有田和正先生から学んだこと

5月2日に有田和正先生が亡くなられました。教師力アップセミナーでは平成16年から8年間にもわたり講師を務めていただきました。愛される学校づくりフォーラムでは昨年、一昨年と登壇いただき、特に昨年は小学校6年生最後の社会科の授業というテーマで模擬授業を行なっていただきました。体調不良のため控室で苦しそうな顔をされていたにも関わらず、舞台に立つといつとも変わらぬ素敵な笑顔で、素晴らしい授業を見せてくださったのが忘れられません。プロの教師の姿をそこに見た思いでした。
私は、自分の専門教科(数学)にこだわらず、どの教科でも授業アドバイスをしています。数学や理科はある程度詳しいのですが、他の教科は現場の先生方から学んできたことを元に話をさせていただいています。社会科に関しては、有田先生との出会いから学ばせていただいたことがとても大きなものでした。

有田先生は追究する子どもを育てることで有名でしたが、ご自身が追究の鬼でした。とにかく、教材になりそうなことは貪欲に追究されます。そのエネルギーは、いつお会いしてもいささかも衰えることがありませんでした。おけがでの体調不良からやっと回復された時にお願いしたセミナーの終了後のことです。「今日はこれからビル風を使った風力発電の写真を撮りに行く」とうれしそうに話されました。まだ、本調子ではないのにその教材開発へのエネルギーに圧倒されたのを覚えています。その時興味を持って追究していることを、本当に楽しそうに話していただけました。私たちが見落とすような、目の前のほんの些細なことに対しても、敏感に反応して教材に変えていく力は凄みさえ感じさせるものでした。

教科書に載せる資料一つとっても、何百もの中から選びに選び、こんなものがほしいと思えば必死になって探すといったことも聞かせていただきました。有田先生の授業から学んだことはたくさんありますが、それ以上に先生の追究の姿勢から学んだことが私の社会科の授業を考える根っこになっているように思います。それ以来、教科書の資料を見ると、なぜここに他の資料ではなくこの資料があるのだろうか、この資料を追求することでどのような学びがあるのだろうか。そんなことを考えるようになりました。教科書の1枚の絵をもとに調べていくと、その背後に何百年もの歴史の流れが見えてくることもあります。1枚の写真に、その仕事に携わる人たちのたくさんの工夫の跡を見ることができます。小学校の1冊の教科書からでも、私が学生時代に学習した以上に深く学べることを知りました。有田先生との出会いにはただ感謝しかありません。

私などとは比較にならないほど深く有田先生から学んだ先生はたくさんいらっしゃいます。その方々によって、これからも有田先生が追究された社会科の授業が深まり広がっていくことと思います。これからも、多くの追究する子どもたちが日本で育っていくことでしょう。
次に有田先生にお会いする時にはどんなお話が聞けるだろうかと、体調が回復される日を心待ちにしていましたが、それもかなわぬこととなりました。今はただ先生のご冥福を心よりお祈りするばかりです。
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