誰かが子どもとつながる

昨日は、私立の中高一貫校のお話しを伺ってきました。生徒と教師のコミュニケーションを大切にしている学校です。

面接の充実はもちろんのこと、行事等いろいろな機会をとらえて子どもたちとコンタクトをとるように努めています。いわゆる能力別学級編成をしているので、横のつながりが薄くなりがちなので行事も大切にしています。また、学年で生徒の様子について話し合う機会をたくさん持っています。気になる生徒に関しては、担任にこだわらず、教科担任、養護教諭、部活動の顧問…、誰かがつながっている体制をつくろうとしています。

実は先日授業の様子を外から見せていただいた時に、うまく授業に参加できていない生徒が少し気なったのですが、そういう生徒に対しても、個別にフォローしているので大きな問題になっていなかったようです。学校の中で誰かが受け皿になることは、学校の中に居場所があるということです。このことの大切さを改めて考えさせられました。

送辞・答辞の読み方指導

先週末は、中学校で送辞・答辞の指導に参加しました。プロのアナウンサーにお願いして読み方を具体的に指導していただくのです。

アナウンサーの指導というと、発音や抑揚などの技術的な指導が中心になると思いがちですが、もっと根本的なところから指導されます。
文章全体を通じて一番伝えたいところはどこであるか。何を伝えたいのかを生徒に意識させます。その上でどう読むのかを考えさせます。
生徒たちは事前にしっかり指導されてきたのでしょう。一つひとつの文の読み方も声の調子に変化をつけるなどの工夫がされていました。このまま本番を迎えても恥ずかしくないほどでした。しかし、前半から変化をつけてしっかり思い出を伝えているため、後半の伝えたい気持ちのところで相対的に盛り上がってくれないのです。だからこそ、よりよくするためには、今までの読み方をリセットしてもう一度全体を見る必要があったのです。

生徒たちは、指摘されたことを素晴らしい早さで吸収していきます。読むたびに確実に1ランク上に上がっていきました。指摘の内容も、語尾の発音、どの単語を強調するか、間の取り方など、ピンポイントなものに変わっていきます。何がいけないのか、どうすればよいのか、非常に具体的で説得力のあるものです。さすがにプロと感心させられました。

また、休みの日にもかかわらず、担当の先生だけでなく国語科の先生全員がこの指導に参加されていました。プロの指導から学んで自分たちの日ごろの指導に活かそうとしているのです。先生方の熱心さに頭が下がります。

プロのアナウンサーにうまくなったとほめられた生徒たちは、自信を持って本番に臨んでくれることだと思います。わずかな時間でこれだけうまくなった2人です。残された時間でもっとうまくなっていることでしょう。「できることなら卒業式に参加して聞きたいですね」と話をしながら学校を後にしました。

足場をそろえる

子どもたちに複雑な問題取り組ませると、最初の方でつまずいてしまい、答えの確認が始まるまで動きが止まってしまうことがあります。また、確認が始まっても最初の部分の説明を理解しようとしているうちに先に進んでしまい、ついていけなくなっていることもよくあります。
どのようなことに注意をすればよいのでしょうか。

複雑な問題は答えに到達するためにいくつかのステップがあります。最初の段階でつまずいてしまうと何ともなりません。教師は半数くらいの子どもがゴールにたどり着くまでは自力で解決させようとしますが、その間手がつかない子とそうでない子の差はどんどん広がっていきます。このまま答えを確認しても学級全体に理解させるのは難しい状態になっています。
教師が個別に対応しようとしても、つまずいている子が多ければ対応できません。友だちに相談するにしても、相手がまだ解いている途中であればなかなか声をかけづらいこともあります。

このような時は、いったん個別の活動を止めて最初のステップだけを全体で確認します。答えではなく、どこに目を付けたか、何をやってみたかを発表させるのです。例えば図形の問題ではどこに線を引いたか、資料を使う問題であれば資料のどこに目を付けたかを聞くのです。こうすることで学級全体を一つ次のステップに到達させることができます。子どもたちの足場がそろい、開いていた差も縮まります。
ここで再び個別に取り組ませます。場合によっては、何度かこれを繰り返します。
このようにすれば、たとえゴールに到達できなかったとしても、全体の確認の場面ではクリアすべきステップは減っていますので、より理解しやすくなります。

複雑な問題は、一気にゴールに到達しようとせず、一つひとつのステップを学級全体でクリアして、子どもたちの足場をそろえながら進めることで、より多くの子どもが積極的に取り組み、理解できるようになります。

若い先生のやる気に元気をもらう

先日の中学校訪問時(授業アンケートが生きる参照)に、とてもうれしことがありました。生徒指導を担当している2人の先生から相談されたのです。

その内容は、次のようなものでした。

子どもたちは授業がわからなくなると学校から離れていく。そのことが問題行動につながっていく。中学校に入学する時点で子どもたちの学力にはかなり差がついている。なんとか下位の生徒が中学校の授業についていけるような工夫をしたい。理科の授業でも簡単な計算ができないためにつまずく子がいる。そこで、数学と理科を連続授業としたり同時展開したりすることで、習熟度別等の学級編成を可能にし、下位生徒が授業についていけるような方策をとりたいと思うがどうだろうか。

たまたま、2人が数学と理科の担当でもあったことがこのようなアイデアにつながったようです。
学習指導と生徒指導の関係を意識して、教科の枠を超えて子どもたちに対してできることを考えようという姿勢はとても素晴らしいものです。
彼らの想い、考えを聞き、私もできる限りのアドバイスをしました。特に、彼らが何とかしたい下位生徒に対してどのような授業、どのような取り組みが効果的であるかの具体的な仮説を持つことが大切であることを強調しました。これが明確になれば、今の枠組みの中でも改善できることがたくさん見つかりますし、また、必要な対策がよりはっきりするはずです。
実際にカリキュラム的に実現可能かどうかはわかりませんが、何とか実現できるよう願っています。

まだ若い2人の先生から、このような相談を受け、私も大きな刺激と元気をもらいました。

授業アンケートが生きる

昨日は、終日中学校で授業アドバイスをおこないました。2年生の2つの学級を中心に見ましたが、授業者に影響されない学級の特徴がよくわかりました。

作業や課題に対する指示に対してあまり積極的に取り組まず、答えなどの結果が示されると、それはノートに写す学級。
作業や課題に対しては取り組むのだが、教師や友だちとはあまり積極的にかかわろうとしない学級。

作業や課題に取り組む度合いの差はありますが、基本的に教師と子どものコミュニケーションがうまくいっていないことが問題です。子どもは試験で点をとるために必要な知識、結果のみを求めていて、その過程、教師や友だちとのかかわり合いを求めていないようです。
この日見た授業に共通していたことは、先生が子どもたちをポジティブに評価している場面がほとんどなかったことです。

こんな場面がありました。
ある生徒に友だちの発言を確認したところ、声が小さいから聞こえないと答えたので、発表者に再度みんなに向かって大きな声で発表するように指示しました。
指示された生徒は、嫌がっていましたが、何とか再度発表してくれました。
ところが、それでもよく聞こえないと言うので、その生徒にはちゃんと聞くように注意をした上で、もう一度、もっと大きな声で、みんなの方を向いて発表するように指示しました。
今回はかなり抵抗しましたが、なんとか発表してくれて、確認もできました。

このやり取りの間、確認された生徒も、発表した生徒も注意されるばかりで、発言の内容や聞いていたことを評価されていません。このようなことが続くと、子どもたちは発表することを嫌がりますし、友だちとの関係も悪くなってしまいます。コミュニケーションがとれなくなってしまいます。
子どもが何らかの外化をおこなったときに、きちんと評価することはとても大切なことです。このことを先生方に意識してもらうことが改善への第一歩です。

授業後このことをアドバイスしましが、「先日おこなった授業アンケートで、『先生はよくほめてくれたり、励ましてくれたりする』の評価が低かったのですが、そのことがよくわかりました」と、驚くほど素直に納得していただけました。ほかにも授業アンケートの結果を受け止めて、子どもたちの接し方をどうしようかと考えている先生がいらっしゃいました。
それまであまり意識していなかったことが、授業評価をきっかけに意識され始めていたのです。授業アンケートに項目として入れることが意識してもらうことにつながるのです。また、このアンケートを受けて先生の授業に変化が見られれば、子どもたちも先生方を信頼してくれるようになります。授業アンケートにはこのような利点もあるのです。

先生方が、子どもたちからの評価を素直に受け止めていただいていることをとてもうれしく思いました。この授業アンケートをきっかけに先生方の授業が進化し、先生と子どもたちの関係も改善していくと確信しました。

考えるための足場をつくる

子どもたちが考える授業をしたいと誰もが思っていることでしょう。しかし、問題を提示して、「考えてごらん」と言えば考えられるわけではありません。子どもが考える授業にはどのようなことが必要なのでしょうか。

大切なことは、考えるためには知識が必要だということです。授業中に考えさせたい問題に対して、どのような知識が必要かまず教師がしっかりと押さえておく必要があります。その上で、子どもたちがその知識を使える状態にあるのかどうかを確認しなければなりません。
既修事項であっても全員が身についているわけではありません。授業の最初に復習したり、整理をすることから始めなければなりません。考えることに時間を使いたいのですから、この時間はできるだけコンパクトにしたいものです。そのために必要な知識を絞り込んでおくことが大切です。
必要な知識が未習であれば、どのようにして身につけさせるかを明確にしておく必要があります。原則、知識は教えるか、調べさせるかのどちらかです。授業の組み立てで、どの程度の時間を割けるかによって判断する必要があります。

教師は、どうすればこの問いに答えられるのか、考えることができるのかを意識していないことがよくあります。考えるにあたって、無意識のうちにいろいろな知識を活用していますが、そのことを意識下から掘り起こす必要があります。そして、この考えるための足場となる知識を子どもたちが利用できるようにすることが大切になります。この足場をつくるという発想を持つようにしてほしいと思います。
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