何が大切か判断する力をつける

授業中、「ここが大切」だと教師が強調することがよくあります。子どもたちに意識させて、しっかり身につけてほしいからです。「大切だから試験に出します」といった表現もよく耳にします。しかし、いつも教師がここが重要だ、大切だと子どもに示していると、自ら判断する力がいつまでたっても身につきません。

自分で学習することを考えれば、何が大切か、どこがポイントかを自分で判断する力が重要なのは間違いありません。いつも受け身で教師の指示に従い、板書を写し、教師が示す重要なところに線を引き、それを覚える。確かにその教師がつくる試験にはこれで十分対応ができますが、これが勉強だと勘違いしてしまっていては困るのです。自ら学べる子どもにするためには、判断する場面をたくさん経験することが大切です。たとえ判断を間違えても、その経験を積み重ねることで正しい判断ができるようになります。

最近はあまり聞かなくなりましたが、私が学生の頃は試験に「山を掛ける」ということをよくやっていました。あまりほめられてことではありませんが、試験の範囲をすべてやる代わりに、出題されそうなところを集中して勉強することです。山が当たる当たらないで、結果は大きく違います。しかし、試験には重要なことが出題されるわけで、何が重要かを判断するという意味では、あながち間違っているとはいえない学習方法なのかもしれません。

要は何が重要かを判断するというメタな力をつけることを意識してほしいのです。子どもは楽をしてよい点数を取りたい。教師は大切なことを身につけてほしい。両者の思惑が一致して、「ここが大切」と教師が伝える授業をつくっているのです。しかし、ここで止まってしまっては、結局誰かに教えてもらわなければ、極論すれば「ここが試験に出る」と言ってもらわなければ、勉強できない子どもになってしまうのです。目先のことにとらわれすぎてはいけないのです。

「今日の授業で何が大切だったか」
「何がわかれば、よかったか」
「他の場面でも利用できそうなものは何か」
「いつでも言えることは何か」
「共通していたことは何か」
「何が今までと異なったか」
・・・

教師が常にこのような問いかけをし続けることで、自ら問いかけるようになっていきます。その結果、何が大切か、重要かが明確になり、自ら判断できるようになるのです。

人は一生勉強を続けなければいけません。子どもたちにその基本となる「学ぶ力」をつける必要があります。その一つが、「何が大切かを判断する力」です。こういう目に見えにくい力をつけることも意識してほしいと思います。

つまずきを明確にする

算数や数学のように積み重ねが大切な教科は、単元を進める前提となる部分ですでにつまずいてしまっていると授業についていくのが難しくなります。とはいえ、授業でもう一度やり直してから新しい単元に入るのも時間的に難しくなります。どのようにすればよいのでしょうか。

まず教師が、新しい学習内容を理解するために必要となる知識や考え方をきちんと整理しておく必要があります。たとえば、連立方程式の学習であれば、1元1次方程式を解くことができなければ、文字を消去できても正解にはいたりません。1元1次方程式であれば、正負の数の四則演算や文字式の計算がきちんとできていなければ、式の変形はできても正解にはいたりません。これから学習する内容を支えるものはどんなものか、細かく意識しておくのです。
その上で、事前にその内容の確認のテストをおこなったり、授業の最初の数分間に復習をするなどしたり、子どもにその内容を意識させます。大切なのはこの内容が身についていないと新しい単元で困ることを子どもが理解し、身につけようと思うことです。身についていないと気づいた子どもに対して、具体的に何を勉強すればいいか指示を出す、復習のための説明の書かれたプリントを用意して課題とする、放課後に個別に指導するといった対応が求められます。負担だとは思いますが、必要なことなのです。ポイントは多くを求めるのではなく、新しい単元に必要な最低限のことに絞ることです。こうすることで、教師の負担も子どもの負担も減ることになります。

授業中も、新しく学習したことと既習事項とを明確に区別しながら進めます。連立方程式であれば、文字の消去が終われば、ここからは1元1次方程式の問題であることを伝えます。ここまでできて、その先で間違えたのであれば、1元1次方程式の復習が必要であることを意識させるのです。問題演習も○か×かではなく、文字の消去まで、消去した後と分けてチェックします。教師が正解を解説するのであれば、文字の消去ができたかどうかで一旦確認することが大切です。ここまでできた人は2年生の内容を理解できていると評価するのです。その上でここからは1年生の内容だねと明確に既習事項と分けます。教師が○つけするときも、消去までできていればまず、そこに○をつけることが必要です。答が違っていても文字の消去ができていれば、「ちゃんとわかっているね」とほめて、「なんだあとはここができればいいだけじゃない」と1年生のことができるようになればOKだと前向きに捉えて励まします。こうすることで、子どもに前に戻って勉強をやり直す気持ちにさせるのです。

積み重ねが必要なものは、つまずいたところまで戻ることが必要です。そのためには、どこでつまずいているかを子どもがはっきりと理解し、ここができるようになれば自分できるようになるのだと、前向きにとらえることが大切です。
チェックのためにテストをステップに分けてきめ細かにつくる。授業中の机間指導でここを勉強すればいいと具体的なアドバイスをする(既習事項を授業時間内でできるようにしようと無理をしない)。本当につまずいているところ見つけ、そこまで戻ってやり直そうと前向きな気持ちにして、何をすればよいか具体的に示す。教師の負担も大きいですが、つまずいている子どもに寄り添って、やり直そうという気持ちを支えてほしいと思います。

「わからないところ」から始める

問題演習では、解いた後、子どもや教師が正解を説明するという進め方が多いように思います。問題を解いた後、いつもすぐに正解が説明されると、解けなかった子どもはどのように考えるでしょうか。正解の説明から自分がつまずいていたところが理解できれば、ここに気づけばよかった、ここが大切だと学べます。しかし、問題が複雑になってくると、正解の説明を聞くだけではつまずきの原因をなかなか見つけることはできません。結局正解を写して、やり方を覚えようとします。このようなことが続くと、だんだん自分で考えようとしなくなり、早く正解を示してほしいと考えるようになります。これでは力はつきません。どのようにすればいいのでしょうか。

以前にも書きましたが(「わかった」は禁句!?参照)、「わかった」から出発すると、わからなかった子どもは参加できなくなります。子どものつまずきから出発する必要があります。
解答をするときに、「わかった人」ではなく、まず「困った人」と聞きます。

「問題を解いていて困ったことなかった。○○さん」
「・・・がよくわかりません」
「なるほど、・・・がよくわからなかったんだ。同じところがわからなかった人いる」
「いるね。○○さんが言ってくれてよかったね。じゃあ、みんなでわかるようにしよう」

子どもがつまずいているところが明らかになれば、みんなでわかるように助ければいいのです。ヒントをいう、何をしたか、何を考えたか発表し合う。このような活動をすることで、つまずいた子どもも何をすればよかったかを気づくことができます。こういう経験を積むことで、自分の力で解けるようになっていきます。このようにすることで、正解を発表する時も、答そのものではなくどう考えたか課程を言えるようになっていきます。

また、問題を解いているとき、子どもの手が止まっている、見通しが持てていない状態であることに気づけば、一旦作業を止めて、困っていることを聞くようにするとよいでしょう。

いつも正解からではなく、わからないところから始めることを意識してほしいと思います。

練習を意味のあるものに

学習には訓練的な要素があります。できるようになるためには練習も必要です。漢字の練習、計算練習などは学習として必要なものだと思います。練習で気になるのはできるようになるという本来の目的に対して、やったかどうかを問う傾向にあることです。たとえば、宿題であればやってきたどうかをチェックしますが、なかなかその質を問うことはしません。なかには適当に穴を埋めて終わってしまう子もいます。
よくおこなわれるのが、小テストと組み合わせることです。練習したことが評価につながるので、一生懸命にやる可能性があります。しかし、よい結果がでれば練習したことが報われますが、しっかりやったのに結果が出なければ自分はダメだとやる気を失うことにもつながります。結果が出ない努力は次第に苦行と化していきます。やってもダメなら手を抜くようにもなります。報われない努力はどうしても続きません。練習を意味のあるものにするにはどうすればいいのでしょうか。

練習の評価をやったかどうかだけでなく質や量も評価し、その積み重ねを評価することが大切になります。
漢字の練習であれば、字の丁寧さ、何回練習したか。計算練習であれば、正解率、何問解いたか。こういうことを評価します。授業中の練習であれば、教師がその場できれいに書けている字や正解に○をつけてあげるとよいでしょう。宿題であれば、チェックを教師がすべてするのではなく、子ども自身にどれだけやったか、正答率はどうであったかと表やグラフにさせるとよいでしょう。努力の結果を見えるようにすることでテストとは違った達成感を持たせることができます。教師は、子どもが自分で評価できないことをチェックするようにします。もちろん、評価はできるだけポジティブにします。小テストなどで結果がすぐに出なくても、練習そのものがほめられる、評価されることにつながれば、楽しいものに変わりやる気も出ます。

もちろん小テストなど練習の成果を評価することでやる気を出させることも大切です。本来練習は結果を出すためのものなのですから。このとき、1回ずつできたできなかったかだけでなく、前回と比べてどうだったかという進歩も評価することが必要です。前回と比べて正答率が上がったか、週単位、月単位ではどうか。子どもたちの進歩を見える形にする方法はいくらでもあります。自分が進歩している実感を持てれば、練習をすることは苦になりません。毎回違った子どもがほめられるような小テストでありたいものです。

練習はただやればいいものではありません。意欲的に取り組むかどうかでその効果は大きく違ってきます。練習することがポジティブな評価につながるような工夫してほしいと思います。
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31