堀裕嗣先生の講演で考える

本年度第6回の教師力アップセミナーに参加してきました。札幌市立北白石中学校の堀裕嗣先生の講演です。「教師力アップの極意」という演題で、力量形成系のお話が中心でした。

堀先生は、「教師力=スキル×キャラクター×チーム力」と定義しました。キャラクターというのは、一人ひとりの個性ということです。必ずしも人間的に優れている必要はありません。それぞれの個性を活かすことができればいいのです。このことは、チーム力と関係してきます。厳しい先生、優しい先生、面白い先生、いろいろな先生がいて、互いにチームとして補い合うことが大切だということです。自分のキャラクターに合った役割を演じればいいのです。学年の中に1人突出した力を持った先生が1人で突っ走ると、まわりの先生が迷惑をする。いくらスキルがあって、子どもたちの人気があったとしても、チームとして一緒にやって、いろいろと教えてくれないとまわりにとってはマイナスの存在になってしまう。チームという発想が大切だということです。私も、チーム力ということは学校経営の視点で大切にしていますが、教師力として考えたことはあまりなかったので新鮮でした。

堀先生のおっしゃることと同じかどうかはわかりませんが、このことに関して思い出すことがあります。私はそんな突出した力を持っていたわけではありませんが、当時の先輩から「君の授業の影で多くの先生が犠牲になっている」ということを言われたことがありました。自分としては子どもたちに学力をつけるために一生懸命に授業をし、かつ工夫もしていたのに、そのように言われたことはとても心外でした。他の先生の力がないだけでないか。そのようにも思いました。しかし先輩が伝えたかったことは、「私が頑張ることで、私の授業でエネルギーを使い切った子どもたちが、他の授業では集中力を失くす」「私の教科の勉強が大変なので、他の教科の手を抜く」、そういうことでした。その時の私は、自分の教科の結果だけを出せればいいという独りよがりだったのです。それからは、自分がかかわる学級については、他の教科とのバランスを意識するようになりました。

キャリアアップを考える時、スキルは自分のキャラクターにあったものを身につけることが大事であると話されます。私は、他の先生の授業から学ぶのに、「芸」に騙されるなとよく言います。ベテランや名人と呼ばれる方の授業には思わず真似をしたくなるような素晴らしいスキルがあります。しかし、それはその先生の個性(キャラクター)と結びついた、「芸」ともいえるものであることが多いのです。そのまま真似しても、まずうまくはいきません。そうではなく、その「芸」の中にある普遍的なものを見つけることが大切です。いろいろな方の素晴らしい授業を見せていただく機会が多いのですが、一見すると全く異なるように見えるスキルでも、根っこは同じであることが多いのです。素晴らしい授業は本質的に共通部分がたくさんあるのです。

スキルを身につけることは大切であるが、それに加えて「ネットワーク」が必要だということを言われます。1人でできることは限られています。1人で手に負えないときには他者の助けを借りることは大切です。そのためには人脈が必要なのです。
そしてもう1つ大切なのは、「人柄の良さ」ということです。本当によい必要はない。子どもや親に人柄が良いと思われることが大切だというのです。相手に聞いてもらえるかどうかは、正しいことを言ったかどうかではなく、人柄がいいかどうかで決まる。この人が言うことだから聞こうという気になるかどうかなのです。
このことについても、思うところがあります。生徒指導が上手い先生には共通点があるのです。子どもを厳しく指導しますが、日ごろは笑顔で子どもたちと接し、子どもたちを認め、子どもたちをよくほめるのです。子どもたちとの人間関係をしっかりとつくっているから厳しい指導にも子どもたちは従うのです。「キャリア=スキル+ネットワーク+人柄の良さ」という堀先生の定義に納得です。

堀先生は、教師に求められる資質は次のようなものだと考えられています。

第一にいつも笑顔でいること。
自分が大人になった姿を想像した時に、希望あふれるイメージを持たせたい。そのためには、子どもたちのまわりに、いつも笑顔、上機嫌で互いに仲のよい大人がいることが大切だと主張されます。子どもたちと先生が一緒に笑い合う瞬間をつくることが大切なのです。
子どもたちが自分の将来を明るいものと思えなければ、大人になることを拒絶します。刹那的な行動に走ります。こんな大人になりたいという手本が子どもたちのまわりにいることが大切になります。私は、地域の方に、大人になるのは素晴らしいことだと子どもたちに思わせるような大人であってほしいとお願いします。堀先生のお話に、そのことと通じるものを感じました。

第二に孤独に耐える力をもつこと。
子どもたちに損をさせないために、孤独に陥ることを恐れずに主張すべきことを主張するということです。損をさせないという言葉には、すこし引っかかるものがありますが、「子どものために」と置き換えれば納得のいくことです。

第三に無駄を大切にすること。
教師の仕事は、ムダになることがたくさんある。やんちゃな子どもの指導は98%がムダに終わる。でもやり続けなければならない。子どもたちと馬鹿げたビデオをつくること自体には何の意味もない、ムダなことに見える。しかし、学年の雰囲気づくりに役立っている。発案者が堀先生だということは、子どもたちは皆知っている。だから、厳しい指導をしても「仕方がない」と思ってくれる。正しいことを言ったかどうかではなく、誰が言ったかの「誰」になることが大切になるのです。

第四に必要なときに馬鹿になれること。
自分がバカになれるかどうかは、相手との関係で決まる。バカになれるということは、相手と仲がいいということ。そういう集団を目指さなければならない。つまらない自意識や、過剰な自意識から解放され、自分を相対化することで、相手との位置関係を正しく認識できる。そうすることで、対立しても落としどころを見つけることができるということです。

第五にいつでも変われること。いまを壊し、新しい自分になることを恐れないこと。
教師は、現状維持が好き。外圧がないと変わろうとしない。そういう殻を破ることが大切だということです。

続いて、現在の学年をどのように運営しているか、これらのことと関連づけながら具体的に話されました。面白いエピソードをたくさん聞くことができました。堀先生は少人数でのコミュニケーションを大切にされています。このことも、とても印象的でした。相手に応じたコミュニケーションを考えると少人数での対応になることは納得がいきます。コミュニケーションの場を作るための工夫もとても参考になるものでした。堀先生と同じことはなかなかできませんが、その考え方を自分に取り入れることはできます。

今回は教師力アップの入り口のお話しでしたが、その根底にあるものに思いをいたらせると、考えさせられることがたくさんありました。よい勉強の機会をいただけたことに感謝します。
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