教材研究は何をする

教材研究は何をすればよいのですかと聞かれることがあります。「どのように」するのではなく、「何を」するかです。言いかえれば教材研究の目的・目標、授業は何をするものかが明確になっていないということです。漫然と教科書や指導書を読んで、指示すること、説明することを決めているのかもしれません。いろいろな考えがあると思いますが、私は次のようなことを考えることが教材研究の基本だと思っています。

・1時間の授業、単元を通じて子どもが身につけるべき力は何か
・その力をつけるために子どもにどのような活動が必要か
・その活動をするためにはどのような力が前提となるか
・その活動をさせるための発問、指示は何か
・その活動のために必要な資料や道具は何か
・子どもがどのようなつまずきをするか
・子どもを支援するためにどのような方法があるか
・子どもがその力を身につけたかどのようにして確認するか

大切なのは、子どもの活動を起点に考えることです。見たい子どもの姿を具体的にえがいて、その姿を引き出すためにどのように教師が働きかけるかを考えることが大切なのです。教材をどう教えるかではなく、子どもたちがどう理解し身につけるかという視点です。子どもの姿を意識して作られた授業は、実際の子どもの姿とのズレを敏感にとらえることができます。その結果子どもの実態に合わせて修正することも容易です。教師の視点で、いつどんな指示を出し、どんな説明をするのかだけ考えても、そこには子どもの姿が意識されていないため、子どもの実態に応じた対応ができません。子どもを見ずに教師が勝手に進める授業につながっていきます。

教材研究は教材に出会って子どもたちがどのように考え理解して、変容していくのかを過程を考えることでもあります。子どもの目線で教材をとらえ、どのような子どもの姿を生み出していくのかを考えてほしいと思います。

他学年の教科書を見る

自腹を切っても全学年の教科書を買えとよく言われます。今指導している内容が他の学年ではどのように扱われているかを知ることがとても大切だからです。

学校では、同じ領域の内容を何度も分けて学習します。これから学習する内容と関係する他の学年の教科書を横に並べてじっくり読み比べることで、共通していること、違っていること、新しく教えることが明確になります。共通のことは、基本となるものですから、復習・練習などを通じて確実に定着させる。違っていることはその違いを明確にして混乱させないようにする。新しく教えることはなぜそのような考えが必要になるのか、次の学年とどのようにつながるかを意識して押さえるべきポイントを明確にする。こういったことを意識します。また、校種が違うと互いの教科書は意識しないと見ることができません。小学校6年や中学校1年であれば、互いの教科書も確認しておくことが大切です。

算数・数学の関数領域の例です。
小学校でも中学校でも表を利用しています。変化の様子を見るのに表はとても便利な道具で、ずっと使い続けるものであることがよくわかります。したがって、表から何がわかるか、どんなよさがあるかしっかりと子どもたちが理解している必要があります。そのためにどんな活動をすればよいか考えることが教材研究です。
また、小学校の表と中学校での表を比べると違いに気づくはずです。小学校では値ごとに区切りの縦線が引かれますが、中学校では縦線がありません。この違いの意味がわからなければ、押さえるべきポイントがわからなくなってしまいます。小学校で扱うものは、離散量(自然数など)なので1の次は2と必ず隣の数がはっきりします。中学校では連続量(実数など)なので隣の数を明確に決めることができません。それが理由で縦線を引いていないのです。ですから、表に値を入れるとき「1の次に何が入る」といった発問が大切になります。小学校では、「2」となるところが、中学校では、「本当に2?」と聞き返すことで、連続性を意識させ、グラフの点がつながることにつなげていくわけです。

他学年の教科書を比較しながら読み込んでいくことで、子どもたちはどのようなことを積み重ねているのか、それはこの先どのように発展していくのかが理解できます。自ずと授業でのポイントが明確になっていきます。すべての教科書を購入するのが難しくても、必要なところを都度コピーすることはできるはずです。いろいろな資料を探すよりまずは身近な教科書をうまく活用してほしいと思います。

発問や指示を具体性のレベルで整理する

教材研究では、発問や指示とそれに続く子どもたちの活動を考えることが大切な要素です。ここで、意識してほしいことは、個々の教材で考える前に、期待する子どもたちの活動を引き出すための基本となる発問や指示を具体性のレベルに分けて整理しておくことです。
例えば「・・・を考えよう」という発問は教師にとっては期待する活動が明確でも、子どもにとっては抽象的で何をすればよいかわかりにくいことがよくあります。抽象度が高いのです。

例えば、社会科などでよくつかわれる、資料から「わかること、気づくこと」という発問を考えてみましょう。ただ漠然と資料を見ていてもなかなか気づくことはできません。何か基準となるものがあって、それと比較することで初めていろいろなことに気がつきます。したがって、基準の対象を明確にすることで、発問を具体的にできます。「『・・・と比べて、』わかること、気づくこと」とすればよいのです。「・・・と比べて、『同じもの、違うもの』は何」とすれば比較の視点をより具体的にできます。また、変則として、期待する活動をしなければゴールにたどり着かない発問というのもあります。この例であれば、「どちらが・・・だろう」と聞くことで比較を促し、その根拠を問うことで、「わかること、気づくこと」を引き出すのです。

「考えよう」→「特徴は・・・」→「いいところ、悪いところは・・・」
「・・・について調べよう」→「何を使って調べるといい」→「・・・を使って・・・」
「問題を解こう」→「気づくことは何」→「似た問題はないかな」→「前にやったこの問題の解き方覚えている」→「・・・を使って解いてみよう」
「観察しよう」→「何に注目する」、「何と比べる」→「・・・に注目して」、「・・・と比較して」
・・・

具体的あればいいのではありません。抽象的で多様な考えを引き出す発問はある意味理想です。しかし、そこに至るまでには、基本となる活動をたくさん経験しなければなりません。子どもの状態や教材によって使い分けるのです。
また、教材ごとにどのレベルの発問や指示を使うか考えることは、子どもに期待する活動を明確にすることでもあります。日ごろよく使う発問や指示を、期待する活動ごとに具体性のレベルで整理しておくことで、教材研究の幅が広がります。

前提となる力を考える

教材研究をおこなう時に意識してほしいことの一つに、前提となる力を考えることがあります。

例えば、小数の学習であれば整数の計算ができる。数直線の意味がわかっている。・・・
必要となる知識や技能、考え方などの力が身についていなければ、いくら子どもたちがその時間に積極的に学習に取り組んでもつまずいてしまいます。
そうならないためには、1時間の授業を進めるにあたって必要な最低限の力を考え、子どもたちに定着しているか確認し、状況に応じて対応する必要があります。
授業の最初に復習の形で確認する。事前に簡単なテストをする。・・・
確認するだけで、思い出すこともよくあります。その上で、不十分だと判断した場合にどうするかを考えておかなければなりません。
一部の子どもであれば、授業とは別の形でフォローする。全体であれば、時間をとってまとめて復習をする。進め方を工夫して、ポイントポイントで少しずつ復習の場面をつくる。・・・

教材研究をするときは、どうしても新たに学習する事項に目がいきがちです。しかし、前提となっている力が身についていないといくら工夫した授業をしてもなかなか身につきません。前提となる力をちょっと確認する、復習することで、子どもたちはスムーズに新しい学習内容に向かうことができます。前提となる力は教材の表面をなぞっても見えてきません。意識して読み取ろうとしてほしいと思います。

基本のスタイルを持つ

若い先生には、教材研究を進めるにあたって、まず基本となる授業の進め方のスタイルを持つことをお話しします。
この基本のスタイルについては大きく2つあります。

一つは教科としての1時間の授業の大まかな流れです。
算数であれば、
授業の初めに、計算練習をする。前時の復習をおこなう。本時の課題を知る。全体で課題を把握する。個別に(グループで)課題に取り組む。意見を交換する。課題を解決する。問題演習をする。・・・
といったものです。
もちろん必ず毎時間同じである必要はありませんが、こうした基本の流れを持っていると、教材に対して何を考えるかの視点はっきりします。

もう一つは、教材の領域、種類ごとの基本のスタイルです。
国語の説明文であれば、
筆者の考え、その根拠、具体例等を抜き出す。その関係を図に示して整理する。全体を要約する。・・・
といったものです。
その上で、その具体的なやり方を整理しておきます。具体的なものを持っていなければ、絵に描いた餅になってしまうからです。

例えば、抜き出すやり方であれば、

まず考えだけに線を引き、次にその根拠を探す。
文を読みながら、一文ずつ何に該当するか色分けして線を引く。
ワークシートにそれぞれを抜き書きする。
・・・

といったいくつかのやり方と、子どもに要求される力、よさなどのそれぞれの特徴を明確にしておくのです。やり方の特徴と、個々の教材の難易度、子どもたちの力とのバランスを考えることで、教材をどう扱えばよいか見えてきます。

教科ごとの流れ。算数・数学の図形、理科の実験、社会科の調べ学習、英語の会話、体育の鉄棒・・・、といった領域ごとのながれ。それぞれの基本のスタイルを持つことは、教師の教材研究を効率的にしてくれます。また、子どもにとっても何をどのように取り組めばよいかがわかりやすく、安心して課題に取り組むことができるというメリットがあります。

とはいえ、経験の浅い先生方にとって、いきなり多くの領域のスタイルを持つことは大変厳しいと思います。日々の教材研究で、目先の教材にとらわれるのではなく、この領域の基本のスタイルは何かを意識することで、一つずつ増やしてほしいと思います。この積み重ねが数年後には大きな力となるのです。

学校の情報化と導入について対談

昨日は教育系の新聞の取材で、自治体単位での学校情報化と導入に関して対談をおこないました。10年以上前から先進的に取り組んでいる市の推進役の先生といろいろとお話しをさせていただきました。この市の情報化のコンセプトづくりにかかわった当時のことを懐かしく思い出しました。

導入後の現場での活用の最終的な姿を明確にした上で、導入する側の都合ではなく、まずは、現場の先生方がこれはいい、便利だ、楽になったと思ってくれることから一つずつ市全体に広げていくというのが、導入時の方針でした。モデル校を作る発想ではなく、時間はかかっても全員が間違いなく取り組めることから底上げを図っていきました。今では、先生方にとって教育ネットワークはなくてはならないものになっています。また、地道に実践を積み重ねた結果、先生方の情報モラルも全体として非常に高いものになっています。

このことに関連して、セキュリティポリシーについて触れることがありました。最近挿入される市町村では、学校ネットワークのセキュリティポリシーはどんどん厳しくなる傾向にあるようです。私の目からは、行政側がこのルールを守っていない現場が悪いと言うための「いいわけ」づくりに見えます。実際に使う側からすれば、どうしようもなく使いにくいルールを押し付け、わかっていても破らざるを得ない状況に追い込んでいるように感じます。少々セキュリティポリシーを厳しくしても、守られなければかえって大きなトラブルになります。トラブルが起こっている自治体は、先生方の状況を無視した、建前を押し付けるセキュリティポリシーを採用しているところが多いように思います。
この市では、必要最低限のルールさえ守っていれば、大丈夫。何かあっても先生個人が責められる事はないという、先生方を「守る」ためのセキュリティポリシーになっています。時間をかけて先生方の情報モラルを高め、先生方が使いやすい環境を構築し、普通に活用するのであれば、特に意識をしなくても自然にセキュリティが確保されるようなシステムになっています。

学校の情報化が先生方の仕事の質を高め、それが子どもたちに還元されるようなものであってほしい。その思いがこの市では確かな形になっていると思います。

フォーラム打合せ

来年に開催予定の愛される学校づくり研究会フォーラムに関する打合せを昨晩おこないました。名人と呼ばれる先生方の授業を、ICTを活用して追試しようという企画です。中心となる先生方で今後の進め方を相談しました。

実際の授業は若手の先生にお願いします。授業技術は名人におよぶべくもありません。だからこそ、ICTを活用することで授業技術や経験の少なさをカバーできることを示せるのではないかと思っています。私は、名人に「それはズルだろう」と言わせることを目標に授業づくりのお手伝いをしたいと考えています。

これからどんどん若い先生が増えてきます。経験の少なさを補い、ベテランの授業技術に近づくための有効な道具の一つとしてICTがあると思います。フォーラムではICTの活用も含め、誰にでもできる授業づくりの新しい視点を提案できればと思っています。

野中信行先生から学ぶ

教師力アップセミナーで野中信行先生のお話しをうかがいました。

新卒向けの著書も多い先生ですので、会場は若い先生でいっぱいでした。
この日のテーマは、先生が提唱されている「味噌汁・ご飯」の授業です。毎日の授業の準備に多くの時間は割けないのが現実です。そんな中で普段の授業を充実したものにするたくさんのヒントを話されました。特に印象に残ったのが、授業の基本の流れをきちんと押さえるということです。毎時間の授業、単元ごとの基本の流れが明確であれば、教材研究も視点が明確になります。
また、挙手した子どもだけで授業を進めるのではなく、全員参加を目指すことも話されました。
ポイントを押さえた教材研究をおこない、基本的な授業技術を身につけることが「味噌汁・ご飯」の授業の基本だと理解しました。

いつものことながら、野中先生の話には共感できることがたくさんあり、多くの元気をいただきました。ありがとうございました。

教員研修に関する講演

教員研修のあり方について講演をおこないました。
小中高の先生方が100名あまり参加してくださいました。小中高の先生が一緒に参加する会というのは珍しく、焦点をどこに当てるか悩みながらの講演でした。

教員研修で大切なのは、学校全体として何を目指すのかできるだけ具体的にした上で、そのためにどうすればよいのか具体的な方策をもつこと。
教員を伸ばすということは、一人ひとりのよさを引き出すこと。
教員に要求することは、すぐ具体的にできること、その効果を実感できること。
教員の変容を肯定的に評価すること。
そして、学校の評価は最終的には子どもの姿で語られるべきこと。

このようなことを思いつくまま話させていただきました。私の思いがどれほど参加者に伝わったかわかりませんが、何人かの方が感想や報告を発信してくださいました。ありがたいことです。また、思いがけず古い友人にも会うことができました。私も大変勉強になるとともに楽しい時間を過ごすことができました。このような機会をくださった方々に感謝です。

授業観察

昨日は中学校で授業観察をおこなってきました。転任、新任の先生方と一緒に校内をまわり授業の様子を観察しました。この学校での取り組みの目指す方向を知っていただくためには、口頭で目指す子どもたちの姿伝えるよりは、実際に見ていただいた方がよくわかると思ったからです。
当り前のことですが、すべての学級で目指す姿が見られるわけではありませんが、比べてみることで明確になる部分もたくさんあります。教室には入らず、廊下から子どもたちの姿だけを見て、今どういうが面で子どもたちは、どんな状態なのか考えてもらいました。教師を見ないことで、子どもを見ることに専念できます。
全員が同じ状態であれば、まず間違いなくそれはその教師が見たい子どもの姿です。それに対して、ばらばらの状態であるときはまず間違いなく、その場面で見たい子どもの姿を明確にして授業をしていないときです。
このこと意識して見てもらうことで、自然に先生方が目指している子どもの姿が伝わったと思います。
授業場面ごとに見たい子どもたちの姿を明確にして授業をしていただくようにお願いしました。

授業を見ていておもしろい場面が二つありました。
一つは先生が机間指導をしている場面です。一人ひとりのノートをしっかり見ながら、声をかけています。ところが、しばらくすると一部の子どもたちの集中力が落ちてきました。そのことに気づいたのでしょう。移動の間に顔を挙げて教室全体を見回してから次の子どもの指導に移り始めました。すると集中力を失っていた子どもたちがふたたび課題に取り組み出しました。教師がつねに学級全体を見ていることの大切さを参観者に伝えることができました。

もう一つは、社会科の時間で、先生が説明している場面です。授業者は比較的小さな声で話しているのですが、生徒全員が顔を食い入るように見ています。すごい集中力でした。ところがしばらくすると一人の生徒が集中力をなくしてきました。学級全体としてはまだ集中していますが、このままだと全体の集中力が落ちていくかもしれません。また、集中力をなくしている生徒のことも気になります。そう思って見ていると、授業者は子どもたちに資料集を見て、話に関連したことを探すように指示しました。もちろん子どもたちはすぐに資料集を見始めます。先ほどの子どももまわりが動きだすと、少し遅れて資料集を手にとりました。そのあと、授業者は彼のそばに行き、見つけたことを発表させました。集中力をなくしていた生徒を注意するのではなく、授業の流れの中で自然に参加させました。素晴らしい授業力に感心しました。

一緒に授業を見た先生方は子どもたちの姿からどんなことを学んでくれたでしょうか。ある先生は、この日気づいたことを早速自分の授業に取り入れようとしていました。次回訪問時に一緒に回った先生方がどのように変化しているかとても楽しみです。

学校が大きく動き出す

昨日は、中学校で授業アドバイスをしてきました。連休の谷間に訪問した学校です。連休明けの子どもたちの変化が気になっての訪問です。

3年生は、相変わらずよく集中できていましたが、ちょっと気になることにも気づきました。例えば、指名された生徒が解答を板書しているときに、解き終わった生徒がまわりと雑談して騒がしくなる。教師が板書で黒板を向いているとき、ごそごそする。このようにすることがない時間に緩みが見え始めています。教師が話し始めるとすぐに集中するので、今のところそれほど心配することではありませんが、早めに手を打っておいた方がよさそうです。問題が解けたら次に何をするのかといった、指示を明確にするようにお願いしてきました。
また、全員がよく集中しているということは、昨年あまりやる気を見せなかった生徒が頑張っているということです。教師から見るとみんな頑張っているという評価になりやすいのですが、そういった生徒をきちんと評価することもお願いしました。みんなが頑張っているため、急にやる気を出しても試験の相対的な結果に反映されないこともよくあります。結果が出なくてやる気をすぐになくすかもしれません。そのことも念頭に置いてのお願いです。

2年生は、一番心配していたのですが、前回訪問時よりも学習においては落ち着く傾向を見せていました。担任の学級経営が実を結びだしているようでした。しかし、どの学級も苦労していると感じた前回と比べて、うまくいってきている学級とそうでないところの差が見え始めたようでもあります。簡単なことでいいので、学年全体で指導することを明確にして取り組むようにお願いしました。

1年生は、連休明けで緊張も解け、さすがに緩む場面が増えてきました。受け身の時間が続くとごそごそしたりして集中力をなくします。一方的に教師の説明が続く授業、教師が子どもを見ていない授業では、その傾向が顕著です。今は子どたちが集中している時間が長いので気づいてない方もいるようです。このことを意識するようにお願いしました。

授業を見ていて、とてもよい場面が2つありました。
一つは国語の時間です。子どもが作業をしているときに、なかなか手をつけない生徒が後ろに一人いました。ぼつぼつ何か働きかけないといけないと思ったとき、授業者が教室をぐるりと回りながら、自然にその子に近づきました。絶妙のタイミングです。ところが指導をし始めてしばらくすると、作業が終わった生徒がざわざわし始めました。教師が見えなくなったためでしょうか。このまま指導をしていると学級全体が集中力をなくすと思ったとき、「できた人は、まわりの人と確認して」と指示を出しました。個別指導をしていても、きちんと学級全体を把握していたのです。まだ若い先生ですが、とても感心しました。

もう一つは、理科の時間です。顕微鏡の使い方を板書して、説明をしている場面です。子どもたちは驚くほど集中して聞いています。だれも、鉛筆を持って写したりしません。授業者もしっかりと子ども一人ひとりを見ています。話し終わると、「写していいよ」と指示を出しました。その指示を待って、子どもたちは一斉にノートに写し始めました。1月の間に、きちんと授業のルールが浸透しています。もう一つ感心したのが、「写していいよ」だけでなく、「自分が大切だと思ったところ、ポイントだと思ったところに線を引いてね」という指示を同時に出したことです。ただ箇条書きにしているだけで、ポイントがはっきりしない板書だと思っていたのですが、このための伏線だったわけです。
この先生も若手です。

若手の先生が育っていることがとてもうれしく思いました。
それだけではありません、お話しをした転任者の複数の方が、この学校は教師の人間関係がいいので楽しいと言ってくれました。昨年度は、どちらかといえばそのことで苦労したので、本当にうれしく思いました。今年度に向けてやって取り組んできたことが実を結びだしたのでしょう。学校力アップに向けて大きく動き出したことを感じた1日でした。

子どもの活動から考える

教材研究を始める第一歩は、目の前にある教材は子どもにどんな力をつけるためにあるのか、このことをきちんと考えることです。そこをはっきりさせずに、どんな発問をするのか、説明をするのか、活動をさせるのかといった各論に入っても迷路に迷い込んでしまいます。その上で、その力がついたということは、子どもがどんな場面で何ができればよいかを明確にします。問題を解ける。発問に対して、答えられる。あることがらを説明できる。できるだけ具体的にします。

つぎに、子どもたちがそうなるためにどのような活動をする必要があるかを考えます。どんな説明をするかという教師の活動ではなく、子どもの活動です。教師が説明することも必要です。その場合、その説明に続いてどんな活動をさせるか考えてみます。説明した事を使って問題を解かせる。説明を理解するために友だち同士で説明させる。・・・

そこで、その活動に子どもたちがうまく取り組めるようにするために、教師はどのような働きかけをするとよいのかを考えます。教師の説明はついては、ここでもう一度見直します。友だち同士説明させるなら、発問を工夫して子どもが自身で気づけるようにできないか。問題を解かせるなら、問題を解く過程で気づかせることはできないかと考えます。

例えば、国語の物語の教材を考えてみます。天気が主人公の気持ちを表していることから、読み取りをする場面を考えてみましょう。
教師が、天気が変化していることから、これは主人公の気持ちを表していると説明する。そこで、ではそれぞれどんな気持か考えてみようと発問する。
この流れに対して、子どもが天気から主人公の気持ちを考えるのであれば、子どもがそこに気づくような発問や流れはないかと考えます。「天気」がキーなので、「天気」に注目させることはできないか。そこで、「この段落と前の段落で何が違う」といった発問を考えます。
子どもから「天気」も「主人公の気持ち」も出てきたら最高ですが、「天気」しか出ないことも考えます。「天気」は一旦置いておいて、2つの段落での「主人公の気持ち」を考えさせる。「主人公の気持ちはどう」と問いかける。というように発問を考えていきます。
この流れが正解ということではありません。最終的に、この流れより最初の方がよいという判断をすることもあると思います。教材を使って学ぶのは子どもです。子どもは活動することで、学んでいきます。大切なのは、教材を使う子どもの活動をどうすればよりよいものにできるかという視点で考えることです。教師の活動の合間に子どもの活動があるのではなく、子どもの活動の合間に、教師が何をするかという発想を持ってほしいと思います。

「教材研究」を追加しました

新しく「教材研究」というカテゴリーを設けました。教材研究はいろいろな側面があって簡単には伝えられないのですが、悩んでいる方も多いと思いますので、私なりの考えを書いていきたいと思います。

教材研究の前に

若い先生から、教材研究をどうやればいいのかわからないということをよく聞かれます。どのレベルから話をすればよいか迷うこともよくあります。一つひとつの教材についてどのようにして授業の流れをつくるのか、そのための資料や参考になるものの見つけ方なのか、そもそも授業の作り方なのか。
実は具体的に教材研究について話す前に、次のようなことを先生に問いかけたりお願いしたりします。

例えば国語であれば、「物語は子どもにどんな力つける教材、説明文は、詩は、文法は」といったように、教材のカテゴリーごとの大きなねらいを明確にすることです。ときには、「国語ってどんな力をつけるの、社会は」と教科の意義を聞くこともあります。この教材観・教科観というものがしっかりしていないと、一つひとつの教材に対して何を大切すればよいのか、教材のどこに注目すればよいのかはっきりしないからです。

また、多くの教科で学年ごとに同じカテゴリーの内容を学習します。子どもの成長にともない何が新たに加わっていくのか、何が必要なくなっていくのか、何が変わらないのか。このことをしっかり意識するようにお願いします。
新たに加わるということは、その内容に取り組めるベースがその時点でできているはずだということです。そのベースはいつどのようにして身についているのか考える必要があります。
変わらないものはその教科の根幹をなすものです。つねにそのことが身についているか問い続ける必要があります。
こういったことを意識することで、大切にすること、こだわりすぎないことが明確になります。
小学校であれば6年生までの教科書を一度は目を通しておくこと、特に高学年であれば、中学校の内容も、中学校であれば、小学校高学年の内容と高校の内容も把握しておく必要があります。

とはいえ、すぐにしっかりした教材観・教科観をもったり、広い視点での教科内容の把握ができるようになるわけではありません。日々の教材研究に取り組む中で、個々の教材が子どもにどのような力をつけることをねらっているのか、それが過去の学習内容や、これからの学習内容とどうかかわっているのかを常に問いかけることで身につけていってほしいと思います。

研修の打ち合わせ

中学校で今年度の研修の打ち合わせを行いました。

子どもたちのかかわり合いを大切にし、相談したりグループで活動したりすることを積極的に取り入れている学校です。昨年度研究発表をおこないましたが、その後も続けて授業改善に取り組んでいます。

話題になったことの一つが新たにこの学校に赴任してきた方への対応です。すべての学校や先生が実際にペアやグループでの活動を積極的に取り入れているわけではありません。また話に聞くだけではどのようにしていけばよいかわかりません。ベテランほど自分のやり方が確立しているので、今までの自分の方向性と異なるとどうしていいかわからなくなってしまいます。公立の学校では人事の移動に伴い多かれ少なかれ起こる問題です。結論としては、早い時期に彼らに他の先生方の授業を見ていただき、この学校での取り組みがどのようなものか理解してもらうことになりました。具体的には、私と一緒に校内をまわりながら、授業中の子どもたちの様子を観察し、意見を交換するというものです。子どもたちの活動と教師の働きかけ、その意味を考えてもらうことでこの学校の取り組みを理解してもらおうというわけです。

また、若い先生のことも話題になりました。この学校の若手はずいぶん伸びてきました。しかし、研究発表も終わり、自分たちはこれでいいと思ってしまうと成長は止まります。彼らに、よりよい授業を目指し続けてもらうには、今できていること、まだできていないことを自覚してもらうことが大切です。次回訪問時、今の彼らの課題をしっかり見つけたいと思っています。

早い時期に研修担当者と学校の現状と課題について話し合う機会を持てたことは大変有意義でした。この1年もこの学校の先生方と一緒にたくさんのことを学べそうな予感がしています。

よいスタートを切った学校

連休の谷間に、中学校の授業研究に参加しました。

新学年のスタートはどうのようであるか気になっていましたが、特に新3年生が集中して授業に参加していました。2年生のときと比べて、ずいぶんよい状態です。4月は子どもたちも気持ちを切り替えるときです。そこを先生方がうまくつかんでよいスタートを切ったのだと思います。学年内の横のつながりがよいのでしょう。学級による差が少なかったのも印象に残りました。
1年生もうまく人間関係をつくることができたようです。学級の一体感が育ちつつあるようでした。友だちの発言をしっかり聞こうという雰囲気を感じました。
新2年生は、まだ子どもたちがまとまっていないようでした。1年生のとき、学級によって雰囲気がかなり異なっていました。子どもたちが昨年度の学級の状況を引きずっているため、学級としてまとまりなく感じるのかもしれません。ここからが各担任の頑張りどころです。担任個人の問題ではなく学年の問題として協力しあってくれることを期待しています。

授業研究は、生徒に焦点をあてて検討会を開きました。ともすれば、教師の指導面に目が向きやすくなるのですが、司会者の上手な進行で、子どもたちの活動を中心にしっかりと意見交換ができました。新しく赴任された先生も、グループでの協議にすぐに溶け込み、とてもよい雰囲気で進みました。昨年から始めたグループ討議も1年間でしっかり定着したようです。

3月の時点で心配な面もいくつかあったのですが、全体としてとてもよいスタートを切れているようでした。先生も子どもも4月は気持ちを切り替えるときです。うまく波をつかめたようです。また前年度にやってきたこと、学んだことを一からトライできるときでもあります。うまくスタートを切れたのは、昨年度に先生方が地道に努力し学び続けたことがその根底にあると思います。

学校がよい方向に向かう手ごたえをしっかり感じた1日でした。次回の訪問がとても楽しみです。

家庭訪問

家庭訪問は保護者も教師も気を使うものです。学校によっては廃止するところもあるようですが、子どもたちが普段生活している環境を知ることはとても意味のあることです。せっかく時間を使って実施するのですから、形式的なもので終わらず学級経営に役立つものにしましょう。

家庭訪問は、子どもの生活環境を知ることが大きな目的の一つです。
家だけでなく、そのまわりの環境もしっかり観察することが大切です。遊び場が近くにある。コンビニが近くにある。そういったことも子どもの生活に影響を与えます。また、最近は玄関先で話をすますことも多いと思いますが、花が飾ってある、靴が揃えられているといったちょっとしたことからでも家庭の雰囲気をつかむことができます。きょろきょろしてはいけませんが、しっかりと観察することが大切です。
許されるのであれば、子どもが勉強している場所を見せていただくことはとても有益な情報を得られます。もし見せていただくのであれば、事前にその旨を保護者に伝えておくことが必要です。その場で突然お願いしても困ってしまわれます。ときにはなぜ部屋を見せたと親子でトラブルになることもあります。家庭訪問でお願いすることがあれば、必ず事前に伝えておくようにします。

保護者との話ですが、基本は聞き手にまわることです。保護者と担任の信頼関係を互いに築くチャンスです。今度の担任は話をしっかり聞いてくれると思ってもらえることが大切です。笑顔でしっかりとうなずき、受容的な態度で接することを心がけます。
また、相手のホームグランドですので、学校で話すのとはまた違ったことを聞くことができます。子どもの家庭での様子を中心に聞きましょう。家へ帰ったら最初に何をしているか、どこで遊んでいるか、どこで勉強しているか、など項目は事前に整理しておきます。保護者同士で何を聞かれたか情報交換されたりもしますので、共通のものを決めておくとよいでしょう。
こちらから話すのは学校での子どもの様子です。ポイントを押さえてよいところを中心に伝えるようにします。これも事前に整理しておくとスムーズに進みます。
最後に要望等を聞くことになると思いますが、その場では答えづらい質問や要望が出てくることがあります。そのような質問にはその場で答えることはせずに、持ち帰って検討すると伝えましょう。その際回答の方法を確認しておきます。電話でよいのか、文書がよいのか、後日訪問がよいのかをきちんとしておかないと対応が悪いとトラブルになることもあります。そして、学校に戻ったらすぐに上司に報告し、翌日にはいつまでに回答するかだけでも伝えましょう。ここでの対応をしっかりすることが信頼につながります。
また、時には質問や要望というより学校や同僚への批判を聞かされることもあります。言いたいだけであって何か対応を期待しているのではありません。「なるほど、そのように感じられているのですね」としっかり受容だけはして、こちらの意見等は差し控えておきましょう。同調するのも、逆にそんなことはないと説得するのも意味のある行動ではありません。このようなことで保護者と仲良くなったり、議論して関係を悪くしたりしてもしょうがありません。

家庭訪問には地域の事情が色濃く反映されます。お茶やお菓子はいただいた方がいいのか手をつけない方がいいのか。座敷に上がった方がいいのか、玄関先で済ますのか。その学校固有の暗黙のルールがあることもあります。わからないことや気になることは先輩や同僚にきちんと確認しておくことが大切です。
訪問時間は長くはとれません。個人の情報をメモするカルテ作り、聞くこと話すことなど事前に整理して臨んでください。このカルテは家庭訪問以外にも面接や生活指導時にも活用できます。

家庭訪問は感度を高くして、子どもたちの家庭生活に関する情報をできるだけたくさん集めることと、保護者との関係づくりのためによい聞き手になることを意識して臨んでください。

特定の子にとらわれすぎない

学級にはいろいろな子がいます。落ち着かなかったり、ルールを守れなかったりして教師が注意をしなければいけないこともあります。こういった、いわゆる気になる子にかかわる時間はどうしても他の子より多くなりがちです。注意してほしいのは、全体の場で彼らにかかわる時間をとられすぎないようにすることです。

彼らとかかわっているとき、他の子どもたちが自分と関係ないと感じていれば、それは空白の時間です。子どもたちは勝手なことをしたりして、集中力をなくしてしまいます。また、特定の子にいつも時間をとられていると、「あの子のせいで、また」とその子に対して悪い感情を持ってしまいます。

ではどうすればいいのでしょう。状況にもよりますが、基本は全体の場ではあまりかかわりすぎないことです。たとえば、まわりの子にちょっかいをかける子であれば、口頭で軽く注意をする。何度も繰り返すようであれば、そのそばに立ってけん制する。1回あたりの時間はできるだけ少なくして、できれば目や動作で注意をうながすようにする。子どもたちがその時間を意識しないように、簡潔に済ますのです。
一人ひとりを大切にしなければいけませんが、そのために大多数の子どもにマイナスあたえていけません。
全体の場でどうしても時間をかけなければいけない状況であれば、個人の問題ではなく必ず学級全体の問題として扱います。一人ひとりが自分の問題としてとらえなければ貴重な時間を使ってはいけないのです。(学級全体の問題か個別の問題か参照)

特定の子にとらわれすぎて、学級全体の集中力をなくしたり、雰囲気を壊さないように気をつけてほしいと思います。

連休前後に学級の状態をチェック

春の大型連休が近づいてきました。新学年がスタートして子どもたちの緊張も取れてくる頃です。よそいきの仮面をはずして、本音の部分も見せるようになってきます。そして、連休になれば、子どもたちにいろいろなことが起こります。
新しい友だちとの交友関係が深まる。家族でのいろいろな行楽で気が緩む。学外の友だちと久しぶりに会う。中学・高校の新入生であれば、部活動で先輩後輩のつながりができてくる。受験生であれば、勉強に意欲的に取り組む。・・・
うまくリフレッシュし連休明けに元気な顔を見せてくれればいいのですが、気が緩みすぎて、なかなか元に戻らない。4月にうまく学級になじめていなかった子が学校に来られなくなる。・・・
連休明けは、いろいろな問題がでてくる時期でもあります。
この時期の子どもの様子をしっかり観察し、学級の状態をチェックしてみましょう。

・4月スタート時に子どもたちに示したルールはきちんと守られているか。
守られてはいない。守られてはいるが緩んできた。
→連休明けがリスタートするチャンスです。もう1度4月のスタート時のつもりで、きちんとルールを確認し、守れるように指導しましょう。

・子どもたちの人間関係はどうなっているか。
小グループ化が進んでいる。
→小グループができること自体が悪いことではありません。連休の前後でグループの変化を見てください。変化があった時は、グループから離れた子を観察してください。人間関係がうまくいかない前兆かもしれません。

グループには入れない子がいる。いつも孤立している子がいる。
→一人でいることが多いからといって、すぐにそれが問題というわけではありません。まず、声をかけて状況を聞いてください。その際、連休中の予定も確認してください。そして、「連休が明けたらその話を聞かせてね」と結びます。もし学校に行きたくないような状況になっても、こうして子どもとのつながりを作っておくことが、よい方向に作用することがあります。

・学習意欲が高まっているか。
学級全体でやる気が高まっている。
→やる気が高まるのはいいことですが、予定通りできずに落ち込んでしまうこともあります。最低限これだけはやるという目標と、ここまでやりたいという目標の2つをもつように、事前に指導しておくとよいでしょう。連休明けには、目標を達成できたかどうかを確認してください。達成できていない子には、個別に話を聞いて、アドバイスをしましょう。

やる気があまり感じられない。
→まず最低限の目標を持たせるようにしましょう。教師から具体的にこれだけはやっておくということを指示することもときには必要です。連休明けは、目標を達成できた子を大いにほめて、学級全体にやる気を広げるようにします。

連休は教師にとってもちょっと一息入れたい時でもあります。その前に、今年の学級経営で大事にしていることを思い出し、チェックしてみてください。小中高、学年によっても視点は異なります。ここに挙げたものは例に過ぎません。チェックの結果、気になることがあればそれに応じて、全体に話をする、個別に話を聞くなどの対応をしてください。そして、担任も上手にリフレッシュして(部活動などで忙しい方も多いとは思いますが)、連休明け、子どもたちの様子の変化をしっかりと見てください。子どもの変化に応じて子どもへの指導・対応を修正していくことで、この後、学級経営が軌道に乗っていきます。

係活動の指導

学級ではいろいろな係が決められていると思います。学校全体で決められているものもあれば学級独自に決めたものもあると思います。係活動は子どもが、学級・学校という小さな社会の中で自分の役割を果たすことで自己有用感を持ち、互いに役割を果たすことの大切さを実感し、責任感を持ってくれるようになることを狙っています。
では、担任として子どもたちの係活動をどのように指導していけばよいのでしょうか。

一つは、係の仕事をできるだけ具体的にすることです。口頭で簡単に説明して済まさずに、きちんと文書で明確にしておくとよいと思います。子どもたちは自分で何をすべきかの判断はなかなかできません。こちらの期待した動きができなくて、つい注意してしまうことになってしまいます。子どもにとってみれば、「そんなの知らない」「言われていない」のに何で注意されるのとなってしまいます。わかりやすく箇条書きで指示して、チェックしやすいようにするとよいでしょう。
また、することだけでなく、この係に対する教師の思い、願いを書いておくのもよいと思います。教科の連絡係であれば、「学級の全員にきちんと伝わり、誰も忘れ物をしないようにしてほしい」などと伝えます。こうすることで、「自分はちゃんと黒板に書いた。見ない人が悪い。自分の仕事は果たした」から、「どうしたら、みんな見てくれるか。忘れないでくれるか」へと子どもの意識を変えていけるようになります。

もう一つは、評価です。自分のしている仕事が認められたいのは子どもも同じです。目立たない仕事でもきちんと見ていると子どもに伝えることです。教科の準備をだれも忘れなければ、全員をほめるだけでなく、「教科係がしっかり連絡してくれているからみんな忘れなかったんだね。ありがとう。みんなも『ありがとう』と言おう」と感謝することです。仕事をきちんとしただけで評価されたのではなく、それに友だちが応えてくれたからこそほめられたことをしっかり伝えてください。こうすることで、役割を果たすとは、その仕事をすることではなく、その仕事を通じてみんなの役に立つこと、自分がやればいいだけでなく、みんなとのかかわりが大切なことをわかるようになります。

最後の一つは、過度の責任追及が起こらないようにすることです。子どものことです。係の仕事を忘れたり、ミスしたりします。そのために他の子どもたちに迷惑がかかることもあります。そのとき、子どもたちが「係が悪い」と一方的に非難することのないように気をつけることが大切です。係の仕事を明確にすれば、その責任も明確になります。係が機能するようになればなるほど、ミスも明確になり、責任追及も起きやすくなります。ミスした本人には、係の仕事がみんなに影響する大切な仕事であることを改めて伝え、「だからこそしっかりお願いね」と励ますことです。個人の責任を果たせと迫るのではなく、みんなのための大切な役割だからしっかりやらなければという意識を持たせるのです。
また他の子どもにも、ミスを非難するのではなく、忘れているのに気づいたら声をかけるといったサポートする姿勢を持つことの大切さを伝えてください。

子どもによっては、負担になったり、積極的に取り組めないこともある係活動ですが、一人ひとりの仕事に対して感謝し、助け合う雰囲気を作ることで、前向きに取り組んでくれるようになります。係活動を通じて子どもたちの社会性をうまく育てたいものです。
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