さて、新入生の皆さん、改めてご入学おめでとうございます。
　みなさんは、今、期待と不安が入り交った複雑な気持ちでいることでしょう。
　今日の入学式が、稲付中学校の一員として、また、記念すべき新校舎への最初の入学生としての第一歩となります。
　今日の喜び、そして、中学生としての抱負や決意など、初心を忘れることなく、３年間を過ごしてください。中学校の様々な活動を通して、たくさんの充実感や達成感を味わってくれることを願っています。

　これから始まる中学校生活では、新しい制服・新しい友だちや先生方との出会い・新たに始まる教科担任制での授業や部活動、さらに、新しい校舎での生活と、たくさんの「新しいこと」が待ち受けています。
　この四月には、新たな元号が発表され、まもなく新しい時代の幕開けとなり、世の中も大きく変わっていくことでしょう。
　新しいことが始まる時、その土台には、それまでに多くの方が、長い年月をかけ、準備してきたものがあります。そして、新しいものを築くために携わった人々の、たくさんの思いや願い、支えがあります。

　そこで、みなさんの入学にあたり、「目に見えるものと見えないもの」についてお話をしますので、一緒に考えてください。
　金子みすゞさんの「星とたんぽぽ」という詩に、「見えぬけれどもあるんだよ。見えぬものでもあるんだよ。」という一節があります。
　この詩では、星とたんぽぽを題材に、昼間の星も、地面の中にあるたんぽぽの根も、それぞれ目には見えませんが「見えないけれどもあるんだよ。見えないものでもあるんだよ。」と伝えています。
　みなさんは、「目で見て確認することはできないけれど、必ずそこに存在するもの」と言われた時、何を思い浮かべるでしょうか？
　「風や空気」それとも「やさしい気持ちや心遣い」あるいは「友情や愛情」でしょうか。
　金子みすゞさんが伝えたかった「見えぬもの」とは、物質的な意味での「星」や「たんぽぽの根」だけではなかったはずです。

　体育館の後ろに、三つの丸い窓、三つの輪があることに気付いたでしょうか？
　オリンピックの五輪には、二つ足りないし、車のメーカーのロゴとも違う。
　三つの丸い窓、三つの輪を、見ることはできますが、そこには見えないけれども、確かに存在するものがあるのです。
　それは、稲付中学校が、どのような学校であってほしいかという、改築当初の計画や設計など４年以上前から携わってきた人たちの、願いや思いです。　
　三つの輪の一つ目は、「成長への環」。
　　生きる力を育み、未来に向け、力強く健やかにはばたく生徒が育つ学校。
　二つ目は、「つながりの和」。
　　人をつなぎ、想いをつなぐ、心豊かな生徒が育つ学校。
　三つ目は、「地域との輪」。
　　稲穂のように、地域に寄り添い支え合い、ともに育つ学校。
と言う三つの願いを象徴しています。
　この校舎には、体育館以外にも、三つの輪が使われているところがあるので、ぜひ、探してみてください。

　今、私たちの目に映る真新しく、ともすれば無機質にも感じるこの校舎ですが、その中には、目に見えない思いや願いが確実に存在しています。　
　校舎だけではありません。みなさんは、今日の日を迎えるまで、そしてこれからも、保護者の方をはじめ、たくさんの人たちの目に見えない思いや願いに支えられています。
　中学生となったみなさんには、ぜひ、こうした「見えぬもの」があることを意識し、それを受け止められる人であってほしいと願っています。

　保護者のみなさま改めまして、お子様のご入学誠におめでとうございます。
　近年、教育に関する様々な課題が問われています。本校では、そうした課題に対し、改善と解決に向け、教職員一丸となり取り組んでおります。
　現在、稲付中学校の生徒たちは、落ち着いた雰囲気の中、日々真剣に勉強に運動に励んでおります。
　これからの世の中は、ＡＩの進化とともに、どのように変化していくか想像がつきません。
　どんなに、ＡＩが発展しようとも、機械が人の心を感じることは難しいでしょう。
先ほどの詩の一節ではありませんが、目には見えなくとても、そこにある、人の痛みや思いを感じることができる、心の目を養うことが重要であると考えています。　
　お子様一人ひとりの心と体が健やかに育つよう、これからの３年間、手を携え、共に成長を支えていけるよう、ご協力をお願いいたします。

　結びにあたり、新入生のためにご臨席賜りました、ご来賓のみなさまには、今後とも学校と地域が一体となり、子どもたちの健全育成と夢の実現のため、ご支援・ご協力いただきますようお願い申し上げます。
　本日、新たなスタートを切った新入生一人ひとりの未来を信じ、３年間の中学校生活が充実したものであることを願い、式辞といたします。

　　　平成３１年４月９日　
　　　　　　　　　　　　　　　　東京都北区立稲付中学校長　高田 勝喜