今年もDr.横山から大いに学ぶ

先週末は、今年度第3回の教師力アップセミナーでした。今回は山形大学医学部看護学科教授横山浩之先生の「行動異常がある子どもにも対応した授業を探る〜発達障害や愛着障害がある子どもは何がわからないのか」と題した講演です。

Dr.横山の登壇は4回目です、今回は2年連続となり昨年の内容(Dr.横山から学ぶ参照)を前提としたお話でした。
教育目標の分類について最初に解説されました。認知領域(=知識)、情意領域(=態度・習慣)、精神運動領域(=技能)に分け、それぞれの領域を容易なレベルから熟練したレベルに分けてとらえます。そして、子どもの発達段階に応じて求めるべきレベルが異なることを、具体例をもとに説明されました。
一般目標(=めあて)と行動目標(=てだて)を分けて考える必要があること。教育目標を記載する時に留意すべきことなどをわかりやすく解説された上で、立ち歩く子どもが何人もいるような学級でDr.横山が実践された授業ビデオを見せていただきました。小学校1年生算数の「20までの数」でした。

Dr.横山は、授業案を作成する時に次のようなことを心がけておられるそうです。

・子どもが情報を得るところから始める(スタートラインをそろえる)
・最初はだれでもできる発問から始める(情意面への配慮)
・子どもの作業をできるだけ多くする(技能領域への配慮と退屈させないための工夫)
・できるだけ説明しない(作業をたくさんさせて子どもに自分で気づかせる)
・評価は、教育目標を達成できたかどうかによる(特別支援の必要な子どもは教育目標が違ってもよい)
・子どもの反応は予測できないことを、あらかじめ織り込んでおく(同じ目的を果たせる発問を複数用意)
・クライマックスとなる発問はひとつに絞る(主発問に相当する発問を連発すると、できる子どもも混乱)
・できない子対策を考えると同時に、できる子対策を考えておく(できる子が課題を終わって退屈する時間があるとざわつく原因)

これらのことは、特別支援の必要な子どもが学級にいるかいないかにかかわらず、授業の基本です。Dr.横山の授業を見せていただくと「あたりまえのことをあたりまえに行っている」と感じる理由がよくわかります。今回の授業も、けれんみのない、基本を外さない、まさに教科書にしたいような授業でした。
ペアで指を折って数を数える場面では、やろうとしない子どもがいます。やろうとしていない子どもに声をかけるのではなく、やっている子ども、かかわろうとしている子どもをほめます。ペアレントトレーニングの発想です。
普段立ち歩きする子どもを前に出して、指を折って数を唱えさせます。ほめてやる気を出させるためには、ほめる場面が必要です。この子どもを大いにほめることで、この後しっかり授業に参加してくれました。
絵のライオンを数えます。10まで印をつけて数えた後、10匹目に10と書き込みます。数字を書くのは10だけです。序数と基数の違いをきちんと意識しています。10の「固まり」で考えるための布石になっています。
「わからない」という子どもには、うすく印をつけてなぞればいいようにして対応します。「わからない」とっているのは認知面ではなく、できないからです。できるようにしてあげれば、説明は必要ないのです。
できた子どもにはシールを貼っていきます。全員に貼ります。これはできた子どもへのごほうびであり、全員ができたという教師の確認でもあります。○つけの原則と一致しています。
子どもに活動をさせる時に、常に全員参加しているかの確認をしています。
前に出した子ども2人で、ライオンの数13を、指で10と3に分けてつくらせます。13を表わすように、2つの枠にそれぞれに数を書かせますが、10をつくった子どもは10と書きます。103ではおかしいことを子どもたちが指摘をします。「助けてあげて」と他の子どもを指名します。0を消してくれました。「なぜ0を消すの?」「たくさんになるから」「0をつけたら何になるの?」「103」とやりとりをしたうえで、もう一度間違えた子どもにやり直させました。本人に修正させることが大切です。最後に10をやっている人が1人だからここに1を書くと説明しました。
できた子どもに先生役をさせて、活躍の場面をつくっています。授業中に集中力を失くしている多くが、課題ができてしまってすることのない子どもです。できる子どものやる気をどう出させるかはとても大切なことです。
どのことも、特別支援の必要な子どもがいなくても大切なことです。特別支援の必要な子どもいるからとかまえるのではなく、基本どおりに授業をこなすことが大切です。問題は、子どもにどこまでを求めるかです。一人ひとりが成長することが大切だと考えれば、全員が同じ目標である必要はないと私は思います。

今回は虐待が子どもに与える影響についてもお話しいただきました。
虐待と言ってもいろいろありますが、ご飯を食べさせない、着ている服が汚いといったことも立派なネグレクトです。言葉の暴力や無視することによる心理的な虐待もあります。また、性的な虐待は母親によるものが多いそうです。子どもの裸の写真を撮って売ったり、子どもの前で性行為を見せたりすることも性的虐待ですが、子どもはその意味が分かりません。思春期になってその意味が分かっても、恥ずかしくて相談ができません。性的虐待は50人に1人くらいの割合でいるという説もあるそうです。
虐待を受けている子どもは愛着形成ができていないため人を信用しません。こういう子どもが、友だちをいじめるといった問題行動を起こしやすいのです。しかし、「・・・してはだめ」「・・・しなさい」と言っても、人を信用していないのだから意味はありません。いかに信用させるようにするかがポイントです。最近は発達障害ということで外来に来る子どもの多くがこのパターンだそうです。
愛着形成を取り戻すためには、ペアレントトレーニングが有効だということです(参考図書「マンガでわかる 魔法のほめ方 PT」)。認める、ほめることの大切さを改めて認識しました。

Dr.横山は医師の視点から教育について話をされるのですが、現場の人間にとって全く違和感のない納得できるものばかりです。理屈だけでなく、実際に授業までもするという実践を伴っているからでしょう。また、「算数の学習内容やそのポイントも本当によく理解されていることに感心した」とお伝えしたところ、「LDの子どもたちと20年つき合っていれば、そのぐらいはわかりますよ」と笑って答えられました。子どもたちと真剣に向き合い勉強されているからこそ、そのような力がつくのでしょう。20年教壇に立っていても、そこまで理解していない教師に出会うことの多い私には、笑ってすまないことでした。
この日も、Dr.横山から多くのことを学びましたが、その理論や実践だけでなくその姿勢も心に残るものでした。ありがとうございました。
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