「禁句」を意識する

講演などでは、授業中や子どもと接する時に大切にしたい言葉を必ず資料としてつけるようにしています。「なるほど」「ありがとう」「聞かせて」といった子どもを受容したり、称賛したり、外化をうながしたりする言葉です。その一方で、講演等であまり話しませんが、使ってほしくない言葉があります。「禁句」です。この「禁句」を意識することについて考えてみたいと思います。

いくつか例をあげてみます。
「正解」(「『正解』は思考停止のキーワード」参照)
子どもが問いに正解を答えた時に、「正解」と言えないと困りませんか。教師が正解を判断できないのですから、嫌でも子どもたちに判断させることになります。

「わかった人」(「『わかった』は禁句!?」参照)
質問をしたり、問題を解かせたりすれば「わかった人」「できた人」と聞くのがふつうです。しかし、こう問いかければ「わかった人」「できた人」しか発言できません。これを禁句にすれば、わからない子ども、できなかった子どもも発言できるような問いかけをせざるを得ません。

「考えて」(「『考えて』では考えられない」参照)
「考えて」「気づいたことない」といった問いかけは抽象的です。わからない子どもにとっては、何を答えていいかわかりません。これを禁句にすると、具体的な指示をすることにつながります。

「他には」
子どもが教師のねらいと違った言葉を言った時、つい使ってしまう言葉です。自分の発言をしっかり評価されず、活用もされないで「他には」と言われれば、「あっ、外した」と子どもは感じます。教師の求める言葉があり、自分の発言はそれとは違ったと思います。子どもたちは、自分の考えを言うのではなく、教師の求める答探しを始めてしまいます。「他には」を禁句にすると、自分のねらっている言葉に近づけるような切り返しが求められます。また、子どもの発言の中からねらいにつながるような言葉を見つけることを意識するようになるはずです(「教師のねらいに近い考えをどう深めるか」参照)。

「なぜ」(「切り返しの言葉」参照)
私たち大人でも、「なぜ」と聞かれると答えにくいものです。こちらは子どもなりの理由を聞きたいと思っていても、聞かれた子どもは明確な答を要求されているように感じます。授業だけでなく、個人面接などでも注意したい言葉です。子どもが話してくれたことに対して、「なぜ」と問い返すと詰問されているように感じます。「それってどういうことか聞かせてくれる」といった、広く受ける問い返しが求められます。「なぜ」を禁句にすることで、問い返しの言葉を工夫することになります。

「(あなたの)気持ちがわかる」「そんなことないよ」「頑張れ」
悩みごとの相談などで注意したい言葉です。苦しい気持ちを話してくれたときに、つい「気持ちがわかる」と言ってしまいますが、苦しんでいる人は自分の苦しみは他人にはわからないと思うものです。安易にこの言葉を使うと、調子のいいことを言っていると心を閉ざす可能性があります。
「自分はダメな人間だ」といった否定的な言葉に対して、フォローするつもりで「そんなことないよ」と言うと、自分の言葉を否定されたと感じます。たとえ、否定的な言葉でも、「なるほど、自分はダメな人間だと思っているんだね。それは苦しいね」とそのまま受け止めることが必要です。
また、「頑張れ」はとても励まされる言葉ですが、頑張ってきたと思っている人には、「これ以上頑張れというのか」と追いつめる言葉になることもあります。諸刃の剣なのです。
これらの言葉は、うっかり使うと人芸関係を決定的に損なう危険性のある言葉です。禁句にすることで、そのリスクを軽減することができます。(「悩み事の相談」、「保護者からの相談への対応」参照)

例に挙げたように「禁句」とすることで、自然に授業のあり方が変わる言葉があります。また、何気なく使う言葉の中には、ひとつ間違えると相手を傷つけてしまうものもあります。こういう言葉は「禁句」として強く意識しないと、うっかり使ってしまい思わぬ事態を招くこともあります。
ここで取り上げたもの以外にも、「禁句」にするとよいものがあると思います。もちろん、ここに挙げたものすべてを「禁句」にすべきだとも思いません。「禁句」をつくる意味を考えた上で、授業や子どもと接する場面で、どのような言葉を「禁句」にすべきか一度思いを巡らせてみてください。
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