教科書を読みこむ

教材研究では教科書が基本とよく言われます。教科書を読みこむという言葉もよく聞かれます。教科の特性によっても違いますが、教科書には子どもが学ぶべきことが非常にコンパクトにまとめられています。教師であれば1時間の授業範囲などあっという間に読んで理解できるはずです。では、読み込むとは具体的にどのようにすることなのでしょうか。何度も読めばよいのでしょうか。

教科書に書かれていることは、まとめや結論だけではありません。課題や途中の考え、時には誤った考えも例として書かれています。限られた中で書かれていることです。無駄なものはありません。なぜこの一文があるのか、なぜこの資料があるのか、なぜこの作品が扱われているのかを考えることが読み込むことです。この課題に取り組むことが子どもの理解に必要である。途中で整理することが混乱を避ける。多くの子どもがこのように考えるはずだ。教科書はこう教えてくれているのです。授業の組み立てを考えるときに、このことは大きなヒントになります。このことを意識することで、どこに重点を置けばよいのか、何が子どもの中で明確になっていなければいけないのかわかるのです。
算数や数学では「問」の数値や配列にも注意をします。これらにも意味があるのです。何が理解できていて、どこでつまずいているのかがわかるように意図しています。
国語のように一つの教材が何ページにもまだがっている物は、教科書をコピーしておきます。並べて全体を一度に眺められるようにするためです。糊でつなげて巻物にする方もいます。こうすることで、表現の対比や文章の構成が見やすくなります。関連するものを横に並べて比べたり、線で結んだりすることで教材の理解が深まります。

教科書づくりには驚くほどの時間がかけられています。一行一行にいろいろな意図が込められています。その意図を探り、解き明かすことが教科書を読み込むことだと思います。

ICTを活用した授業

昨日は、中学校の英語の授業研究に参加しました。

iPod touchを使って、教室のディスプレイに教材を提示したり、音声を流す試みをしていました。子どもたちの集中力も高く、真剣に授業に参加しています。
1時間の授業がテンポよく進んでいきましたが、ICTの活用がテンポアップにうまく貢献していました。場面を変えるときにICTを活用することですぐに集中させることができることがよくわかりました。

ICTを活用することで、この場面の本質は何かということを考えるきっかけがもらえます。
例えば、ディスプレイに表示するのか、板書するのか、プリントで配るのかを考えることは、結局その場面で子どもたちにどうあってほしいかを考えることになります。
同様に音声だけでよいのか、その際教科書を見させるのか、それともディスプレイに本文も一緒に表示するのかを考えることは、この場面は聞かせるのか、読ませるのか、子どもの意識をどこに向けさせたいのかを明確にすることにつながります。

参加した先生方にとっても、今回の授業がいろいろな意味で授業を見直すきっかけになったことと思います。私にとってもよい勉強の機会になりました。

中堅のチャレンジをベテランが受け止める

昨日は中学校の授業研究に参加しました。

前回訪問時に2年生の様子が少し気になっていたのですが、朝礼や授業の様子を見る限り落ち着いてきたように感じました。大型連休明けから、学年として子どもたちへの指導を意識しておこなってきたようです。学級差を、学年の先生方が互いにカバーし合っているように感じました。チームとして機能しているようです。
また、廊下ですれ違う子どもたちから挨拶されることが増えました。特に印象に残ったことが、挨拶する子どもたちの表情がとても明るくにこやかなことでした。単に先生の指導が行き届いているということではなく、先生と子どもの人間関係がよい証拠です。学校がよい方向に向かっているのを実感できました。

授業研究は特別支援の国語と理科の実験の2つでした。
特別支援の授業は、子どもたちに自信を持たせたいという授業者の思いを強く感じるものでした。子どもたちにできる実感を与える課題と挑戦する課題を意識的に組み合わせていました。通常学級の授業と共通の要素を組み込むことで、特別支援にかかわっていない先生方にも参考になるように意図されていました。
印象に残ったのは、今は「見る」ときなのか、「聞く」ときなのかといった指示を書いたプレートを黒板に張ることで明確にしていたことでした。多くの授業で、板書を写すときなのか、板書を見るときなのか、教師の話を聞くときなのか不明確なまま進んでいる場面を目にします。特別支援だからでなく、子どもに求める姿を明確にすることはとても大切であるとあらため思いました。

理科の授業は、子どもたちがグループごとに実験計画を立て、実験をし、実験終了後別の場所で考察をするという一連の流れの、実験と考察の場面でした。授業者は検討会の冒頭で、「以前の学校では教師主導の説明型授業だったが、この学校ではグループを使って子どもが主体となって考える授業に挑戦している。グループの活用についてもわからないことがたくさんあるので、授業の様子から多くの意見をもらって勉強したい」と参加者に授業への思いを伝えていました。
グループで一つの実験をすると、一部の子がしきって他の子は傍観者になったしまうことがよくあります。実際にいくつかのグループではそうなっていました。授業者は発想を変えて、そういうグループに対しては考察後、傍観者だった子どもだけで再度確認のために実験をする時間を確保する計画を立てていました。とてもおもしろいチャレンジだと思いました。
ベテランの先生が、「失敗してもいい。子どもが自分たちで考えて活動している姿に本当の学びがあるのだと思った。自分もこういった授業に挑戦したい」と全体の場で語られました。子ども引き付ける授業をする先生です。困ったりはしていないはずです。その先生がこのような発言をされたことをとてもうれしく思いました。

授業で見せた子どもの姿がベテランを動かしました。中堅のチャレンジに込めた思いをしっかり受け止めるベテラン。学校の中でこのような化学反応が起こり始めたことは、この学校の研究が大きく進む兆しだと思います。次回の授業研究では、それに先だって模擬授業を有志の参加でおこなうようです。授業について教師がかかわり合う場面が増えてきています。学校がよい方向へ変化していく場面に立ち会える喜びを感じさせていただきました。

ベテランが見せてくれたこと

先週末に、中学校の学校公開を見学しました。1時間の公開でした。日ごろは若手中心に授業を見ていますが、この日は若手だけでなくベテランも含めた、多くの先生方の授業を見ることができました。

まず、多くの若手が成長していることが実感できました。経験年数からみれば立派なものです。しかし、ここで満足してしまっては成長が止まってしまいます。さらなる高い目標を持って努力をし続けなければ、絶対的によい授業にはなっていきません。彼らの多くがその分岐点に差し掛かっているように感じました。

その意味で感心したのがベテランの授業でした。今まで若手の成長に目を奪われていたのですが、久しぶりに授業を見て、多くの方の幅が広がっていることに驚きました。もともと上手な先生が多かったのですが、今までの自分のスタイルに、この学校で取り組んできた、子どもを受容する、子ども同士のつながりを大切にするといった要素をうまく取りこんで、明らかにレベルアップしていました。新しいことに取り組まなくても問題なく授業を進めることができる方たちです。私も特に彼らにアドバイスすることもしませんでしたし、彼らも授業を変える必然性を感じていなかったと思います。それでも、このように変化しているということは、若手の成長に刺激を受けたからなのでしょうか。

若手が成長し、それに応ずるようにベテランが進化していく。若手に対してまだまだ先があるとベテランが目標を示してくれているようでした。互いによい刺激を与えあうことで、学校としての進化はまだまだ進んでいくと感じました。

学級経営について講演

昨日は中学校で学級経営についての講演をさせていただきました。この中学校の先生方全員にお話しするのは数年ぶりです。以前と比べて若い先生がずいぶん増えています。学校が若返っていることをあらためて実感しました。

今回は学級経営の基本ということで、子どもとの関係づくりを中心にお話をしました。基本的な話にもかかわらず、若い先生だけでなく、ベテランの先生方にも熱心に聞いていただけました。この機会に自分の学級経営を整理しようとする姿勢を感じました。学校の中に外部からも学ぼうという雰囲気が育ってきています。質疑応答では、若い先生方から具体的な質問をいくつか受けることができました。子どもへの連絡事項の伝え方、座席決めをどうするか、男女のグループ間の関係改善など、質問の内容から、前向きに、一生懸命学級経営に取り組んでいる姿が想像できます。これが正解というものはありませんので、一つの例として私の考えをお話しさせていただきました。時間があればこの学校のベテランの先生のお答えを聞きたかったところです。

終了後、校長先生お話をする時間をいただけましたが、先生同士での学び合いと外部からの指導をバランスよく組み合わせることを大切にしておられました。学校としていかにして先生を育てるかを真剣に考えて、具体的なプランを作っています。若い先生が多いということは、その育成にエネルギーが必要となりますが、しっかり育てば大きな戦力増強になるということです。また、ベテランも刺激を受けるはずです。今回の若い先生の質問に答えてあげようという先生もたくさんいると思います。これをきっかけに、職員室で学級経営や授業のことが今まで以上に話題となってくれるのではと期待しています。この学校のように、若い先生の増加を学校活性化のチャンスととらえ、今一度、学校全体で基本から学びなおそうとすることはとても大切だと思いました。次に訪問するときがとても楽しみです。

教材研究は何をする

教材研究は何をすればよいのですかと聞かれることがあります。「どのように」するのではなく、「何を」するかです。言いかえれば教材研究の目的・目標、授業は何をするものかが明確になっていないということです。漫然と教科書や指導書を読んで、指示すること、説明することを決めているのかもしれません。いろいろな考えがあると思いますが、私は次のようなことを考えることが教材研究の基本だと思っています。

・1時間の授業、単元を通じて子どもが身につけるべき力は何か
・その力をつけるために子どもにどのような活動が必要か
・その活動をするためにはどのような力が前提となるか
・その活動をさせるための発問、指示は何か
・その活動のために必要な資料や道具は何か
・子どもがどのようなつまずきをするか
・子どもを支援するためにどのような方法があるか
・子どもがその力を身につけたかどのようにして確認するか

大切なのは、子どもの活動を起点に考えることです。見たい子どもの姿を具体的にえがいて、その姿を引き出すためにどのように教師が働きかけるかを考えることが大切なのです。教材をどう教えるかではなく、子どもたちがどう理解し身につけるかという視点です。子どもの姿を意識して作られた授業は、実際の子どもの姿とのズレを敏感にとらえることができます。その結果子どもの実態に合わせて修正することも容易です。教師の視点で、いつどんな指示を出し、どんな説明をするのかだけ考えても、そこには子どもの姿が意識されていないため、子どもの実態に応じた対応ができません。子どもを見ずに教師が勝手に進める授業につながっていきます。

教材研究は教材に出会って子どもたちがどのように考え理解して、変容していくのかを過程を考えることでもあります。子どもの目線で教材をとらえ、どのような子どもの姿を生み出していくのかを考えてほしいと思います。

他学年の教科書を見る

自腹を切っても全学年の教科書を買えとよく言われます。今指導している内容が他の学年ではどのように扱われているかを知ることがとても大切だからです。

学校では、同じ領域の内容を何度も分けて学習します。これから学習する内容と関係する他の学年の教科書を横に並べてじっくり読み比べることで、共通していること、違っていること、新しく教えることが明確になります。共通のことは、基本となるものですから、復習・練習などを通じて確実に定着させる。違っていることはその違いを明確にして混乱させないようにする。新しく教えることはなぜそのような考えが必要になるのか、次の学年とどのようにつながるかを意識して押さえるべきポイントを明確にする。こういったことを意識します。また、校種が違うと互いの教科書は意識しないと見ることができません。小学校6年や中学校1年であれば、互いの教科書も確認しておくことが大切です。

算数・数学の関数領域の例です。
小学校でも中学校でも表を利用しています。変化の様子を見るのに表はとても便利な道具で、ずっと使い続けるものであることがよくわかります。したがって、表から何がわかるか、どんなよさがあるかしっかりと子どもたちが理解している必要があります。そのためにどんな活動をすればよいか考えることが教材研究です。
また、小学校の表と中学校での表を比べると違いに気づくはずです。小学校では値ごとに区切りの縦線が引かれますが、中学校では縦線がありません。この違いの意味がわからなければ、押さえるべきポイントがわからなくなってしまいます。小学校で扱うものは、離散量(自然数など)なので1の次は2と必ず隣の数がはっきりします。中学校では連続量(実数など)なので隣の数を明確に決めることができません。それが理由で縦線を引いていないのです。ですから、表に値を入れるとき「1の次に何が入る」といった発問が大切になります。小学校では、「2」となるところが、中学校では、「本当に2?」と聞き返すことで、連続性を意識させ、グラフの点がつながることにつなげていくわけです。

他学年の教科書を比較しながら読み込んでいくことで、子どもたちはどのようなことを積み重ねているのか、それはこの先どのように発展していくのかが理解できます。自ずと授業でのポイントが明確になっていきます。すべての教科書を購入するのが難しくても、必要なところを都度コピーすることはできるはずです。いろいろな資料を探すよりまずは身近な教科書をうまく活用してほしいと思います。

発問や指示を具体性のレベルで整理する

教材研究では、発問や指示とそれに続く子どもたちの活動を考えることが大切な要素です。ここで、意識してほしいことは、個々の教材で考える前に、期待する子どもたちの活動を引き出すための基本となる発問や指示を具体性のレベルに分けて整理しておくことです。
例えば「・・・を考えよう」という発問は教師にとっては期待する活動が明確でも、子どもにとっては抽象的で何をすればよいかわかりにくいことがよくあります。抽象度が高いのです。

例えば、社会科などでよくつかわれる、資料から「わかること、気づくこと」という発問を考えてみましょう。ただ漠然と資料を見ていてもなかなか気づくことはできません。何か基準となるものがあって、それと比較することで初めていろいろなことに気がつきます。したがって、基準の対象を明確にすることで、発問を具体的にできます。「『・・・と比べて、』わかること、気づくこと」とすればよいのです。「・・・と比べて、『同じもの、違うもの』は何」とすれば比較の視点をより具体的にできます。また、変則として、期待する活動をしなければゴールにたどり着かない発問というのもあります。この例であれば、「どちらが・・・だろう」と聞くことで比較を促し、その根拠を問うことで、「わかること、気づくこと」を引き出すのです。

「考えよう」→「特徴は・・・」→「いいところ、悪いところは・・・」
「・・・について調べよう」→「何を使って調べるといい」→「・・・を使って・・・」
「問題を解こう」→「気づくことは何」→「似た問題はないかな」→「前にやったこの問題の解き方覚えている」→「・・・を使って解いてみよう」
「観察しよう」→「何に注目する」、「何と比べる」→「・・・に注目して」、「・・・と比較して」
・・・

具体的あればいいのではありません。抽象的で多様な考えを引き出す発問はある意味理想です。しかし、そこに至るまでには、基本となる活動をたくさん経験しなければなりません。子どもの状態や教材によって使い分けるのです。
また、教材ごとにどのレベルの発問や指示を使うか考えることは、子どもに期待する活動を明確にすることでもあります。日ごろよく使う発問や指示を、期待する活動ごとに具体性のレベルで整理しておくことで、教材研究の幅が広がります。

前提となる力を考える

教材研究をおこなう時に意識してほしいことの一つに、前提となる力を考えることがあります。

例えば、小数の学習であれば整数の計算ができる。数直線の意味がわかっている。・・・
必要となる知識や技能、考え方などの力が身についていなければ、いくら子どもたちがその時間に積極的に学習に取り組んでもつまずいてしまいます。
そうならないためには、1時間の授業を進めるにあたって必要な最低限の力を考え、子どもたちに定着しているか確認し、状況に応じて対応する必要があります。
授業の最初に復習の形で確認する。事前に簡単なテストをする。・・・
確認するだけで、思い出すこともよくあります。その上で、不十分だと判断した場合にどうするかを考えておかなければなりません。
一部の子どもであれば、授業とは別の形でフォローする。全体であれば、時間をとってまとめて復習をする。進め方を工夫して、ポイントポイントで少しずつ復習の場面をつくる。・・・

教材研究をするときは、どうしても新たに学習する事項に目がいきがちです。しかし、前提となっている力が身についていないといくら工夫した授業をしてもなかなか身につきません。前提となる力をちょっと確認する、復習することで、子どもたちはスムーズに新しい学習内容に向かうことができます。前提となる力は教材の表面をなぞっても見えてきません。意識して読み取ろうとしてほしいと思います。

基本のスタイルを持つ

若い先生には、教材研究を進めるにあたって、まず基本となる授業の進め方のスタイルを持つことをお話しします。
この基本のスタイルについては大きく2つあります。

一つは教科としての1時間の授業の大まかな流れです。
算数であれば、
授業の初めに、計算練習をする。前時の復習をおこなう。本時の課題を知る。全体で課題を把握する。個別に(グループで)課題に取り組む。意見を交換する。課題を解決する。問題演習をする。・・・
といったものです。
もちろん必ず毎時間同じである必要はありませんが、こうした基本の流れを持っていると、教材に対して何を考えるかの視点はっきりします。

もう一つは、教材の領域、種類ごとの基本のスタイルです。
国語の説明文であれば、
筆者の考え、その根拠、具体例等を抜き出す。その関係を図に示して整理する。全体を要約する。・・・
といったものです。
その上で、その具体的なやり方を整理しておきます。具体的なものを持っていなければ、絵に描いた餅になってしまうからです。

例えば、抜き出すやり方であれば、

まず考えだけに線を引き、次にその根拠を探す。
文を読みながら、一文ずつ何に該当するか色分けして線を引く。
ワークシートにそれぞれを抜き書きする。
・・・

といったいくつかのやり方と、子どもに要求される力、よさなどのそれぞれの特徴を明確にしておくのです。やり方の特徴と、個々の教材の難易度、子どもたちの力とのバランスを考えることで、教材をどう扱えばよいか見えてきます。

教科ごとの流れ。算数・数学の図形、理科の実験、社会科の調べ学習、英語の会話、体育の鉄棒・・・、といった領域ごとのながれ。それぞれの基本のスタイルを持つことは、教師の教材研究を効率的にしてくれます。また、子どもにとっても何をどのように取り組めばよいかがわかりやすく、安心して課題に取り組むことができるというメリットがあります。

とはいえ、経験の浅い先生方にとって、いきなり多くの領域のスタイルを持つことは大変厳しいと思います。日々の教材研究で、目先の教材にとらわれるのではなく、この領域の基本のスタイルは何かを意識することで、一つずつ増やしてほしいと思います。この積み重ねが数年後には大きな力となるのです。

学校の情報化と導入について対談

昨日は教育系の新聞の取材で、自治体単位での学校情報化と導入に関して対談をおこないました。10年以上前から先進的に取り組んでいる市の推進役の先生といろいろとお話しをさせていただきました。この市の情報化のコンセプトづくりにかかわった当時のことを懐かしく思い出しました。

導入後の現場での活用の最終的な姿を明確にした上で、導入する側の都合ではなく、まずは、現場の先生方がこれはいい、便利だ、楽になったと思ってくれることから一つずつ市全体に広げていくというのが、導入時の方針でした。モデル校を作る発想ではなく、時間はかかっても全員が間違いなく取り組めることから底上げを図っていきました。今では、先生方にとって教育ネットワークはなくてはならないものになっています。また、地道に実践を積み重ねた結果、先生方の情報モラルも全体として非常に高いものになっています。

このことに関連して、セキュリティポリシーについて触れることがありました。最近挿入される市町村では、学校ネットワークのセキュリティポリシーはどんどん厳しくなる傾向にあるようです。私の目からは、行政側がこのルールを守っていない現場が悪いと言うための「いいわけ」づくりに見えます。実際に使う側からすれば、どうしようもなく使いにくいルールを押し付け、わかっていても破らざるを得ない状況に追い込んでいるように感じます。少々セキュリティポリシーを厳しくしても、守られなければかえって大きなトラブルになります。トラブルが起こっている自治体は、先生方の状況を無視した、建前を押し付けるセキュリティポリシーを採用しているところが多いように思います。
この市では、必要最低限のルールさえ守っていれば、大丈夫。何かあっても先生個人が責められる事はないという、先生方を「守る」ためのセキュリティポリシーになっています。時間をかけて先生方の情報モラルを高め、先生方が使いやすい環境を構築し、普通に活用するのであれば、特に意識をしなくても自然にセキュリティが確保されるようなシステムになっています。

学校の情報化が先生方の仕事の質を高め、それが子どもたちに還元されるようなものであってほしい。その思いがこの市では確かな形になっていると思います。

フォーラム打合せ

来年に開催予定の愛される学校づくり研究会フォーラムに関する打合せを昨晩おこないました。名人と呼ばれる先生方の授業を、ICTを活用して追試しようという企画です。中心となる先生方で今後の進め方を相談しました。

実際の授業は若手の先生にお願いします。授業技術は名人におよぶべくもありません。だからこそ、ICTを活用することで授業技術や経験の少なさをカバーできることを示せるのではないかと思っています。私は、名人に「それはズルだろう」と言わせることを目標に授業づくりのお手伝いをしたいと考えています。

これからどんどん若い先生が増えてきます。経験の少なさを補い、ベテランの授業技術に近づくための有効な道具の一つとしてICTがあると思います。フォーラムではICTの活用も含め、誰にでもできる授業づくりの新しい視点を提案できればと思っています。

野中信行先生から学ぶ

教師力アップセミナーで野中信行先生のお話しをうかがいました。

新卒向けの著書も多い先生ですので、会場は若い先生でいっぱいでした。
この日のテーマは、先生が提唱されている「味噌汁・ご飯」の授業です。毎日の授業の準備に多くの時間は割けないのが現実です。そんな中で普段の授業を充実したものにするたくさんのヒントを話されました。特に印象に残ったのが、授業の基本の流れをきちんと押さえるということです。毎時間の授業、単元ごとの基本の流れが明確であれば、教材研究も視点が明確になります。
また、挙手した子どもだけで授業を進めるのではなく、全員参加を目指すことも話されました。
ポイントを押さえた教材研究をおこない、基本的な授業技術を身につけることが「味噌汁・ご飯」の授業の基本だと理解しました。

いつものことながら、野中先生の話には共感できることがたくさんあり、多くの元気をいただきました。ありがとうございました。

教員研修に関する講演

教員研修のあり方について講演をおこないました。
小中高の先生方が100名あまり参加してくださいました。小中高の先生が一緒に参加する会というのは珍しく、焦点をどこに当てるか悩みながらの講演でした。

教員研修で大切なのは、学校全体として何を目指すのかできるだけ具体的にした上で、そのためにどうすればよいのか具体的な方策をもつこと。
教員を伸ばすということは、一人ひとりのよさを引き出すこと。
教員に要求することは、すぐ具体的にできること、その効果を実感できること。
教員の変容を肯定的に評価すること。
そして、学校の評価は最終的には子どもの姿で語られるべきこと。

このようなことを思いつくまま話させていただきました。私の思いがどれほど参加者に伝わったかわかりませんが、何人かの方が感想や報告を発信してくださいました。ありがたいことです。また、思いがけず古い友人にも会うことができました。私も大変勉強になるとともに楽しい時間を過ごすことができました。このような機会をくださった方々に感謝です。

授業観察

昨日は中学校で授業観察をおこなってきました。転任、新任の先生方と一緒に校内をまわり授業の様子を観察しました。この学校での取り組みの目指す方向を知っていただくためには、口頭で目指す子どもたちの姿伝えるよりは、実際に見ていただいた方がよくわかると思ったからです。
当り前のことですが、すべての学級で目指す姿が見られるわけではありませんが、比べてみることで明確になる部分もたくさんあります。教室には入らず、廊下から子どもたちの姿だけを見て、今どういうが面で子どもたちは、どんな状態なのか考えてもらいました。教師を見ないことで、子どもを見ることに専念できます。
全員が同じ状態であれば、まず間違いなくそれはその教師が見たい子どもの姿です。それに対して、ばらばらの状態であるときはまず間違いなく、その場面で見たい子どもの姿を明確にして授業をしていないときです。
このこと意識して見てもらうことで、自然に先生方が目指している子どもの姿が伝わったと思います。
授業場面ごとに見たい子どもたちの姿を明確にして授業をしていただくようにお願いしました。

授業を見ていておもしろい場面が二つありました。
一つは先生が机間指導をしている場面です。一人ひとりのノートをしっかり見ながら、声をかけています。ところが、しばらくすると一部の子どもたちの集中力が落ちてきました。そのことに気づいたのでしょう。移動の間に顔を挙げて教室全体を見回してから次の子どもの指導に移り始めました。すると集中力を失っていた子どもたちがふたたび課題に取り組み出しました。教師がつねに学級全体を見ていることの大切さを参観者に伝えることができました。

もう一つは、社会科の時間で、先生が説明している場面です。授業者は比較的小さな声で話しているのですが、生徒全員が顔を食い入るように見ています。すごい集中力でした。ところがしばらくすると一人の生徒が集中力をなくしてきました。学級全体としてはまだ集中していますが、このままだと全体の集中力が落ちていくかもしれません。また、集中力をなくしている生徒のことも気になります。そう思って見ていると、授業者は子どもたちに資料集を見て、話に関連したことを探すように指示しました。もちろん子どもたちはすぐに資料集を見始めます。先ほどの子どももまわりが動きだすと、少し遅れて資料集を手にとりました。そのあと、授業者は彼のそばに行き、見つけたことを発表させました。集中力をなくしていた生徒を注意するのではなく、授業の流れの中で自然に参加させました。素晴らしい授業力に感心しました。

一緒に授業を見た先生方は子どもたちの姿からどんなことを学んでくれたでしょうか。ある先生は、この日気づいたことを早速自分の授業に取り入れようとしていました。次回訪問時に一緒に回った先生方がどのように変化しているかとても楽しみです。

学校が大きく動き出す

昨日は、中学校で授業アドバイスをしてきました。連休の谷間に訪問した学校です。連休明けの子どもたちの変化が気になっての訪問です。

3年生は、相変わらずよく集中できていましたが、ちょっと気になることにも気づきました。例えば、指名された生徒が解答を板書しているときに、解き終わった生徒がまわりと雑談して騒がしくなる。教師が板書で黒板を向いているとき、ごそごそする。このようにすることがない時間に緩みが見え始めています。教師が話し始めるとすぐに集中するので、今のところそれほど心配することではありませんが、早めに手を打っておいた方がよさそうです。問題が解けたら次に何をするのかといった、指示を明確にするようにお願いしてきました。
また、全員がよく集中しているということは、昨年あまりやる気を見せなかった生徒が頑張っているということです。教師から見るとみんな頑張っているという評価になりやすいのですが、そういった生徒をきちんと評価することもお願いしました。みんなが頑張っているため、急にやる気を出しても試験の相対的な結果に反映されないこともよくあります。結果が出なくてやる気をすぐになくすかもしれません。そのことも念頭に置いてのお願いです。

2年生は、一番心配していたのですが、前回訪問時よりも学習においては落ち着く傾向を見せていました。担任の学級経営が実を結びだしているようでした。しかし、どの学級も苦労していると感じた前回と比べて、うまくいってきている学級とそうでないところの差が見え始めたようでもあります。簡単なことでいいので、学年全体で指導することを明確にして取り組むようにお願いしました。

1年生は、連休明けで緊張も解け、さすがに緩む場面が増えてきました。受け身の時間が続くとごそごそしたりして集中力をなくします。一方的に教師の説明が続く授業、教師が子どもを見ていない授業では、その傾向が顕著です。今は子どたちが集中している時間が長いので気づいてない方もいるようです。このことを意識するようにお願いしました。

授業を見ていて、とてもよい場面が2つありました。
一つは国語の時間です。子どもが作業をしているときに、なかなか手をつけない生徒が後ろに一人いました。ぼつぼつ何か働きかけないといけないと思ったとき、授業者が教室をぐるりと回りながら、自然にその子に近づきました。絶妙のタイミングです。ところが指導をし始めてしばらくすると、作業が終わった生徒がざわざわし始めました。教師が見えなくなったためでしょうか。このまま指導をしていると学級全体が集中力をなくすと思ったとき、「できた人は、まわりの人と確認して」と指示を出しました。個別指導をしていても、きちんと学級全体を把握していたのです。まだ若い先生ですが、とても感心しました。

もう一つは、理科の時間です。顕微鏡の使い方を板書して、説明をしている場面です。子どもたちは驚くほど集中して聞いています。だれも、鉛筆を持って写したりしません。授業者もしっかりと子ども一人ひとりを見ています。話し終わると、「写していいよ」と指示を出しました。その指示を待って、子どもたちは一斉にノートに写し始めました。1月の間に、きちんと授業のルールが浸透しています。もう一つ感心したのが、「写していいよ」だけでなく、「自分が大切だと思ったところ、ポイントだと思ったところに線を引いてね」という指示を同時に出したことです。ただ箇条書きにしているだけで、ポイントがはっきりしない板書だと思っていたのですが、このための伏線だったわけです。
この先生も若手です。

若手の先生が育っていることがとてもうれしく思いました。
それだけではありません、お話しをした転任者の複数の方が、この学校は教師の人間関係がいいので楽しいと言ってくれました。昨年度は、どちらかといえばそのことで苦労したので、本当にうれしく思いました。今年度に向けてやって取り組んできたことが実を結びだしたのでしょう。学校力アップに向けて大きく動き出したことを感じた1日でした。

子どもの活動から考える

教材研究を始める第一歩は、目の前にある教材は子どもにどんな力をつけるためにあるのか、このことをきちんと考えることです。そこをはっきりさせずに、どんな発問をするのか、説明をするのか、活動をさせるのかといった各論に入っても迷路に迷い込んでしまいます。その上で、その力がついたということは、子どもがどんな場面で何ができればよいかを明確にします。問題を解ける。発問に対して、答えられる。あることがらを説明できる。できるだけ具体的にします。

つぎに、子どもたちがそうなるためにどのような活動をする必要があるかを考えます。どんな説明をするかという教師の活動ではなく、子どもの活動です。教師が説明することも必要です。その場合、その説明に続いてどんな活動をさせるか考えてみます。説明した事を使って問題を解かせる。説明を理解するために友だち同士で説明させる。・・・

そこで、その活動に子どもたちがうまく取り組めるようにするために、教師はどのような働きかけをするとよいのかを考えます。教師の説明はついては、ここでもう一度見直します。友だち同士説明させるなら、発問を工夫して子どもが自身で気づけるようにできないか。問題を解かせるなら、問題を解く過程で気づかせることはできないかと考えます。

例えば、国語の物語の教材を考えてみます。天気が主人公の気持ちを表していることから、読み取りをする場面を考えてみましょう。
教師が、天気が変化していることから、これは主人公の気持ちを表していると説明する。そこで、ではそれぞれどんな気持か考えてみようと発問する。
この流れに対して、子どもが天気から主人公の気持ちを考えるのであれば、子どもがそこに気づくような発問や流れはないかと考えます。「天気」がキーなので、「天気」に注目させることはできないか。そこで、「この段落と前の段落で何が違う」といった発問を考えます。
子どもから「天気」も「主人公の気持ち」も出てきたら最高ですが、「天気」しか出ないことも考えます。「天気」は一旦置いておいて、2つの段落での「主人公の気持ち」を考えさせる。「主人公の気持ちはどう」と問いかける。というように発問を考えていきます。
この流れが正解ということではありません。最終的に、この流れより最初の方がよいという判断をすることもあると思います。教材を使って学ぶのは子どもです。子どもは活動することで、学んでいきます。大切なのは、教材を使う子どもの活動をどうすればよりよいものにできるかという視点で考えることです。教師の活動の合間に子どもの活動があるのではなく、子どもの活動の合間に、教師が何をするかという発想を持ってほしいと思います。

「教材研究」を追加しました

新しく「教材研究」というカテゴリーを設けました。教材研究はいろいろな側面があって簡単には伝えられないのですが、悩んでいる方も多いと思いますので、私なりの考えを書いていきたいと思います。

教材研究の前に

若い先生から、教材研究をどうやればいいのかわからないということをよく聞かれます。どのレベルから話をすればよいか迷うこともよくあります。一つひとつの教材についてどのようにして授業の流れをつくるのか、そのための資料や参考になるものの見つけ方なのか、そもそも授業の作り方なのか。
実は具体的に教材研究について話す前に、次のようなことを先生に問いかけたりお願いしたりします。

例えば国語であれば、「物語は子どもにどんな力つける教材、説明文は、詩は、文法は」といったように、教材のカテゴリーごとの大きなねらいを明確にすることです。ときには、「国語ってどんな力をつけるの、社会は」と教科の意義を聞くこともあります。この教材観・教科観というものがしっかりしていないと、一つひとつの教材に対して何を大切すればよいのか、教材のどこに注目すればよいのかはっきりしないからです。

また、多くの教科で学年ごとに同じカテゴリーの内容を学習します。子どもの成長にともない何が新たに加わっていくのか、何が必要なくなっていくのか、何が変わらないのか。このことをしっかり意識するようにお願いします。
新たに加わるということは、その内容に取り組めるベースがその時点でできているはずだということです。そのベースはいつどのようにして身についているのか考える必要があります。
変わらないものはその教科の根幹をなすものです。つねにそのことが身についているか問い続ける必要があります。
こういったことを意識することで、大切にすること、こだわりすぎないことが明確になります。
小学校であれば6年生までの教科書を一度は目を通しておくこと、特に高学年であれば、中学校の内容も、中学校であれば、小学校高学年の内容と高校の内容も把握しておく必要があります。

とはいえ、すぐにしっかりした教材観・教科観をもったり、広い視点での教科内容の把握ができるようになるわけではありません。日々の教材研究に取り組む中で、個々の教材が子どもにどのような力をつけることをねらっているのか、それが過去の学習内容や、これからの学習内容とどうかかわっているのかを常に問いかけることで身につけていってほしいと思います。

研修の打ち合わせ

中学校で今年度の研修の打ち合わせを行いました。

子どもたちのかかわり合いを大切にし、相談したりグループで活動したりすることを積極的に取り入れている学校です。昨年度研究発表をおこないましたが、その後も続けて授業改善に取り組んでいます。

話題になったことの一つが新たにこの学校に赴任してきた方への対応です。すべての学校や先生が実際にペアやグループでの活動を積極的に取り入れているわけではありません。また話に聞くだけではどのようにしていけばよいかわかりません。ベテランほど自分のやり方が確立しているので、今までの自分の方向性と異なるとどうしていいかわからなくなってしまいます。公立の学校では人事の移動に伴い多かれ少なかれ起こる問題です。結論としては、早い時期に彼らに他の先生方の授業を見ていただき、この学校での取り組みがどのようなものか理解してもらうことになりました。具体的には、私と一緒に校内をまわりながら、授業中の子どもたちの様子を観察し、意見を交換するというものです。子どもたちの活動と教師の働きかけ、その意味を考えてもらうことでこの学校の取り組みを理解してもらおうというわけです。

また、若い先生のことも話題になりました。この学校の若手はずいぶん伸びてきました。しかし、研究発表も終わり、自分たちはこれでいいと思ってしまうと成長は止まります。彼らに、よりよい授業を目指し続けてもらうには、今できていること、まだできていないことを自覚してもらうことが大切です。次回訪問時、今の彼らの課題をしっかり見つけたいと思っています。

早い時期に研修担当者と学校の現状と課題について話し合う機会を持てたことは大変有意義でした。この1年もこの学校の先生方と一緒にたくさんのことを学べそうな予感がしています。
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