ベテランに伝えてほしいこと

以前、ベテランが変わるきっかけについて述べました(ベテランが変わるきっかけを考える参照)。そういうきっかけとは関係なく、常に自身の授業を見直し前に進み続けている方もいらっしゃいます。私が訪問している学校でも、今年で定年を迎えるにも関わらず、日々授業に工夫をされている方が何人もいます。お会いするたびに、工夫をすることで子どもたちがこんな風に変わったと報告してくださったりもします。こういうベテランから若手が学ぶ機会をどのようにつくるかということは、学校にとってとても重要な課題です。授業を見てその技術を自分のものにすることも大切なことですが、一番学んでほしいのがその授業に対する姿勢です。子どもたちを育てることを第一に考えた時、足りないことは何で、それをどのようにしてできるようにするのか。謙虚に自分を振り返り、より進歩しようと工夫をする姿勢です。この姿勢を持ち続ければ、教師として確実に成長し続けることができるのです。

先日次のようなことがありました。
低学年の学級です。先生が気なる子どもにかかわりすぎて、それ以外の子どもがその間集中力を失くしていました。先生をその子に取られたと感じているようです。子どもとの関係が上手くいってないことをそのベテランの先生にお話ししましたが、そのことをなかなか納得はしていただけませんでした。先生が子どもたちに向き合っている時に見せる姿は、決して悪くはないからです。私からは、「こんなやり方もありますよ」と、参考になりそうなことを伝えましたが、釈然とされないようすでした。上手く伝えることができなかったと反省していました。
それからしばらくして、その学校の教頭からメールが来ました。その日、そのベテランの先生は、職員室で不満を口にされていたそうです。しかし、何日かして、私の言ったとおりやってみたら、ほんとにうまく行くようになったと教頭に伝えたそうです。これからも、もう少し他の子どもたちを大切にするとのことでした。
私のアドバイスがよかったという話ではありません。納得していなくても、子どもがよくなる可能性があるのなら、素直に受け入れて実行したその姿勢が素晴らしいのです。実力のある方です。関係がうまくいっていないと言っても、平均点以上の状態です。それでも、子どもたちのために変わってみようと思われたことに、私は感激しました。

校長となって授業をする機会がなくなっても、授業にこだわり自身の授業力の向上を常に目指している方がいます。一方、5年にも満たない経験で、自分はそこそこできるようになったと、努力や工夫をせずに漫然と授業に向かう方もいます。逆に、自信を失くして、努力することをあきらめてしまう方もいます。この姿勢の違いが教師としての成長を大きく左右します。いくつになっても、授業に対して正面から向き合うことを忘れないでほしいのです。

教師としてのどのような姿勢でありたいかを共有することが大切だと思います。そのために、ベテランには単に授業を見せ、授業について語るだけではなく、教師としての自分の歩いてきた道をぜひ後進に伝えてほしいのです。その歩みの中から、前向きな姿勢を持ち続けることができた理由をきっと見つけてくれるはずです。
日ごろの交流の中でそのような機会があるのが一番ですが、可能ならば時間を取って全体の場で話していただけるとよいと思います。教務主任や中堅の先生が対談形式で聞きだすというのも面白いと思います。

ベテランから学ぶ、ベテランが伝えるべきことは、技術や経験以上に、教師としての姿勢なのです。
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