学校の到達した場所と次の課題が見えた授業

昨日は中学校の授業研究に参加しました。若手の道徳の授業です。

子どもたちと授業者、子ども同士の関係がとてもよいことがすぐにわかります。参観者にとってもとても居心地のよい教室です。この学校はどの学級もこのようなよい雰囲気になっています。授業研修のお手伝いをさせていただいて4年がたちました。この4年間で授業の基本となる人間関係がきちんと確立されたと思います。先生方の努力の成果だと思いますが、特に教務主任が自らも一生懸命勉強しながら、方向性を持って授業改善に取り組んできたことが大きな力となっていると思います。

この日の授業は、子どもたちに「向上心」を持って生活してほしいという授業者の願いが込められたものでした。人間関係のよい学級ですから、何をやっても授業が破たんするようなことはありません。それだからこそ、何が子どもの中で起こっているかを注意してみないと、授業を見誤ってしまいます。

最初に、自分のあこがれの人を思い描かせた後、相田みつおの詩から、「そこにいるだけでまわりを明るくする人」とはどんな人か、その人は「頭」「口」「手」「足」でどう行動するか、グループで話し合わせました。子どもたちは、どう答えればいいのか戸惑っています。しかし、一生懸命考え、ワークシートを埋めていきます。しかし、一通り意見が出ると活動が止まってしまいました。漠然とどんな人と聞いても、ただ思いついて話すだけになってしまいます。話し合う視点が明確ではないのです。全体の発表の場面では、授業者は一人ひとりをしっかり受容しています。学級がよい雰囲気であるのもよくわかります。しかし、子どもの発言をつなごうとするのですが、子どもたちは自分が書いたことを発表するだけで、なかなかうまくつながりません。友だちの意見は、「そういうのもあるよね」と互いに認めるだけのものであって、それ以上深く考える必然がないのです。そういう状態ですので、なかなか授業者がねらうようなところまで、考えが深まりません。いきおいどうしても発言をまとめようとする切り返しが多くなります。子どもたちは、先生が求める答があるのではないかと、探るようにもなりかねません。

では、どうすればよいのでしょうか。道徳では自分に引き付けて考えることが大切です。ここで問題にしている「そこにいるだけでまわりを明るくする人」が子どもたちとって意味のない人であれば、そもそも話になりません。たとえば、まず、「そういう人ってあこがれる?」「なりたいと思う?」と全体で確認します。その上で、ではそうなるために「あなた」はどのような行動をとるかと問いかけるようにすれば、自分の問題としてとらえることができます。友だちの考えを聞いて、最終的にどういう行動をとるか考え、発表させることで友だちの意見は意味を持ってきます。

最後に、自分はどんな人間になりたいかとその心をワークシートに書いて、何人かに発表してもらって終わりました。子どもたちは、その前の活動に引きずられたのか、深いところからの言葉少なかったように感じました。
前半の「そこにいるだけでまわりを明るくする人」については全体で何人かに発言させ、自分はどんな人間になりたいかを中心にグループ活動をした方がよかったのかもしれません。

授業検討会は柔らかい雰囲気で進みました。この4年間で検討会の雰囲気もずいぶん変化しました。ベテランと若手がうまくかみ合ってきています。若手の授業を見る力もずいぶん上がってきたと思います。
私からは、道徳の授業は「自分に引きつける」「相手の気持ちになる」「自分はどう行動するか考える」ことを大切にして課題や進め方を考えるとよいということ、つなぐためには、その視点を明確にしておくこと(根拠、結果・・・)を話させていただきました。また、学校全体で教室の人間関係ができているから、一つひとつの授業から学ぶことがとても多い。だからこそ、たくさんの課題も見えてくる。これからは今まで以上に授業研究が求められることを伝えました。

今回の授業からは多くの気づきがあり、授業者への個人アドバイスは何時間でもできるほどでした。それは、授業が悪いのではなく、子どもたちがとてもよい状態で、授業者が一つひとつの場面で真剣に考えて進めていたからです。ちょっとした切り返しの言葉にもどうすればもっと子ども言葉を引き出せたのだろうということを考えさせるものがあったのです。今回は前半部分を中心に細かく話をしながら、一緒に考えてみました。通常はこのような細かいアドバイスはしません。指摘や課題があまりに多くなると消化しきれずに落ち込むからです。しかし、授業者が非常に謙虚で、向上しようとする意志を見せてくれたので、指摘が多くても消化しきれると思い、一つひとつの場面を丁寧にアドバイスしました。1時間近い時間、本当に真剣に授業を振り返ってくれました。基本となる部分がしっかりでき上がってきました。次の課題はレベルの高いことですが、きっと乗り越えて素晴らしい教師に成長してくれると思います。

今回の授業は、この学校の今を的確に表してくれるものであった気がします。ベースはできた、次はもう一段上の課題にチャレンジする。そういう段階なのです。しかし、来年度は人事異動がかなり多くなりそうだということです。ひょっとすると今の状態を維持することに追われるかもしれません。多くの学校が苦しむ問題です。
うれしいことに、来年度もこの学校のお手伝いをさせていただくことになりました。私もできる限りのお手伝いをさせていただくつもりです。いろいろな障害があるかもしれませんが、この学校はきっと次の段階に上がってくれると信じています。

研修を意味のあるものにするためのヒント

今年度もたくさんの学校を訪問し、授業アドバイス、講演などをさせていただきました。私の訪問をうまくきっかけにしていただいている学校に共通のことが何点かあります。そのことについて少し話をさせていただきます。

・個別のアドバイスを、研修の担当者も同席して聞く
これは、なかなか微妙な問題もあります。個人の授業をプライベートな物と考えると同席しづらいところもあります。しかし、同席して、時には私のアドバイスに、指導する立場、指導される立場の両面からフォローをしてくださる方もあります。また、逆にじゃまにならないように目につかないところで、しっかりメモだけとってくださる方もあります。
いずれにしても、一人ひとりへのアドバイスを把握して、後からしっかりフォローしてくださるのだろうと想像がつきます。また、自分がアドバイスする時の参考にもしているといっていただけることもあります。
同席できるということはその学校の人間関係がよいということの表れでもあります。逆に同席して、授業者の立場で一緒に聞いて考える姿勢を見せることで人間関係をつくっていくという考え方もあります。そういう方は、私の指摘に対して「私もそういうことがあります」「私も勉強になる」といった、授業者の側に立った言葉を合いの手で入れられます。そして、最後に「ありがとう」という気持ちを必ず授業者に伝えているように思います。

・授業を見てフォローをする
個別の授業アドバイスもそうですが、全体での講演をした後でも、先生方の授業を積極的見てくださる方がいます。これを機に授業が変化していたり、アドバイスや講演の内容を実行している先生方にたいして、そのことをほめてやる気を引き出しているのです。まず変化した、実行したことを評価することはとても大切です。結果が出るまでには時間がかかります。変化することは不安なことです。そこで、変化したことをほめれば、頑張って続けることができるのです。
もちろん、子どもの姿が具体的によい方向に変わるなどの成果が出ていれば、そのことを指摘することで大きな達成感を与えることができます。たとえ、自分で手ごたえを感じていても第三者にほめられるととてもうれしいものなのです。

・情報を整理、発信して共有化する
講演や個別のアドバイスの内容を、少し時間をおいて整理して配っている方がいます。一度は聞いていることなのだから、あらためて伝えることもないと考える方もいるでしょうが、違う視点でまとめたものを見ることは内容を理解したり自分のものにするのには大きな効果があります。単に議事録のような整理ではなく、自分の視点で、時には自分の考えも付け足し、自分の言葉で再構成される方が多いのもうなずけます。自分の言葉で書かれていることなので、先生方からその内容に関して質問されても、明確に応えることができます。こうした形で発信することで、学校の中に借り物ではない基準ができてくるのです。
また、個別のアドバイスでも、他の先生方にも参考になると思うことは全体に発信している方がいます。このとき、あえてその授業者の名前を書かれる方もいます。○○先生から「学んだ」という言葉を使って意図的に評価し他の先生とつないだり、「学校全体の課題」と言うことで授業者が個人で抱え込まないようにしているのです。

・次につながる研修内容にする
授業研究であれば、その日に出た課題を次の授業研究の授業者に意識して実施してもらう。模擬授業をして、それを受けた授業を次の授業研究とする。このように、研修と研修に連続性を持たせる学校が最近は多くなっています。一過性の研修では、単発的に実施して、毎回が何の関係も持たないようなものでは、積み上がっていきません。1回の研修でそんなに大きな効果は期待出ません。地道に課題を克服していく。やったことの効果を実感していく。こういう積み重ねが大切です。
個別アドバイスも1人1回やって終わりではなく、年に何回か、または翌年にもう1度同じ人に対してアドバイスする機会をつくってくださる学校もあります。単発ではないので、進歩をほめたり、ずれを修正することで次により多くの進歩が期待できます。授業のベースがしっかりできてくれば、次の課題を明確にして提示できます。加速度的に進化するのです。

・研修を教員の人間関係づくりに活かす
若手同士、若手とベテランなどのチームで授業づくりをしている学校があります。授業について互いに相談したり、アドバイスをもらえる関係をつくることで、教員の人間関係を作っているのです。こういう学校では、私のアドバイスも先生同士をつなぐ要素を意図的に増やしています。たまにしか来ないアドバイザーより身近な同僚がいつでもアドバイスしてくれることの方が先生方の力量アップによりつながります。
また、人間関係ができてくれば、互いの授業へのアドバイスをグループで一緒に聞くこともできるようになります。互いの授業から学び合う関係ができれば、これはとても大きな力になります。

以前と比べて、現職教育、研修といったことが重視されているように感じます。それを活かすためにさまざまな工夫がされています。ここで述べたことはそのほんの一部ですが、研修をより意味のあるものにするヒントになればと思います。

教務主任・校務主任会で講演

昨日は、教務主任・校務主任対象の研修会で「授業力を高める校内研修の進め方」というテーマで講演をおこないました。

校内研修では、学校として目指す姿を具体的にすることがスタートであり、そのためにはまず学校の状態をきちんと把握することが大切です。授業をよく見て、子どもの姿から課題を見つけ、学校として目指す姿を明確にし、そこへどうアプローチしていくか考えることが必要となります。
全体での研修を中心にするのか、グループや個人を単位として考えるのか。学校の規模や課題のありようで変わってきます。いずれにしても、受け身ではなく、積極的に参加できるように仕組むこと、一人ひとりの行動につながることが求められます。そして、行動の結果が具体的な成果として見えるようなものでなければ継続的なものにはなりません。そのためには、実践を引っ張る立場の人間がどうすれば目指す姿をつくれるかを知っていなければなりません。

そこで、後半はサブテーマである「学ぶ意欲を引き出す授業」をどうつくるかという具体的な話をしました。
学ぶ意欲を持つ子どもの具体的なイメージをどう考えるかですが、「自ら考えようとする子ども」であり、それは「他者の考えを聞こうとする子ども」「自分の考えを聞いてもらいと思う子ども」でもあります。別の視点で言えば自己の存在が認められていると感じる「自己有用感を持てている子ども」につながります。
そのために授業に求められるのは、「子どもを受け身にしないこと」「子どもの活動量の確保」「考えるための課題」です。そして、意識してほしいことは「聞く」「ほめる」「切り返す」ことです。
これらについて、できるだけ具体的にお話をさせていただきました。

当初の予定よりも時間をいただいたのですが、それでも少し延長してしまい大変申し訳ないことをしました。よい反応をいただいたので、つい余分なエピソードを話しすぎたせいです。伝えたいことを絞って、思い切ってカットするのも大切なことです。授業ではこのことをよくアドバイスするのですが、お恥ずかしい限りです。1度きりの機会ということで入れ込みすぎているのかもしれません。参加された方々に伝えるべきことがきちんと伝わったでしょうか。またの機会があれば、もう少し課題を絞ってより具体的な話ができればと思っています。これからリーダー、管理職として活躍する期間もたくさんある方たちへ話す機会をいただいたことは、私にとってもうれしいことでした。ありがとうございました。

研修のその後が大切

先日授業アドバイスをした学校(研修担当者の目に見えない努力を感じる参照)の研修担当の方から、メールが届きました。研修のまとめとその後の報告です。

毎回研修の後には「子どもが輝くための授業力アップ作戦」と題したまとめが配られています。
今回は、

まとめ
算数授業のポイントを押さえて授業を進めよう
− 教科書をよく読むことが最善の策 −

その1
子どもが活躍できるように仕組むこと

その2
「考える」場をつくること

その3
「算数をつくる」というスタンスでいること

という整理をされています。

その説明を1ページ目に文章で、具体的な授業の進め方を2ページ目にイラスト入りの図解でわかりやすく示しています。

一部を紹介すると、
その2 「考える」場をつくること
「データからグラフや表をつくる」「計算する」など技能を高めることは大切なことです。しかし、それに終始して、「グラフや表を基に考える」「計算の仕方を考える」といった考える場が少なくなっていませんか。教科書の問題に「考えましょう」がある時に、「考える」場をつくると算数を楽しむ子どもが増えてきます。そうなると授業も楽しくなります。

囲みで
「活動あって、思考なし」小学校の授業でよくあることです。作業だけでなく、作業の前後に、「考える」場をつくりましょう。

図解では、

【作業】1辺5cmの立方体の展開図を書きましょう。

作業前
「どのように展開図をかけばよかったでしょうか。」
「辺に沿って切り開くとよかったよ。」
「切り開き方を変えると違う展開図になりそうだよ。」

作業後
「展開図を書いて気付いたことを発表しましょう。」
「11種類の展開図ができました。」
「1種類の展開図から、他の展開図もできるよ」
「1つの正方形を一つの頂点を中心に回すんだよ。」

と子どもとのやり取りをわかりやすく例示しています。

また、個別に私がおこなった指導もコンパクトにまとめて、各先生に配っています。

その後の報告では、模擬授業をおこなった先生が、先日その場面を実際に授業したことが書かれていました。
とても落ち着いて話し合いを進めていくことができ、笑顔もあり、誤答も受け止めることができていたそうです。
模擬授業がうまく生きたようです。

また、私が授業アドバイスをした先生が進んで模擬授業に挑戦してくださったようです。やってみた結果「曖昧であったところが、明確になった」ということです。
実践の中で多くの子どもが発言し、教師が笑顔で受け止める授業が展開されているという報告もありました。

このようなメールをいただくこと自体もうれしいのですが、研修を一過性のものにせず継続的な授業改善につなげるために働きかけていただいていることが何よりうれしいことです。
全体の授業力がアップしていく学校では、必ずこのような担当者の働きかけがあります。私のようなものが年に数回訪問したぐらいで学校がよくなることは期待できません。そのことをきっかけにして、いかに日常的な授業改善の動きにつなげるかが勝負なのです。この学校では、間違いなく先生方の授業力が向上していくことと思います。この学校にかかわることで、私自身も多くのことを学ぶことができています。このような出会いに心から感謝しています。

『学校を応援する人のための学校がよくわかる本』発売

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『学校を応援する人のための学校がよくわかる本』(3部作)が、2月1日に(株)プラネクサスより発売となりました。

玉置崇先生が第1部と第2部を私が第3部を執筆いたしました。

「近ごろはホームページで、積極的に学校の考えや思いを発信している学校が出てきていますが、残念ながらその数はまだごくわずかです。学校を応援しようという方はたくさんおられるわけですから、学校の様々なことをしっかりと伝え、正しい目を持った強力な応援団を各地につくりたい。二人でこのような思いを持ったのです。」(第1部まえがきより一部抜粋)

「明日の社会を支える子どもたちのために学校を応援したい。自分ができることは何でもしようという方が私の周りにもいらっしゃいます。この書籍(3部作)を通じて、こんな素晴らしい学校の応援団が一人でも増えることを願っています。」(第3部はじめにより一部抜粋)

学校のことを多くの方に伝えたい、また学校の先生方にも、もう一度自分たちの原点を見つめていただきたい。そういう願いを込めた書籍です。

◆第1部【組織・しくみ編】…玉置 崇 著(定価:本体1500円+税)
◆第2部【学習内容編】…玉置 崇 著(定価:本体1500円+税)
◆第3部【授業編】…大西貞憲 著(定価:本体1500円+税)

ご購入は(株)プラネクサスの書籍注文のページから。(amazon.co.jpからも購入できます)

「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」の事前検討会

先週末は、愛される学校づくり研究会に参加しました。今回は2月25日(土)に開かれる「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」の第1部のパネルディスカッションの事前検討の会でした。

当日のパネリストの中で参加できる方が集まり、会員が聴衆となって本番と同じように進行をしながら、問題点や事前準備が必要な事柄を洗い出すことが目的です。予想よりも皆さんヒートアップせずに、穏やかな雰囲気で進んでいきます。具体的な実践、エピソードを交えての話は説得力があります。この日の話だけでも十分聞く価値があったと思います。しかし、テーマが「学校のお荷物(学校HP&学校評価)を切り札に」となると、どうしても話が管理職やリーダー向けの話になりがちです。そうではなく、どの立場の人にも納得性のある話にする必要があるという反省が出ました。当日はこのあたりのことを意識した流れになると思います。
各自が事前に用意する資料もほぼ決まりしたが、当日の流れがどうなるかは全く予想がつきません。今回事前に話したことで、当日はあえて違った側面から話をする方もいるはずです。一くせも二くせもあるパネラーと司会者です。どんな挑発があるやもしれません。うっかり乗ればヒートアップすること間違いなしです。会場に隠し玉が仕込まれているかもしれません。
当日はライブ感あふれるパネルディスカッションになることは間違いありません。

検討会の後、当日のスタッフをしてくださる方を交えて打合せです。たくさんの方にこのフォーラムが支えられていることをあらためて感じました。ありがたいことです。
おかげさまで、フォーラムも定員を超える申し込みをいただきました。事務局の方で座席の調整を試みてくれています。若干の定員増が可能かもしれません。興味のある方は問い合わせてみてください。

フォーラム当日まであと3週間を切りました。来場される皆様にとって楽しく、有意義で刺激のある会にするべく、最善を尽くしたいと思います。ご期待ください。

活動から活躍へ

子どもたちを受け身にさせない。学習内容を定着させたい。そのためには子どもたちの活動量を増やす必要があります。友だちの意見を聞くことも立派な活動ですし、問題を解くことも、グループでの話し合いもすべて活動です。ここで意識してほしいことは、子どもが活躍することです。

友だちの意見をしっかり聞いていても、発表の後「いいですか?」「いいです」では、聞いたことが活かされとは感じません。
頑張って問題を解いたあと、挙手をしたが指名されない、指名された子が答えて、「いいですか?」「いいです」「はい、○をつけて」で終わってばかりでは、だんだんやる気をなくします。
グループの話し合いが終わった後、各グループで一人ずつ発表して終わる。発表しなかった子は自分の考えや意見を評価されたと感じるでしょうか。

子どもが活発に活動しても、ただ活動して終わりでは、子どもの学習意欲は高まっていきません。子どもが「活動する」ことから、「活躍する」に視点を変えていくことが求められます。活躍するとは、他者に認められると言い換えてもいいでしょう。

友だちの意見を聞く場面なら、「今の意見を聞いてどう思った」「なるほどと思った人いる」など聞いたことが活かされる場面や評価される場面をつくることが大切です。時間がなければ、同じ考えの人に挙手させるだけでもよいでしょう。
問題を解いたり、作業したのであれば発表者をできるだけ増やすとよいでしょう。正解が出ても「正解」と言わなければ何人でも指名できます。言葉が足されたり、考えがつけ加えられればそのことを大いに評価するようにすることで、発言意欲も増します。また、机間指導の際に、声をかけながら全員に○をつけることも効果的です。
グループ活動であれば、友だちの意見を互いにポジティブに評価するように指導しておくことが大切です。また、発表の時には、結論を聞くだけでなく、「どんなこと話した」「誰の意見が参考になった」など発表者以外も評価できるような問いかけも必要です。

子どもの活動量を増やすことはとても大切です。その上で、全員が活躍する授業、活躍したと感じられる授業を目指してほしいと思います。

中学校の入学者説明会で講演

先日、中学校の入学者説明会で、保護者の方に子どもの中学期をどう支えるかについてお話をさせていただきました。

今回は、中1ギャップについて多くの時間を割きました。
小学校から中学校への変化は、概ね次のようなものがあります。

学習
・トピック的な学習から体系的な学習へ
→求められる学習量の増大、家庭学習の比重が増す
・定期試験の存在
→大きなプレッシャー、はっきりと評価される

部活動
・部活動が新たに加わる
→体力的に負荷がかかる
・先輩後輩の関係が加わる
→精神的に負荷がかかる

コミュニケーション
・複数の学校から人が集まる
・学級担任中心から教科担任中心
・横の関係中心から縦の関係が加わる

この変化にうまく対応できないと

・学習、部活動についていけない
・支えていた人間関係がなくなる
・新しい人間関係がうまくつくれない
・周囲の仲間から認めてもらえない

といったことが起こり、結果、「自己有用感の喪失」につながります。

学校も小中連携などでこのギャップを埋めようとしていますが、家庭では、子どもの居場所をつくることを大切にしてほしいと伝えました。

・ここにいていい
→存在を無条件に認めてあげる
・自己有用感
→自分の行動が他者にとって良い結果を与えたことが生きがいにつながる
→自分の役割がある

いい子だから愛しているのではなく、何があっても大切な子どもであることを伝える。「あなたの仕事は勉強よ」などと言わずに、家庭内での自分の役割を持たせて、家族の一員としての存在を認める。おこずかいなどの報酬でつったり、「えらいね」と上から目線でほめるたりするのではなく、「○○してくれてありがとう」の一言を大切にする。このようなことを特にお願いしました。

また、保護者と学校が互いに聞き合い、わかってもらう努力をすることで、信頼関係を築き連携することも大切です。お互いの共通の願いは「子どもの幸せ」です。行き違いがあっても、このことを忘れなければ、必ず理解し合えます。このことを強くお願いしました。

限られた時間でどれほどのことを伝えられたかわかりませんが、家庭での子どもの居場所をつくるのに少しでもお役にたてば幸いです。

模範授業から大いに学ぶ

先週末の算数・数学の授業力アップの研修講座でのT先生とW先生の模範授業から多くのことを学びました。

T先生はICT活用でも有名な方です。今後の授業の方向性を考えるということで、デジタル教科書の活用を見せてくださいました。T先生は小学校の経験は少ないのですが、教材の都合で小学校3年生のグラフの授業に挑戦されました。小学校であろうが中学校であろうが、授業の本質は大きく変わりないことがよくわかる授業でした。
デジタル教科書でも教材研究の大切さは変わりません。この教材は風邪を引いた子どもの体温の変化を題材に、グラフの一部分を省略、拡大して変化を見やすくするというものです。体温を題材にしているのは、どの子どもも熱を出した経験があり、何度なら体温が高いという感覚があるからです。その経験から体温が上がっていると感じるのに、グラフからはそう読み取れないというズレを子どもから引き出し、グラフの一部を拡大する必然性を持たそうという展開です。
用意したワークシートにグラフを書かせます。一人ひとり全員に○つけをし、その上で隣同士確認をさせます。
「どう思った」というあいまいな聞き方で、いろいろな言葉を引き出します。子ども役の言葉をしっかり受容しながら、広げる言葉と捨てていく言葉を選んでいます。子どもから、値に対して目盛りの間隔が大きすぎる、グラフの変化がわかりにくいことにつながる言葉を意図的につないでいきます。「あまり違わない」というような発言であれば「何の違い」と問い返します。教師が子どもの言葉をまとめるのではなく、子どもたちに整理させながら、何人にも発言させることで全員に理解させます。

ここで、発問です。教科書は「変わり方がもっとよくわかるようなグラフのかき方を考えてみましょう。」となってグラフが準備されています。これを完成させてから違いを考えさせることになります。これに対して、デジタル教科書はグラフを動的に拡大していく機能があります。T先生はそれを活かして、「変化がわかりにくいから工夫をした」とグラフを動的に拡大して、工夫した人のアイデアを言わせます。子どもの言葉を引き出しながら、何度も見せます。動きを活かして興味を持たせ、出てきた言葉をつなげます。一人が気づいたことをもう一度動かして見せることで確認させます。こうして、全員にどのような工夫がされて、どのようなよさがあるかを共有化させました。

わずか10分余りの授業場面でしたが、デジタル教科書のよさを活かしながら、子どもの言葉を活かす授業とはどういうものかを見事に教えてくださいました。
私の解説で、この素晴らしさを伝えきれたかはわかりません。しかし、解説などなくてもその場で見ていた受講者の方はきっとその素晴らしさを感じ取っていただけたと思います。

W先生の授業は3年生の1より大きい分数でした。自身の経験から子どものつまずくところを意識した、教科書とは少し違う導入を見せくださいました。
子どもは数直線を意識しすぎて、1の長さを等分した最初の部分だけを単位分数として認識しがちです。3等分した最初だけが1/3と考えるのです。そこで黄色のテープとそのテープと同じ長さで3等分の線を引いておいた白いテープを3本用意します。1/3がどこにあるかを問いかけ、左端だけでなく、真中も、右端も1/3であることを押さえます。印をつけたそれぞれを切り離し、黄色のテープに続けて重ねて1となることを確認します。こうすることで、どの部分も同じ1/3という量を表すことを押さえました。
続いて、もう一度黄色のテープを用意し、続いて、今度は1より長いテープ3つを並べたもの(5/4、4/3で4等分の線を引いたもの、5/4で5等分した線を引いたもの)を貼ります。ここで、このテープは1のところで折ってあり、それを広げて見せながら貼りました。1を意識させた動きです。
子ども役から「1より大きい」を引き出しました。この後、何を何等分するということにこだわり、子どもから5等分だけど、単位量である1は5等分でなく4等分されているから、1つは1/4、それが5つだから5/4を丁寧に引き出しました。
子どもの言葉で、ねらいにつながる言葉を復唱し、他の子どもにつなげる。特に大切な言葉は何人にも言わせる。教師のねらっているものが何かがとてもよくわかるものでした。どの子も全員受容はするが、広げる、深める、つなげるものとそうでないものは明確です。また、言葉を引き出すための仕掛けはいたるところにちりばめられています。子どもの言葉で進めているため、一見すると子ども任せにも見えますが、完全に授業をコントロールしています。いつ見せていただいても、くやしいくらい計算されています。

解説のO先生は、その部分を柔らかい口調でわかりやすく、見事に浮き彫りにしてくださいます。一つひとつの場面の意図がとても明確になりました。

お二人の授業を見て、共通点がたくさんあります。子どもの発言の価値づけや、拾う拾わないの判断が実に的確なのです。どうつなげるかの切り返しの言葉もとてもシャープです。T先生はデジタル教科書、W先生はテープ。デジタルとアナログの違いはありますが、その利用の意図も明確です。個性は違ってもよいと思える授業には実に多くの共通点があるのです。今回、研修会10年目の特別企画ということで、とても贅沢な時間を持つことができました。受講者だけでなくスタッフの私たちにとっても学びの多いとても有意義なものでした。T先生、W先生、解説のO先生、そして見事な子ども役を演じてくれたスタッフの皆さんありがとうございました。
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