成長の原動力と向上の条件
昨日は、中学校で数学の指導案へのアドバイスと英語の授業アドバイスをおこなってきました。
数学の初任者は、前回の教材研究をもとに(個別のアドバイスの場で管理職の役割を考える参照)指導案を作成してきました。確率に興味をもたせよう、確率は面白いと感じさせたい、そういう思いのあるものでした。前回の宿題を自分で考え直して、確率のおもしろさを感じてくれたようです。一番確率が高そうにみえる事象が実はそうではない。子どもたちの予想を裏切るような課題を考えてきてくれました。しかし、そのような課題は何故そうなるのかを考えるにはハードルが高いものです。だからといって先生が説明したのでは、せっかく子どもたちが興味を持ってくれても、学びにはつながっていきません。また単純におもしろそうだと試行するだけでは、数学的にも深まりません。 そこで、次のようなアドバイスをしました。 「直感でいいから予想して」という問いかけは単純に「予想して」に変える。 直感といっても子どもなりの根拠があるはずです。直感でいいと言ってしまうと、予想の根拠を聞いても答えない可能性があります。予想の理由を聞くことで、より試行の結果に対してその理由を考えようとします。 「一番確率が高いのはどの組み合わせ」という発問を活かして、確率の意味に迫る。 「一番確率が高いということは、どういうこと」「どうすると確かめられる」と子どもに問いかける。「でやすい」といった反応には、1、2回の試行をして「これがでやすいね」といって揺さぶる。「もっとやる」といったときに、「どのくらいやればいいの」と問い返す。こういったやり取りをすることで、みんなで何度も確かめることの意味、確率とは何を表すのかを考えさせます。最終的には大数の法則につながるやりとりです。 子どもが大切なことに気づく仕組みをつくる。 この課題は、立方体の3面に○、2面に△、1面に×をつけたものを2個使います。組み合わせの表を使って場合の数を調べることで確率を考えさせようとしていますが、この場合、○△×の出方は同様に確からしくないので、どの立方体の○か、どの面の○かを意識させる必要があります。たとえば、サイコロに○△×のシールを貼る。シールの色を2種類用意する。このような仕掛けをしておくことで、シールの色でどちらのサイコロか、シールをはがしてみることで1の面の○、2の面の○とどの面の○か意識することができます。何が同様に確からしいかを子どもたちが気づきやすくなります。 このほかにもいろいろアドバイスしましたが、授業者はこのような問いかけや仕掛けをすると子どもたちがどんな反応をしてくれるだろうかと、次第にワクワクしてきたようです。彼自身が授業を楽しみになってきたようです。教材研究をすることで、子どもの反応が楽しみになることは、授業力を高めるための大きな原動力です。この授業がきっかけとなって大きく成長してくれることと思います。彼がこのあとどのように授業を作り上げるかとても楽しみです。参加する先生方にとってもよい授業研究になってくれることと思います。 英語の授業はALTとのTTでした。一斉の発声場面で子どもたちの声が出ないことが気になりました。ALTの言葉やジェスチャーは真剣に聞いています。しかし、声はでないのです。正解の○をもらっても声が出ない。黒板に答が書かれるとやっと声が出る。このような場面もありました。 間違えてもいい、自信がなくても話せる。そんな雰囲気をつくることが大切です。たとえ小さくても声がでれば、笑顔で大きくうなずき、何度も繰り返す。それにつられて次第に声が出る生徒が増えれば、声が出た子と目を合わせてうなずく。全員がしっかり声が出るまで繰り返す。最初は大変かもしれませんが、根気よく育てていくことが大切です。 声を出さなくても、答を写しておけば困らない。こういう子どもたちに、しっかり声を出すとほめられる。声を出すと自信を持って使えるようになる。そういう経験をさせるようにお願いしました。 アドバイスが終わった後、教頭と現職教育の担当者の3人で来年度の研修のあり方について話し合いました。子どもたちの状態がよいために、先生方の授業力向上の意欲が薄れているのではないかと危機感を持っておられました。どうすればよいかすぐに方策が見つかるわけではありません。しかし、先生方をリードする立場の方がしっかりと問題意識を持っていれば、必ずよい方向に進んでいくものです。何も考えずに前年通りではなく、うまくいかないと悩みながらでも次の課題に立ち向かう姿勢はとても立派だと思います。私もできる限りのお手伝いをさせていただきたいと思います。きっとよい結果が出るものと信じています。 フォーラム提案授業の編集
先週末に「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」での提案授業の編集をおこないました。国語、算数(2時間)、社会それぞれの授業を10分間に縮めました。
プロにお願いしての編集ですので、こちらの要望に素早く対応して、ワイプやオーバーラップなどの効果も瞬時に入ります。また各チームの事前の準備もよかったため当初の予定よりかなり早く仕上がりました。 再度授業を見直しながら、当日の感動をあらためて思い出しました。どの授業もカットするのが惜しい場面の連続です。逆にどこを見ても皆さんお見せしたい場面ばかりです。しかし、当日の提案をシャープにするために、ICTの活用場面を中心に大胆に編集しました。 当初は何をやっている場面か文字で入れて説明する必要があるかと思っていましたが、繰り返し行われる場面をカットすることで流れがすっきりとし、説明がなくてもかえってわかりやすいものになりました。 今回の作業を通じて、授業は子どもたちが理解し考えるための時間を本当にたくさん取っていることにあらためて気づきました。ポイントの説明やまとめだけなら10分程度で十分です。その他の時間はすべてその内容を子どものものにするための活動に当てられているのです。時としてくどいぐらいに繰り返して発言させたり、いろいろな視点から何度も説明させたりします。教師が一方的に説明する授業であれば、進むのが早いのは当然です。 授業にとって大切な要素が自分の中でより明確になった気がします。 久しぶりに会う授業者は、以前より自信に満ちた表情になっているような気がしました。今回の授業づくりを通じて自分の成長を実感できたのでしょう。大変だったが楽しかったと感想を言ってくれた先生もいました。どの先生もフォーラム当日をとても楽しみにしてくれています。今回の提案授業は彼らにとって大きな壁だったかもしれませんが、それを乗り越えたことで大きなものを得たようです。ぜひ彼らの素敵な表情を見に来てほしいと思います。 教師の人間関係をよくする
教師の人間関係がよい、悪いという言葉を聞くことがよくあります。授業研究を通じて互いに学び合おうとするときに問題となることが多いようです。人間関係が悪いので、活発な議論にならない、学び合おうとしない。こういう形で耳にします。人間関係が悪いのでこの学校はよくならない、指導はしたくないとおっしゃるアドバイザーもいらっしゃいます。私も、先生方が互いに学び合うためには、人間関係が大きな要素であることは否定しません。そこに問題があるのなら、何とかしたいとも思います。私なりに先生方の人間関係をよくするために気をつけていることをまとめてみます。
人間関係が問題点として語られる学校にはいくつかの特徴があるように思います。 学級経営や授業がうまくいかないときに、担任の問題として指摘する。 特定の人同士、小グループでは話をするが、全体としてはあまり会話しない。 授業を見られることに抵抗感が強い。 授業検討会などで、あまり意見が出ない。 一部のベテランが意見を言うと、他の先生の意見が出にくくなる。 人間関係が悪いからこうなるのか、こういう傾向があるから人間関係が悪くなるかはわかりませんが、ここにヒントがあるような気がします。 ・困っている先生を助ける雰囲気をつくる たしかにこの先生のやり方ではうまくいかないと思うことがあります。しかし、多くの場合本人も気づいて苦しんでいます。あまり責めても追い詰めるだけです。もちろん個別にアドバイスも必要ですが、まわりの方に助けてもらえるようにします。同じ学年の先生や、その学級とかかわる先生方に「大変でしょうが、先生ならできると思うので」と子どもへの指導を通じて助けてくれるように頼みます。助けてもらった先生がまわりの助けに気づくのを待って、「みんなが助けてくれてよかったですね」とコメントし、「ありがとう」を伝えるようにアドバイスします。もちろん私も助けてくれた先生方に、「感謝されていましたよ。ありがとうございました」と個別に伝えます。 また。研究授業の担当になったときなどは、有志による模擬授業や検討会への参加をまわりの先生にお願いします。事前のアドバイスを受けて授業がよくなると、かかわった先生がその先生の進歩認めるとともに自己有用感を持ちます。 助けあうことで自己有用感を持ち、互いにかかわることに前向きになっていきます。 ・ネガティブな言葉を封印する 授業検討会などでは、よかったこと、参考になったことを中心に話すルールにすることで、話し合いの雰囲気がよくなります。批判的なことばかり言われると他者とかかわるのが嫌になります。逆にほめられると相手に対してポジティブな気持ちになります。授業を見られるとほめられるということが常態化すると、見られることへの抵抗感も薄れます。 ・小グループで活動をさせる 検討会では、ベテランと若手を組み合わせるなどふだんあまり交流がない先生同士を小グループにして話し合わせることで、きっかけをつくります。ポジティブなことを中心に話し合うようにすることで、楽しいものになります。また、授業アドバイスを小グループでおこなうことも有効です。よい意見を大いにほめたうえで、感想を他の先生に聞くことで仲間からもほめられるようにします。自分がこの先生方に認められた感じることでよい関係になっていきます。 ・意図的につなげる ベテランや力のある先生のよいところを大いにほめ、「他の先生に教えてもらうように伝えますので、そのときはよろしくお願いします」と伝えます。若手に対しては、「○○先生はとても上手だから教えてもらったら。頼んでおいたからだいじょうぶだよ」と声をかけます。力のない先生に批判的な方でも自分に教えを乞う人に対しては寛容になります。助けてあげようという気持ちになっていきます。 これをやれば人間関係が必ずよくなるというわけではありません。しかし、昔のようにノミ(飲み)ニケーションに頼るわけにもいきませんし、ほっておいても人間関係はよくなりません。管理職やリーダーの方が、教師の人間関係をよくするために必要なことを意識してほしいと思います。 対策を考えるアプローチ
授業がうまくいかないときは何らかの対策を立てることになります。子どもたちが積極的に発言しない。子どもたちが人の意見を聞かない。「発言して」「意見を聞こう」と言っても、そう簡単には変わりません。どのようにして考えればいいのでしょうか。
対策を考えるために、まずその原因を考えることが大切です。 子どもが積極的に発言しないのであれば、子どもたちに自信がないから、人の意見を聞かないのであれば、子どもにとって聞くことに価値がないから。このような原因を考えてみるのです。想像した原因が正しいかどうかはわかりませんが、とにかく考えてみなければ先に進みません。 次に、どうすればよいのか具体的に考えていくわけです。 考え方の一つは、どう原因を取り除くかです。自信がないのが理由であれば、自信を持たせるという発想です。わかった、自分の答えは正しいと思えるように、わかりやすく授業をしよう。まわりと確認する時間をとって確認させよう。机間指導で○をつけて安心して発言できるようにしよう。聞くことに価値がないのなら、聞くことを価値づけしよう。聞いていたことをほめよう。すぐに教師が解説せずに、子どもの意見に対してどう考えるか他の子にたずねてみよう。こういうことです。 また、原因を無効化する、結果を変えるという発想もあります。自信がないから積極的に発言できないのであれば、自信がなくても積極的に発言できるようにしようと考えるわけです。「自信がなければ積極的に発言できない」理由を考えると言ってもよいかもしれません。間違えるのが嫌だ、馬鹿にされたくないから積極的に発言しないと考えるのであれば、間違えても嫌な思いをさせないようにしよう。正解、不正解とすぐに判断しないようにしよう。馬鹿にしない雰囲気をつくろう。わかった人ではなく、困っている人と聞こう。こういうことです。 ここで対策を考えるときに、授業技術そのものを知らないとその選択肢が非常に狭くなってしまいます。日ごろから他の教師の授業を見たりして、授業技術を学んでおくことが必要になります。そして、一つひとつの技術が何を意図している、何を解決するものであるかがわかっていないとうまく活用することができません。日ごろから授業技術を意識しておくことが大切です。 また、対策を取ったからといって必ずうまくいとはかぎりません。うまくいかなければ、他の対策を考える。他の原因を考えてみる。思いつかなければ、まわりと相談するといったことが必要です。打つ手がなくなってあきらめてしまうと、いつの間にか、うまくいかないのは子どもが悪い、子どものせいだと考えるようになってしまいます。こうなってしまうと、授業改善をする意欲そのものがなくなってしまいます。あきらめずに、原因を考え、原因を取り除く、原因を無効化する、結果を変えるといった発想で切り抜けていってほしいと思います。 学校の役割を考える
学校教育の目的は何だろうと考え直すことがあります。
子どもたちが学校で勉強するのは何のため、誰のためなのか。先生方はこのことを明確に意識しているのでしょうか。少なくとも義務教育である小中学校では、「本人のため」だけではないことを明確にしてほしい気がします。どうも「社会のため」という視点が子どもたちからも先生からも抜け落ちているように思います。先生方はよりよい社会の担い手になるということはどういうことなのか、子どもたちに伝えているのでしょうか。 「この問題は試験(入試)に出るから覚えておきなさい」といった言葉が学習の動機づけに使われる場面に出会うことがありますが、何か違う気がします。確かに個人の自己実現の手段という側面が教育にあることは否定しません、しかしそれだけではないはずです。自分たちが学ぶことはよりよい社会の実現のためであるという意識と実感を持たせてほしいのです。 子どもたちにこのことを伝えるのは簡単だとは思いません。口で言えば伝わるわけではないでしょう。学校、教室という小さな社会で他者とかかわり合いながら学ぶことで少しずつわかってくることだと思います。そのためには、自分の存在が他者にとって価値あるものだと実感する場面を意図的につくることが大切だと思います。学習場面では、自分がわかればいいのではなく、友だちがわかるためにどうかかわるか、自分の意見や考えがどうまわりに認められるか。特別活動では、それぞれが役目を果たすことで何ができるのかといったことを子どもたちが意識するようにしてほしいのです。 学校は塾とは違います。子どもたちに自分たちがこれからの社会を担うのだ。そのために学んでいるのだということをしっかり伝え、一人ひとりに自己有用感を持って学校生活を送らせることで、よりよき社会の担い手に育てることも学校の大切な役割なのです。 |
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