教師の受容と子ども同士のかかわりについて考える
先日、1学年1学級の小規模小学校を訪問しました。市内の全小学校での授業アドバイスの一環です。今年度2回目の訪問で、残りの3人の授業アドバイスを行いました。
前回訪問した時に、子どもたちがとてもよい表情で挨拶してくれることが印象的な学校です。この日もそのよさを感じたのですが、あることに気づきました。子ども同士のかかわりが弱いのです。学年によっては、男女の関係が悪い学級もあります。理由の一つが1学級の人数が少ないことが挙げられます。そのため、どうしても教師が1人の子どもとかかわることが多くなるからです。今回の訪問では、授業でそのことを感じる場面が多くありました。 5年生の社会科の授業は、情報の陰の部分の学習でした。 授業者は前回訪問した時にとても上手に子どもに対応していることが印象に残った方です。今回も、よい表情で子どもたちをしっかりと受容しています。新聞の広告などを使って、情報が私たちにどのような影響を及ぼすかに気づかせます。ここで気になるのが、子どもたちはしっかりと反応するですが、他の子どもの言葉をあまり真剣に聞かないことです。発言者も先生に向かってしゃべります。先生と子どもの1対1の関係で授業が進むのです。子どもたちは友だちの発言に対して、反論や疑問、時には揶揄するような言葉をその場で返します。これは、この学校全体に共通したことのように感じました。先生方は子どもの言葉をしっかりと受け止めますが、基本は一問一答です。子どもたちは発言したことで満足します。同じ意見の子どもは次に発言する機会はありません。先生方はその場でしゃべったことでもよい意見はしっかりと拾ってくれます。挙手をしないでも発言すれば認めてもらえるチャンスはあります。間違えた意見でも流されるだけで、恥をかくことはありません。そこで子どもたちは、同意ではなく友だちへの反対意見や批判をその場で口にするようになるのです。また、一部の子どもの攻撃的な発言が場を支配するようになると、教室の雰囲気が悪くなります。子どものよい発言は、「いい意見だからみんな聞こう」と全員に対して再度しっかり発表させ、「同じように考えた人いる?」「今の意見なるほどと思った人」とまず同じ考えをつなぎ、共有することが大切です。また、無責任な攻撃的発言も、あえて全体の場できちんと発表させて、「どう思う?」と他の子どもにその意見に対する意見を言わせたり、「理由を聞かせて?」と根拠を求めたりすることも必要です。このように対応することで友だちと共感することを大切に思うようになり、攻撃的な発言が減っていきます。友だちのあらを探すのではなく、友だちが何を言いたいかをわかろうとする気持ちを持たせるのです。 授業者は子どものつぶやきを拾いながら上手に話を進めますが、子どもの言葉を他の子どもに広げるのではなく、自分の言葉に置き換えて説明しています。できるだけ、子どもの言葉のままで共有させることを意識してほしいと思います。 テレビ番組の納豆ダイエットのねつ造問題を題材として、間違った情報が「どんな人に、どんな影響がでるのだろう」とワークシートの課題を与えます。子どもが課題に取り組んでいる間にこの日のめあて「情報が与える影響について考えよう」を板書します。課題は陰の部分に焦点化していますが、めあては特に陰に限定していません。めあてと課題のずれが気になりました。 机間指導で子どもをほめながら、よい所に線を引いています。しかし、全員ではありません。途中の子どもでも、「いいところに目をつけているね。○○についても書いてくれるといいね」と部分肯定しながら声かけしてほしいと思います。子どもたちは先生に認めてほしいと思っているので、全員に声かけすることを心がける必要があります。その上で、ペアなどを活用して子ども同士が認め合う場面をつくることで子どもの関係がよくなっていくはずです。 子どもたちの発表をすぐに授業者が板書します。時には板書の段階で、授業者が修正することもあります。子どもの意見を修正する時は本人に修正させてから板書するようにしないと、教師の求める答を探すようになります。また、板書をあえてしないで、「番組を見た人」というように「どんな人が」に視点をあてて、その人への影響について発言をつなげ、「じゃあ、いろいろな意見が出てきたけれどまとめてくれる」とノートやワークシートにまとめさせたり、発言させてその言葉をそのまま板書したりするというやり方もあります。 他の子どもが気づかなかった視点の意見が出た時に多くの子どもが「ああ」と反応しました。とてもよい反応です。ここは、「ああ」といった子どもたちにその理由を聞きたいところです。授業に「聞くことで参加する」「反応することで参加する」ことを評価することが大切です。 続いて松本サリン事件で無関係の被害者が容疑者となったことを話題に、間違った情報が人々にどのような影響が出たか考えます。子どもたちは、それぞれの意見を発表するのですが、友だちの意見を聞いて考えが深まる場面があまりありませんでした。子どもの意見を聞いて授業者がまとめていくので、子どもはあまり考えなくていいのです。また、情報が教科書に取り入れられてから日が浅いこともあり、授業者自身がどのようにこの内容を整理していいか明確な視点がなかったこともその原因です。情報の光と陰を考える時に、情報のこちら側と向こう側を考えるという視点が有効です。情報の発信者と受信者、送り手と受け手のそれぞれの気持ちや意図を想像するのです。テレビの番組を制作する人はどんなことを考えるのだろうかと想像することで、ねつ造起こりやすいという危険性に気づけます。自分がネットに流した情報を見た人はどんな気持ちになるだろうかと想像することでトラブルを防ぐことができます。善意の気持ちで発信した情報が人を傷つける可能性にも気づけます。また、情報の外にいる人のことを意識することも大切です。SNSの中だけで情報交換していると、そこに参加していない人はどうなるだろうかといったことを想像するのです。情報を間にはさんで、その向こう側とこちら側、そしてその外側を想像するという視点を持つことで、授業の軸が明確になったと思います。 子どもが一生懸命に説明するのですが、上手く伝わらない場面がありました。授業者の表情がかたくなり、それを見て子どもの表情が曇りました。授業者はこの時の子どもの表情の変化にちゃんと気づいていました。余裕がなくなり表情がかたくなったせいだと原因も理解しています。こういった場面では、教師が何とか理解しようとするよりも、子ども同士に任せた方が上手くいくことが多いようです。「○○さんの言っていることはどういうことかな?だれか先生を助けてくれる?」というように子どもに助けを求めると、友だちの発言を一生懸命に理解しようとしてくれます。子どもの発言は子ども同士の方がわかり合えることがよくあります。すべてを教師が理解してコントロールしようとする必要はないのです。 授業者は、こういった私のアドバイスを非常に素直に受け止めてくれました。力のある方なので、子ども同士をつなぐことを意識していただければすぐに授業はよりよくなっていくと思います。今後が楽しみな先生でした。 残り2つの授業については、明日の日記で。 体育の授業研究で子どもを見ることの大切さを考える
昨日の日記の続きです。体育の授業研究は男子のダンスの授業でした。授業者は2年目の先生です。EXILEの音楽に合わせて規定のダンスを踊ります。
子どもたちの始めの挨拶の声は大きいのですが、子どもの体は静止しません。大きな声とは言っても、全員がしっかりと出しているわけではありません。一部の子どもがテンションを上げているのです。また、挨拶の場面に限らず、活動のけじめがはっきりしていないことが気になります。まだ子どもが聞く態勢ができていないのに話し始めます。授業者の話は聞いているのですが、顔が上がらない子どもが目立ちます。授業者は子どもたちに自分と目線を合わせることを求めていないのです。体育では指示を徹底することが特に求められます。徹底しないと事故につながります。子どもたちときちんとコミュニケーションを取ることを意識してほしいと思います。 この日の目標はリズムよくダンスをすることと伝えます。「リズムよく」というのは感覚的でわかりにくい目標です。これが具体的どのようなことか、子どもたちが理解している必要があります。前時までに説明したのかもしれませんが、この日の目標ですから、確認する必要はあるでしょう。「リズムよく」を子どもたちの言葉で説明させてみる。いくつかの例を見せて、どれがより「リズムよく」なっているかを言わせる。そういう場面が必要です。また、自分の姿を見ることはできないので、自分が「リズムよく」やれているのかどうかは判断できません。自己評価ができないのです。子ども同士で評価し合う、ビデオなどを利用するといった工夫が必要です。 これまで覚えたダンスを全体で復習します。授業者は子どもたちに背を向けて踊ります。子どもたちに向いて踊ると動きが逆になって混乱することが理由です。しかし、何よりも子どもを見ることが大切です。教師が逆の振り付けで踊れるように練習することが必要かもしれません。それが難しければ、代表の子どもに前で躍らせておいて、自分は全体を見るというのもよいでしょう。代表の子どもと一緒に1小節踊っては振り向くといったやり方もあります。いずれにしても子どもたちを見る工夫をしてほしいと思います。 子どもたちを見るという点で、非常に残念なことがありました。理由はわかりませんが、振り付けを覚えていない子どもがいました。まわりを見ながらできるところは何とかやろうとしますが、わからなくなると止まってしまいます。しかし、授業者はその子どもに気づかず支援をしませんでした。続いてグループでの練習になりましたが、やはりついていけません。自分から「教えて」と仲間に教えてもらうこともできません。まわりの子どもは自分たちがやることに夢中でかかわろうとしません。結局その子どもは途中で参加することあきらめて見学者のところへ行ってしまいました。授業者はこの一連の動きに気づいていませんでした。確かにすべての子どもの動きを把握することはできないかもしれません。だからこそ、グループ活動を活かして、互いに助け合うことをきちんと指導しておかなければなりません。ここにこの学年の抱えている問題が見えてきます。子どもたちが孤立した友だちにかかわり合おうとしないのです。子どもが悪いのではないのです。子ども同士をつなぐような動きを教師がきちんとできていないのです。そのため、学級に居場所のない子どもができてしまうのです。 見学者のところに行った子どもは、友だちのやっている様子を見ています。グループの代表が次の振り付けを教えてもらっているところも後ろから見ています。本当はみんなと一緒に踊りたいのです。その様子を見ていると辛いものがありました。 見学者の扱いも気になります。何も指示されずにただ座っているだけです。グループの代表が振り付けを教わっている間、残った子どもたちで練習をします。CDを操作するといったことでもいいので役割を与えて、仲間とかかわらせたいところです。 振り付けを全体ではなくグループから2人ずつ代表を集めて教え、彼らをグループの教師役にします。効率はかえって悪いのですが子ども同士のかかわり合いをつくろうという考えです。振り付けのパートごとに代表を交代してすべての子どもに教師役を経験させます。よい発想だと思いますが、代表の子どもはなかなかうまく教えられません。2人の役割を決めるなど、教え方を指導することが必要かもしれません。最初の段階で、上手く教えられたグループを紹介して、教え方を共有する方法もあります。授業者が指導せずにただやらせる場面が目立ちます。 代表を集めて教える時も、残った子どもに対する指示だけして、すぐに隅で教え始めます。残った子どもたちはすぐには動きません。それでも、音楽が鳴ると練習を始めます。しかし、何を意識して活動するのか指示がないので、ただやっているだけです。子どもたちを見ていると雑にやっている者も目立ちます。練習中にかえって下手になるグループもありました。ここは、指導者がいないので、グループで向かい合って動きを確認するといった、子ども同士が互いにかかわりあう活動をさせる必要があります。また、子どもたちが動き出すまできちんと見守って、それから代表の指導に入るべきでしょう。 授業全体として、活動することばかりで子どもが振り返ったり、評価したりする場面が全くありません。子どもは音楽に合わせて体を動かして楽しいようですが、それではこの授業の成果としては不十分です。目標としている「リズムよく」を達成することが意識されていません。また、グループでやるということは、個人では味わえない楽しさを感じさせる必要があります。動きがそろった時の楽しさは、グループでなければ味わえないものです。そのこともあまり考えられていませんでした。しっかりと練習ができているグループ、上手いグループ、上手くなった子どもに脚光を浴びさせることも必要です。 授業を構成する大切な要素がこぼれ落ちていました。今回はダンスという危険の少ない単元でしたが、子どもたちをきちんと把握しコントロールすることを意識しないと、種目によっては大きな事故が起きる可能性を否定できません。このことは、体育の教師として、経験が少ないからといって許されることではありません。とにかく子どもを見ること、見守ることを意識してほしいと思います。 この日は要請訪問で体育の教科指導員の方が助言をしてくださいました。さすがに専門家です。目標設定や伝え方、考える場面の設定など、体育の授業での大切なポイントを的確に指導されました。体育の専門でない私にとって、とても参考になる資料もいただくことができました。よい学びをさせていただきました。ありがとうございました。 子どもを評価する必要性を感じる
一昨日は、中学校で授業アドバイスと体育の授業研究への参加でした。前回訪問から冬休みをはさんで2か月以上経っています。子どもたちの変化が気になります。この日は、2年生と1年生を中心に授業を見せていただきました。
2年生は教科による差があるのですが、全体的に授業に対する参加意欲が低いように感じました。話は聞いているし与えられた課題には取り組むのですが、集中力がないように感じるのです。 英語の授業ではフラッシュカードを使った発音の練習で、顔が上がらない子どもが目立ちました。顔を上げない子どもも口は動いています。まわりに合わせてなんとなく声を出しているようなのです。ところが、後半課題を前で先生にチェックしてもらう場面ではとても意欲的になっていました。ペアで相談している姿も見えます。合格という評価があるので意欲的なっているのです。また、数学は少人数で行っているのですが、どの教室も集中度が高いように見えました。わかりたいという気持ちを感じます。わかった、できたという手ごたえを感じやすい教科ですので、意欲を持てるのかもしれません。 子どもたちは手ごたえをほしがっているように思えます。自信を持たせることが必要だと感じました。授業を含め様々な場面で子どもたちをポジティブに評価してほしいのです。そのためには意図的に評価する場面をつくることが必要になります。ちょっとしたことでよいのです。子どもたちが自己有用感を感じるような活動を学年経営や学級経営、授業の中に組み込んでほしいと思います。 また、3学期になって進路指導に力を入れているそうです。進路指導はともすると進学指導になりがちです。うっかりすると、今頑張らないと希望の学校へは入れないぞという脅しになってしまいます。子どもたちは、自分は進学で失敗するのではないかと不安になり、かえって勉強への意欲が低下することがあります。そうではなく、まず15年先の将来を考えることが必要です。社会に出て自分はどんなことに頑張っているのだろうかと想像するのです。まだ中学生で具体的なイメージは湧かないかもしれません。しかし、「今自分がやるべきことをきっと一生懸命にやっているにちがいない」、そう考えさせるのです。そうすれば、今やるべきことをきちんとやることが将来につながるはずだと前向きな気持ちにさせることができると思います。子どもたちに暗い将来でなく、明るい未来に目を向けさせるのです。実際にどのような指導を先生方がしたのかわかりませんが、このようなことを意識してほしいと思います。 1年生は、授業によく集中しているようでした。社会科の調べ学習でもノートにぎっしりと書き出しています。ただ、以前と比べると全体的に授業に向かうエネルギーがやや低下しているように感じます。授業を見ているとほめる場面が減っているように思います。できて当たり前のことはもうほめないというのは間違いではありません。そのかわりに次は何ができたらほめるのかを明確にすることが必要です。子どもたちがよい状態なので、先生方はもっと高いところを目指しているのだと思います。その結果、子どもたちは高い要求をまだ達成できていないのでほめられていないのでしょう。ここは苦しいところなのですが、スモールステップを意識して、わずかな向上を見逃さずにほめるようにしてほしいと思います。 1年生の社会科の歴史の授業では、いろいろなことを考えさせられました。 授業の初めに年号の小テストを行います。語呂合わせの覚え方も教えますし、その出来事の簡単な復習もします。そのこと自体は決して悪いことではないのですが、なぜその年号を覚える必要があるのか、歴史的な意味をきちんと子どもたちに伝えてほしいと思いました。 続いて、ディスプレイに職人の絵を写して、「職業は何?」と聞きます。教科書を調べようとした子どもに「見ちゃダメ」と言います。この職業が何かを考えることにあまり意味はありません。単に知識です。授業者としても子どもに興味を持たせたいだけですので、ここに多くの時間を使う必要はありません。用意した絵を見せて質問し、わからなければすぐに教えて次にいけばいいのです。最後に、「これらの職業の共通点は?」と聞けば、これまでの学習から室町時代に生まれたという答が出てくるはずです。その上で、なぜでこの時代だったのかと問いかければいいのです。クイズを授業に活かすには3つの視点があると思っています。「既存の知識の復習」「興味づけ」「考えるきっかけ・視点を与える」です(クイズの有効な使い方参照)。この場面は「興味づけ」ですので、正解や考える時間を与える意味はあまりないので、テンポよく進めたいところです。 子どもたちに、農業、商業、村の視点で室町時代に何が起こったかを調べさせます。子どもたちは、集中して作業を行います。たくさんのことを書き出しています。それぞれについて、順番に子どもを指名して答えさせます。板書はしません。そのため、子どもたちは友だちの発表をしっかりと聞いて、じぶんの書き出したものと比べています。しかし、発表者に対する評価がありません。しっかり聞いている子どもたちとつなぐこともしていません。ちょっともったいないと思いました。同じことを書き出した子どもを挙手で確認するだけでも子ども同士がつながっていくと思います。また、全員を立たせて、書き出した数が少ない子どもから一つずつ発表させて、発表するものが無くなったら着席するといったやり方もよいかもしれません。 全員発表してから、まとめをします。先生がまとめてしまうのかと思ったら、子どもたちに言わせて板書します。子どもを上手く参加させています。ただ、声を出す子どもが少ないのが少し気になりました。途中で指名を混ぜてもよかったかもしれません。子どもたちは板書写すのではなく、自分のノートと照らし合わせています。その項目に線を引いている子どももいます。板書は確認の場であって、大切なことは自分の手でノートに書かれています。子どもたちの自己有用感を高めるよい進め方だと思います。 しかし、社会科の授業として考えると、ちょっと疑問を感じます。「二毛作」「堆肥」「馬借」「惣」といった用語が並ぶだけになっています。これらのことがつながらずに終わってしまいました。できれば、ここまでの時間を短くして、これらの因果関係を考える時間を取りたいところです。これらの間に因果関係をつけるような活動です。そうすると、第一次産業の発達が第二次産業の発達につながることや、第二次産業の発達が結果的に第一次産業のさらなる発達につながるという相互依存の関係が見えてきます。室町時代に商業経済が発達したことの理由もはっきりと子どもが理解できるのではないかと思います。これは一つの例ですが、この時代から子どもたちに何を学ばせたいのか、そのためにどのような活動をさせたいのかを考えることが大切に思います。このようなことをアドバイスさせていただきました。 授業者はとても素直に話を聞いてくれます。この学校に異動して1年目ですが、授業は目に見えて進歩しています。この素直さが原動力だと思います。次回授業を見せていただくことがとても楽しみです。 この日は、1人で授業を見る予定でしたが、私を見つけて空き時間に一緒に回ってくれた若手が2人いました。この2人に共通していたのが、廊下から教室を覗いてすぐに子どもたちの集中の度合いや、気になる子どもの姿に気づけることでした。簡単なことのようですが、意外と気づけない方が多いのです。彼らが日ごろ自分の授業で子どもたちをよく見ていることがわかります。こんなところからも成長を見ることができます。とてもうれしいことです。 体育の授業研究については明日の日記で。 学校運営の改善について学ぶ
先日、平成26年度「学校の総合マネジメント力の強化に関する調査研究」中間成果報告会に参加しました。この日は、慶應義塾大学SFC研究所の木幡敬史先生からの「コモンズ型学校評価支援ツールの開発による組織的な学校運営改善支援に関する実証的研究」についての報告でした。
何年も続いている研究なので、確実に深化しているのを感じます。具体的には、子どもの学び・学校生活状況についての分析の手法と子ども・家庭およびコミュニティスクールの情報共有プロセスに関する調査研究と、学習支援を指向した学力のデータの時系列分析に関する調査研究、これらの普及のための条件等の調査でした。 学校での分析の結果を見て驚くようなことはあまりありません。大切なのは、私たちの感覚ではなく具体的なデータでそれを客観的に示せることです。ただアンケートを取って集計しただけでは、学校の状況は改善されません。その結果をもとに次のアクションプランをつくるまでの手法を明確にしたことにその価値があります。 しかし、具体的なアクションプランなどは私の目には学校、子ども、家庭、地域それぞれがやることがあまりに多く書き出されていて、実際にそれらすべてが実行可能か疑わしく感じます。たくさんの課題が出た時に、それを一度に解決することは難しいことです。因果関係の仮説を立て、まずどこから手をつけるのかを考えることが必要です。発表者に質問したところ、重点化して絞り込むという作業を勧めてもなかなかそこには行き着かないということでした。強いリーダーシップを持つ方がいなければ、焦点化することは難しいのかもしれません。 こういった手法が広がっていくためには、課題に対する対処の具体的な方法が明確になっていることが必要です。課題があぶりだされるばかりで、その解決策がわからずに改善されることがなければ、課題の指摘はかえって学校を苦しめるだけになります。今回の例でできた課題は、どの学校でも指摘される可能性のあるもので、世の中にはたくさんの成功例があると思います。どれがその学校に適するのかは別として、参考となる具体例のデータベースも合わせて整備することが必要になってくると思います。是非、そういったことも今後視野に入れてほしいと思います。 学力のデータの時系列分析については、ある課題テストの合格者と不合格者のその後の成績の変化を時系列で追ったものが示されました。ここでも感じたのは、その結果を見て次にどのような対策を取るかです。こういったツールや手法で浮かび上がった課題をどのようにとらえてどう改善していくのかは、学校現場の解決力が問われるところです。こういった研究が進めば進むほど、学校の力がより問われることになると感じました。 現場の改善について、まず必要なことはその課題の共有です。私自身そのことで苦労することもあります。こういったツールや手法が広がることで、改善への第一歩が踏み出しやすくなることを期待します。よい学びをさせていただきました。このような機会をいただけたことを感謝します。 研究会で刺激を受ける
先週末は、愛される学校づくり研究会でした。
前半はあと一月余りと迫った「愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪」の最終打ち合わせでした。細部にわたり事務局が案を作ってくれていたので、比較的スムーズに確認作業が進みます。私の出番は午後の部「楽しく、手軽に授業改善をしよう」ですが、細かい部分は実際に授業を見て、参加者と一緒に検討をしていく過程で決まってきます。大まかな流れと、コーディネーターの役割を確認して終わりました。当日の授業者は準備万端整っている方も入れば、まだこれから細部の詰めを行う状況の方もいます。だからどうというわけではありません。何れにしても授業検討する価値のあるものになることは間違いないはずです。参加者と一緒に大いに学ぶことが期待できると思います。 フォーラムはまだ席があるようです(申し込みはこちら)。予定のつく方は。是非参加を検討ください。 この日の後半は、会員の大学の先生のお話でした。日本の学校でのICT活用の在り方について、北欧との比較を元にその問題点を示されました。現時点では詳しい内容は書けないのですが、この先日本において学校でICTをどのように活かしていくべきかについて、参加者が真剣に考える時間となりました。ここでの話し合いの内容を是非フォーラムのような場でお伝えすべきだと思いました。私個人としてもその場でたくさん発言させていただきましたが、まだまだ思うところはあります。研究会で次年度以降のテーマとしようという提案もされました。実に刺激的な研究が始まりそうな予感がします。研究会のメンバーに火を点ける、とても素晴らしいお話でした。この研究会の会員であることの幸せを感じた日でした。 私立の中高等学校の将来への対策を考える
先週は私立の中高等学校におじゃましました。全体的には落ち着いた状況が維持されていました。1年生では英語を中心にグループ活動など、子どもの主体的な活動場面が多く見られるようになってきました。
グループ活動を取り入れるようになった若手の国語教師と一緒に教室を参加しましたが、子どもたちの集中度や雰囲気を即座に読み取るようになっていました。日ごろ自分の授業で子どもたちをしっかり見ていることがわかります。言葉の端々に自信が出てきているのも感じます。いろいろなことを意識して取り組み、手ごたえを感じているからでしょう。驕ることなく、工夫を続けてほしいと思います。 英語科の先生からいくつか相談を受けました。習熟度別上位層にTOEICの問題を挑戦させたが手がつかず、中には寝てしまう子どもも出てきたというのです。子どもたちはほとんどの単語の意味もわからない状態ということでした。子どもたちはできるようになりたい、わかりたいと思っているのです。それでも寝てしまうのは、解決の糸口を全く見つけられなかったからなのです。そこで、子どもたちが自力でこの問題を解決するために必要なことを整理する必要があることを伝えました。「問題の”situation”を理解できる」「キーとなる単語の意味をわかっている」といったステップを考えるのです。そして、それは自力で考えるのか、与えてしまうのかという判断も必要です。経験の浅いうちは、こちらである程度与えて「何とかやれそうだと」という見通しを持たせてやることも必要です。このアドバイスを受けて、さっそくその日の別の学級での授業を修正していました。この動きの軽やかさが素晴らしいです。”situation”、キーワードの手がかかりを与えたところ、子どもたちはしっかりと問題に食らいついていました。その前の学級と比べると取り組めた問題数は大きく減ってしまったようですが、子どもたちの集中度は違っていたようです。授業後話を聞いたところ、事前に子どもたちの目線で問題を解くことを考えることの大切さを感じてくれていました。教材研究の大切さを再認識してくれたようです。 他の英語の先生は、Q&Aでその解説をていねいにしていました。この問に答えるためには、質問文に対する答え方と質問の内容に対する本文の読解の両面が必要でした。解説の前に子どもたちがどちらでつまずいているのかを明確にすることが必要です。”when”や”why”に対する答え方は、事前に簡単なQ&Aで練習をしておけば思い出せるはずです。その上で取り組めば、つまずきの原因は本文の読み取りになります。子どもが理解し、できるようになるために何が必要なのか、そのスッテプを教師が理解していなければなりません。また、できなかったところを教師が完璧に説明するのではなく、子どもができるようになるために、どのような活動をさせればよいのか考えてほしいことを伝えました。授業者も頭では十分わかっているつもりでした。それでも、ついつい自分が説明してしまうものなのです。そのことに気づいて素直に改善しようとする姿をとてもうれしく思います。 また、英語の文法を意識することよりも、言葉の構造、語順を感覚的に見につけることをしてほしいことをお願いしました。主語、動詞という文法用語で理解するのではなく、こういった言葉はこの位置にくるといった語順を、ジェスチャーやピクチャーカードなどを利用して身につけさせるのです。 この日は大学入試改革を含めた学力観、授業観の変化にどう対応するかということを関連の部の方々とお話しさせていただきました。基礎学力テストが実施されれば今まで差がないように見えていた中下位の集団の差がはっきりと見えるようになることが予想されます。新たなランク付けがなされる可能性が高いのです。プレテストを見てから対応しても、それはどこの学校も同様ですからその時点での差を埋めることは難しくなります。私立の学校としては今から対策を立てることがチャンスにつながります。問題は具体的にどのような対策を立てるかです。まずは、高等学校の授業で求められる中学までの基礎基本をできるだけ早い時期に100%にすることだと私は思っています。その上で、高等学校の基礎基本を確実に積み上げるのです。具体的にどのようにしてこれを実現するのか、年度内に決定していただくことをお願いしました。 どの組織でも前向きな方ばかりではありません。だからこそ、学校全体の総意としてこの方向に進むことが必要になるのです。この学校の将来がどのようなものになるのか、その分岐点が今だと思います。 子どもの脳機能と学級での生活との面白い関係
子どもの脳機能の発達を調べ、訓練するソフトの活用研究のお手伝いをしています。先日、学校生活意欲と学級満足度を測る検査とこのソフトのスコアとの相関関係についての報告を受けました。子どもたちの抑制力と安定して学級生活が送れているかの間になんらかの相関関係がありそうだということです。これに限らず、脳機能と学級での子どもの立ち位置との間にはいろいろな関係がありそうです。
学級での人間関係と子どもたちの脳機能の間に相関関係があることが今一つピンと来ないのですが、言われてみればそのようなことがあっても不思議はありません。どのような因果関係があるのかは今の時点で全くわからないのですが、いろいろと調べてみる価値はありそうです。こういったテストや検査などの客観性のある情報からも想像以上に多くのものが得られそうであることがわかりました。 日ごろは自分の目で見た子どものたちの様子から、学級の状況や授業を分析しています。よくも悪くも自分の目に頼って授業アドバイスをしていますが、それだけでなく客観性のある情報を積極的に活用することも必要だと思いました。個人情報の問題もあり、そういったものを見せていただくことは難しいのですが、観察したことと合わせて、検査にこういった傾向が見てとれるのであれば、こうするとよいといったアドバイスは可能だと思います。子どもたちの授業での様子とこういった検査の関係を今まで以上に意識して授業アドバイスをしていきたいと思います。 法的リスクマネジメントを考える
介護関係者向けの研修の打ち合わせを行いました。テーマは「法的リスクマネジメント」です。介護の現場では、いろいろなリスクがあります。何か事故があれば、その責任を必ず問われます。賠償問題などが起こったときには過失の有無や、予防措置を取っていたかなどが法廷で争われることもあります。私が担当しているこの研修も、事故の予防措置の一環として法的なリスクを回避するという側面もあります。訴えられた時に、会社としてきちんと研修を通じて事故の予防措置をしていると主張できるからです。しかし、見方を変えれば事故の責任を利用者や従業員にあるとするということにもなります。そうではなく、利用者も従業員も会社も、関係者すべてのリスクを軽減するものにする必要があります。
学校で起こる法的リスクの問題も同様だと思います。例えばテストの採点のために自宅に答案を持って帰ることを考えてみましょう。最近では校長の許可を得ないと持ち帰れないとする学校がほとんどだと思います。忙しい先生方に答案を持ち帰るなと言うことは現実的でないことはよくわかっているはずです。それなのに面倒な手続き取らせるのは、現実を無視した、管理的な発想にも見えます。しかし、決してそうではないのです。わざわざ答案を持ち帰る許可を取ったとすれば、そのこと意識していますので、帰りに寄り道をするといったことはしないと思います。時々新聞紙上で目にする、パチンコをしていて盗まれたといった問題は起きにくくなるはずです。また、ルールを守っていて紛失等の事故があったとしても、然るべき手続きを踏んでいたのですから組織のルールの問題となります。結果として個人を守ることになります。それに対して明確なルールがなく、個人の判断で持ち帰って事故が起こった場合、その責任がより大きくなると考えられます。面倒でもこういった手続きをルール化するのは、事故防止と事故が起こった場合の個人の責任を軽減するという効果があるのです。 法的リスクマネジメントを考えるにあたって、誰かの責任を回避するという発想ではなく、関係者全員にとってのリスクを軽減させるような仕組みを考えることが大切です。このことを改めて考えさせられました。 学び続けるエネルギーをもらう
先日友人たちと会食しました。参加した同級生たちは、この3月までに60歳になって一旦会社を退職し、引き続き同じ職に就くか関連会社で同様の仕事をするようです。活躍できる場を持っていることもあるのでしょう、みな元気でエネルギーに溢れていました。
一人の友人は、「これからは今まで蓄えてきたもので勝負する」と言っていました。その分野では著名なエンジニアで、教科書も執筆しています。第一線のエンジニアとして蓄えたノウハウに自信を持っていることが伝わってきます。また、別の友人はいつまで仕事を続けていけるかは、「時代にマッチアップできているかどうかで決まる」と言っていました。マスコミの仕事をしていて、雑誌などにも署名記事を書いています。依頼に対応できる発信力を保てるかが勝負というわけです。 私たちの年代になると今まで蓄えたものがベースになることは間違いありません。しかし、それだけではすぐに時代に取り残されてしまいます。その厳しさを知っているからこそ、エンジニアの友人は、今まで蓄えた最先端の技術、ノウハウで「勝負」するといったのでしょう。エンジニアの友人も、ジャーナリストの友人も、これからも学び続けていくことは間違いないでしょう。自分たちが時代に追いつかれるまでは走り続けるのだと思います。彼らが引退するまではまだ時間がありそうです。 教育の世界はどうでしょうか?社会の変化の影響は確実に学校にも押し寄せています。今までの授業のパラダイムは明らかに変わろうとしています。しかし、残念ながら今までの授業感に囚われて変わろうとしない方も目にします。その一方で、定年後再任用になってもセミナーなどで学び続けている方もたくさん目にします。ベースとなるものがしっかりとあるからこそ、新しいことに対応することができるのだと思います。学ぶ意欲(と体力・気力)があれば、ベテランの方がより高いところにいけるのかもしれません。 私はと振り返ってみると、教師として大した蓄積があるわけではありません。今も昔も多くの先生方や子どもたちから学び続けるしかありません。それはこれからも変わらないでしょう。学び続ける力を無くした時が引退する時だと思っています。 節目の年を迎えましたが、本当の節目はまだ少し先のようです。学び続けるエネルギーを友人たちからもらいました。 秋田喜代美先生から学ぶ
今年最初の教師力アップセミナーは東京大学大学院教育研究科教授の秋田喜代美先生の「子どもがつながる授業、質の高い学びのある授業をめざして」という講演でした。秋田先生のお話は、自分の考えや理論を強く主張するというよりも、自分の研究や学校現場で学ばれたことを私たちと共有し一緒に考えようというスタンスでした。とても納得性の高い、学びの多いものでした。
教育の質と関連して、子どもたちが大人になっときに必要な力を考えなければならないというお話をされました。全くその通りです。秋田先生が例に挙げられた、15年後に社会で必要とされる力を考えることはそれほどたやすいことではありません。教育に携わるものは、社会の流れや変化をしっかりと観察しその先を見通すことが必要ということです。ともすると、目先のことに追われてそのことを忘れてしまいます。心しなければと思いました。ここで、協調的な問題解決のテストが開発されたことが紹介されました。こういう力が求められてきているということでしょう。テスト対策をするのではなく、本質的にどうすれば私たちが願う力を子どもたちにつけるのかを考えることが求められると思います。 教育の質を2つの次元で説明されました。1つは「安心・居場所感でつながっている」、もう1つは「文化的価値ある対象に夢中になれる」です。前者は、私の授業アドバイスの基本となっていることです。しかし、後者については、そのためのアドバイスがなかなかできていないことが実態です。改めてこのことをきちんと伝えていかなければと思いました。 また、教師が選択肢をたくさん持つことが大切であるということも話されました。教師の理屈ではなく子どもの側の視点に立って授業を進めてほしいというメッセージだと受け止めました。子どもの状況に応じた対応をするためには、選択肢が必要となるからです。 授業の質を深める手立てとして3つのステップを示されました。 1 誰でも参加し良さを認め合う 子どもたちが考えたことが見えないとコミュニケーションが成り立ちません。子どもたちのつぶやきを拾い、広げていくことが大切になります。 2 学びを深め創り出す 内容が拡散して薄いと語ることが少なくなります。意見の違いを焦点化して、根拠や理由を考え深めることが大切になります。 3 思考や理解を吟味する 学びを確かなものにするためには、授業をやりっぱなしで終わるのではなく、子どもの言葉で学んだことや今後の見通しをまとめることが必要になります。 私としてはこの3つのことの大切さはよく理解しているつもりですが、こうしてお話を聞くと3つ目の「思考や理解を吟味する」ことをきちんとアドバイスの折に伝えきれていないように思いました。もっと意識しなければと改めて反省です。 授業では「待つ」と「聴く」が大切だということと合わせて、人と一緒に考え、自分たちの持っているものをベースに考えると、「自分たちの力でやり遂げた」という言葉が出てくるということが話されました。「私がやった」「自分でできた」という言葉を、私はずっと大切にしています。秋田先生から同じような言葉が紹介されたことをとてもうれしく思いました。 「教師の指示でする形式的な拍手ではなく、子どもたちから『自然』にでるものを大切にしたい」、「あらかじめ準備した明確に発せられる『プレゼンテーションの言葉』ではなく、その場で考えながら小さく、ゆっくりと発せられる言葉を聞き取ることを大切にしたい」という話には、大きくうなずきました。子どもたちがつながるために大切なことだと思います。 面白かったのは、ある公開授業のビデオを見て何人かの方に感想を聞いた場面でした。全く同じものを見ても、見る視点が全く違っていたのです。休息時間に知り合いの方の意見も聞きましたが、その方の授業観をよくわかるものでした。授業を見て感じることにその人の授業観が反映するのです。だからこそ、授業研究が大切だと改めて思いました。どの考えが正解か議論するのではなく、互いの授業観にふれあい学び合うことがよりよい授業をつくっていくためには必要なことだと思います。 学び合いを支える道具立てについても面白い話を聞くことができました。「個々の学びや立場を可視化するツール」「つなぐためのツール」「吟味のためのツール」と分類した上で、ホワイトボードや付箋紙を使った例を紹介されました。互いの考えを吟味して深めるためには、ただ話し合うだけではうまくいきません。道具の使い方もこのように分類して視点をはっきりするとより有効に活用できると思います。 秋田先生は教師の創意工夫が必要であることをいろいろな場面で強調されます。最近の教育関係の講演では、こうすればうまくいく、こうすればよいというノウハウ的な話が多くなっているように思います。教師に創意工夫を求める秋田先生の姿勢は、先生方の力を信じていることの裏返しだと思います。秋田先生の学校現場を見る目の温かさを感じました。 今回のセミナーの司会進行を務めた若手の教師は、事前に秋田先生の著書を読んで勉強したそうです。しかし、一度読んだだけでは難しくてよく理解できなかったようです。しかし、今回のお話しはとてもよくわかったそうです。もう一度読めばきっとよく理解できそうだとうれしそうに話していました。本から学ぶことも大切ですが、直接お話を聞くことでより一層理解が進むこともあります。教師力アップセミナーのねらっているところの一つです。 スタッフも含め、参加者にとって学びの多い講演でした。秋田先生本当にありがとうございました。 子どもから学ぶ
若い先生方に「子どもから学びましょう」とアドバイスすることがあります。その時に教師になったばかりのことをよく思いだします。当時、自分としては一生懸命に教えているつもりでも、子どもたちの成績はあまり伸びず、その原因を「これまでの学習が定着していないから」「きちんと家庭で復習していないから」と自分以外に求めてしまいました。しかし、本当にそうであれば、これまでの学習を定着させる活動や家庭学習をするように仕向けることをする必要があります。責任回避をするだけで、そのための行動を起こしませんでした。ある単元で子どもたちの成績が悪いと「この単元は、子どもたちは苦手なんだ」と子どもたちのせいにして諦めたこともありました。
しかし、先輩が、具体的にここがわかっていないからと、そのための問題練習をさせているのを知って、自分が子どものつまずきを本当にはわかっていないことに気づいたのです。 「なぜこの単元は苦手なんだろう?」「どこでつまずいているのだろうか?」と本当の原因を見つけてその具体的な解決策を考える必要があったのです。そのためには、問題ができたできなかったという結果ではなく、その過程をしっかりと見ることが必要です。 このことに気づいてから、机間指導ではどこでつまずいているかを意識して見るようにしました。また添削問題を自作しました。問題の内容や順番を工夫して、例え白紙に近い解答の問題があっても、その他の問題の正誤でつまずきの原因が見えるようにしたのです。添削の時に簡単なアドバイスを書き込んでからやり直させることで、どのようなアドバイスが効果的かも知ることができました。こうしたことを積み重ねて、子どもがどこでつまずくのか、それを解消するためにどのようにすればいいのかを知ることができました。 子どもたちは添削問題に真剣に取り組めばわかるようになることに気づくと、積極的に取り組むようになりました。わかるようになると授業の集中度も変わってきます。子どもの問題ではなく、私の問題だったのです。子どもたちのわからない、できないという事実を素直に認めて、そこから学ぶことをして初めて授業が改善されたのです。私を成長させてくれたのは間違いなく子どもたちでした。 子どもたちから学ぶということが言われます。それは、子どもを見て、単に何ができた、何ができないという事実を知ることではありません。その事実から子どもの目線でその原因を考えることが必要です。また、その原因や対策を知るために、意図的な働きかけも必要になります。子どもから学ぶということは受け身ではありません。積極的に働きかけ、それに対して子どもがどう反応し変化したかを知ることで初めて学ぶことができるのです。このことを意識してほしいと思います。 子どもたちの安心感
授業を考える時のキーワードの一つに「子どもたちの安心感」があります。この安心感について少し考えてみたいと思います。
子どもたちは、授業に安心して参加できることを望んでいます。不安な状態でいることは、子どもでなくても苦しいものです。では、安心感を持たせるためにはどのようなことに注意すればいいのでしょうか。 一つは、授業のゴールを明確にすることです。今からどこに行くかわからないのにただついてきなさいと言われれば、大人でも不安になります。行先は常に明確にすることが大切です。授業のめあてや、それを達成するためにどういう順番でどのようなことをやるのかステップを明確にすることが必要です。わかりやすく黒板の横に書いておくのも一つの方法です。それにもとづいて、今どこのことをやっているかを子どもにきちんと伝えておけば、授業の見通しと自分の位置がわかるので安心して授業を受けることができるのです。 子どもが恥をかく心配がないということも安心して授業に参加するために大切なことです。間違ってもバカにされない、何を言っても大丈夫という雰囲気をつくることを意識しなければいけません。例え間違った答でも笑顔で「なるほど」と受け止めることが大切です。同様に、まわりに認められることも大切です。「今の意見、なるほどと思った人?」「納得した人?」と友だちに認められる場面をつくったり、「同じ考えの人?」と子ども同士をつないで関係をつくったりすることが求められます。ペアやグループの活動で互いに認め合う場面をつくることも有効な方法です。子ども同士だけではありません。教師が子どもをほめて認めることもとても大切です。学級に子どもたちの居場所をつくることが求められるのです。 忘れてならないのは、子どもが授業の内容をわかることです。学習内容を理解できなければ、自信を失くし不安になるのは当然です。わかる授業を心がけるのは、安心感を持たせるという視点でも大切なことなのです。課題に取り組む時などは、どうしても差が出てきます。わかった子ども、できた子どもを中心に答を聞くのではなく、わからなかった子どもに寄り添うことが大切です。そのために意識してほしいのがスモールステップです。一気に答を求めさせるのではなく、細かく分けることで一つひとつのハードルを低くするのです。こうすることでハードルをクリアさせやすくできますし、例え自力でクリアできなくても次で挽回する機会を与えることができます。達成感を持たせやすくできるのです。 「子どもたちの安心感」をキーワードにして、ここに挙げた3つのポイント「授業に見通しを持つ」「学級に居場所がある」「授業の内容がわかる」を大切にすることで、どの子どもも安心して参加できる授業をつくることができると思います。ぜひ、このことを意識してほしいと思います。 新年早々、よい出会いがある
昨日、ある先生とお会いし相談を受けました。その方が大学院生時代に研究会で何度かお会いした方です。学校が地域や民間の力をもっと活かすことができるのではないかと考えられていて、情報を求められてのことでした。この仕事を続けていると、学生時代のことを知っている先生とたまたま出会うことがあります。成長した姿を見せていただけることは本当にうれしいことです。今回は、わざわざ連絡を取って会いに来て下さったのですが、さすがにこのようなことは稀です。ちょっと驚きました。
市町で状況は違うのですが、その方の勤務先の学校ではなかなか外部の力を学校に活かすことが難しいようでした。部活動の指導を外部に委託するといったことを提案しても、事故があった時の責任が取れないといったマイナス面ばかりが指摘されるようです。こういったことは学校独自で判断することはなかなか難しいと思います。行政がある程度方向性を示すか、校長会から提案するといった方法を取らないとなかなか実現できません。まだ立場的にも若手の域を出ていない教員の力で動かすことは難しいことです。だから私に相談してくれたのだと思います。残念ながら私は直接の答は持ち合わせていません。他の市町でどのような取り組みがあるのかをお教えするくらいしかできませんでした。 多くの場合、学校と外部のあり方について考えるのは管理職やミドルリーダーです。今回のように若い先生がそのことに関心を持つことは滅多にありません。ちょっと驚きました。話をいろいろと聞いていると、子どもたちだけでなく、企業や一般の方に対する教育にも興味があるようで、そのための勉強もしているそうです。視点が違っていたのは、そういったことが影響しているのでしょう。この先どのようにキャリアアップしていくかということを考えているので、教師を辞めて別の世界に入っていった私の経験も聞きたかったようです。これからどのような教師に成長していくのか、それとも別の世界に飛び込むのかはわかりませんが、前向きに自分の世界を切り開こうとしていることはよくわかりました。 自分のキャリアの着地点をそろそろ考えなければいけない年齢になった私ですが、この方に刺激を受けて、まだもう少しいろいろなことにチャレンジしてみたいと思ってしまいました。新年早々よい出会いがあったことに感謝です。 小学校の外国語活動の今後を考える
小学校の外国語活動は、「音声を中心に外国語に慣れ親しませる活動を通じて、言語や文化について体験的に理解を深めるとともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成し、コミュニケーション能力の素地を養うことを目標として様々な活動を行う」ことになっています。「慣れ親しむ」「言語や文化の体験的理解」「コミュニケーション」がキーワードです。英語の力をつけることが目標とはなっていません。英語が専門でない小学校の先生方が教えることを考えれば妥当なことだとは思います。その一方で、実践的な英語力を子どもたちにつけるということが盛んに言われています。外国語活動の時間を下の学年でも必修化することや、教科化も打ち出されています(文部科学省「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」参照)。
現在行われている外国語活動の授業の多くは、とにかく子どもたちが英語を使ってゲームやアクティビティをすればよいというものです。英語力をつけるという視点で見れば、あまり効果があると思えないものがほとんどです。英語を使うというだけで、子どもたちの精神年齢からすればあまりに幼稚なゲームを行うために、外国語活動の時間をばかばかしく感じる子どもも出てきます。中学校に入った時点で英語嫌いになっている子どもも結構いると聞きます。 これまでの外国語活動の時間は、とりあえず小学校で英語を扱うという既成事実作りだったように思えます。「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を見ると、小学校高学年では、そのねらうところが、将来的に英語力をつけるための基礎を身につけることに変わってきています。授業の担当者も含めて、その内容も大きく変わることになるのでしょう。多くの自治体で、「慣れ親しむ」「言語や文化の体験的理解」「コミュニケーション」を意識した英語活動のカリキュラムを多くのエネルギーをつぎ込んで、独自に作成しました。現場の先生からすると、せっかく外国語活動の授業に慣れたのに、また新しい流れに対応することが求められます。そろそろ、中途半端に現場に任せるのではなく、小中高を通じて一貫した英語教育のカリキュラムを明確に提示することが必要だと思います。 現場の先生方に大きな負担なく、子どもたちに英語力がつくようなカリキュラムが組まれることを願っています。 クイズの有効な使い方
子どもたちはクイズが好きです。ちょっとしたクイズですぐに盛り上がります。しかし、根拠なく無責任に答を想像しているから盛り上がるということも言えそうです。知らなければ答えられないような、単に知識を問うようなクイズは子どもたちが深く考えないことが多いので、授業では多用しない方がよいと考えています。
しかし、すべてのクイズを否定するわけではありません。クイズを効果的に使っている先生もたくさんいらっしゃいます。私が面白いと思う使い方や場面を紹介したいと思います。 既習事項の知識を定着させる場面では、クイズは有効です。既習事項ですから答えられてあたりまえです。子どもたちは積極的に参加してくれます。知識ですので、考える時間は不要です。1問に時間をかけずにテンポよく次々に出題するのがコツです。授業の最初にこのようなクイズをすることでウォーミングアップにもなります。ただし、子どもたちのノリがよいからといってあまり時間をかけてはいけません。あくまでも知識の定着や確認であって、思考しているわけではないからです。 この日学習する事項について、初めにクイズを出すことも授業を活性化するのに有効です。例えば、理科の実験などで、結果を2択か3択のクイズにします。根拠となるものがないので考える時間を与える必要はありません。直感でいいので選ばせるのです。答は実験すればわかるので教えません。子どもたちは選択することで、自分の選んだ答が正解かどうか気になります。当事者意識を持って実験に取り組みます。 また、子どもたちで答を確認することができないようなものはすぐに答を与えて、「えっ、どうして」と疑問を持たせることもよい使い方です。疑問や興味を持つことで、その理由を知ろう、考えようとするので、積極的に授業に参加します。 子どもたちが知らない知識や、根拠もって考えられないようなことは、教えることが基本になります。しかし、それでは子どもたちはただ説明を聞くだけで受け身になってしまいます。例えば、社会科で資料の絵を見て、○○となっている理由を考えさせたいとしましょう。知識が不足していることもあり、子どもからはなかなか意見が出てこないかもしれません。そこで、クイズにするのです。一から考えることは難しくても、選択肢を用意することで、答を吟味することができます。この場合は少し時間を与えて子どもに相談させます。選択肢が糸口になって、子どもなりに根拠を持って考えることができるからです。理由を発表させてもよいでしょう。この後で答を提示すれば、正解をただ受け入れるのではなく、その正解を選んだ根拠も自然に意識されます。積極的に思考するとともに、強く印象付けることができるのです。 クイズは一つ間違えると子どもたちのテンションばかりを上げ、学習への集中を乱すことにもなりかねません。有効な場面や使い方を意識して上手に活かしてほしいと思います。 「楽しく、手軽に授業改善をしよう」第9回公開
「愛される学校づくり研究会」のWEBサイトで、教育コラム「楽しく、手軽に授業改善をしよう」の第9回「愛される学校づくりフォーラム2015 in大阪」の内容と「授業検討ツール」の活用報告が公開されました。
ぜひご一読ください。 年末年始のお休み
明日より1月4日までお休みをいただきます。
日記もお休みをいただき、1月5日(月)より再開いたします。 今年も1年おつきあいをいただき、ありがとうございました。 楽しい忘年会
先日、学校評議員をしている中学校のおやじの会の忘年会に参加させていただきました。
この日もいつものように楽しいお酒でした。自分たちの子育ては終わっても、地域の児童館の運営にかかわったりしている方々です。自然に最近の子どもたちや施設の運営、イベントの話に花が咲きます。口先だけの批評家ではなく、子どもたちと実際に触れ合っている方が感じることですから、説得力が違います。私は地域の視点で子どもたちを見ることがほとんどありません。そんな私では気づけないことをたくさん教えていただけます。 お酒も入っているので、議論になったりもします。それがまた楽しいのです。意見がぶつかっても、お互いに子どもたちのことを第一に考えていますので、その一点で必ず認め合えます。何の利害関係もなく、地域の大人として子どもたちに何ができるか、その思いでつながっているのです。認め合えている方々だから、忌憚のないことが言い合えるのです。とても素敵なことです。 私にとって、たくさんのことが学べる場です。しかし、それよりも何よりも、皆さんと一緒にお酒を飲み、お話しできることが楽しいのです。このような会に毎回お誘いいただけることをとてもうれしく思っています。楽しい時間ありがとうございました。また、誘ってくださいね。 青少年健全育成会議に思う
学校評議員をしている中学校区の青少年健全育成会議に参加させていただきました。
青少年センターや各学校からの子どもたちの様子の報告のあと、グループごとに子どもたちのよいところや気になることを話し合います。地区長さんや民生委員、PTA役員、地域コーディネーターなど地区の子どもたちとかかわり合いの深い方が率直に意見交換します。各グループの発表では、毎年のように子どもたちの挨拶ができないことが取り上げられます。家庭のしつけの問題や知らない人と話して犯罪に巻き込まれないように教えられているといったことが理由として挙げられます。これも、毎年同じです。子どもたちと地域の人が挨拶し合える関係、距離になっていないことも一因でしょう。中学校では子どもたちと地域の大人が交流をする行事もいくつか行われていますが、状況を改善するには至っていないようです。 毎回参加して同じような課題が出てくるということは有効な対策がとれていないということです。失礼な言い方かもしれませんが、この会議としてこの課題に対して何とかしようとしているのかが疑われてしまいます。そろそろ、地区として子どもたちが挨拶できるようにするための取り組みを真剣に考えなければいけないということではないでしょうか。子どもたちの登校の時間に合わせて玄関の掃除をして、挨拶をするといった取り組みをしているところもあるそうです。こういったことを考える時が来ているように思います。 毎回子どもたちのことを真剣に考えている地域の方がたくさん参加する会議です。だからこそ、形だけに終わらずに具体的なことを決定できる会議として機能してほしいと思います。 佐藤正寿先生からたくさんの刺激と視点をいただく
先日行われた、三重県教育工学研究会の冬季セミナーの第1部「学力向上に活かすICT活用」に参加してきました。奥州市立常盤小学校副校長の佐藤正寿先生による「学力向上に活かすICT活用模擬授業」と「ICT活用のヒントをさぐる」という講演でした。
「学力向上に活かすICT活用模擬授業」の前半は、まずは拡大して見せることのよさを全員に対しての模擬授業で伝えます。「百聞は一見に如かず」というように、言葉での説明ではわかりにくいこともスクリーンに映して見せればすぐに伝わります。 資料を見て「気づいたこと」という発問がよくありますが、これで答えられる子どもはよくできる子どもだけだと佐藤先生はおっしゃいます。私も同感です。「気づいたこと」では何を答えていいかよくわかりません。こういう時に佐藤先生は「何が見えますか」と答えやすい発問をします。目に入っても意識して見ていないものに目を向けさせる発問です。また、必要に応じて、「どのくらいある?」「どちら側にある?」といった切り返しを行います。ちょっとしたことに思えますが、この切り返しで子どもたちの考えを深めます。何をどのように切り返すかは、授業者がその資料で何をねらっているのかと直結する部分です。授業者の教材研究が見えてくるところです。 社会科では資料で気づいた事実をもとに、解釈することが大切になります。しかし、「解釈しなさい」では、それこそ「気づいたこと」以上に子どもたちとって答えにくい発問になります。「○○がある(のは)、」「○○だから」といった話型を使うことで「事実」を「解釈」することがどういうことかを伝えます。抽象的な用語を教える時に大切な発想です。ICTの活用を例にして、大切なことをさりげなく伝えてくださいます。 佐藤先生はフラッシュ型教材を使ったクイズも上手に利用されます。私はクイズを行うことをあまり勧めません。多くの場合、知らない知識を問うことになるので、考えても答えが出ません。単にテンションが上がるだけになるからです。佐藤先生の場合は、利用シーンが非常に明快です。一つは知識を定着させる復習の場面、もう一つは解釈を考えさせる場面です。前者はその有効性がすぐに理解できると思います。後者は事実に対していくつかの解釈を選択肢として与えるものです。解釈と言ってもなかなか考えることができません。子どもから出てきた解釈は的外れなこともあります。「それって本当?」とゆさぶり、いくつかの選択肢と共にクイズにすることで、手がかりが全くつかめない子どもにも、それなりに根拠を考え(想像)させることができます。また、答を選ぶことで立場が明確になります。正解したかどうかにかかわらず、真剣に聞くことになり知識として印象にも残り、定着します。このようなクイズを行う時に佐藤先生は考える時間をあまり与えません。子どもたちの手持ちの知識から論理的に正解が出るようなものであれば時間をかける意味もありますが、そうでなければ時間のムダです。このあたりは実に明快です。この他にも、簡単なクイズを授業の課題につなげるといった使い方もされますが、いずれにしてもシンプルで時間をかけないことが大切です。その点でICTはとても有効な道具となります。 今回面白いと思った発問に、数を想像する問の答をペアで聞きあわせたあとで「同じくらい?」「違う?」と聞くものがありました。根拠を持って考えることができるものでないので、話し合っても意味がありません。しかし、このように問いかけることで他者とかかわることをより意識するようになります。「同じ」ということで子ども同士がつながったり、「違う」ということでどちらが正しいのかより興味を持って説明を聞こうとしたりするでしょう。単純なクイズでも、ちょっとした工夫でいろいろな効果が期待できます。私なりにクイズの活用方法を整理することができたのは大きな収穫でした。 資料の見せ方で、「隠す」ことも佐藤先生はよくされます。故有田和正先生がよく使われていた手法です。資料の一部隠すことは、ICTでは簡単にできます。忙しい先生方にとってありがたいことです。隠すから知りたくなります。ここで、隠したものを実はこうだったと見せることもできますが、答をその場で教えないという方法もあります。答を知りたいと思った子どもは、自分で調べようとします。身の回りのことであれば、実際に足を運んで調べることでしょう。ただ調べなさいでは意欲はわきませんが、隠すことで子どもたちの意欲を引き出し活動につなげることができます。いつものことですが、佐藤先生のお話はICTをテーマにしても常に授業の本質的な部分を外しません。 続いて、12人の子ども役を相手に壇上で1単位時間の模擬授業です。5年生の社会科「災害の起こりやすい国土」でした。 佐藤先生のいつもの進め方ですが、最初にICTを活用してテンポよく復習し、短時間でウォーミングアップを行います。 津波の写真をもとに、何が見えるかを問いかけて興味づけを行います。子ども役の発言のよさをきちんと評価します。発言の内容だけでなく、発表の仕方もほめています。授業規律が意識されています。 「日本ではどのような自然災害が起きているのか」という課題と、この日のゴール「ノートにまとめること」を最初に提示します。最近よく言われるユニバーサルデザインの視点でも、活動のゴール(目標)を提示することは大切なことです。見通しを持って活動することができます。目標を明確にすることは、評価の基準を明確にすることにもつながります。活動と評価は常にペアで考えることが必要です。 子ども役に自然災害の種類を書き出させ、情報交換させます。ペアやグループの活動では、かかわり合うことがよかったと思えるようなものにすることが大切です。佐藤先生は「数が増えます」とかかわり合うことのよさを言葉にして伝えます。子どもたちによさを明確に意識させることで、積極的にかかわれる姿勢を育てようとしているのでしょう。 子ども役の発表を一つひとつ聞き終ってから板書をします。子どもの発言をしっかりと受け止めることが意識されています。災害に対して子どもの知っている例やその被害を聞き返して、単なる用語からより現実感のある生きた言葉に変えていきます。こういった切り返しも大切です。 全員の考え引き出すために、まだ発表されていないものを書いてある人を起立させて順番に聞いていきます。自分と同じ考えが発表されて座った人をすかさずほめます。授業規律のつくり方の基本も外しません。 災害種類を左右に分けて板書していました。日ごろからこのような板書を心がけていると、子どもたちがどこに書くかを意識して見るようになります。「どっちに書くと思う?」「どっちに書けばいい?」と聞きながら書いてもいいでしょう。「地殻変動」と「気象」に分けていたのですが、この「分類」は社会科では大切な視点です。佐藤先生の授業では、こういった社会科を貫くメタな視点が大切にされています。 続いて、「どこで」「どんな」災害が起きているかを問います。資料の必然性がある問いです。可能であれば子どもたちに地図帳などを使って探させることも大切な活動です。資料は「探す」「読み取る」「(もとにして)考える」という3つのステップが大切ですが、「読み取る」活動しかない授業も多く見ます。佐藤先生は子ども役に探させることをしました。あらかじめ配られていた資料があったというか、それしかないので、あまり意味がある活動ではないのですが、子どもに資料を探させることを参加者にあえて意識させたかったのでしょう。 続いて4人グループで「3つの資料から言えることは何か?」を考えます。何を答えていいかわかりにくい課題です。ここでも、発表の形式を指定することで、思考の方向を明確にしています。「例えば○○、だから○○」という話型使います。そして、発表には白地図を使うように指示します。白地図を使うことで自然に地理的な条件を意識させることができます。視覚化は重要な表現方法であり、広い意味で言語活動の一つだと私は考えています。教科を超えた子どもたちに身につけさせたいスキルです。 グループの発表を必ずポジティブに評価します。発表の内容そのものをほめるのでなく、「指定したキーワードが入っている」「習ったことを使っている」「理科の知識を使った」といったメタな視点で評価していました。この課題だけでなく他の課題でも活用できる再現性のあるものです。こういう評価をすることで、見方・考え方が身についていくと思います。 結論は、「日本はすべての自然災害が起こりやすい。だから防災が大切」というものなのですが、それで終わりません。災害をもたらす日本の国土のプラス面を聞くのです。「火山があるから温泉がある」「雪によって米も育つ」というように別の視点で見ることで子どもたちの視野を広げることができます。佐藤先生が子どもたちにつけたい学力が非常に明確に伝わる模擬授業でした。ICT活用を超えて、多くの学びがありました。 「ICT活用のヒントをさぐる」という講演は、「定義」と「分類」をすることでデータが意味あるものになるというドラッカーの話をベースに、分類という視点でICT活用や授業技術をとらえるものでした。 特に社会科の資料の型を「解説型」「追究型」「視覚型」「整理型」と分類し、それぞれの活用方法の違いを整理した話は大変参考になりました。資料だけでなく、授業のいろいろな予想を私なりの視点で分類してみようという気持ちになりました。とてもよい刺激を受けました。 私にとって実に刺激と学びの多いでセミナーでした。このようなセミナーを参加費無料で行うというのはとても大変なことです。多くのスタッフが手弁当できびきびと働かれていることに感激します。佐藤先生の素晴らしい模擬授業と講演、そしてセミナーを企画しスタッフとして支えられた三重県教育工学研究会の皆さんに心から感謝します。本当にありがとうございました。 |
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