねらっているのかが受講者にわかりづらいために今何を感じ取ればいいのかが不明確になってしまったのです。野口芳宏先生の○か×かを全員に決めさせるスキルを使う最初の場面は、ティッシュペーパーの箱の模様を使って、向かう合う面に同じ模様があることを気づかせる一連の活動の後でした。この活動を使って授業ができそうかどうかを○か×かで聞きました。受講者の立場で言えば、これを活かした授業を考えるのかと思ってしまいます。続いて、この活動を導入に使った授業の例を2つ示します。そこでも、子どもを動かすスキルを使って授業を行なうのですが、先ほどの問いかけの影響が残り、どうしても視点が授業の流れや中身に目がいきます。スキルを伝えることが目的だからでしょう、通常の授業であれば省略しない、答をどのようにして見つけたかを共有することや正解であることを実際に確かめるといった場面はありませんでした。人によってはそのことが引っかかったかもしれません。また、会場の雰囲気を柔らかくするために、ゆるキャラを使って子ども役の興味を引くこともします。ご当地ゆるキャラやコンテストの投票の話をしますが、どこまでが授業のシミュレーションなのか、スキルを実感する場面なのかはっきりしませんでした。
最後に、子どもを動かすスキルを「全員参加させるため」として。「野口式○×法」「指でさして答える」「全員起立して順番に答える」とまとめました。具体的な例もよいのですが、「誰でもできること」をまずさせるという基本となる発想を伝えるべきだと思います。「わかった人?」「困っている人?」といったことを聞けば、該当しない人は手を挙げません。そこで、まず全員立たせたり挙手させたりしてから、座らせたり、手をおろさせたりすれば、全員を動かすことができるわけです。この発想があれば、全員参加のスキルはいろいろと考えられるはずです。
具体例と合わせて「子どもの反応をよく見る」「切り返しの発問、意図的指名」を提示しますが、これは授業の場面のどこでどうであったかは解説されません。この言葉だけでは、少経験者は実際にやれるようにはなりません。もちろん、ここまでをねらっているわけではないのでよいと言えばよいのですが、中途半端な気がしました。
そして、子どもを動かすためには、スキルだけではなく、「?」や「!」をつくることが重要で、「身近なものや具体物」「手作りの掲示物」が有効であることを伝えます。確かにそうなのですが、これもやはり例でしかありません。「?」や「!」をつくるために工夫をしなさいということを伝えたいのでしょうが、小手先のような気がします。
30分という短い時間なので、何をメインにするかはっきりさせて、そこを第一に講座を構成するとよかったと思います。雰囲気づくりが第一であれば成功なのでしょうが、タイトルが「子どもを動かすスキル」となっているので、受講者としては消化不良だったのではないでしょうか。

愛知教育大学名誉教授の志水廣先生の講演は、いつものように子どもたちの気持ちに寄り添った授業観で具体的なお話しでした。会場の反応がよかったせいか、いつも以上にのりのよい講演でした。受講者にとって学びの多いものだったと思います。

実習では、受講者の笑顔を多かったことが印象的でした。先生役をやる時は、たいていは緊張してなかなか笑顔が出ないものですが、この日の受講生はとてもよい表情で先生役に挑戦します。大ホールで小グループに分かれて行っているので、互いによい影響を与え合っているようですが、裏を返せば雰囲気が悪いと全体が落ち込んでいきます。そうなっていないのは、スタッフの力によるところが大きいと思います。スタッフの笑顔が素晴らしいのです。先生役と子ども役の双方をしっかりとポジティブに評価しています。先生役と子ども役は互いに影響し合います。このことをしっかりと理解しています。最初の講座から始まり、最後までスタッフが雰囲気づくりを大切にしていることはとても素晴らしいと思いました。こうした講座を企画すると、どうしてもプログラムやその内容にばかりに意識がいきますが、雰囲気づくりも大切にできることは、長年の積み重ねの結果だと思います。

これだけ長く続いている研修会ですが、スタッフもそれだけ歳を取って来ています。中心メンバーの一人に、後継者の問題を含めてこれからのことをたずねました。「無理やり後継者をつくってもうまくはいかない。自分たちは思いがあってここまで続けてこられた。そういった思いがなければこのような研修会は続けることはできない。次の世代が、自分たちの思いで新しいものをつくればよい」。この答を聞いて感心しました。自分たちでつくったものを何とか継続させたいと思うのが常です。形ではなく、その思いを大切にしているからこそ、次世代が自身の思いで新たなものをつくってほしいと願っているのです。逆に、この研修会のスタッフの思いの強さもよくわかります。
毎年、私自身多くのことを学ばせていただいている研修会です。少しでも長く続くことを心から願っています。

授業深掘りセミナーの講師陣からエネルギーをいただく

授業深掘りセミナーのミーティングを行いました。レギュラー講師陣と授業と学び研究所のフェロー・スタッフが一堂に会しての、セミナーの持ち方や今後についての打ち合わせです。授業深掘りセミナーは多くの方々に期待していただけ、今年度第1回は既に定員に達しています。来年度についてもすでに3回の開催が決定しました(詳しくはこちらで)。

こうして講師陣が一堂に会することで改めてわかることは、どなたも授業に関しては強い思いと実力のある方ばかりだということです。私自身どのような模擬授業を見ることができるのかとても楽しみです。そして、その授業を講師の先生方がどのような見方をして深掘りをしていくのか?想像するだけでドキドキします。参加者にとって学びの多いすばらしいセミナーになること間違いなしです。

この日は懇親会も開かれました。楽しくお話ししながら、講師の方の、授業だけでなく後進を育てること対する強い思いも感じることができました。一人の教師としては、自分が直接かかわることのできる子どもにしか影響を与えることができません。管理職となっても、影響を与えることができるのはその学校の子どもたちだけです。しかし、若い教師を何人も育てることで、その何倍もの子どもたちによい教育を与え、成長を助けることができます。その思いが、授業深掘りセミナーの原動力になっています。このセミナーにかかわる方たちのエネルギーに触れて、私も改めて先生方の成長の助けになりたいと強く思いました。

第2回以降はまだ空きがありますので、興味のある方はぜひ参加をご検討ください。

第2回「教育と笑いの会」の受付開始

第2回「教育と笑いの会」申込受付が始まりました。

日 時:平成27年12月19日(土)13時00分〜16時40分
場 所:名古屋ルーセントタワー16階
参加費:3,000円
定 員:200名

今回は、番組を増やし、寄席のように次から次へと出演者が出てきます。メイン番組は、故・有田和正先生の授業ビデオを見ながらのユーモア分析です。前回同様、とても楽しい会になると思います。すぐに定員に達する見込みですので、興味のある方はお早目にお申し込みをお願いします。

「アクティブ・ラーニング」や「全国学力学習状況調査」について考える

先週末に授業と学び研究所のミーティングが行われました。

最初は、前回に引き続き「アクティブ・ラーニング」についての発表とそれをもとにした話し合いでした。文部科学省の資料に止まらず、元になった会議の議事録も丹念に調べて、資料の背景まで探った発表から大いに学ぶことができました。「アクティブ・ラーニング」の背景やその先にあるものが少し見えてきた気がします。知識基盤社会、グローバル化といった言葉と合わせて考えていくと、小中高大を貫く学びの軸を作り直し、公教育の質を転換しようとしているように思えます。学校教育の目指すもの自体が大きく変わっていくのかもしれません。
一方、2冊の本で著者が「アクティブ・ラーニング」どのように定義しているかを比較する資料も他のメンバーから出されました。人によってとらえ方がかなり違っているように思われます。「アクティブ・ラーニング」が具体的にどのようなものかについてはこれからしばらく異論がたくさん出てくることと思います。文部科学省はもとより、いろいろなところからどのようなことが具体的に発信されていくのか注目する必要があると思います。

先日発表された速報をもとに全国学力学習状況調査の都道府県の状況の変化についても発表されました。マスコミは都道府県の順位ばかりをクローズアップするので、下位の県が急上昇したというような記事になりがちですが、平均正答率に対してどれだけ差があるかという資料を見ると違った姿が浮かび上がってきます。それは、何年もかけて少しずつ成績が上がってきているということです。最初は差が大きかったので、成績が上がっても順位は変わりませんが、時間をかけて追いついてくると少しの点数のアップで順位はそれこそ一気に上がるのです。具体的な方法の是非は置いておいて、こういった県が地道に対応をしているということです。最下位の県と平均正答率の差は3%ほどです。平均点が60点の試験で、ある学級の平均点が58.2点だとして、この差を大きなものと皆さんは感じるでしょうか。それよりも成績の分布の仕方や問題ごとの考察の方が大切です。都道府県別の順位ではなく、そういうところにもっと目を向けてほしいと思います。
また、順位が上位の県も今度はそれを維持しなければいけないという、別のプレッシャーがかかります。子どもたちが、春休みや4月に全国学力テストの過去問題に取り組むという姿は、どうにも本末転倒しているように思うのは私だけでしょうか。
ともあれ、学力や成績を順位で見るということは本質を見落とすことになります。成績の振るわない子どもが努力して試験の点数を上げても、相対評価である順位は変わらないこともあります。教師はそういった子どもの努力や成果をきちんと見て評価することが必要です。全国学力学習状況調査もそういった視点が大切だと思います。
こういったこととは別に、外国籍の子どもの多い県では似たような傾向があることにも気づきました。きちんと整理・考察ができているわけではありませんが、小学校の成績(特に国語)が悪いのですが、中学校ではかなり高い成績を取るのです。こういったことについて調査研究している例がないか探してみたいと思いました。

この日も多くの学びがありました。こういった授業と学び研究所で日ごろ話し合われていることは、「授業深掘りセミナー」の「教育情報知っ得コーナー」でもお伝えしていく予定です。
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