子どもたちの姿が変化していく

先週末は、中学校で授業アドバイスをおこなってきました。ほぼ毎月訪問している学校ですが、短い期間でも子どもたちの姿が変わっていくことが印象的です。

3年生はわかりたい、できるようになりたいという前向きな意識を感じます。しかし、細かく見ていくとその様子は授業によって異なっているのがわかります。
例えば、ある数学の授業では正解が出せた子どもは教師の説明を傍観者然として聞いています。まったく手がでない子どもは、説明を聞いて理解することはあきらめて答を写すことに専念しています。説明を聞くことでわかろうとしている子どもは、写すことよりも聞くことに集中していました。手が出ない子どもやわかろうとしている子どもと、わかっている子どもをつなぐことを意識してほしいと思います。一方、同じ数学でも、全員が説明を聞かずに答を写しているような授業もあります。授業者はほぼ解答をなぞっているだけで、その行間を埋めようとしません。これでは子どもにとって聞く価値はありません。だから子どもたちは答を写すことに専念するのです。この授業に限らず、子どもたちは非常にシビアに状況によって態度を変えています。ここは聞かなければいけないと思うと一気に集中しますが、そうでなければ書くことを優先します。3年生だけではありませんが、答を教える、結論を伝える場面はあっても、子どもたちがわかるようになる場面のない授業が目立ちました。どのような活動を通じて子どもがわかるようになるのか、できるようになるのかを教師が意識できていないのです。例えば、英語のリスニングであれば、一度聞いたあとすぐに答を聞いても、それでは聞き取れるようにはなりません。どのような単語が聞こえたのか、何についての話なのか、子どもたちに聞き取ったことを発表させてからもう一度聞かせれば、そこを足場にして聞きとれるようになっていきます。わかるようになる場面や活動を授業の中に組み込むことを大切にしてほしいと思います。

2年生は、授業に参加することが苦しい子どもが増えてきているように感じました。多くの子どもはちゃんとかかわりあえるのですが、一部の子どもが友だちとかかわれないのです。今までは、各学級に1人か2人でしたが、その数がかなり増えてきているのです。多い学級ではほとんどのグループにそういう子どもがいます。かかわれない子どもは、「どう?」「聞かせてよ」と他の子どもから声をかけられないとなかなかつながることができません。教師が意図的に子ども同士をつなぐような働きかけをする必要があります。どの子どもも参加できる課題やどの子どもも参加しなければ成り立たない活動を意識することも必要です。また、かかわれない子どもは学力的にも厳しいことが常です。その視点からも、先ほど述べた子どもがわかるようになるための活動を授業に組み込むことが求められます。

1年生には大きな変化が見られました。学級としてのまとまりが見られるようになってきたのです。若い先生も指示が全員に徹底されるまでしっかりと見て確認しています。授業規律が確立しつつあります。ただ、指示には従いますが子どもたちの動きはあまり速くありません。一部の遅い子どもを他の子どもが待っている場面が目につきます。待たされる子どもは、これならもっとゆっくり行動すればよいと考えます。待たせた子どもは、待っていてもらえるので、その行動を速くしようとは思いません。叱っても、それ以外の子どもにとっては他人事です。全体を叱れば、自分はきちんとしているのに一部の子どものために叱られたと悪感情を持ちます。教師が意図的に素早い行動を促すような働きかけが必要です。例えば、すぐに指示に従って行動した子どもに対して「○○さん、素早いね」、最後の一人と笑顔で目を合わせてから、「待ってもらえてよかったね」、全体に対して「全員そろったね。みんな待っててくれてありがとう」と、できた子どもをほめ、遅い子どもには友だちが待っていてくれていることを意識させ、次は気をつけようと思わせるようにするといったことが大切です。
また、先生方が子どもたちとの人間関係を意識して発言者の言葉をしっかり受容しようとしていることも感じます。しかし、発言者ばかりに気を取られ、他の子どもたちの様子は見えていません。発言に反応する子どもがいるのですが、気づかないためつなぐことができません。また、発言を受けてすぐに授業者が説明するので、子どもたちは友だちではなく教師の方を見るようになってしまいます。このことにも注意が必要です。

ある先生から、板書するタイミングに悩んでいるという相談を受けました。板書をすると子どもが写そうとして話を聞かなくなるが、板書しないと折角の発言が消えていく。子どもの発言中には板書しないように注意はしているのだが、いつ板書をすればいいのかよくわからないというのです。授業者は発言を聞き終ると板書して次の子どもを指名します。黒板には子どもの意見がただ書かれていくだけでつながっていきません。最終的に授業者がまとめをすることになってしまいます。そうではなく、一つの意見に対して、同じ考えの子どもの意見をつなぎ、深めた上で、「じゃあ今まででた意見をまとめてくれるかな」と子どもの言葉でまとめさせ、必要に応じて板書すればいいのです。同じような考えを重ねて聞くことでよく理解できますし、焦点化されていくことでまとめることもしやすくなるのです。子どもの意見をつなぎ、子どもにまとめさせることができれば、板書のタイミングもはっきりします。しっかりと意見がつながれば、各自でまとめをノートに書くこともできると思います。

この日は数学科の若手5人と勉強会を行いました。遅い時間にもかかわらず勉強しようという意欲を持ってくれることをうれしく思います。教科書や「中学校数学授業のネタ100」(玉置崇編著 明治図書)をもとに各学年のこれから扱う教材について話をしました。
先生方には教科書を読み込むことをお願いしているのですが、当然疑問も出てきます。この学校で使っている教科書は、有理数と無理数に関して、まず無限小数、続いて有限小数を扱った上で、循環小数と非循環小数を使って説明します。なぜわかりやすい有限小数が無限小数の後に扱われるのかずいぶん悩んだがわからなったというのです。何も考えなければそのまま過ぎていくところですが、よいところに気づいてくれました。教科書の記述をよく見ると、割り切れて「しまう」ことがあると書かれています。ここの表現に気づけば教科書の意図は見えてくると思います。有理数は無限(循環)小数になることが一般で、割り切れることが特殊なのです。もっと言うと割り切れること自体にはあまり意味がありません。1/2が割り切れるのは10進表記だからです。1/3だって3進表記であれば有限小数になります。こういった疑問を持つことはとても大切です。若い教師にはまず教科書の記述を理解することから始めてほしいと思います。
また、中学校の3年間をつらぬく、数学的なものの見方・考え方を意識してほしいことを伝えました。例えば、何かを文字で表すならば、その文字に入る値は整数なのか、範囲はどうなのかといった条件を常に問いかけることが大切です。このことは、方程式の解の吟味や、関数の定義域にもつながる考え方です。こういう、すべての分野で共通な視点を意識してほしいのです。

子どもたちの姿も変化しますが、先生も変化していきます。この日も多くの先生方と話をしましたが、皆さん自分の授業をよくしたいと思っています。こういった先生方の姿勢が、子どもの向上的変容を促すのだと思います。次回は1月後に訪問しますが、きっと子どもたちにも先生方にもよい変化が見られることと思います。

「楽しく、手軽に授業改善をしよう」第2回公開

「愛される学校づくり研究会」のWEBサイトで、教育コラム「楽しく、手軽に授業改善をしよう」の第2回「伝える授業」を公開するが公開されました。

ぜひご一読ください。

道徳の授業の考え方を介護研修で活かす

一昨日は、介護技術研修の打ち合わせを行いました。今後、看護の人材不足が進行し、介護福祉士が行える(行わざるを得ない)医療行為が増えていくことが予想されます。そのような時代を迎えるにあたって、どのようなことを研修しなければいけないのかを考えました。

医療行為は一つ間違えれば、利用者の命を危険さらす可能性があります。技術的な裏付けが必要なことはもちろんですが、高い医療倫理が求められる行為です。介護関係者の側から見れば、そこまでの責任を持ちたくないと思う方もいらっしゃると思います。そのことを考えると今回の研修では技術の問題よりも心の問題の方が大きいように思います。学校での道徳の時間と非常に似ています。一方的に、こうあるべきだと教えることではないのです。
そこで、ゲストティーチャーを迎えての道徳の授業を参考に研修の内容を考えることにしました。看護師の方は、だれしも医療倫理の問題に直面されています。初めて医療行為を行った時の気持ちを話していただき、それをもとに参加者が積極的に医療行為にかかわるかどうか考え、その理由を聞き合うというものです。
この研修を一緒に考えていただいている看護師の方とお話していると、専門的技術に裏付けられた自信とその仕事の重要性、だからこそのプライドが、命を預かるプレッシャーに打ち勝つ大切な要素だと感じさせられます。看護師の方は長い教育期間と実務を経てその力をつけていきます。それと同じレベルの医療倫理を介護関係者に今すぐに求めるのは酷なようにも思います。この研修ではすぐに結果を求めるのではなく、ある程度時間をかけて考え続けてもらうことで、少しずつ力をつけていってもらおうと思っています。

私にとって介護や看護は専門分野でないだけに、そこで働く方からはたくさんのことを学ばせていただいています。日ごろはお世話になる側からしか見ていない世界を違う立場で見ることで景色は違って見えます。いつも本当に多くのことを学ばせていただいています。よい機会をいただいていることに感謝です。

授業の軸について考えた授業研究(長文)

一昨日は中学校で授業アドバイスをおこなってきました。かかわらせていただいて、今年で4年目の学校です。

午前中2時間と午後の1時間で校内のほぼすべての学級を見ることができました。
進路への不安でしょうか、3年生は授業に集中しない子どもと、その子どもに引きずられて落ち着かない子どもが若干目につきます。授業開始時の小テストでは、全体が集中するのに時間がかかるのが気になりました。あまり注意ばかりして教室の雰囲気が悪くなるのを気にしているのか、先生方はどこで注意したものかと悩んでいるようです。この場面では、「さあ、集中しよう」と全体に声をかけ、集中できた子どもたちを積極的に評価することが大切です。まず大多数の普通の子どもたちをよい状態に持っていき、乱す子どもたちに引きずられないようにすることが肝心なのです。落ち着かない子どもたちは授業中だけでなくいろいろな場面で声をかけることで、教師が見守っていることを伝え、不安の受け皿になってあげるようにするとよいでしょう。

2年生は、入学時にはいろいろと心配された学年ですが、先生方が子どもたちを受容することで関係をつくってきました。新年度になって一部の子どもに問題行動が出てきたと聞いてちょっと心配しましたが、教室の子どもたちは授業にとても集中していました。この日はたまたま心配な子どもたちが教室にいなかったのですが、大多数の子どもたちと教師との関係は問題ありません。これならばそれほど心配することはないでしょう。1年からそのまま持ち上がった担任団ですが、信頼関係ができていると感じました。ただ、子どもたちが集中して聞いてくれるので、つい指示や説明が多くなっています。次のステップとして、教師と子どもの縦の関係を中心とした授業から、子ども同士のかかわりを意識したものに変えていってほしいと思います。気になる子どもに対しても教師との関係だけで何とかしようとするのではなく、他の子どもとの関係をつくることで教室に居場所をつくってあげることが大切になります。授業の中で子どもが他の子どもに助けてもらう、友だちにありがとうと言われるような場面をたくさんつくることを意識してほしいと思います。

1年生は表情もよく、よい状態です。しかし、この状態はこの学校の先生方が子どもたちと意識してかかわることでつくられたというわけではなさそうです。多くの子どもが集中できていますが、中には集中を失くす子どももいます。その状況で具体的な対応をする先生が少ないのです。逆に、子どもたちがとてもよい行動をとった時でも、ほめたりポジティブな評価をしたりはしません。つまり、悪い状態を修正しようとする動きや子どもたちのよい行動を強化する動きがないのです。どうやら小学校でしっかり育てられて入学してきたようす。せっかくよい状態ですので、よい行動を認め、ほめることで、さらによい状態にしてほしいと思います。このままですと、しだいに授業規律が緩んできて、気がつくとなかなか修正できなくなってしまう可能性があります。

4人の教育実習生が1時間一緒に授業を見てくれました。適宜解説をしましたが、子どもを見るということがどういうことか少し理解していただけたのではないかと思います。中に一人とてもよい反応をしてくれる方がいました。教師になりたいという熱意を強く感じます。子どもの姿勢で集中度がわかるという話を聞いた後、実際に子どもを見ながら本当にそうなのか自分の目で確認していました。こういう姿勢が大切です。4人の実習生にはこの学校からたくさんのことを学んでほしいと思います。

授業研究は3年生の家庭科でした。幼児と一緒に遊ぶおもちゃを考える授業です。授業者は小学校から今年異動して来たばかりの方です。中学校は初めてで、家庭科は単位数も少ないため子どもたちともまだ関係がつくれていないと想像します。子どもたちは背筋を伸ばして授業を受けています。担任も授業を見ているのでよい姿勢をとろうとしているように感じます。背筋は伸びていますが、体は前には傾きません。授業者との距離を感じます。幼稚園や保育園のころどんな遊びをしたかたずねますが、子どもたちは今一つ反応しません。授業者も緊張して表情が硬いままです。しゃべり方に間もありません。コミュニケーションが上手く取れていませんでした。
事前に行ったアンケートをもとに幼稚園・保育園のころの遊びとそれでどのような力がつくか簡単に発表させます。指名された子どもはちゃんと答えますが、他の子どもたちの反応はあまりありませんでした。
ここで、グループごとに指定された遊びについて、どんな力がつくかを相談させます。グループになった瞬間、教室の雰囲気が変わりました。子どもたちの顔に笑顔が浮かびます。額を寄せ合って相談を始めました。子ども同士の関係のよさがよくわかります。
用意された「判断力」「コミュニケーション力」「思考力」といった、いろいろな力が書かれたカードを見ながら、選んだものを小型のホワイトボードに貼っていきます。「判断力って何?」といった言葉が子どもから発せられます。どのグループも非常に集中して活動していました。活動終了後、各グループのホワイトボードが黒板に貼られます。2グループずつ同じ遊びが指定されていることもあり、子どもたちは他のグループの結果が気になるようです。とても真剣に見ていました。見ながら何か話し合っている子どももいます。とてもよい姿でした。
子どもたちの笑顔の影響か授業者の顔にも笑顔が浮かんできました。教師の笑顔が子どもの笑顔を引き出すように、子どもの笑顔も教師の笑顔を引き出します。授業は教師と子どもでつくるということがとてもよくわかる場面でした。

遊びごとにグループに発表させます。共通することと違うことがはっきりするので子どもたちは聞こうという意思を見せます。座ってぼそぼそと発表した子どもに、「よいことを言ったから、立って説明して」と声をかけました。よい行動をうながすための上手い声かけです。しかし、発表した後、その考えに対する他の子どもたちの意見を聞く場面がありませんでした。これだけ関係のよい子どもたちですから、きっといろいろな意見が出たことと思います。

この日の主課題は、「新聞紙を使って園児と一緒に遊ぶおもちゃをグループでつくる」です。子どもたちの活動の見通しを助けるために、新聞紙を丸めたり、破いたりして、利用の方法を例示してからグループで活動させました。
子どもたちは意欲的です。一瞬テンションが上がりましたが、しばらくすると落ち着きました。何をつくるか考え始めたのです。しかし、作業が始まるとだんだん声が大きくなります。とりあえずつくるものが決まれば、思考は必要ないからです。活動は指示しましたが目標や評価がないため、考えることがあまりありません。どうしてもテンションが上がりやすくなります。

作業が終わって、元の状態に戻ります。子どもたちは素早く移動しました。授業者は「素早く移動してくれてありがとう」とほめます。こういった言葉が自然に出てくるのはとてもよいことです。ここで、授業者は子どもたちが考えた遊びでどんな力がつくか考えるように指示をします。子どもに動揺が走ります。そんなことは全く考えていなかったからです。子どもたちは無理やり考えますが、テンションが上がります。明確な根拠を持って考えられないので、思いついたことを言うしかないからです。
いくつかのグループに遊びの説明とつく力を発表させました。どのようにして遊ぶのかが上手く伝わりません。実際に前に出て遊ぶところ見せればよかったのですが、時間がないので無理だったのかもしれません。考えた遊びと力の関係も明確にならないまま終わりました。最後に授業者がつくったおもちゃを見せてから、次の時間は個人で遊ぶおもちゃを考えることを伝えて終わりました。授業者のつくったものを見せる意図がよくわかりませんでした。

子どもたちはよく活動してくれましたが、家庭科の授業としての学びが何だったのかはっきりしません。授業の軸となるものが明確ではなかったのです。そもそも、家庭科の授業で幼児の遊びについて考える理由は何でしょうか。このことが子どもに伝わらなければいけません。「幼稚園や保育園でたくさん遊んだけれど、保育士さんはきっと遊びを選んでいるよね。どうしてかな?」といった問いかけで、子どもにとって遊びが成長するためにとても大切なものであることに気づかせます。その上で「じゃあ、君たちがやってきた遊びを思い出してみよう。どんな力をつけてくれたのかな?」とすれば、必然性のある問いかけになります。「みんなも将来子どもができたら一緒に遊ぶことが大切だね。君たちはまだ子どもがいないので、保育士さんが子どもたちと一緒に遊ぶ新しいおもちゃを提案しよう。本当に採用されるとうれしいね」と課題を設定して、「採用してもらうために何が必要かな」と問いかけます。「お金がかかると大変だから、できるだけ安くつくろう」と新聞紙を利用する必然性を与えます。「どんな力をつける」を事前に押さえておいてもいいですし、活動の途中でいったん止めて、「採用されるためにどんなことを考えた?」と採用されるための視点を共有してもいいでしょう。活動のゴールは「プレゼンをして、みんなに保育士さんになったつもりで採用するかどうか判断してもらおう」とします。こうすれば、発表を聞く側にも必然性が生まれます。採用の決め手になったところやダメな理由を発表させることで、子ども同士がかかわりながら、幼児の遊びについて考えることができるはずです。

全体の検討会では、若手を中心に積極的な発言がたくさんありました。とてもよいことです。子どもたちの活動の様子をもとにしっかりと意見が交換されました。
私からは、この授業だけでなく全体に共通なこととして、答がちゃんと出ているのに子どもたちが挙手しない理由について話をしました。参加していた実習生に理由を聞いてみると、「間違えると恥ずかしいから」と「発表したくないから」という2つの意見が出ました。その通りだと思います。自信がなくても発表できるようになるためには、しっかりと受容することが必要です。また発表したくないのは、発表してもいいことがないからです。ポジティブに評価されなかったり、評価されてもすぐに先生が自分に都合のいいように言い換えて説明したりでは、発表したいと思いません。子どもたち全員が参加する授業を目指してほしいことを伝えました。
子どもたちはとてもよい姿を見せてくれました。指導案も研修部のメンバーが一緒になって練り上げたものです。そのため、授業者は今回の授業研究を非常に前向きにとらえていました。家庭科の教師は一人だけです。しかも小学校から異動したばかりで孤独になりやすい状況です。みんなの助けを得て授業をつくり上げたことはとてもうれしく支えになることだったようです。
最後に、子どもたちに向上的な変容をさせることを意識して、1時間の授業に教科の目標という軸をしっかり通してほしいことをこの授業を例に具体的に伝えました。
検討会のまとめとして教頭から、今まで私の指導は子どもとの接し方、コミュニケーションの取り方が中心だったが、今回初めて教科のめあてや軸といった授業内容に関すことが話された。自分たちが進歩したのだと感じたと話がありました。その通りです。子どもたちが育ってきたので、何を学ばせたかが真剣に問われるようになってきたのです。

この日の夜は、懇親会が開かれました。食事をする間がないほどたくさんの方が話しに来てくださいました。皆さん、自分の授業はどうだったか、子どもたちはどうだったかと授業の話ばかりです。本当に授業力をつけたいと思っていることがよくわかります。今年から3年の研究指定を受けたそうです。その期間の指導をお願いされました。とても光栄なことです。これから3年間、先生方と子どもがどのように成長していくかとても楽しみです。
この日はとても充実した1日でした。このような機会を得られたことに感謝です。

なかまづくりを意識した授業を目指す学校でアドバイス(長文)

一昨日は、県外の中学校の校内研修会に参加しました。夏に研修を依頼されている学校で、それに先立ち子どもたちの様子を見せていただくためにおじゃましました。
研究の重点目標は「互いに認め合えるなかまづくりと主体的に学べる授業づくり」ということで、なかまづくりを基礎とした授業づくりを考えておられます。なかまづくりだけでなく、それを学力の向上につなげたいという思いです。

この日は、午前中に学校全体を見せていただき、5時限目は公開授業でした。研究を進めるにあたって、研修計画の中では授業規律やコミュニケーションが意識されているのですが、先生方の中でそれがまだ具体的になっていないようでした。
例えば授業規律でいえば、この場面で子どもたちにどのような姿になっていてほしいかが明確になっていません。そのため、子どもたちが教師に集中していなくても説明を始めたりします。子どもたちは素直ですが、教師が求めないことはやろうとはしません。説明中に板書を写す子どもの姿も目立ちます。また、コミュニケーションという意味では、生徒と1対1のコミュニケーションが中心です。挙手で指名し、子どもの発言を受けて教師が説明をする一問一答式の進め方がほとんどです。挙手をしない子どもが参加しない、子ども同士がかかわらない授業になっています。また、教師に直接話しかける子どもに一々反応します。子どもとのコミュニケーションを大切にしようとしているのでつい受け答えしてしまうのでしょうが、授業に関係ないことであれば、無視をするか注意しなければいけません。もちろん叱っては関係が悪くなりますので、笑顔とジェスチャーで制止するといったやり方が必要です。また、手を挙げて発言できなくてつぶやいているような場合は、「いいこと言ってくれたね。ありがとう。みんなに聞かせてくれる」「みんな、○○さんの話を聞こう」と公的な場で発表させるといった配慮も必要です。
なかまづくりを意識はしていますが、授業においてどのようにすればいいのか具体的な方策が見えていないようです。

公開授業は、1年生の文字式の導入でした。授業者は笑顔をとても大事にしている方でした。当然子どもたちもよい表情です。特に指名された子どもはとてもうれしそうにします。授業者がしっかりと笑顔で受容してくれるからでしょう。ワークシートを配る時にも子どもたちに「ありがとう」と声をかけます。前の座席からワークシートを受け取る時に「ありがとう」という声が出る子どももいます。が、それほど多くはありません。ちょっと残念でした。おそらく最初はもっと多くの子どもが言えていたのでしょうが、次第に減っていったのだと思います。よい行動を上手にほめて広げる、定着させることが大切です。

正方形の辺の上に石を並べて、その数の求め方をいろいろと考える課題です。問題文には「右の図のように」と正方形の頂点に石が置かれていることを強調するような図が描かれています。しかし、授業者は課題把握の時に「一辺に石を5個並べると・・・」と言って、頂点に必ず石を置くことをきちんと押さえません。課題の文が「右の図のように」となっているのは、言葉で説明すると難しくなるからです。ここは、「どのように並べればいいかな?」と子どもたちに投げかけながら、わざと頂点を外しておくといったことをして、課題のポイントを意識させたいところです。「どうしてここ(頂点)に石を置かなければいけないの?1辺に5個あるからいいでしょう」と揺さぶり、「右の図のようにと書いてある」「右の図は頂点に石が置いてある」といった言葉を子どもたちから引き出したいところです。

子どもたちに1辺が5個の場合の石の総数を考えさせます。最初に指名した子どもは14個と答えました。おそらく数え間違いです。授業者は否定的なことを言わずにしっかりと受容します。とてもよい姿勢です。続いて、20個、16個と意見が出ます。子どもたちに挙手で確認したところかなり分かれました。やってみようと先生が石を置いて確認します。ここは、どのようして答を出したかを聞くべきです。20個と間違えた子どもは5×4としたはずです。「計算で求めたんだ。すごいね」と評価することで、この後の1辺に30個並べる場合につなげることができます。5は何、4は何と確認しておけば、間違いにすぐに気づいてくれるでしょう。全く見通しを持たずに考えさせたいのか、見通しを持って考えさせたいのかで異なりますが、全員参加させたいのであれば、少し丁寧に扱って見通しを持たせるとよいでしょう。結局先生が正解は16個として次に進みました。20個と間違えた子どもに説明させ、説明の途中で自分で間違いに気づかせたいところでした。
25個という間違いもあったことを示し、中身まで数えたと解説します。5×5−4×4という考え方を引き出すための布石かと思ったのですが、どうやらそうではなかったようです。「これだとこの真ん中の部分を余分に足してしまっているね」と真ん中の石を取り除くといった操作をしておけば、このやり方に気づく子どもがたくさん出てきたと思います。課題把握と間違いを積極的に次の活動につなげるとよかったと思います。

次は1辺が30個の場合を考えます。できるだけたくさんの方法を考えることが課題です。「たくさん」とすることで、グループで考える必然性を出したかったのでしょう。しかし、この石を数えるという課題そのものは小学校でやってきたものです。ここにあまりエネルギーを割かずに、中学校の数学の内容にかかわる活動を中心にしたいところです。中学校の学習内容で、子どもたちがグループで活動する必然性のあるものにすべきでしょう。
グループで活動する前に個人で考える時間を与えます。すぐに手詰まりなる子どもがほとんどです。とりあえず何らかの方法で答を出せても、いくつもやり方を考えることは大変です。見通しが持てていない状態で、時間だけ与えてもあまり意味がありません。早くグループにすべきでしょう。

グループに対する指示は疑問の多いものでした。まず班長がいることです。この班長の力が強いと場を仕切ってしまいます。自分と違った考えがあったら書くようにという指示も気になります。「自分と違った考え」を書くのであれば、違っている時点で書くことに決まります。相手の考えを理解する必要はありません。ここは「なるほどと納得した考えがあったら書くように」としたいところです。
また、グループの活動は1分ずつ区切って一人ずつ発表させます。時間を持て余すグループ、とにかく相手を見ずに書くグループ、自分の考えをわからせようと説得しているグループ、いろいろでした。上手く話せない子どもに対して、「それってこういうこと」と代わりに説明してみるといったかかわり合う場面がありません。話すことが主体の活動になっていて、聞く、助け合う活動になっていないのです。中には「わからん」と声を出す子どももいますが、その子を納得させるための時間はこのグループ活動では取れませんでした。

全体での発表は個人でさせます。友だちの意見でも自分のものにして発表してもいいと付け加えます。これはとてもよいことです。グループで活動しても、発表は自分の考えが基本だからです。しかし、子どもはそのことを予想していなかったようです。ちょっと動揺が広がりました。日ごろはグループ活動の後は、個人の考えではなくグループのまとめを発表するのでしょう。であれば、なおさら違った考えではなく、納得した、理解した考えを自分のワークシートに付け加えさせるべきです。また、活動が終わったあとはどのような形で発表するかはっきりさせる必要があったと思います。

挙手した子どもと授業者とのじゃんけんで発表者が決まります。なぜこのようなことをするかというと発表者にはシールがもらえるからです。これでは、子どもにとって発表が目的化します。なかまづくりであれば、友だちに伝わる、友だちの考えを理解することを目指すべきです。
子どもの発表の後、拍手が起こります。時には授業者が拍手を求めます。これでは発言したことへの評価にしかなりません。拍手が起これば、なぜ拍手をしたのかの理由を聞くべきでしょう。すごい考えだと感動して拍手が起こっていることもあります。このことを言葉にして発表者に伝えることが仲間づくりにつながるのです。
子どもの発表を受けて、ポイントは授業者が説明します。子どもは授業者の板書を写します。言葉が足りないところは授業者が質問します。これでは、友だちの発言を聞く意味がありません。56+60という説明に対して、「28×2ということやな」とつぶやいている子どももいます。こういう言葉を拾って、全体の土俵に載せてやることが大切です。同じ考えの人を指名してもう一度説明させる、補足させる。よくわからなかったことは子どもに質問させる。こういうことを意識してほしいのです。

「5が23であと1つあるから116」という発表がありました。どういうことが授業者もよくわかりません。ここで自分が説明せずに子どもに助けを求めました。とてもよい判断です。この場面で、「わからない」「どういうこと」といったつぶやきが子どもから出ています。この言葉を拾ってつないでいけばよかったのですが、拾うことができません。当然です。授業者は教室の一番後ろで発表者を見ているからです。自分が前に立っていると発表者の視線が子どもたちに向かわないと考えてのことでしょうが、それでは他の子どもたちの様子がわかりません。前の横に立って発表者と全体を見るとよいでしょう。それでも子どもが授業者を見て困るのであればしゃがんでしまえばいいのです。いつも全員を見ることを意識してほしいと思います。
この5ずつ数える考えを2人の子どもに説明させました。授業者は納得したどうか挙手で子どもたちに聞きますが、最初の発表者には確認しません。実はその子どもは、2人目の発表のあと、口を開けて盛んに説明したがっていました。補足してみんなにわかってほしいという思いが湧き上がっているのです。とてもよい場面でしたが、授業者は活かすことができませんでした。
石の数を変えて、この日出た考え方を使って計算し、言葉の式で表わす活動に入ったところで時間となりました。

授業検討会では、一部の子どもが仕切っていた様子や、5ずつ数える考え方をしていた子どもが、全体では発表できなかったが隣の子どもからヒントをもらって図で説明していた様子など、3つのグループでとても質の高い情報が交換されていました。各グループからの発表も全体で考えるべき課題を明確にしたものです。授業に対して前向きな先生がとても多いことが印象的です。また、若い先生がしっかりと意見をまとめて発表したのには感動しました。授業での学びがどのように社会に出て役に立つのかといった視点での指摘が出てきたことにも驚かされました。学校での学びの本質を真剣に考えているということです。
私にも助言の機会をいただけたので、皆さんが感じられた課題について、できるだけ具体的にお答えさせていただきました。

夏の研修会については、研修担当の先生と相談の結果、模擬授業をもとに皆さんと一緒に具体的に授業を考えることにしました。あとは先生方から事前に質問をいただき、その回答の時間を取ることにします。
前向きな先生が多い学校ですので、何とかお役に立ちたいと思っています。夏の研修では2学期からすぐに役立つ内容となるように工夫したいと思います。

若手の授業に感心する

昨日の日記の続きです。

1年生の国語は絵の女の子の表情とそのわけを、話型を使って話す授業でした。授業者は笑顔をしっかりつくれています。子どもたちの授業規律もできています。指名して返事がなければ「返事がありません」と躾けていました。子どもたち一人ひとりをとてもよく見ています。ただ、子どもたちのテンションの高さが少し気になります。指示に対する「はい」という返事の声が大きすぎるのです。子どもたちを受容しているのですが、具体的な評価は「元気だね」ぐらいしか聞かれません。先生に認めてもらう方法が大きな声を出すこと以外にはよくわからないのかもしれません。
経験年数は少ないのに、子どもからずれた答がでても「なるほど」と受け止めることができるのには感心しました。ただ、授業者はちょっと困った答の時にだけ「なるほど」を使う傾向があります。正解がでれば、すぐにまとめて説明を始めたり、次の質問に移ったりします。子どもは「なるほど」と言われたら答を外したと思うかもしれません。また、子どもとの縦糸の関係は素晴らしいのですが、子ども同士をつなぐことはまだできていません。正解でもいったん「なるほど」と受け止め、同じ答でもいいので何人にも発表させるようにしてほしいと思います。
授業者が提示した女の子の様子を描いた絵に関する質問に対して、1人しか挙手しない場面がありました。絵が少し小さいのでわかりにくかったのかもしれません。どうするかと見ていたらペアで相談させました。よい判断です。しかし、その時絵は提示していませんでした。相談の途中で確認ができないのはちょっとつらいと思います。この時まで、2人だけが1度も挙手をしていませんでした。そのうちの1人がペア活動で口を開きました。その後の活動でもみんなと一緒に反応するなど変化が見られました。ペア活動がよい影響を与えたようです。できれば、ペア活動の後に、どんなことを話したか聞いてあげるとよかったと思います。
ペアで話型を使ってわけを説明する練習をします。活動内容は指示されていますが、どうなればいいのかという目標や評価の基準が示されていません。子どもは話しっぱなしです。聞き手役の子どもの役割もはっきりしません。なんとなく話型を使って話しているだけでした。授業者が上手く活動できていないペアを指導しているうちに多くの子どもたちは集中力を失くしていきました。この後の全体での発表場面でも、目標や評価基準がありません。唯一発表を具体的に評価したのが、「大きな声で言えた」でした。やはり、子どもたちの声ばかりが大きくなってしまうのはここに原因がありそうです。また、聞く側も最初は友だちの発表を興味を持って聞いていましたが、積極的にかかわる場面がないので集中力を失くしていきました。聞く側の役割を明確にすることが大切です。
授業者はとても前向きで素直な方です。子どもたちとの関係は大丈夫なので、子ども同士の関係をつくることを意識してほしいと思います。あとは、一つひとつの活動の目標や評価を子どもたちにわかる言葉で伝えることができれば、大きく成長できると思います。これからがとても楽しみな方でした。

全体での研究授業は、4年生の理科の体のつくりの授業でした。関節の働きに気づかせる場面です。
とにかく感心したのが子どもたちの表情がとても素晴らしかったことです。授業者は笑顔も素晴らしいのですが、上手に子どもをほめながらよい行動をうながすので、子どもがとても前向きなのです。作業を止めるように指示を出した時など、「速い、○○さんと目が合ったね」と行動の速さをほめるだけでなく、「目が合った」と望ましい行動を上手に伝えます。望ましい行動を具体的に示すので、子どものよい行動が増えます。当然ほめる機会も増えて、教室に前向きな雰囲気が生まれます。子どもにちょっとしたことを頼んでも「ありがとう」の言葉を忘れません。指示をして次の行動に移る前には、「準備はいいですか」とチェックを忘れません。教職経験が3年目?とはとても思えない、細かいところまで目が行き届いている授業でした。
最初にダンボールでつくった筒を手足につけたロボットを登場させます。同僚にお願いしたようですが、子どもたちは大喜びです。興奮状態が尾を引くかなと思ったのですが、すぐに引っ込めました。子どもたちにうけるとついつい時間をかけてしまうことが多いのですが、子どもたちのテンションが上がりすぎない前に止める割り切りは見事でした。
ロボット体験をしようということで、ダンボールでつくった筒を手足につけて、「お茶を飲む」「歩く」「立ったり座ったりする」といった行動ができるかを予想して、その理由を考えさせます。その後、ペアで確かめさせました。この時、ペアの片方はちゃんとできているかどうか判定する役割です。ペア活動の基本がよくわかっています。このことにも感心させられました。
全体での発表場面を、挙手で進めました。子どもたちはワークシートにしっかり書けていたので、挙手に頼らなくてもよかったかもしれません。発言に対して「同じような意見の人」と子どもをつなげようとするのですが、挙手だけの確認で終わりました。ここは、最初に挙手できていなかった子どもを指名して、もう一度その子の言葉で発表させたいところです。
歩きにくい理由を「硬い」という言葉で説明した子どもがいます。これ以上の言葉が上手く出てきません。このような時は、授業者が代わりに説明することが多いのですが、他の子どもにどういうことか考えさせました。なかなかのものです。「足が曲がらなかった」という言葉を引き出しました。ここで、先ほどの子どもに「そういうこと?」とはっきり確認をするとよかったでしょう。
授業の最後で先生が少しまとめすぎたのが残念です。「○○さんが言ってくれた」と固有名詞で子どもの発言を引用することもできる方です。子どもたちの言葉でまとめるようにすればもっとよかったでしょう。
授業中に2人の子どもがとても気になりました。友だちの発言や先生の説明をあまり真剣に聞いていません。2人でよそ事をしていたりします。ところがワークシートの記入などの作業は素早くこなします。どうやらよくできる子どものようです。授業者もこの子どもをどう扱えばいいのか悩んでいるようでした。他の子どもとかかわらせたいところです。こういう子どもには単に答を発表させるのではなく、みんなが困った時に助ける、友だちの代わりに説明するといった役割を与えるとよいでしょう。「○○さんのおかげでよくわかったね」「○○さん、△△さんの考えよくわかったね。△△さん、○○さんにわかってもらえてよかったね」と友だちとのかかわりで評価するのです。このようなやり方を試してみるようにお願いしました。
授業者は力がありますが、謙虚で前向きです。これからもどんどん伸びていく方だと思います。授業を見せていただいた私も、とても楽しい気持ちになりました。

全体の場では、挙手に頼りすぎずに全員参加を意識してほしいこと。子どもの言葉に教師がつけ足しをせずに、子ども同士をつないで子どもに言葉を足させること。コミュニケーションの基本はまず聞くことであること。ペアなど、子ども同士のかかわりを意識した時には受け手の役割をはっきりさせることなどを話させていただきました。ベテランの先生方がとてもよい反応をしてくださいました。力のある若手が育っている理由がわかったような気がしました。素晴らしいベテランがよい影響を与えていることは間違いありません。素晴らしい環境だと思いました。

この市の小学校への訪問はこの学校で3校目です。共通して感じたのが、私の訪問が市からの派遣で学校が望んだものでないのにもかかわらず、管理職がとても前向きにとらえてくれることです。みなさん授業改善を学校の重要課題としてとらえ、今回の訪問をそのためのよい機会にしようとしてくれているのです。こんなにうれしいことはありません。来週以降、残り5校を訪問しますが。とても楽しみになってきました。本当によい機会を得られたことに感謝です。

改善点をいろいろと考えた授業

先週末は小学校で若手を中心に授業アドバイスをおこなってきました。市内の全小学校での授業アドバイスの一環です。

3年生の道徳の授業は、読み物教材を使ったものでした。主人公がもらった絵葉書の料金不足を友だちに告げるかどうかという話です。授業者は子どもの発言を「いいこというね」と評価したりしますが、受容も評価もしないことがあります。また、何がいいのかを具体的には示しません。子どもが何か発言してくれたら、少なくとも受容だけは必ずしてほしいと思います。また、子どもたちの半分くらいしか挙手をしなくてもすぐに指名します。発言者が最後に「いいですか」と聞くと、ほとんどの子どもが「賛成」と返します。これはとても気になる場面です。本当にわかっていなくて手を挙げていないのであれば、答だけを聞いて判断できるはずがありません。「賛成」と言うのはおかしいのです。本当はわかっていたが発言することに価値がない、もし間違えたら恥ずかしいと思っているために挙手しなかったのか、よくわかっていないが空気を読んで賛成したのかです。いずれにしても、授業者が発言を常にポジティブに評価していないために、子どもが安心して発言できない教室になっている可能性があります。
授業者が資料を読みますが、読むことに意識がいってしまい、子どもたちをあまり見ません。ただ聞くだけですから、子どもたちの集中力も切れてきます。できるだけ早く子どもたちに資料を読み取らせるために、途中で授業者が適宜質問をしたり説明したりすることが必要です。読み終わってから、友だちとの関係や状況、気持ちなどを質問して確認しますが、挙手する子だけで進んでいきます。
話の中で兄は料金不足を知らせた方がいい、母は知らせない方がいいと言うのですが、その理由を考えさせません。あなたならどうするかと質問しますが、それぞれの考えをよく理解していないので、表面的に考えます。葛藤がなく、友だちの意見を聞いても心が動かされません。授業者は子どもの発言を「・・・ということかな」と自分の都合のよいように整理してしまいます。発言した子どもはきょとんとしています。これでは子どもたちは教師の求める答を言えばいいと考えてしまいます。「料金不足だったよと言われたらどう思う?」「恥をかかされたと思って嫌いにならない」「葉書の料金のことを知らないとまた失敗しちゃうよね」と揺さぶっておいてから、考えさせれば子どもたちの様子はだいぶ違ったものになったと思います。また、あなたの仲のよい友だちから来た葉書が料金不足だったらどうするというように自身の問題としてもよかったかもしれません。
これから友だちとどうしたいかをたずねます。「仲良くしたい」「間違ったら教えてあげる」「助け合う」と相手に対するものと、「嫌われないようにする」「自分が間違うと相手が悩むから間違えないようにしたい」という自分に向かう意見が出てきます。この2つの視点を焦点化してもう一度考えさせると友だちとの関係についてより深く考えたと思います。
最後に授業者が自分の中学時代の体験を話しますが、子どもは真剣に聞いていません。自分たちは与えられた課題をこなした。仕事は終わったという雰囲気です。子どもの心が揺さぶられていなかったのでしょう。
授業者は、自分が子どもたちに迫り切れていないことを自覚していました。そこに気づいていれば大丈夫です。道徳はどれだけ子どもの内面に迫れたかが勝負です。そのためには課題の工夫や揺さぶりが重要になります。そして、深く考えれば考えるほど互いに影響をしあいます。このことを意識して授業を組み立てるようアドバイスしました。

6年生の外国語活動は、ちょっと気になるものでした。
最初にPhonicsの時間がありました。元気よく声を出す子どもがいる反面、ほとんど口を開かない子どもがいます。すでに英語嫌いになった子どもがいるようです。
子どもたちは正しい発音を意識していません。なぜなら、ALTや授業者がそのこと意識した進め方をしていないからです。Phonicsでは、口の形を誇張するくらいはっきりと見せなければ、BとVの違いなどは身に付きません。しかし、ALTは口の形を子どもたちにはっきりと見せずに淡々と発音して繰り返させます。また、正しく発音できていなければ、できるまでやり直させる必要がありますがそれもしません。そのため、子どもたちは正しく発音することを意識していなかったのです。
ヒアリングでは今まで学習した月の名前を一連の文章の中から聞き取るというものでした。何月には何をするという話をALTが「読む」だけです。situationもなければ、身振りもありません。これでは何を言っているのかさっぱりわかりません。月を聞き取りやすいように、意図的に間を取ることもしません。コミュニケーションの基本がないのです。正解の発表はALTが読んだ後、授業者が何の解説もなく和訳をするだけです。これでは、子どもたちは英語を聞いて理解しようとはしなくなります。何を言っているかわからない長文を聞くことより、短い文章でいいから何度も聞いて理解することの方が大切です。せめて、絵や写真と身振りを使って何を言っているか伝える工夫をしてほしいと思います。最近の流れであるsituation baseと真逆のものでした。
誕生日を聞いて答えることがこの日の主課題です。授業者とALTで誕生日を聞き合う見本を見せます。誕生日が12月なので”so far away”という言葉を使いました。しかし、これも一切の身振りがありません。ただ、言葉を使われても理解する糸口がありません。黒板に月のカードが貼られていたので、せめて5月のカードから12月のカードまで指を動かしながら、”so far away”と言えば意味を理解できたのではないでしょうか。
全員でALTの後について発音します。”When is your birth day?”と聞かれて”When is your birth day?”、”My birthday is December twentieth.”という答に対して”My birthday is December twentieth.”と同じ言葉を繰り返します。相手の言った言葉を繰り返すのではなく、それに合わせて答える練習が必要です。言われたことを繰り返して言うだけでは頭を使いません。ALTはCDの代わりで、コミュニケーションを取る相手にはなっていませんでした。一列立たせて、全員で”When is your birth day?”と聞きます。順番に” My birthday is ・・・.”と答えて終わりです。正しく伝わったかどうかわかりません。せめて、”Oh, your birthday is ・・・.”と答えるだけでも全く違ってきます。友だちの発言を聞かなければ言葉を返せません。聞くことを意識できますし、発言者は伝わったことを実感できます。
この後は、友だちから聞いた誕生日の月日の数を使ってのビンゴゲームです。これは、最も避けたい活動です。なぜなら、ビンゴという英語活動とは直接関係のない目標に向かって活動するので、テンションばかり上がって肝心の英語でのコミュニケーションがおろそかになるからです。たくさんの友だちと会話しても、使うのは”When is your birth day?”と” My birthday is ・・・.”だけです。全く同じ2文だけをしゃべればいいのです。もっと言えば、”When is your birth day?”は聞く必要がありません。どう聞こえようが、間違えていようが、” My birthday is ・・・.”と答えればいいのです。聞く方も、何月何日かだけに意識を集中すればいいだけで、コミュニケーションとは程遠いものです。実際に相手の答を聞いている時は、だれも顔を上げずにワークシートに書き込むことに専念していました。ここで一人の男の子が校長のところに来て質問しました。隣にいた私は、その子どもに”When is your mother’s birth day?”と聞いてみました。その子は何を言われたのかわからなくて困った顔をしましたが、何度か聞くと、”Mother?”と聞き返してくれました。”Yes.”とOKサインを出すと、ちょっと考えてから、母親の誕生日を答えてくれました。”Oh, your mother’s birthday is ・・・.”と通じたことを伝えると、とてもうれしそうな顔をしてくれました。こういった聞き取ろう、伝えようとすることが大切なのです。
この活動でも、誕生日を聞いた後、必ず”Your birthday is ・・・.”と答え、それに対して”Yes, that’s right.”と確認を取ることをルールにするだけでかなり様子が変わると思います。誕生日も本人だけでなく、家族の誰かを聞くことにするだけで、双方に聞く必然ができます。誕生日以外の質問も少し用意するだけで全く異なった活動になります。伝わった、聞き取れたというコミュニケーションの実感を持たせるような活動を意識してほしいと思います。
ここに述べたことは、授業者の問題というよりはカリキュラムの問題です。学校全体の課題として改善に取り組みたいという言葉をいただけました。とてもうれしいことです。

この後、2つの授業を参観しましたが、どちらも子どもたちのとてもよい姿をみることができました。これらの授業については明日の日記で。

四役の意欲を感じた訪問

前回の日記の続きです。5月30日にアップ予定でしたが、手違いでアップされていませんでした。申し訳ありません。

3年生の道徳は読み物教材の授業でした。授業者は年配の方です。毅然とした態度が印象的ですが、子どもとの距離感をちょっと感じます。昨年からの持ち上がりの子どもたちなので、授業者のことはよくわかっているようです。良くも悪くもここまでやればいいという線がはっきりしているように思いました。授業者に聞くと、学年も上がったことなので本当は子どもたちにもっと求めていきたいのだが、なかなかけることができないということでした。学年が上がったのだから、もう一つ上を目指そうと子どもたちにはっきりと要求するとよいと話しました。
資料を授業者が丁寧に読んでいきます。すべて読み終ってから、ワークシートに読み取りについて書かせます。資料を読み取ることは大切ですが、それが目的ではありません。できるだけ早く読み取らせる工夫が必要です。子どもたちに読み取りを発表させますが、なかなか終わりません。日ごろなかなか手が挙がらない子どもも意欲を見せたので、どうしてもたくさんの子どもを指名してしまったということでした。道徳の教材はわかりやすい内容になっていますから当然読み取りは簡単です。だからこそ、ここに時間をかけてはいけなかったのです。結局肝心の自分のことに引き寄せて考える時間をほとんど取ることはできませんでした。授業者はワークシートの読み取りの部分は必要なかったと反省していました。授業を通じて、道徳に大切なことにちゃんと気づいてくれました。次の機会にはこのことを意識した授業をしてくれることでしょう。
また、この日は私や管理職が授業を見に来るということでかなり緊張していたようです。笑顔があまり見られませんでした。そのためか、子どもの発言に対して評価があまりありませんでした。子どもの外化に対しては必ずポジティブな評価をすることをお願いしました。

若手の6年生の算数の授業は分数÷単位分数の課題でした。デジタル教科書を使って課題を見せますがそれで終わりです。単なる課題提示装置でした。子どもたちには、計算だけでなく、やり方の説明をできるようになってほしいことを伝えます。大切なことです。しかし、面積図で考えるか、計算の決まりのどちらかを使って考えるという指示をして、ワークシートで説明を考えさせます。例えば面積図であれば、5年生の時の面積図を使って考えた課題の復習をするといったことはしません。これでは、子どもたちは見通しを持って課題取り組むことはできません。子どもたちはなかなか手がつかない状態です。授業者は5年生のどの課題で面積図を使ったのかも把握していませんでした。教材研究不足です。算数は系統的な教科です。指導書と違ってとても安いものですから、少なくとも算数の教科書は1年生から6年生まですべて手元に置いておいてほしいと思います。
子どもたちがなかなか手がつかないので授業者はヒントを出します。面積図と計算の決まりについての2つのヒントを連続で話しますが、これでは混乱してしまいます。一部の子どもを除いて活動が止まっている状態が続きます。ここで、グループで話し合うように指示します。班長が仕切り、できる子が説明をします。中にはわかれと言わんばかりに強い口調で説明する子どももいます。どのグループも友だちの説明を聞いてわかろうとする様子がありません。その代り、友だちのワークシート移す姿が目立ちました。
グループ活動の後発表ですが、ほとんど手が挙がりません。ワークシートに写しただけでは当然説明はできません。指名された子どもは授業者に向かって一生懸命説明します。それに対して、授業者が問い返しますが、誰も聞いていません。説明が終わると授業者がもう一度説明をしますが、発表した子どもは聞いていません。自分の仕事は終わったので関係ないという態度です。子ども同士が全くつながりません。「今の説明でなるほど思った人」「だれから、○○さんの考えもう一度説明してくれるかな」と、子どもをつなぐことが必要です。結局発表した子ども以外は説明をすることはありません。自分で整理して書くこともありません。説明できることが大切と言ってはいますが、板書には式と計算の方法と答えしか残っていません。発表者と授業者の一方的な口頭での説明だけで、考え方の説明につながるものは何も残っていないのです。また、子どもたちからもできるようになろうという意欲を感じません。説明できなくても困らないのです。ちゃんと計算はできるし、問題も解けるからです。授業者が求めていることと活動が乖離してしまっているのです。
子どもが説明できるようになるための足場やスモールステップが全く考えられていませんでした。どこまでわかっているかの確認、どこでつまずくかの予想とその対応などが全くないのです。自力解決だからといって、見通しも持たせずに進めてはいけません。
このことを指摘したからといってすぐにできるようになるわけではありません。まずは地道に教材研究をすることから始めてほしいと思います。

1学年1学級の小さな学校ですので、残りの学級もすべて見せていただきました。その中でとても素晴らしい子どもへの対応をされている方がいました。一人ひとりきちんと受け止めながら、授業規律を維持しています。笑顔で子どもを受容しながら、しっかりとコントロールしていました。元気で自己主張の強い子どもたちのようです。一つ間違えればめいめいが勝手な行動をとり落ち着かない学級になりそうですが、子どもたちの個性がよい形で活かされていました。子どもたちの笑顔がとても印象的でした。

最後に30分ほど全体でお話しする時間をいただきました。「授業規律」「全員参加の授業」「活動の目標と評価」の3つの視点で話ました。
授業規律については、できないこと、できない子どもを減らそうとするのではなく、できること、できる子どもを増やそうとしてほしいことを伝えました。いいことをしてくれなければほめることはできません。そのためには、何を目指せばよいのかを子どもたちに伝え、やる気にさせることが必要です。また、少しでも子どものよい行動を見つけようとする「いいとこ見つけ」の視点も必要です。子どもをポジティブに見ることをお願いしました。
全員参加の授業については、挙手している子だけで進めないことをお願いしました。まわりの子どもと相談するだけで、挙手が増えます。挙手をしない子どもにも、友だちの発言を復唱させたり、なるほどと思ったかと聞いたりすることで参加させることができます。発言すれば必ずポジティブな評価をされることを経験させれば、積極的になっていきます。わかった人と聞くとわかって人しか答えられませんが、「困ったことない?」と聞けばだれでも参加できます。子どもの困ったことから出発すれば全員さんができるのです。
子どもたちに活動の指示だけをしてもゴールがよくわかりません。ただ「走れ!」と言っているようなものです。必ず目標と評価の基準を与えることが大切です。ペア活動では受け手の役割、全体に対する発表では聞く側の目標の設定を明確にすることが必要です。活動だけすればいいという授業にならないようにお願いしました。

校長はじめ四役が授業改善に前向きなことが印象に残りました。授業改善が学校をよくするための重要なポイントだとしっかり認識されています。
教務主任からは、今回お話したこと関して参考資料がほしいとリクエストされました。とてもうれしいことです。このような前向きな学校ですので、次回の訪問時にどのような変化が見られるかとても楽しみです。充実した1日を過ごすことができました。ありがとうございました。
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