子どもが活動する発問

子どもへの問いかけ、発問によって子どもたちの動きは大きく変わります。資料を提示して「気づいたことをメモして」といった発問ではなかなか動いてくれないこともあります。どのようなことを意識するといいのでしょうか。

一つは意欲をもたせることです。
比較的簡単な方法は、

「先生は4つみつけたよ。先生よりたくさん見つけられるかな」
「隣のクラスでは、10みつけたよ。このクラスはいくつ見つけられるかな」
「2分で何問解けるかな。昨日よりたくさんできるといいね」

というように、目標となるような指標を合わせて提示するといったやりかたです。指標は何も数値に限りません。「みんながあっと言う」「みんながなるほどと言う」といったものもよいでしょう。もちろん興味をもたせる工夫ができればそれに越したことはありません。これに限らず、子どもが意欲的に取り組むためには、どんな要素が必要かを意識することが大切です。

もう一つは発問からどう具体的な活動につなげるかです。
「考えて」といった抽象的な言葉は子どもにとっては何をすればよいかわかりにくいものです。

「先生はこんなことに気づいたよ」
「たとえば、この線を引いたところからどんな気持がわかるかな。○○さんどう」

というように、一つ例を提示したり、個人活動の前に、全体で一度やってみることで、具体的に何をすればよいか明確にします。
また、「考える」「気づく」といった発問は、比較となる物を与えることで視点がはっきりして活動しやすくなります。

「この絵を見て気づいたこと」
→「この絵を見て、今の暮らしと違うところを見つけて」

というように、比較の対象を意識させることにより、コントラストが明確になり、見通しがもてます。
発問に対して期待する子どもの活動を具体的にイメージすると、そのため必要な知識、視点などの要素が明確になってきます。どのような知識を事前に与える、確認する。視点を明確にするために比較の対象として何を意識させる、提示するといったポイントが明確になります。その上でもう一度発問を見直すとより具体的で子どもたちが活動しやすいものにすることができます。

基本となる発問を考えてそれで終わるのではなく、子どもが意欲的に活動するためにはどんな要素が必要か、発問を具体的な活動につなげるために何を付け加えるか、どう変えるかといったことを考えてほしいと思います。こうして発問を練っていくことが、子どもたちの意欲的な活動につながっていくはずです。

授業の感想に課題や意識が見える

昨日は、アドバイザーとしてお手伝いしている中学校の現職教育に参加してきました。7月に撮影した国語の授業ビデオを見て学び合うというものでした。

先生方はとても熱心に授業を見た感想をまわりと話し合っていました。だれしもが授業を大切に思っている証拠です。
話し合ったことを全体で聞き合う場面で気づくことは、授業を見る視点が、自分が課題としていること、意識していることと関連しているということです。
言葉のつなぎを課題にしている先生は、言葉づかいが丁寧であることや、考えを発表させた後に同じ意見の生徒に確認をしていることに気づきます。
子どもの考えで授業を進めたいと考えている先生は、子どもの動きが止まっているときの支援についてどうであったかと意見を言ってくれます。
授業者が子どもの発言に対して、意見を聞かせてくれて「ありがとう」と言っているのに気づく先生は、自分も意識して「ありがとう」を言っている先生です。
授業について感想や気づいたことをみんなで共有するということは、互いの課題や大切にしていることを共有することでもあります。授業者からだけでなく、互いに多くのことを学び合えるのです。

この学校では、現職教育といった特別のときだけでなく、日ごろから授業について教師同士が語り合うことが増えてきています。それに伴って課題意識も明確になっているように思います。学校がどのように変わっていくか、これからも楽しみです。

算数・数学の授業力アップ研修会に参加

昨日は、算数・数学の授業力アップの研修会にオブザーバーとして参加しました。毎年この時期に先生方の自主運営でおこなわれています。今年でもう9年目です。毎年何かしらバージョンアップされているので、とても楽しみにしている研修会です。以前は授業技術やスキルにスポットを当てての実技研修が中心でしたが、ここ数年は新任や若い先生の参加が多くなってきたことに合わせて、個々の授業技術が授業の中でどう活かせるのか、また教材研究は具体的にどうやるのかといった内容も付加されるようになってきました。

今年は一つの教材を1日かけていろいろな視点で考えることができるような構成でした。最初の実習では、子どもの言葉を活かす授業のイメージが伝わるような教師と子どものやり取りで練習をするようになっていました。このシナリオが実にコンパクトでしかもポイントとなる要素が明確でわかりやすいものでした。スタッフが真剣に取り組んで、工夫していることがよくわかります。

次の実習は、一見単純で簡単に見える授業技術を実際に体験してみることで、その難しさとポイント、その効果を実感できるようにつくられていました。限られた時間で研修の効果を高めるために、思い切って入門レベルに絞っていることが印象的でした。よい判断だと思いました。

そして、最後の研修は、この日学んだ技術を取り入れて授業を組み立てるとどうなるかを、参加者を子ども役にして模擬授業形式で見せるものでした。その後、この授業を具体例として、教材研究が教科書を読みこむことが中心であることを授業者が解説してくれました。
この模擬授業が実に素晴らしいものでした。授業者の発言、行動が意図的につくられていて、復習問題の数値の工夫や定着問題の提示の仕方など見所がたくさんありました。しかし、あまりにも自然に授業が進んでいくので授業者の意図を参加者がすべて読み取れていないようにも感じました。解説は教材研究にスポットを当てていますし、自分の口からは話しにくいこともあるでしょう。この授業のよさにあまり触れられていないのがとてももったいなく思いました。このことを同席しているスタッフの先生に話したところ、ありがたいことに私が授業解説をする時間をとるように進言してくださいました。おかげで、特別に時間をいただいて、この授業の素晴らしい点を伝えることができました。ありがとうございました。

今回は時期の問題もあり、例年と比べてスタッフの数が少なかったのですが、一人ひとりのレベルが高く、参加者の満足度が高い研修を実現できていたと思います。
また、参加者は自腹を切って参加するような方たちです。学ぶ意欲も旺盛で積極的で、実に素直に講師の話を受け止めていました。きっと多くのことを学ばれたことと思います。ただ残念なのは、この研修会はリピーターが少ないことです。多くの方が経験するという意味ではよいことなのですが、一度研修を受けたからといってすぐに身につくものでもありません。研修の内容を授業に活かそうとすれば必ずうまくいかないことや疑問点にぶつかります。そういった問題意識を持ってぜひ来年も参加していただけたらと思います。

スタッフの皆さんの努力に敬意を表するとともに、大きな刺激とたくさんのことを学ぶ機会をいただいたことに感謝します。ありがとうございました。10年目となる来年の研修会はさらにバージョンアップしていることと楽しみにしています。

大学生に講演

昨日は大学で学生対象の講演をおこないました。聴講者の大半は小学校教員志望の学生ということです。主催者からのリクエストは、「元気が出る話」です。教員志望者の心得のようなことを厳しく話せば、「そんなの無理!」とやる気をなくしてしまうかもしれません。できるだけ現場のことを話しながら、何が教師にとって大切なのか理解してもらい、その上で頑張ろうという気持ちになってもらいたい。大学生相手の経験が少ないこともあり、通常の講演より準備に時間を掛けることになりました。

以前見た大学の授業の様子が頭に強く残っていて、学生は反応してくれないのではないかと不安に思っていました。反応が悪いときの対策をいろいろと考えていたのですが、想像以上によく反応してくれました。
問いかけに対しては素直に考え、まわりともちゃんと関わり、聞き合ってくれます。納得したときはよくうなずいてくれます。後から試験があるわけでもないのに、メモもしっかりととってくれました。特に、実際に教壇に立った時に役立ちそうなスキルなどは、ほとんどの学生がメモをとっていました。先生になりたいと思っていることがよく伝わります。

・教師が目指す姿と子どもが願う教師の姿のズレ
・教師という職業の難しさと素晴らしさ
・子どもを見るということ
・教師がわかっていることと子どもがわかることの違い
・教師に求められる資質と能力

このようなことを話しましたが、反応のよさについつい余計な話もしてしまい、質問を受ける時間がなくなってしまいました。申し訳ないことをしたとちょっと落ち込んだのですが、退室するときのたくさんの笑顔に救われました。ありがとうございました。皆さん、元気が出たでしょうか? 私はたくさんの元気を皆さんからいただきました。どこかの現場でまた会えることを楽しみにしています。また、このような機会を与えてくれた先生方に深く感謝します。

若手教師との勉強会

昨日は小学校で若手教師5人と勉強会をおこないました。3年生の算数「何倍でしょう」を題材にして全員で教材研究をおこないました。3倍の2倍は6倍になる。結合法則につながる教材です。

最初に、この教材のねらいは何かについて話し合いました。小学校6年間のかけ算の学習の流れをつかんでいれば位置づけやねらいがよくわかるのですが、経験が少ないためなかなかシャープになりません。そこで、教科書をしっかり読みこむことをしました。
なぜ最初の例は連続量なのに、次の問題は離散量なのか?
なぜ左のページでは解き方のヒントとなる図が書いていないのに、右のページでは書いてあるのか?
左のページの例題と右のページの例題では何が変わっているのか?
・・・
たくさんの疑問や、気づきがありました。教科書を読みこむことで、この教材のねらいが次第にはっきりとしてきました。

続いてどんな流れ・説明であれば子どもがわかるのか、教師の視点から考えてみました。教師にとっては当り前すぎて、意外とポイントがわかりません。ここでも、教科書が教えてくれます。
教科書の左側も例題は3倍、2倍という表現ですが、右側のページでは4はい分、2はい分となっていますが、図では倍となっています。何はい分も倍であることは子どもにとってそんなに簡単ではない。最初に倍の意味の確認がいる。何はい分をかけ算の定義の「いくつ分」にもどって、倍につなげる。いろいろなことに気づきました。

ここで先生方から、教師が主導して説明するとどうしても一部の子どもしかわからない。多くの子は手順を覚えるだけで、自分で納得して説明できるようにならない。子ども同士で説明し合うような活動をすればいいと思うが、子どもたちが話せない。こんな言葉が出てきました。とても素晴らしい悩みです。ならば、どうすれば子どもたちが話してくれるようになるのか。教材研究からは外れますが、ひとしきりその話題で話しました。

子どもたちが話せるようになるには、毎日の授業の積み重ねです。すぐにできるようになはなりません。子どもたちが自分で理解できるような課題、活動が必要です。どんな活動をさせるか5人で考えてもらいました。
おもしろいアイデアがでてきました。
「赤の車は2m走る。青の車は赤の3倍、黄の車は青の2倍。黄の走った長さは?」
この問題で、ノートに赤、青、黄の走った長さを順番に図で書かせることで長さを求めさせる。こうすることで問題を把握しやすくなるし、図に長さを書きこむことで答えもでる。でも、そうすると黄は赤の「何倍」と問いかけたとき6倍がダイレクトに出てくる。3×2倍がでてこない。どうしよう。先生方にとってとてもよい学び合いです。赤と黄だけを図に書かせる。どうやって黄の図を書いたと問いかける。そうすれば、3×2に気づいてくれる。こういう修正になりました。これが正解ということでありません。いろいろと考えることで先生方の懐が広がります。

半日、一つの教材にどっぷりとつかりました。教科書としっかり向き合うことで、読みこむポイントが見えてきます。普段は忙しくて一つの教材にこんな時間を割くことはできませんが、ポイントを押さえて教科書を読み込むことで、効率的に教材研究ができるはずです。このことに気づいてくれたと思います。
また、5人はとても楽しそうに授業について話し合っていました。子どもの固有名詞も出てきます。子どもの姿を浮かべながら教材研究をしていました。これをきっかけに互いに学び合う雰囲気が広がることを期待します。
若い先生と一緒に教材研究する機会は私にとってもそれほど頻繁ではありません。私にとっても多くの学びと刺激のあった時間でした。ありがとうございました。

研修はフォローが大切

メーリングリストなどで、参加した研修の報告をいただく機会が増えてきました。よくまとめられた記録は、よく理解でき大変参考になります。また、私の講演記録も送っていただくことがあるのですが、これを読むのは結構つらいものがあります。第三者がこれを読んでもよくわからないだろうなと思うことが多いからです。決して書き手が悪いのではありません。私の話が横道にそれたり、論理の展開に隙間があったりしているからです。ライブ感覚を大切にして、その場のノリで話をつくったり変えていることも一貫性がないことの原因かもしれません。
そんな私の講演や研修ですが、先日教えていただいた研修とその後はとても考えさせられるものでした。(三楽の仕事日記「2011年07月15日(金) 派遣指導主事会研修会 」参照)

授業のビデオを見て、参加者に感じたことを意見交換していただき、考えてもらう形をとっています。受け身でなく積極的に参加し、考えてもらうよい方法です。参加者の発言をつないで考えを深めていきます。授業と同じです。私もこういった方法をとることがよくあるのですが、どうしても最後には解説やコメントを多く入れてしまいます。先生方に授業で気をつけるようにお願いしているパターンを自らやってしまっているのです。言い訳になりますが、あまり話をしないと、お金をいただいているのに働いていないと思われてしまうかもしれないと心配になってしまうこともあるのです。
それはさておき、この研修では、講師の方は聴き役に徹していたそうです。その場で参加者が自ら考えたこと、気づいたことを大切にし、自ら学ぶことを期待していたのだと思います。参加者の力を信じているからでしょう。これは授業でも同じです。言うことは簡単ですが、なかなかできることではありません。授業なら何回もチャンスがありますが、研修では1回だけということがほとんどです。よけいにハードルが高いのです。

素晴らしいのは、参加者がより深く学べるために、主催者側がちゃんとフォローしていることです。講師の話に関連して資料を研修後に提供しているのです。(三楽の仕事日記「2011年07月17日(日) 石井順治さんの本」参照)
そして、さらに素晴らしいと思ったのは、10日ほどして、講師の方が参加者あてにコメントを書いて送られたと聞いたことです。適当な時間をおいてからコメントすることで、参加者は落ち着いて振り返ることができますし、その場で聞くより冷静に受け止めることができるはずです。なるほど、こういう方法もあるのですね。

私もたくさんの機会をいただいていますが、まだまだ工夫が足りないと考えさせられました。アドバイザーとして関わっている学校で、先生方が急速に成長していると感じる場合は間違いなく、管理職や研修担当の先生がフォローをしっかりしているところです。逆に、外部の者ができることは限られているのです。研修で何かが変わるのではなく、きっかけにして内部を変える動きが必要なのです。
研修をより効果的にするために、講師としてのあり方、フォローするための仕掛けをよりしっかり考えなければいけないとあらため気づかせていただきました。

研修の打ち合わせ

昨日は、来週おこなう研修の打合せをしてきました。市が主催する研修会で、200名ほどの参加者です。舞台で模擬授業をおこなっていただき、それを私が適宜解説するかたちでおこなわれます。その授業者との打合せです。

模擬授業は中学校1年生の国語の単元「古典との出会い」でおこないます。授業者は言語活動を「新しい言葉を獲得する」「自分の言葉で語り合う」ことを両輪と考えて、この授業を構想されました。ここが明確なので、視点をはっきりさせて検討することができました。

現代語訳があると子どもたちは、それを頼りに原文の言葉の意味を考えようとしません。そこで、原文だけのワークシートを準備し、言葉をコンテキストに理解させたいというのが、「新しい言葉を獲得する」という視点での授業者の思いでした。私からは、この流れを活かしながら、子どもたちがわからない語句にもレベルがある。考えることで類推できそうなものとそうでないものを仕分けする必要があること。子どもたちがこの語句の意味を知りたいと思うための工夫や、塾等で学習して語句の意味を知っている子だけが活躍するようにならないための工夫が必要であることをアドバイスさせていただきました。
また、音読を大切にしたいということだったので、古文の文節を意識して読めるようにするために、ワークシートから読点を除き、自分の手で書きこむ活動を加えることにしました。

同じ市の先生方の前で模擬授業をおこない、その場でコメントされるというのは想像以上にプレッシャーのかかることです。それを快く受け、自分が学ぶチャンスととらえて真剣に取り組んでいただけていることには、本当に頭が下がります。授業について深く考える濃密な時間を過ごさせていただきました。私も中学校の古典の授業について新たな視点を得ることができました。

当日は、国語の視点だけでなく、多くの教科で役に立つ気づきを参加者にしてもらえるよう、工夫したいと思います。本番までにどのように授業がブラッシュアップされるかとても楽しみに思うと同時に、その授業をうまく解説しなければいけないという、心地よいプレッシャーを感じています。

教科書を比較する

夏休みは普段できない教材研究をするチャンスと書きましたが、そのもう一つが教科書の比較です。(教科書を離れた教材研究参照)
教科書を読みこむことを縦と横に広げるのです。(教科書を読みこむ参照)
具体的には、今自分が教えている内容と対応するものが、前の学年ではどのように扱われているか、学年が上がればどのように深まるのかと縦に広げて読み込むこと。そして、他の教科書ではどのような内容となっているのかと横に広げて読み込むことです。

縦に比較することで、今までで子どもが学んだことが整理されるので、学習の土台となることがはっきりします。今後どのように展開されるのかを知ることで、つながりを意識して学習内容を整理しまとめることができます。この学年で意識すべきことが明確になるのです。

横に比較することで、学習内容のポイントが明確になり、展開の幅が広がります。教科書が違うと、その内容は思ったより異なっているものです。逆に変わらないところは、間違いなくしっかり押さえなければならないところです。また、その違いを見ることで、異なった展開の方法を知ることができます。他の教科書のまねをするという発想ではなく、そのよいところを取り入れたり、知っておくことで、子どもたちの多様な反応に対応する幅が広がります。
また、今の時期は、新学習指導要領対応のものと以前のものを比較するのもよいでしょう。何が変わったか変わらないかが指導要領を読む以上にはっきりして勉強になります。

小学校の先生であれば、苦手な教科に絞ってもいいかもしれません、また教科書を何種類も集めるのが難しそうであれば、特徴的と言われる2、3社に絞ってもよいと思います。机の上に教科書を並べて過ごす時間を取ってみませんか。きっとたくさんの発見や気づきがあると思います。

学校マネジメントを考える

学校マネジメントという言葉がよく聞かれるようになりました。マネジメントをどうとらえるかは、人によって差があると感じます。学校にはマネジメントはなじまないという方もいれば、これからは積極的にマネジメントを取り入れなければならないという方もたくさんいます。では、今までは学校マネジメントという考えはなかったのでしょうか。

マネジメントとは、目的を達成するために人・物・金・情報をいかに活用するかということですが、これはどの組織でも当然考えなければいけないことです。うまく機能しているかどうかは別にして、学校でもこのことは考えてきたはずです。だれをどの学級の担任にするか、行事の担当をだれにするかなどは、マネジメントという言葉で意識されていなくても、立派なマネジメントの一部なのです。

では、なぜ今までマネジメントが大切なこととして意識されてこなかったのでしょうか。その理由は、大きく2つあるように思います。

一つは学校が達成すべき目的(たとえば子どもたちの心身の健やかな成長?)に対してその達成のための目標がなかなか具体的にできないことです。教育の特性として、目標が抽象的になりやすいのです。結果、目標が達成できたかどうかのチェックも曖昧になってしまいます。そのため、そもそも具体的な目標をきちんと設定しなかったり、設定しても行動計画が立てられない。チェックできないので行動計画が改善されない、責任が明確にならないといった状態になってしまいます。どこに向かっているのか、どこにいるのかわからないようでは、マネジメントどころではありません。

もう一つは、学校では人・物・金・情報に関する自由度が低いことです。人に関しては、一般の教員は学級担任、教科担任、部活動顧問を振り分けるとほとんど余裕がありません。定員を勝手に増やすこともできませんから、どこかに人を厚くしてパワーアップをしたくてもなかなか難しく、教員の負担を増やさずに何かをやることはとても困難なのです。
物とお金に関しては学校が独自に予算を請求したり、自由に裁量して使える範囲は全体の予算の中で非常に限られています。情報に関しても、組織的に情報を集めたり、共有化するということがされにくい体制があります。
マネジメントをおこなうにも道具や材料がとても少ないのです。打てる手が限られているため、マネジメントをしようという意識が薄いのです。

では、なぜ今学校マネジメントという言葉が言われるようになってきたのでしょうか。それは学校を取り巻く状況が少しずつですが変わってきているからです。

一つは学校と地域の連携が進み始めたことです。その結果、地域の方が学校経営に積極的に協力するようになってきました。当然、第三者にもわかりやすい、客観的な目標の設定と評価が必要になってきます。学校評価の導入です。目標とその達成を明確にすることが求められるようになりました。これはマネジメントそのものです。また、人の問題に関しても、地域の方がボランティアとして学校の活動に協力してくれるようになってきました。学校として活用できるリソースが増えてきています。地域の方と一緒になって新しい教育活動に取り組んでいる学校が増えています。

もう一つはICTの活用です。学校評価にしてもそうですが、新しいことを始めればそのための労力はどうしても必要です。しかしICTをうまく活用することで負担を減らすことができます。最近多くの学校で導入されている校務支援システムは、教師の事務作業の効率化をはかることで、多少なりとも余裕を生み出してくれます。うまく活用することで教師間の情報の収集や共有化も促進できます。また、ホームページの活用は学校と地域の情報共有に大きな効果が期待できます。

大きく状況が変わったとはいえないかもしれません。しかし、こういった変化をうまくとらえ、マネジメントを工夫している学校は大きな成果をあげています。また、学校独自で使える予算をつけている市町村も増えてきました。環境は間違いなくよい方向に向かってきています。従来の思い込みを捨てて、あらためてマネジメントを考え直すことで、学校がよりよい方向に向かっていくことと思います。

教科書を離れた教材研究

多くの学校が今日から夏休みになったことと思います。部活動の大会で忙しい方もいらっしゃると思いますが、普段よりは心の余裕があるのではないかと思います。
日ごろの教材研究は、明日の授業をどうするかに追われて、腰を据えておこなうことがなかなかできません。夏休みは普段とは違った視点で教材研究をするチャンスなのです。

たとえば、教科書を離れた教材研究です。教科書以外の素材を探すといってもいいでしょう。

国語であれば、教科書以外に扱うとすればどんな物語がいいだろうと探します。図書館でいろいろな本を探して日を過ごすのもいいと思います。
算数・数学であれば、文章題や応用問題をオリジナルでつくります。
理科や社会であれば、教科書や資料集以外の資料を探します。旅行の好きな方は旅先で資料になりそうなものを探すのもいいでしょう。
英語であれば、授業で使えそうな会話やシチュエーションを考え英語にします。
・・・

自分で探した、つくった素材を授業で使ってみることで、子どもが関心を持つ要素、問題に必要な条件などいろいろなことがわかります。授業時間の関係などの理由で実際には授業で使うことはできないかもしれませんが、このような教材研究は教科書や資料を理解する力をつけます。自分で考えることで、教科書がなぜこの物語を載せたのか、なぜこのような数値で問題をつくったのか、なぜたくさんある中からこの資料を使うのか、・・・。その理由がわかるようになります。教材のポイントが明確になるのです。

ノルマがあるわけではありません。いつまでにやらなければいけないというわけでもありません。気持ちに余裕のあるときだからこそ、ちょっと違った視点で教材研究をしてみてはいかがでしょうか。きっと新たな気づきがたくさんあると思います。

先生の意欲と子どもの気持ちのズレ

昨日は私立の中高一貫校を訪問し、高等学校の授業をいくつか参観させていただきました。

先生からは教えよう、わからせたいという意欲が、子どもたちからはわかりたい、できるようになりたいという気持ちがそれぞれ感じられるのですが、うまくかみ合っていないと感じる部分もありました。
先生の意欲は、説明や板書へのエネルギーへと転換されていきます。いきおい先生のしゃべる量はどんどん増えていきます。一方子どもたちは、先生から発する情報が多くなるので理解して整理する余裕がありません。結局、理解することより発信された情報をノートに書き留めることに専念してしまいます。先生は、子どもたちが手を動かすことで授業に参加していると判断して、問題と感じていません。しかし、子どもたちは黙々と作業をしているだけで、わかりたいという気持ちはしだいに下がっていきます。

教師はこれを教えたい、わからせたいという意欲をしゃべることで満たしてしまう傾向があります。そうではなく、どういう活動をすればわかったと感じるのか、どうすればそのことを知ることができるのか、子どもの側に寄り添って授業をつくる必要があります。教師の望む自分の姿は感じられたのですが、どういう子どもの姿を見たいのかをあまり感じることができませんでした。
校長先生はこのことを十分理解されていました。この状態を改善するには、いろいろなアプローチがあると思います。この学校がどのようなアプローチを選ぶのか大変興味のあるところです。わたしもよい形でお手伝いができればと思っています。

研究発表が終わっても進化する

中学校の授業アドバイスをおこなってきました。

最初に見た授業は講師の先生の美術の授業でした。体調を崩されて休職されている方の代わりの先生です。この暑い中、子どもたちはどんな様子だろうかと心配だったのですが、どの子も驚くほど集中していました。講師の方の力もありますが、子どもたちが育っていることが何よりの理由でしょう。休職された先生が担任をしていた学級ですが、学級経営もしっかりできていたことがうかがえます。
この後見たどの学級のどの授業でも、子どもたちはしっかりと集中していました。授業の内容については気になる点もあるのですが、「どんな先生でも崩れない子ども」に育っていました。

研究発表が終わった翌年で緊張感が薄れる時期です。また、中心だった先生の何人かが異動になったこともあり、昨年のよい状態を維持できるか心配していましたが、この時期にこれだけよい状態であるということは、杞憂だったようです。
校長先生に、「昨年のよい状況を維持していますね」とお話ししたところ、「昨年より進化していると思っています」と笑顔でお答えいただきました。校長先生は日ごろから子どもたちの様子や先生方の頑張りを見ているからこそ、このように答えられるのでしょう。今後この学校がどのように進化していくか、ますます楽しみになってきました。

若手への授業アドバイス

昨日は、小学校で若手の先生への授業アドバイスをおこなってきました。
互いの授業を見合い、最後に全員で授業についていろいろ話をしました。

ほぼ全員に共通した悩みは、子どもが積極的に活動する、参加するにはどうしたらよいかでした。作業や知識を聞く場面ではそうでもないのですが、資料から気づいたことを発表する、算数の考え方を発表するような場面では、なかなか友だちの発表を聞こうとしないのです。

この状態をつくり出しているのにはいくつかの要素があります。

1つは、参加しなくても子どもたちが困らないことです。教師の説明やまとめを聞くことで理解できるのであれば、真剣に聞く必要はありません。下手に手を挙げて指名されて間違えるよりは、じっとしている方が安全なのです。いつも教師がまとめたり説明するのではなく、子どもたちの言葉で授業を進めることが大切です。

もう1つは、課題に手がつかないために、参加意欲をなくしていることです。自分の考えを持てているときは、参加できるので積極的になります。課題を解決するための足場をしっかりつくってから取り組ませるようにする必要があります。
また、友だちの考えを理解できたかを聞いてあげたりすることで、自分の考えを持てなくても授業に参加できるようにすることも効果的です。

このような話を皆さんとしました。

どの先生も自分の授業の課題を意識していて、少しずつですがクリアしてきています。
これから授業をするたびに、今まで以上に多くの課題が見つかっていくことと思います。しかし、それこそが成長の証です。最後にこのことをお話しました。彼らの今後の成長がとても楽しみです。

一人ひとりのほめる観点を意識する

子どもを一人ひとり見ることは大切だとよく言われます。また、子どもはほめて伸ばすということもよく言われます。ところが、通知表の所見を書くとなると、なかなか言葉が浮かんでこなかったり、悪いところしか思い出せなかったりすることがあります。意識的に一人ひとりのよいところを見つけようとする姿勢を持たないと、全員をきちんと見て、ほめることはできないのです。

教師は学習や生活態度に問題があると、それを直そうと注意をします。よい行動があるとそれをほめるようにします。ところがこの絶対的な基準をそのまま学級に当てはめると、ある子どもは教師から注意をされてばかり、ほめられるのは特定の子どもだけで、大多数の子どもは、ほめられることも注意されることもほとんどない。このようなことになってしまいます。こういう学級経営をしていると、所見で書くことが思い浮かばなかったり、悪いことしか思い出せなかったりするのです。

大切なのは絶対的な基準ではなく、個人内での相対評価を意識することです。一人ひとりを思い浮かべ、この子がこんな行動をとったらほめてあげようという、ほめる観点を個人別に作るのです。
大したことでなくてもよいのです。宿題をよく忘れる子は、「宿題をやってくる」、いつも授業に遅れる子は、「授業に遅れない」。おとなしくて積極的に発言しない子は、「授業中に発言する」。学習のよくできる子は、「友だちに聞かれたらきちんと教える」。このようなものでよいのです。
宿題をやってくるのは当たり前のことです。だからそんなことはほめてはいけないと考える方もいるかもしれません。大切なことは、子ども一人ひとりが成長することです。できないことを指摘するのではなく、その子にとっては進歩であればそのことをほめるのです。

ほめる観点を教師が意識すると、その場面を見ようとします。自然に一人ひとりを見る機会が増えていきます。また、なかなかほめる場面に出会わなければ、そういった場面をつくろうとします。自然に子どもの成長を促すための働きかけを教師がすることになるのです。

一人ひとりの「ほめたいことリスト」をつくってみませんか。そして、学期末などの節目にどれだけほめることができたかチェックします。できた子には次のほめたいことを考え、できなかった子には次の働きかけを考えたり、ほめたいことをもう少し達成しやすそうなものに変えたりして、リストを更新します。
子どもの足りないところを指摘するのではなく、できたことをほめる発想をしてほしいと思います。

若い先生はアドバイスを求めている

10月の教師力アップセミナーで、野口芳宏先生に解説・講評いただく国語の授業の撮影に参加しました。

学期末の忙しい時期にもかかわらず、快く公開授業を引き受けていただき、授業者には本当に感謝以外の言葉がありません。
まだ5年目の若い先生ですが、とても意欲的です。グループでの活動ではなかなか自分から話せない子がいるので、今回はペアでの話し合いに挑戦するということでした。ペアでの活動の後にグループでの活動を入れましたが、ペア活動が効いたのか、非常によい話し合いができていました。いくつかのグループでとてもよい意見が出ていましたが、残念ながら全体で話し合い深めることは時間切れで次に持ち越されました。次の時間もぜひ見たいと思わせるものでした。

授業後、参観者と授業者で懇談しました。私以外の参観者は他地区の校長、教頭、プライベートで参加の指導主事とこの学校の研修主任です。子どもたちの様子からどのようにすればもっと活躍させられたか、教材のどこにこだわれば、もっと深い読み取りにつなげられたか。具体的なことがたくさん語られました。私にとってもとてもたくさんのことを学ぶことができました。当日、野口芳宏先生がこの授業に関してどのような話をされるかとても楽しみです。
興味をもたれた方は10月10日(月・祝)の教師力アップセミナーにご参加ください。(申込みはこちら

研修主任から、授業者は管理職の方が具体的に授業について指摘してくださったことをとても喜んでいたと聞きました。参観者の専門教科が全員国語ではなかったと聞いて驚いてもいたようです。授業者は今まで管理職の方に授業を見ていただいても、このような具体的な指摘やアドバイスをもらうことがなかったようです。専門教科が違うからだと納得していたのかもしれません。そのためか、今回の経験が新鮮だったようです。
この学校の管理職の方が授業について具体的な話をしなかったのは、できないからではないと思います。管理職が授業についてあれこれ言うのは、プレッシャーになるので嫌がられると思っているからでしょう。ところが学校現場で感じるのは、多くの若い先生は教えてもらいたい、アドバイスをしてほしいと思っていることです。
管理職の方は、若い先生の授業をどんどん見て、アドバイスをすればいいのです。もし、嫌がられていると感じるのなら、それはアドバイスの内容が相手に納得できるものではなかったからです。こうしろと命令するのではなく、相手に寄り添って一緒に考える姿勢でアドバイスをすればきっと多くの先生は受け入れてくれるはずです。それでもダメなら、別の工夫をすればいいのです。
若い先生がどんどん増えている今、若い先生の授業力を延ばすのは管理職の大切な仕事だと考えて、どんどん行動を起こしてほしいと思います。

進歩する条件

昨日は中学校で授業アドバイスをおこなってきました。

昨年小学校から中学校へ異動してきた先生の授業を、久しぶりにまとまった時間見ました。
子どもがミスしやすいところをきちんと押さえていました。この時間のねらいやポイントが明確です。きちんと教材研究をしていることがよくわかります。
子どもから出たつぶやきも拾って、授業にきちんと活かしていました。これも、子どもからこんな言葉が出るといいと教材研究の段階で意識しているからできることだと思います。
また、ポイントを子どもたちがちゃんと理解しているか、机間指導で○つけをすることでしっかりチェックしていました。子どもたちがミスしやすそうな問題に絞って○つけをしていることからもよくわかります。
教師が板書をしているときは、全員がしっかりと写していました。板書を説明しているときは、集中して聞いています。教師が指示しなくても子どもたちは自分たちでちゃんと場面を判断していました。きちんと指導されていることがよくわかります。
子どもたちは、柔らかい雰囲気の中で集中して授業に参加していました。先生のやさしい笑顔が印象的でした。

昨年は初めての中学校ということもあり、戸惑いが表情にでて、重い雰囲気の授業が多かったのですが、格段の進歩です。しかし、その進歩は突然のジャンプではなく、課題を一つずつゆっくりとクリアしていった結果です。
この先生は、私が学校を訪問するたびに、アドバイスを求めてくれます。授業をたった2、3分眺めただけのときや、まったく見なかったときでも。今の状態から少しでもよくしようと授業を見た感想を聞く。わからないことや課題、悩みに対して積極的にアドバイスを求める。そこに向上しようとする姿勢があらわれています。そして、一番素晴らしいことは、アドバイスを素直に受け入れてくれることです。最初のうちはなかなか進歩が見えませんでしたが、それでも地道にやり続けてくれました。基本的なことが一つずつできるようになり、それにつれて進歩の度合いも大きくなってきました。基本的なことができるようになるとともに、より高度な課題がたくさん見えてきます。自分でも気づくことが増えてきます。授業がうまくいくようになってそこで止まる先生も多いのですが、この先生はずっと課題を持って授業に取り組んでくれました。

自分に欠けていることを素直に認める勇気を持ち、すぐにうまくできなくてあきらめずにやりつづけることが進歩するための条件です。このことをこの先生の姿からあらためて学ばせていただきました。まだまだ課題はたくさんあります。だからこそ、より大きな進歩が望めるのだと思います。

教師にとっての基礎基本の定着を考える

最近若い先生方の授業を見ていて気になるのがチョークの持ち方です。鉛筆と同じように持って板書しているのです。黒板に正対して子どもを見ない先生が多いことに疑問を持ち、細かく観察していて気づきました。
子どもたちを見ながら板書しようとすると、体を開いて斜めに書くことになります。鉛筆のように持っていると斜めでは力が入りません。親指と人差し指の2本の指でチョークを持つことが必要になります。

自分のことを振り返ってみると、誰かに教わったという記憶がありません。ある先生は、自分は小学生に授業の中できちんと教えているとおっしゃっていました。私も学校で教わったのかもしれません。
また、子どもの様子をしっかり見ながら板書できるようにと、真正面を向いたまま手を裏返して書けるように練習もしました。いろいろと工夫しているうちに自然に身についたのかもしれません。

いずれにしても、誰かに教わるか、自分で工夫して身につけることが必要なのでしょう。ところが、最近の若い先生のチョークの持ち方がおかしいということは、教わっていないし、板書中に子どもを見ようと工夫していないということです。指導する側、若い先生自身、双方に問題があるということです。

ある校長は、「そんなことは私がきちんと指導している」と力強く話されました。しかし、そのことに気づいていない管理職もいらっしゃいます。
今の時代、基礎基本の定着は子どもたちだけの問題ではなく、教師に対しても必要なことのようです。教師にとっての基礎基本は何か、それをどのようにして定着させるのか。そんなことは教えなくても知っているはずだという思い込みを捨てて、学校経営に携わる方が真剣に考えるべき問題のように思います。

PTA対象の講演

昨日は小学校のPTA対象のセミナーで講師を務めました。テーマは「いじめる側やいじめられる側にならないための子育て」でしたが、私にとっても勉強するよい機会をいただきました。

この依頼をきっかけに、いじめそのものではなく、その根っこにある問題は何かについて考えてみました。いじめる子はなぜいじめるのか、いじめられる子はなぜいじめられるのか。そこから、親がどのように子どもに接することがいじめを防ぐことにつながるのかを考えてみました。

結論としては、やはり、子どもが自己有用感を持つ、自分がまわりに認められると感じることが大切であるということです。自分が認められていれば、他の人を認められる。結果としていじめが起きにくいということです。まず家庭で子どもをしっかり認めてあげることをお願いしました。
また、子どもたちに想像力をつけることも大切だとお伝えしました。自分や友だちの行動の原因や結果を想像する力があれば、軽率な行動は避けられ、他者を思いやることができるようになるはずです。子どもと一緒に考えるような機会をつくるようお願いしました。

「ありがとう」の言葉がたくさん交わされることを目指せば、結果として子どもにとって居心地のよい家庭となります。そのような家庭で育った子どもがいじめにかかわることは少ないと思います。

参加されたお母さん方には、本当に真剣に話を聞いていただけました。子育てに真剣に向かい合っている方ばかりなのでしょう。きっと家庭を「ありがとう」の言葉で満たしてくれることと思います。私も程よい緊張感の中で、楽しく話をさせていただきました。とてもよい機会をいただき、ありがとうございました。

学習計画を考える

長期休業などで、子どもたちに学習計画を立てさせることがあると思います。なかには学習計画を立てて満足してしまう子もいます。子どもたちにとって意味のある学習計画とはどのようなものなのでしょうか。

子どもたちの学習計画は、何時から何時まで勉強するといったものがどうしても多くなります。時間が来たから勉強するぞと机に向かい、それから何をするか考え始めます。これではなかなか取り組めませんし、すぐにやる気をなくします。
計画はできるだけ具体的にするように指導します。国語をやる、漢字の練習をする、漢字の練習帳の何ページをやる。後にいくほど具体的になっています。具体的であればあるほど、それだけ実行できる可能性は高くなります。
何をどれだけやるかが明確であれば、机の前で時計を見て時間がたつのを待っているのではなく、早く終わらせて次の行動に移ろうとするとして集中力が生まれます。早く終われば遊んでもいいのです。

ここで、もう一つ注意してほしいのは、やったことで満足するのではなくその結果どのような力がついたか、何ができるようになったかという成果を意識することです。そのためには具体的に何ができればよいのかの目標と成果を明確にする必要があります。漢字の練習であれば、練習帳の何ページの漢字が全部きちんと書けるようになるといった成果を明確にすることです。

この目標と成果を明確にするためには、学習計画全体を通じての目標、成果を具体的にすることが大切になります。休みを通じてどんな力をつけたいのか、その成果をどんな形ではかるのかです。目標は漢字力をつける。その成果は、問題集のテストで何点とれたかで確認する。そのために、練習帳を毎日何ページやる。こういう発想です。
子どもたちが自分でこの目標と成果をつくれないようであれば、教師の側で最低限のものを用意することが必要かもしれません。休み中の課題と連動してもよいですが、その場合、成果を具体的にチェックする方法をプラスする工夫がほしいと思います。

また、子どもたちが立てる計画は、気合を入れすぎて無理をしたり、確実にできることを意識して押さえ目になったりします。そのために、チェックポイントを設けるようにします。たとえば1週間ごとにチェックし、うまくいっているなら上方修正、うまくいっていないなら、目標達成のために計画を立て直すのか、目標自体を修正するのか考えます。

とはいえ、なかなか計画通りに実行できないのも子どもたちの常です。子どもたちのやる気を持続させるためにはいくつかの工夫が必要です。
目標に対してどこまで進んだかを視覚的にわかるようにすることも一つの方法です。予定をこなせたら、マスをぬりつぶしていく、シールを貼るといったやり方です。こうすることで、達成感を味わうことができます。
また、いつも目標をクリアできないとやる気がなくなりますが、最低限でもここまではというラインを設定することで、達成感を味わいやすくするという方法もあります。たとえば、目標10ページに対して6ページを最低ラインに設定します。集中力が切れかかっても、6ページはクリアしようという気持ちが働きます。6ページできれば、とりあえず最低ラインをクリアした達成観が得られるので、あと1ページくらいはと意欲が戻ってきます。

これらのことすべてを子どもたちに求めることは難しいと思います。しかし、子どもたちの発達段階に合わせてできること、やれそうなことにチャレンジさせてください。とりあえず、学習を時間ではなく、具体的に何をするかでとらえさせることで、子どもたちの学習に対する取り組み方が変わっていくと思います。

悩み事の相談

若い先生は子どもから悩み事を相談されたときに、どうしても気負いすぎる傾向があるように感じます。解決を焦りすぎるあまり、子どもの気持ちにきちんと寄り添うことを忘れて、子どもとの関係を崩してしまうこともあります。どのようなことに注意をすればよいのでしょうか。

子どもから、悩み事や相談事が出たときに大切なのは、すぐに答えを出そうとしないことです。悩み事があるときは、基本的に子どもの中に負の感情があります。大切なことは子どもが感じている負の感情をきちんと受け止め、共有することです。
いきなり「もっと詳しく」「なぜ」と矢継ぎ早に質問をすると、子どもには問い詰められているように感じてしまいます。また、「こうしたらどう」とすぐに教師がアドバイスをはじめても、自分のことをしっかり理解してくれていると感じていなければ、なかなか素直に聞けません。
深刻な話であればあるほど、柔らかい笑顔で、「それってどういうことかな。もう少し聞かせてくれる」と余裕を持って聞くようにします。子どもから自分を否定するような言葉がでてきても、まず受け止め、「話してくれてありがとう」「気づかなくてごめんね」と子どもに対して教師が寄り添う姿勢を見せます。

「最近みんなとうまくいっていないんです」
「それってどういうこと」
「なにか、みんなが私のこと無視しているように感じるんです」
「そうか、みんなが無視しているように感じるんだ。それはつらいね。話してくれてありがとう。気づかなくてごめんね」

このように、子どもの言葉をしっかり復唱して子どものつらい気持ちを共感してあげるのです。ここで、「そんなことないよ。みんなあなたのことを無視なんかしていないよ。気にしすぎだよ」と励ますつもりで子どもの負の感情を否定しまうと、自分の言葉を否定されたと感じ、わかってくれないと心を閉ざしてしまいます。

子ども気持ちをしっかり共有した上で、解決に向かって進むのですが、ここで注意してほしいのは、教師が一方的にアドバイスしないことです。子どもに寄り添って、一緒に解決するという姿勢が大切です。

「どうすればよいか一緒に考えようね。みんなと言ったけど、全員かな」
「○○さんは、ときどき声をかけてくれる」
「そうか、全員じゃないね。よかったね」
「じゃあ、どうなれば、あなたの悩みは解決するのかな」
「みんなが声をかけてくれる」
「なるほど、みんなが声をかけてくれるようになるとうれしいね。みんなってどのくらいだろう」
「うーん、1人だけはいやだけれど、何人かいればいい」
「そうか、1人はいやだけれど、何人かいればいいんだね。あなたにできそうなことはない」
「無視されるのは怖いけど、声をかけてみる」
「そうか、声をかけてみるといいね。それじゃ思い切ってやってみようよ」
・・・・

子どもの状況が完全にネガティブなことは稀です。その中でポジティブなものを探すことが、気持ちを切り替えるきっかけになります。できないことではなく、できていることを探すのです。その上で、自分がどうなりたいかを子どもに気づかせます。ゴールをイメージして、そこに至るスモールステップを意識させます。この例の場合は、「みんな」というゴールの途中に「何人か」というスモールステップを設定させています。そして、そのために何をすればよいかを考えさせます。

悩み事の相談は、子どもに寄り添い、一緒に考える姿勢が大切です。子どもが「どうなりたい」「どうする」のかを自分の口で言えるようにサポートすることを第一に考えてほしいと思います。
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