授業技術のパラダイムが変わっていく?

昨日あった、授業と学び研究所のミーティングでネット授業のことが話題になりました。
知識を伝えるのであれば、質の高いビデオの方が普通の授業よりもよくわかることもあるのではないかということです。ビデオで見ることを前提として構成を工夫すれば、知識はかなり効率的に教えられはずです。実際にネット授業で学習している方は世界中にたくさんいらっしゃいます。では、今後すべての授業がネット授業に置き換わるかといえば、そんなことはないでしょう。理由の一つは、子どもたちの主体性の問題です。ネット授業を積極的に利用する人のかなりが、実際に学校で学びたくてもそれがかなわない人です。学校に行けなくても「学びたい」という意欲がある方にとってとても有効な手段です。しかし、学ぶ意欲がなければ、見なさいと言っても見ないでしょう。すべての子どもに学ばせるという公教育では、そこが一つの壁になります。逆に言えば、学ぶ意欲を持たせることができるのなら大きな武器になるはずです。もう一つは、これからの時代にとても重要な、人とかかわりながら学ぶことがネット授業では難しい面があることです。ネット上で議論したりすることはできますが、実際に顔を合わせて話し合うことが大切です。また、その話し合いを支援したり、評価したりする指導者も必要になります。
ネット授業だけで完結することを考えず、それを上手く学校の授業に組み込めば、より質の高い学びが可能になるようにも思えます。反転授業などはその一例に思えます。実際にはまだ見たことがないのですが(秋に視察に行く予定です)、授業者の役割は教えることそのものではなく、子ども同士をかかわらせながら、活用したり、より深く理解させたりすることが重要になります。私の経験上、これができる先生の多くは、教えることもとても上手いように思います。子どもに意欲を持たせることと合わせて、このようなビデオがなくてもよい授業ができる方たちです。あえて、反転授業に挑戦する理由が見えないような気もします。
では、ネット授業のようなビデオ授業は学校では普及しないのでしょうか?これについてはいくつかの条件があるでしょうが、質の高いビデオが今後増えてくれば、当然普及するはずです。そうなってくると、授業における教師の役割が変わってくるように思います。どのビデオを使うか、ビデオを見る以外にどのような活動をさせるのか、プロデューサー、コーディネーター的な力が今まで以上に求められるようになります。これまで私は、この力をつけることは難しいように思っていました。しかし、教える部分をビデオに任せることができるのなら、プロデュース、コーディネートに特化した力をつければいいのですから、そのハードルは低くなるように思えます。授業技術のパラダイムが変わってしまうかもしれません。
そんな時代が本当に来るのか、いつ来るのかはわかりませんが、例えそのような時代が来ても、子どもたちがかかわりながら、学びを深めるような授業をつくる力は必要とされ続けると思います。こればかりは、ビデオやICT技術だけではまだまだ解決できないように思います。

自然に背筋が伸びる本

野口芳宏先生の著書「授業で鍛える」が復刻されました。今から30年近く前に出版された書籍にもかかわらず、少しも色あせていないどころか、ますます輝いて見えました。
「鍛える」という言葉には子どもに無理やりやらせるというイメージがあるため、拒否反応をする方がいるかもしれません。しかし、野口先生の「鍛える」は子どもの自己有用感を大切にし、向上意欲を持たせることがベースになっています。子どもにおもねはしませんが、子どもたちに寄り添うことは決して忘れません。どの子どもも授業に積極的に参加し、活躍でき、その結果向上的変容を遂げ自己の進歩を実感できる、厳しいが愛情にあふれた授業を目指すものです。下手な「協同学習」や「学び合い」より、今言われているアクティブラーニングをより高いレベルで実現していると思います。そして、子どもたちを「鍛える」授業をつくるためには、教師が自らを「鍛える」ことが大切なのだと気づかされます。単なる授業技術のノウハウではなく、授業のあるべき姿、教師のあるべき姿を明確に示しておられます。

毎年、野口先生とお話をする機会をいただいていますが、初めてお会いした時に「教師が授業の主役」だと主張されました。私は「子どもが主役」の授業を目指してほしいと常々思っています。考え方が違うのかとも思いました。しかし、野口先生のお話を聞けば、一方的に教師が教え込む授業ではなく、子どもたちに考えさせ、活動させ、活躍させることを目指していることがわかります。子どもたちに全員参加を求め、活躍させ鍛えるのが教師の仕事だというそのお考えに納得したのを覚えています。この本を読んで、今学校現場で私が話していることの多くが、野口先生との出会いに影響されていることを再認識させられました。野口先生の実践やお話から私が鍛えられたことがよくわかります。

時代の変化や流行に揺るがない先生の主張に、読んでいるうちに自然に背筋が伸びてきます。若い先生方が生まれる前に書かれた本です。だからこそ、若い先生にはこの機会にぜひ読んでほしいと思います。授業のあり方を通じて教師とはどうあるべき存在かを学ぶことができると思います。

福山憲市先生から学ぶ

本年度第3回教師力アップセミナーは、山口県の福山憲市先生の「20代からの教師修業 出会いと挑戦」と題した講演でした。福山先生は「ふくの会」という勉強会を30年以上続けられていることでも有名ですが、130名の学年で算数の平均点が90点以上といった授業力や学級経営に定評のある方です。

お会いしてまず感じたのが、笑顔でした。この日ずっと笑顔が消えることがありませんでした。これは意識し続けなければできないことです。この一点だけでも、すばらしい先生であることは間違いないと確信できます。

「出会い」を大切にされています。言葉でそのことを説明するのではなく、実際の活動を通じて上手に伝えられます。会場の参加者同士で挨拶をさせますが、握手をしたかどうかを確認します。握手をして触れ合うことの大切さを伝えて、今度は移動してより多くの人と握手をするように指示します。その後、握手した人の名前を憶えているかをたずねます。憶えていない人が普通ですが、それでは出会いを大切にしていないとお話しされます。この一連の活動から、福山先生の姿勢や授業スタイルが見えてきます。伝えたいことをスモールステップに分割し、実際に活動をすることを通じて気づかせるというスタイルは授業でもとても有効だと感じました。また、福山先生は、指示が具体的でとても明確です。わかりやすくゴールも設定します。何より、よくほめます。授業力に定評のある方は、こういう基本的なことを絶対に外しません。

自身が先輩から学んだことをその時の話を交えて伝えていただきます。自信の至らなさをもとに伝えるところに、若い先生に成長してほしいという思いを感じます。よき先輩との出会いと、よき先輩になろうとすることの大切さを改めて感じました。

子どものちょっとした疑問も大切にされています。そういうものだと私たちがあたりまえのこととして疑問を感じないことも、子どもたちの目には不思議に映ります。子どもたちの「童心」と「同心」になり、いい質問をしてくれてありがとうの言葉をかけ、知らないから調べて学ぶことで「動心」し、子どもたちに「憧心」を持ってもらう。「童心→同心→動心→憧心」こんなお話に、子どもたちの側に寄り添う福山先生の姿勢を感じます。

障害児学級での経験で、子どもたちのやる気を引き出すための基本的な考えを教えてくださいます。その時間の一連の活動を事前に伝え見通しを持たせる。一つひとつの活動時間を短く区切り、名残惜しい気持ちにさせる。そして、何より子どもをほめることです。どんな些細なことでもいいので、ほめることは子どものやる気につながります。この考えには私も大きく共感します。

福山先生の講演は参加者にたくさん質問をされます。参加された方がいっぱい考えて頭がつかれたと言っていたのが印象的でした。よい授業を聞いた時の子どもの感想と同じです。福山先生の授業の本質を表わした感想なのかもしれません。子どもたちの平均点が高かったとことの秘密はそんなところにもあるのかもしれません。

以前からお会いしたかった福山先生にお会いでき、とても多くのことを学ぶことができました。このような出会いに感謝です。

志水廣先生、大羽沢子先生から学ぶ

今年度第2回の教師力アップセミナーに参加してきました。「算数授業のユニバーサルデザイン−模擬授業を通して学ぶ−」と題した、愛知教育大学名誉教授の志水廣先生と鳥取大学医学部エコチル調査鳥取ユニットセンターの大羽沢子先生の講演でした。お二人が執筆された「算数授業のユニバーサルデザイン 5つのルール・50のアイデア」は算数のみならず、どの教科の授業でも参考になると評判です。

冒頭で「授業のユニバーサルデザイン」とは「学力の優劣や発達障害の有無にかかわらず、全員の子どもが楽しく『わかる・できる』ように工夫・配慮された通常学級における授業デザイン」(授業のユニバーサルデザイン研究会)と定義されました。このことがすべてを物語っていると思います。ユニバーサルデザインだからといって特別なことではないのです。私たちが日ごろから目指すべき授業そのものです。
配られたユニバーサルデザインのチェックシートの項目を見ることで、授業で注意するべき視点が浮かび上がってきます。

1.机の配置、机の上の整理など子どもが集中しやすい環境ですか。
2.具体的なねらいが設定されていますか。
3.子どもは最後に何ができればよいか明確ですか。
4.ねらいを達成するのにふさわしい教材・教具ですか。
5.学習活動は、何をすればよいか分かりやすいものですか。
6.指示は短く具体的でしたか。
7.自力解決や適用問題の時に机間指導していますか。
8.机間指導での助言は、できるだけ端的にしていますか。
9.間違えているときの助言の仕方を考えていますか。
10.訂正ができたら即座にほめましたか。
11.子どもの発言を最後まで注意深く聞いていますか。
12.「どこがむずかしかったかな?」や、「何を見てそう考えたの?」など困っている子どもにたずねてみましたか。
13.分かりやすくはっきりとほめましたか。
14.キーワード(ねらいに迫る言葉)を子どもに言わせたり、板書したりしていますか。
15.初めて学ぶ算数用語などは、全員で繰り返し言ったり、確認したりしていますか。
16.不適切な行動に対して、どのように対応するかあらかじめ決めていますか。(子どもの考えは一旦受け止めてから次の指示をする、適切な方法を考えさせる、モデルを示す、ほめるタイミングなど)

どうでしょうか。ユニバーサルデザインということを意識していない方でも、授業中に気をつけていることばかりではないでしょうか。
7、8、9、10は机間指導に関することですが、私が見る限り、このことができていない方が多いように感じます。なんとなく子どもたちを眺めている机間散歩が目立ちます。最近は若い方に対して、まず全体をしっかり見て支援が必要な子どもを素早く見つけるように指導しています。その子どもに素早く対応をして、また全体を見るのです。本当はきちんとした机間指導ができることが理想ですが、力がないと机間指導をしている間に子どもの集中力が切れてしまうことが多いからです。全体の様子を見る力をつけてから、個別に机間指導をするようにお願いしています。
授業づくりのポイントとして、子どもに達成感・自己肯定感を持たせることを指摘されます。そのために、ほめる、認めることが必要です。何ができればいいかを明確にし、ちょっとでもできたら励ます、一緒に喜ぶ。こういったことちょっとしたコツを大切にしてほしいというメッセージは全くその通りだと思います。

この日は、志水先生が師範の模擬授業を行い、その解説を大羽先生が行いました。
場面ごとに、大羽先生が参加者とやりとりしながら解説をされるので(特に若い先生には)、具体的にどのようなことが大切なのかよくわかったと思います。
志水先生の授業は何度も見せていただいているのですが、今回その幅が広がっていると感じる場面がいくつかありました。
志水先生は「意味付け復唱法」が有名です。子どもの言葉を教師が復唱することで、子どもを受容し、子どものたちの発言をねらいに近づけていく方法です(詳しくは志水先生のご著書で)。この日はすぐに教師が復唱せずに他の子どもに復唱させてから、教師がもう一復唱するといったやり方も見せていただきました。子ども同士のつなぎをより意識したやり方です。バリエーションが増えています。
子どもの実態把握や答の確認については「○付け法」を提唱されていますが、この日はあえて隣同士で確認させる方法も使われました。志水先生ならばあっという間に○つけで実態把握ができるはずですが、こういったやり方もあることを(特に素早く確実な○つけができない方のために)教えてくださいました。自分流にこだわる方が多いのですが、相手のレベルに応じてそれ以外のやり方も紹介される姿勢に感心させられました。
この模擬授業のめあては「180°より大きい角を調べよう」でした。「調べよう」では、子どもにとっては具体性がないので、「測り方を考えよう」、もっと具体的に「測れるようになろう」の方がよかったのではないかと思いました。そのことを志水先生にお話ししたところ、「そうだなあ」と受け止めていただけました。言い訳もせずに素直に認められる姿勢は、さすがだと思いました。その姿勢が、進化し続ける原動力なのでしょう。講演の内容以上のものを教えられた気持ちになりました。

この日も岐阜聖徳学園の玉置ゼミの学生をはじめ、若い方がたくさん手伝ってくれました。ゼミの学生の中にはこの日の学びをより確かなものにするために、事前に「算数授業のユニバーサルデザイン 5つのルール・50のアイデア」を読んでいる方もいました。現役の教師でもなかなかできないことです。とてもうれしく思いました。積極的に学ぼうとする姿勢をこれからも大切にしてほしいと思います。

タブレットを使った公開授業から学ぶ

ICTを活用した公開授業の中継を見に行きました。小学校6年生の国語と、小学校4年生の算数の授業でした。

国語の授業は、デジタル教科書に子どもがマーカー機能で書きこんだ線や手書きのメモを全員で共有し、一人の意見や考えを受けて授業者が次の質問を発し、再び個人で考えて発表するという繰り返しでした。一人ひとりの発言を全員が共有できているかどうかは映像からはわかりません。次々と質問が変わっていきますが、それらが子どもたちの疑問や課題になっていないように思いました。子どもたちは自分たちのやっている活動がどこに向かっているものか、わかっているのか疑問です(少なくとも私には全くわかりませんでした)。子どもへの問いかけや確認が所々に入るのですが、子どもたちは全員挙手するわけではありせん。数人しか反応しないこともよくありますが、授業者がすぐに自分の言葉でまとめて次に進めていきます。挙手しない子どもの考えを聞いてみたいのですが、気にならないのでしょうか。子どもたちが教師に鼻面を引き回されているようにしか見えません。
子どもたちは電子黒板で自分のタブレットの画面を表示して説明します。たくさんの書き込みがあるのでかえって情報過多でよくわかりません。必要な情報だけを提示する必要があると思います。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」と感じました。また、発表者は電子黒板の前で操作しながら話すので、友だちの顔をほとんど見ていません。たまたま会場の環境が悪かったせいかもしれませんが、相手を見て話すことはあまり意識されていないようでした。せめて指示棒のようなものを使えば、電子黒板から離れることができ、友だちの顔を見ることができたのではないかと思いました。
国語の授業でデジタル教科書のよさを感じるのは、テキストをスクロールできることです。離れた場所の文章を比較したりするときにはとても便利だと思いました。逆にそれ以上の魅力は今回の授業からは感じませんでした。
今回の授業は一言で言えば、「デジタル機器を使って子どもの考えを把握した教師が、その場で脚本を書いて子どもたち演じることを強要している」というものでした。子どもたちがつくるのではなく、教師がつくる即興劇のように感じました。

算数の授業は、折れ線グラフの導入場面でした。2時間完了の1時間目ということでしたが、この1時間の授業のねらいが折れ線グラフのよさを知ることなのか、書き方を知ることなのかがよくわかりませんでした。
授業者は子どもの言葉を活かすことを意識しています。子どもの言葉を上手く拾うことができます。一つひとつの場面を点で見ると上手な授業なのですが、構成がよくわかりません。新潟と那覇の気温を調べる自由研究をした子どもを題材に導入するのですが、算数に関係のないことにとても多くの時間を費やします。本題のグラフに入るまでに優に15分以上を費やしていました。結果授業はかなり延長してしまいましたが、その意図が全くわかりませんでした。
項目名も書いていない、多い順に並べられた棒グラフを見せます。子どもの「おかしい」という言葉を拾って、どこがおかしいのかを相談させます。「気温だからおかしいと思う」という子どもの言葉をとりあげました。問題は「なぜ気温だとおかしいのか?」です。棒グラフは多い(大きい)、高い順に見ると説明しますが、そうなのでしょうか?社会科の雨温図では雨量は棒グラフです。本質は降順で表わすことではありません。棒グラフは、もともと積み上げグラフです。本を1冊2冊と積み上げるといったことが原点です。量を見るのに使うものだったのです。しかし、授業者はおそらく意図的にそこを無視したのでしょう。なぜなら変化を見ることに注目させたいからです。とすれば、この導入は無理があるのではないでしょうか。あえて「気温を調べる」とそこから何を知りたい、何がわかったと、何を伝えるといったグラフ化する目的を見せていないのですが、それではグラフを評価できないと思います。
今度は子どもたちにこのグラフを月の順に並べ替えたらどうなるかを、電子黒板に手書きさせます。指名された子どもは、連続な線で描きました。描かれたものを見て気づいたことを言わせますが、線で描いていることだけを拾います。その理由を問いますが、「楽だから」の一声です。そりゃあそうですよね。結局理由は明確にしないまま折れ線グラフの授業になっていきました。
授業者は新潟と那覇の気温の表を見せ、そこからグラフ化することのよさを考えさせようとしています。この表の表題には、「変わり方」「違い」といった言葉があります。突然「変化や違いついて調べよう」目的が出てくるのですが、子どもたちにはその必然性がわからないと思います。あえて気温を「調べる」と「変化」「違い」という言葉を封印していたのに、なぜでしょう?疑問に思いました。
ここでデジタルペンを使って折れ線グラフを描かせます。授業者はここぞという時に絞ってICT機器を使う主義のようですが、そのここぞがデジタルペンでの作業でした。グラフの値を途中からずらしてしまった子どもがいます。その子どものグラフを見せて、どこがおかしいか指摘させます。失敗した原因を探るためにデジタルペンの機能を使って、描いているところを再生させます。1月ごとに順番に線でつなぎながら描いていました。きちんと描けた子どもが点を先にとってから結んでいく様子も再生して、比較させます。違いがわかったところで、点を先に描いて結ぶ方がいいと授業者が結論づけます。なら、最初から教えればいいでしょう。折れ線グラフの描き方の手順を考えることが算数、数学の目的にあっているとは思えませんが、せめて子どもたちにどちらがいいかその根拠と共に考えさせ、全員が納得する必要があるでしょう。結局教師が教える授業になってしまいました。
タブレットを使った授業を考える以前に、算数の授業として何を考える授業だったのかがよくわかりませんでした。

もやもやしたまま、午後の振り返りのセッションの中継を見ました。パネラーの一人が非常に明確に2つの授業についてコメントをします。一つひとつの指摘に思わず心の中で拍手をしました。まさに授業中に私が思っていたことそのものです。もやもやがすっきりしていくのを感じました。この午後のセッションと合わせることで、この日の学びが確かなものになったと思います。どんなテクノロジーも、授業の基本をおろそかにしては活かせない。逆に言えば、力のない者でも上手く授業ができるようなテクノロジーはまだまだ難しい。あらためてそう感じました。よい学びをさせていただきました。

とてもうれしいメール

昨日、突然30年ほど前の教え子からメールが届きました。たまたまインターネットで私の動向を知り、連絡をくれたのです。彼は、大学卒業後就職したものの、大学院の夢があきらめきれずその会社を退職し、大学院に入学したそうです。修士課程を終了後別の会社に就職し、6年前にベルギー工場の駐在エンジニアとなり、1年前より、フランスの共同開発ベンチャーで医療機器の開発で活躍しているようです。

うれしかったのは、当時私がよく口にしていた、「俺は君たちの20年後と勝負している」という言葉を覚えていてくれたことです。その頃私は、過去に学んだ知識に頼るだけで今現在学ぼうとしない教師や、子どもたちに対して上から目線の教師に対して強い不満を持っていました。子どもたちは、今は未熟ですが、「後世畏るべし」という言葉もあるように、何年か後に素晴らしい大人に成長する可能性を持っています。自分と同じ歳になった時の彼らに、今の自分が負けていないように学び続けよう。子どもたちを未熟で指導しなければいけない対象ではなく、自分と対等な、いや自分よりも立派な人間となる可能性のある一人の人間として尊重しよう。ともすると、他の教師のように自分に甘く、尊大になりそうになる自身への戒めでした。今から思うと気負い過ぎで恥ずかしいところもありますが、教師として彼らに自分を越えてもらいたいという願いも込めて、そう語っていた記憶があります。

また、当時の数学の授業を「本当に楽しい授業でした」と言ってもらえ、これほどうれしいことはありません。20年後ではありませんでしたが、こうして教え子が活躍していることを知り、そのほんの一部分にでも自分が役に立てたのではないかと思えることは、教師冥利に尽きます。子どもたちの卒業後も「先生面をしたくない」という思いと、関わればきっとしてしまうだろうという思いから、教え子とは距離を置き続けてきましたが、こうした連絡をもらえると、そんなことは忘れてしまいます。
こうした教え子が一人でもいれば、「自分のような者が教師であってよかったのだ」と思えます。とてもうれしいメールでした。

リーダー以外にも読んでほしい、リーダーのための本

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玉置崇先生の著書「主任から校長まで 学校を元気にするチームリーダーの仕事術」の紹介です。

学校は鍋蓋組織とよく言われます。一般企業と違って中間管理職のポジションもはっきりとしません。あなたは主任だからチームのリーダーだよと言われても、いったいリーダーとして何をすればいいのか、具体的に教えてもらった経験がないという方も多いのではないでしょうか。リーダーのあり方が組織を変えるとはよく言われますが、部下の立場でリーダーへの不満を感じていても、いざ自分がリーダーとなった時に何をすればいいのかよくわからないことが多いように思います。日々学校におじゃましていますが、組織としてリーダーを育てる仕組みがきちんと備わっていないとよく感じます。

この本は、「仕事術」とありますが、こうやると仕事がはかどるといった類のことが書いてあるわけではありません。チームのメンバーがやる気を持って仕事をするために、リーダーは何を意識し、どのような姿勢で仕事に向き合えばいいのかが、具体的に語られています。学校の場合、リーダーといっても授業や部活動の指導など、他の先生と変わらない仕事を持っている方がほとんどです。負担感ばかりを感じるかもしれません。そんな中、ちょっと視点を変えるだけで、組織が円滑に動き出してチーム力がアップし、負担感も軽減されます。それこそ、学校が元気になっていくのです。

この本はチームリーダーを対象に書かれていますが、まだその立場にない方にもお勧めしたいと思います。ここに書かれているチームリーダーがなすべきことの中には、チームの一員として知っておくべきこと、意識すべきことがたくさんあるからです。また、学級を一つのチームと考えれば、学級担任はチームリーダーです。ちょっと視点を変えれば学級経営のヒントになることもたくさんあります。3章で書かれている、「職員の悩みを解決する話の聞き方」「職員のやる気を引き出す声のかけ方」「注意を促す時の声のかけ方」などは、小学校中高学年や中学校における、学級の子どもとの接し方に通ずるものがあります。

元気な学校をつくってきた玉置先生だから書ける、実践に裏付けられた、すぐに実行可能な具体的なノウハウやヒントが満載です。リーダーだけでなく、もうすぐリーダーになる方、そしていつかリーダーになる、すべての先生にお勧めしたい本です。

菊池省三先生と若い先生、学生から刺激を受ける

今年度第1回の教師力アップセミナーは、菊池道場主宰の菊池省三先生の「豊かなコミュニケーションによりお互いを認め合う学級づくり」と題した講演でした。

講演は菊池学級で育った子どもの姿をまず動画でたくさん見せていただきました。子どもたちが堂々と自己開示できていることが印象的でした。子どもが何を話しても安心、安全な学級がつくられていることがよくわかります。また、子どもの口から「価値語」と言われる言葉がたくさん語られていました。「価値語」とは「自分を見くびらない」「いい意味でバカになれ」「白熱する教室」・・・といった子どもたちに大切してほしい価値観や行動を言葉にしたものです。これが子どもたちに浸透しているのです。「価値語」は、子どもから自然発生的に出てくるものではありません。また、いくら「価値語」を教えても、それが具体的にどうすることなのかわからなければ絵に描いた餅です。菊池先生は子どもをポジティブに評価し「ほめ言葉のシャワー」を浴びせ続けます。教師が自らの行動で具体的に示すことや、子どもたちのよい行動を引き出し即時に価値づけすることが必要です。子どものよい行動を引き出すために、菊池先生は通常の係活動とは異なった係をつくっておられました。例えば、「ダンス係」は子ども同士がダンスバトルをする会を企画運営します。こういった活動が、「価値語」の意味を体感する場と実践する場になっています。
また、気なる子どもへの接し方についてもとても納得のいくお話が聞けました。たとえ一瞬でもよい行動をとった時にほめることや、子ども同士で気になる子どもをよい方向に変えるように働きかけるといったことは、本当にその通りだと思います。

子どもたちの具体的な姿を動画で見せながら語られるので、説得力はとても高く、多くの先生方に指示される理由がよくわかります。具体的にどのようにしているのか、細かいところについてもっと詳しく聞きたかったのですが、時間の関係もあってできなかったことが残念です。多くの著書があるので、それを読みなさいということですね。

たまたまかもしれませんが、動画に登場する子どもたちは、明るく自信にあふれていますがややテンションが高い傾向がありました。相手を「説得」するタイプに感じられます。学級として互いに認め合えるように育っているので問題にはならないのですが、進級や進学で他の学級の子どもと混じった時に、まわりの子どもとどのような関係になるのかちょっと気になりました。相手のことを思いやれる子どもたちなので上手くなじむのかもしれませんが、反発されるかもしれません。こういう学級経営が個人の取り組みではなく、学校全体のものとなってほしいと思います。

教師力アップセミナーの運営のお手伝いに、新たに若手の先生、学生が参加してくれました。特に岐阜聖徳学園の玉置ゼミからは、地元ではない方もたくさん参加してくれました。大学以外の場でも学ぼうという意欲が素晴らしいと思います。玉置ゼミの学生に共通して素晴らしいと感じたのは、人に接する姿勢です。受付では参加者に資料をきちんと両手で笑顔をと共にて渡していました。簡単なことのようですが、なかなかできないことです。研究発表などに出かけても、受付で笑顔に出会えないこともよくあります。また、玉置教授から学生に紹介された時、みな素敵な笑顔で応えてくれました。笑顔の内に素直さを感じます。よい指導者の下、きっと素晴らしい先生として教壇に立つ日がくることでしょう。何年か先に彼らと学校で出会う日がくることを楽しみにしています。

運営の反省会でのセミナーの感想の中に、菊池先生の話術の素晴らしさがありました。若い方は、上手な話術にあこがれる傾向があります。確かに教師として大切なことの一つなのですが、過度にそこを意識しないでほしいと思うのです。ある意味、話術は芸です。子どもたちにうける話をできることは悪いことではありませんが、あくまでも大切なのは何を伝えるか、どんな活動をするかという授業の中身です。話術は数ある授業技術の一つに過ぎないのです。この日の菊池先生のお話しであれば、具体的に子どものどんな行動をどのようにほめればいいのか、子ども同士が認め合うためにはどのような働きかけをすればよいのかです。もちろんこのことも意識してくれているとは思いますが。
玉置ゼミのサイトでは、学生が読書などの日々の学びを発信しています。学生らしい素直な視点に好感が持てます。今回のセミナーでどのようなことを学んだのか、発信が楽しみです。
菊池先生の講演と、若い先生、学生に大いに刺激を受けた一日でした。

噂話で考える

ある学校での噂話です。校長が新任の先生を校長室で怒鳴りつけたというのです。
新任が情報科の教師だったので、学校ホームページを担当するように校長が命じたところ、「できない」と答えたそうです。それに対して「命じられたことはやれ」と怒鳴って、その先生をホームページ担当にしたということです。
この話を聞いてどんなことを考えますか?

新任は、先生になったばかりで学校ホームページで何を発信してよいかもわからないのでできないと言ったのかもしれません。一方、校長は、単に書いた記事をアップするという技術的な作業を担当させたかっただけなのかもしれません。そうだとすれば、単にコミュニケーションの問題のようです。
そもそも、校長が学校ホームページの意味やその活用のことをわかっていないから新任に担当しろという無茶振りをしたのかもしれません。校長の学校ホームページの理解度の問題と考えることもできます。
いやいや、状況はどうであれ、新任に怒鳴るという威圧的な行為は校長として絶対やってはいけないことだ。校長のパワハラだと思うかもしれません。

私もこのようなことを考えたのですが、実際のところは軽々しく結論づけることはできません。噂話はあくまでも噂話の域を出ません。それよりも気になったのは、このことが噂話になって、他の先生が知っているということです。ことの真偽がわからないまま、「校長が新任の先生を怒鳴った」ということだけが校内に流布しているのが一番の問題なのです。噂話なのだからほっとけばいいという考えもありますが、先生方の校長に対する不信は残り続けるでしょう。これを拭い去るのは簡単ではないと思います。

個別の先生に対する指導は、オープンな場所で行われることはまずありません。当事者にしかわかりません。きちんとコミュニケーションがとれていないと思わぬ誤解が生じたり、それが歪んだ形で広がったりする危険性があります。この校長は、きちんと新任の先生に納得させることができていなかったので、このようなことになってしまったのでしょう。
私も、毎年多くの先生方に個別にアドバイスをします。きちんとコミュニケーションをとらないと思わぬ誤解を生んだり、信頼を失くしたりしてしまいます。このことの大切さを改めて気づかされた話しでした。

「授業と学び研究所」のフェローとなりました

4月1日に設立された「授業と学び研究所」のフェローとして活動することになりました。「授業と学び研究所」は、以下のようなことを目指して活動していきます。

昨今、教育のスタイルや価値観が多様化する中、古くから変わらぬ学校の「授業」とそこでの「学び」の大切さに注目し、ICT等の新しい環境を有効に活用しながら、
1 教師が授業に集中できる環境
2 授業力や学級経営力向上のためのしくみ
3 学びをさらに深化させる教材
等の調査・研究・開発を行い、これを通じて教師と子どもたちを支援していく。

同じフェローとして、前小牧市立味岡小学校長の神戸和敏先生、岐阜聖徳学園大学教授(前小牧市立小牧中学校長)の玉置崇先生も参加されます。お二人とは、25年以上のおつき合いです。教育ソフトや校務支援システムの開発なども協力して行ってきました。学校でのICT活用に通じているだけでなく、教育行政や学校経営でも素晴らしい実績を上げておられる方々です。もちろん授業についても一流の方です。私はお二人の授業からとても多くのことを学ばせていただきました。
このお二人と一緒にお仕事をさせていただける機会を得られたことをとても幸せに思います。学校教育に新しい波を起こせるのではないかと思っています。

授業アドバイス等の教育コンサルタントとしての仕事に加えて、新たな領域に挑戦することになりました。フェローもこれから増えていく予定です。どんな出会いがあるかワクワクしています。入学式を迎える子どものような気持ちで4月を迎えることになりました。
具体的な活動はこれから検討していきますが、この日記でも随時報告していきたいと思っています。楽しみにしていてください。
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