板書の時ほど子どもを見る

廊下から子どもたちのようすを見せてもらっていると、いろいろなことに気づきます。特に教師が黒板の方を向いて板書をしている時の子どもの姿は、学級の状態を映し出してくれます。

まず気がつくことは、子どもの姿がそろっているかどうかです。そろっている時は、黒板を見て「板書を写している」、「板書を注視している」のどちらかです。板書を写しているのは、教師が板書を写すように指示しているか、子どもたちが板書は写さなければいけないと考えているかのどちらかです。この違いは教師が板書を終わって話を始めるとよくわかります。前者であれば、少なくとも教師が話を聞くように指示すれば、子どもは手を止めて教師に集中します。ところが、後者であれば子どもは板書を写すことを優先してなかなか顔を上げようとはしません。
子どもが板書を注視しているのは、学習に対して意欲を持っている時です。「板書を見てね」と言ってもなかなか集中は続きません。教師が何も言わなくても、このような状態であれば、学級は授業規律を含めてよい状態であることが多いようです。

子どもの姿がバラバラなときは、明確な指示が出されていないか、子どもたちの学習意欲が低い場合がほとんどです。4月は板書を写す子ども、板書を注視している子どもに分かれやすい時期です。それは、昨年までの教師がどのようにしてきたかの影響が残っているからです。年度当初からきちんと指示をすればそろっていきますが、教師が板書を見ることを求めずあとから写すように指示をしたりすると、板書をしっかりと見ていた子どもは写すのが遅れて損をしたような気持ちになってしまいます。ルールをきちんと伝えておくことが必要です。

このような違いが起こる一つの要因が、教師が子どもの状態に気づいていないことです。ずっと黒板の方を向いて板書を続け、終わってから子どもたちの方を向くのであれば、子どもの様子に気づくことができません。教師が子どもたちの方を見ると顔を上げてしっかり聞く姿勢をとる学級でも、板書中はボーっとしていることがよくあります。ベテランでも、この学級は授業規律ができている、子どもたちはよく集中してくれると勘違いしていることがあります。板書中は何もせず、教師が板書を終わり子どもたちの方を向いて説明を始めると写し出したという、笑えない学級も目にすることがあります。総じて、教師がよくしゃべり、チェックする目で子どもたちを見ている学級では、子どもたちが受け身で長い時間緊張を強いられるため、教師の視線から解放されると息抜きをする傾向が強いようです。

何の指示もなく板書しながら黒板に向かって話すなどというのは論外ですが、たとえ指示を出していても板書に専念するあまり子どもの様子を見ないというのは問題です。指示通りに子どもが行動できているとは限りません。板書中も、意識して子どもの方を振り返ってみることが大切です。子どもたちの状況を把握することで、授業規律が確立できているかがよくわかりますし、子どもたちに対してどういう指導が必要なのかを判断することができます。板書の時こそ、子どもを見ることを意識してほしいと思います。

机間指導中の子どもの姿

先生が机間指導をしている時、子どもたちの姿を見ていると面白いことに気づきます。先生が近づくと手でノートを隠すようにして体を通路と反対側に向ける子ども、逆にノート見やすいように手をどけて、先生を待っている子どももいます。もちろん、何の変化もない子どももいます。多くの場合、学級ごとにその傾向が異なるのですが、その違いは何でしょう。

机間指導で間違いをチェックされると、子どもはネガティブな気持ちになります。先生がそばを通るたびに間違いをチェックされていると、先生が近づくだけで間違っていたらどうしようと緊張するようになります。
一方、先生がノートを見て○をつけたり、ここがいいねとほめてくれたりするととてもうれしいものです。いつもほめられる子どもは、先生が近づいてくるとほめてもらおうとノートを見えるようにしたり、作業を止めて先生が来るのを待ったりするようになるのです。先生がノートを見ている時に、自然に子どもの顔に笑顔が浮かぶ光景もよく目にします。

先生がいつも子どもの間違いをチェックする目で見ている学級は、机間指導で先生が近づいてくると子どもに緊張が走ります。そして、先生が通り過ぎるそばから緊張が弛んでいくのがよくわかります。子どもは先生にそばに来てほしくないと思っています。
一部の子どもは先生を待っていて、一部の子どもは緊張する学級もあります。これは、正解やいいことを書いていればほめるが、そうでなければ声をかけない、または間違いを指摘する先生の学級で起こります。よくできる子ども、自信のある子どもだけが、○をもらえる、ほめられるので先生を待っているのです。
いつも、よいところを見つけてほめる。たとえ間違ってもできているところまで認めて○をつける。全員にポジティブな声かけをする。こういう学級では、机間指導をしていても子どもに緊張は走りません。課題に取り組みながら先生が近づくのを心待ちにしています。
机間指導をしていて子どもに何の変化もない学級は、先生がただ漫然と子どもたちを見ていることがほとんどです。また、できない子どもだけ個別に指導するような学級では該当しない子どもは、先生に頓着しません。逆にいつも教えてもらう子どもは、行き詰まると先生が来るのをじっと待っています。先生がその子どもに気づかなければずっとそのままです。こういう状態になるのであれば、机間指導はせずに全体が見える位置で子どもたちを見守って、気になる子どもがいればすぐにそこに行けるようにした方がいいでしょう。

机間指導をしている時の子どもの様子は、先生が子どもたちとどういう姿勢で接しているかを如実に表します。子どもたちの姿から机間指導での子どもとの接し方を振り返ってみてほしいと思います。

活動のつながりを意識する

授業を見ていると教師が話をしているのに、子どもの視線が教科書やワークシートに向いていることがよくあります。プロジェクターや電子黒板で教科書を映している時でも同じような光景を見ることがあります。このような場合、教師の指示や活動の順番が間違っていることが多いように思います。

教科書の○○ページを開きなさいと指示した後、教師が説明を始めても一度教科書に移った子どもの視線はすぐには戻りません。教科書を開けば、誰しも何が書いてあるだろう、今日は何を学習するのだろうと気になります。気にならない子どもの方が心配です。それをそのままにして話をしても子どもの注意は教師に向かいません。少なくともいったん顔を上げるように指示して、全員の顔が上がってから話し始める必要があります。それよりも今見る必要がないのに教科書を開いたことが問題なのです。もし、プロジェクターや電子黒板で教書を映すのなら、手元の教科書を見る必要がありません。そもそも大きく前で映すのは子どもの顔を上げさせるためです。手元の教科書を見ることが必要になった時に、開くように指示をすればいいのです。

ワークシートを配るタイミングも同様です。ワークシートの説明するためには手元にあった方がいいと思うかもしれません。しかし、手元にあればやりたくなります。それを我慢して説明を聞かせると、子どもはおあずけ状態に置かれます。気になって落ち着きませんし、顔も上がりません。子どもが集中して聞いているか、理解できているか、子どもの反応から確認することもできないのです。
ワークシートを配らずに、できれば実物投影装置を使ったり、もし環境がなければ拡大コピーしたものや板書を使ったりして説明した方がずっといいのです。説明が終わって、「じゃ今から配るから、名前を書いたら始めていいよ」とすれば、配られてすぐに取り組むことができるので、おあずけ状態になりません。

子どもたちに指示した活動に対して、その次の活動はつながっていることが大切です。教科書を開いたのなら読む。ワークシートが配られたのなら取り組む。この間に直接関係のない活動を挟まないようにするだけで、子どもの動きが滑らかになり、集中力が増します。このことを意識してほしいと思います。

全員が活動することを意識する

子どもたちの活動量を確保したいと考えると、全員一斉に活動することが一番確実に思えます。一斉に音読する、一斉に答える。こうすることで全員が同時に活動するのでムダがありません。しかしいつも全員で同じように活動できるわけではありません。音読も1人で読もうとすることで、全体で読むより集中して力がつくという側面もあります。そのため順番に音読させるというのもよくある活動です。問題は音読していない子どもが活動しているかどうかです。きちんと教科書を目で追い、友だちの音読を聞いていることが求められます。読み終わった子どももが気を抜かないようにすることも意識しなければいけません。音読していない子どもにとってムダな時間にならないようにすることが大切です。同じことではないにしろ全員が活動することを求めなければなりません。誰かが発表する時には、全員がきちんと聞いていればムダなく活動しているわけです。数人の子どもが活発に意見を交わしているが、他の子どもは議論についていけなくて参加できなくなっていることもよくあります。一見活発で子どもたちが活動しているように見えても、ほとんどの子どもの活動量は確保されていないのです。

一斉の活動でない場合は、それぞれの立場での活動を明確にしておき、きちんとできているかを確認することが大切です。先ほどの音読の例であれば、聞いている時に何をするかを指示しておくのです。例えばどこを読んでいるか指でなぞるように指示すれば、参加できていない子どももすぐに見つけることができます。誰の読み方がよかったかを注意して聞くように指示をして、最後に指名して確認するといったやり方もあるでしょう。
子どもたちの意見を聞く場面であれば、次々に意見を聞くのではなく、必ずその意見に対しての発問をするようにすると、子どもたちに聞く必然性が出てきます。よく聞くようにという指示だけでは、なかなか集中して聞きません。自分の意見と違うなら、まだ指名のチャンスがあると挙手しようとうずうずしたり、自分の意見と同じだと思ったら指名されるチャンスがなくなったとがっかりして集中力を失くしたりします。「今の意見に対してどう思う?納得した?どこで納得したか聞かせてくれる」「似た意見の人、どこが同じか聞かせてくれる」「ちょっと違うよという人、どこが違うか聞かせてくれる」というように、その意見を聞くことが必要になる発問をいつもしていれば、子どもたちに聞く必然ができ、集中するようになります。英語であれば、”Do you 〜?” と個別に質問して答えさせた後、答に応じて一斉に”He(She) 〜.” “He(She) doesn’t 〜.” と言わせたり、”Does he(she) 〜?” “What does he(she) 〜?” と質問したりすると聞く必然性が増します。

子どもたちの活動量を確保することを考えるのであれば、指名された子ども、代表となっている子ども以外の子どもたちに明確な指示を与え、その必然性を与えることや確認することが大切になります。全員が活動することを常に意識してほしいと思います。
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