教材研究における「足し算」と「引き算」

「授業は引き算の発想が大切」。これは20年ほど前にある先生から教わったことです。この引き算の発想は私にとっては授業を考えるときの基本となっています。しかし、最近はあまり言わないようにしています。「そもそも若い先生には引くほどのものがない」と指摘されたからです。教材研究における「足し算」「引き算」を考えてみましょう。

1時間の授業を組み立てるとき、ねらいを達成するための子どもたちの活動、それを引き出すための発問や指示を考えます。このとき、1つ2つの活動を考えついたところで終わるのではなく、他にもないかといろいろ考えることが大切です。

例えば社会科の雨温図と地域の関係の学習での子どもの活動を考えてみましょう。

A.子どもに雨温図を理解させるために、地域ごとの気温と雨量のデータだけを与えて雨温図を作る。
B.各地域の雨温図を比較して特徴を考える。
C.地域名を隠した雨温図を与え、資料集からどこのものか調べる。
D.できるだけたくさんの地域の雨温図を用意し、似た傾向のものをグループにわける。
E.地域名を隠した雨温図を与え、その特徴からどこの地域のものか考える。
F.雨温図とその地域の農産物の関係を考える。
・・・

ベテランの方であれば、もっといろいろな活動を考えつくと思います。
それぞれの活動を個人でおこなうかグループでおこなうか。また、活動ごとに発問や指示にはいくつものバリエーションがあります。
それぞれの活動は授業のねらいのどこかを達成することにつながるはずです。これらは互いに相反するものとは限りません。例えばAとB、DとEを組み合わせて授業をすることも可能です。工夫すれば、これらの活動のほとんどを組み合わせた授業も不可能ではないでしょう。
このように、いくつもの活動やそのバリエーションを考えることが「足し算」です。しかし、1時間の授業ということで考えれば、この中の2つを組み合わせることも現実には難しいでしょう。そこで、それぞれの活動につながるねらいの中で一番重要なものは何か、また、子どもたちの現状からどのような活動がふさわしいのかなどを考えることになります。ほとんどのものは引き算されて、1つか、せいぜい2つの活動に絞られます。これが「引き算」の発想です。

力をつければつけるほど、たくさんの「足し算」ができるようになります。それにともない、だんだん多くのことを授業に盛り込むようになっていきます。そこで、本当に必要なものは何かと考える「引き算」の発想が必要になってくるのです。まずしっかり「足し算」ができるようになる。そして、「足し算」から「引き算」の発想を身につけるようになってほしいと思います。
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