授業参観で面白い場面に出会う

昨日は中学校で授業参観とアドバイスをさせていただきました。中間試験も終わり、校外行事等を控えて子どもたちが浮つきやすい時期です。ゴールデンウイークのころと比べて子どもたちがどう変わっているかとても楽しみでした。

3年生はさすがに落ち着いているのですが、授業によっては一部の生徒の集中力が落ちていたり、意欲が感じられなかったりする光景を目にしました。もう少し後から頑張ればいいと考えているのでしょうか。それとも、ついていけなくなっているのでしょうか。一時的なものならよいのですが、今後どのように変わっていくのか気になるところです。

2年生は4月のころの、1年生のような新鮮な気持ちで授業に向かっている姿は見られなくなっていました。新しい先生にも慣れて授業によって見せる姿が変わってきています。教師が一方的に説明する授業では、明らかに聞いていない、集中力を失くしている子どもが目立ちました。説明の多い先生はテンションが上がりやすく、テンションが上がると子どもが見えなくなります。そのことも関係しているのでしょう。

1年生ですが、面白い場面にいくつか出会いました。
子どもたちが板書を写さず先生の話を聞いている場面を目にしました。今何をするべき時かきちんと伝わっていると感心しました。ところが集中力の変化が激しいのです。全員顔をしっかり上げて聞いていたかと思うと、下を向いたりボーっと視線が泳いだりします。その理由はすぐにわかりました。先生が黒板の方を向いて話すと集中力が下がるのです。似たような傾向は説明中心の授業に多く見られました。外からであればこのことはよくわかりますが、授業者は死角で起こることなので気づきにくく、見過ごされやすいことです。子どもたちのこの行動はちょっと気になります。目立つほどに切りかわるのは、教師の顔色をうかがう傾向があるのかもしれません。もしそうであれば、教師の見ていないところでトラブルを起こしやすい可能性があります。

異なる3つの学級での書写の時間です。黒板には何も書かれていないのでどのような指示があったのかはわかりませんが、子どもたちは淡々と書きつづけています。集中力が続かない子どもも出てきます。子どもたちの書に向かう姿勢はばらついています。明確な目標や途中での評価がないと、なかなか集中は維持できません。ところが1つの学級は非常に集中度が高いのです。たまたま授業の前半だからなのだろうと思ってようすを見ていると、案の定集中力を失くす子どもが出てきます。最初はそろっていた子どもたちの姿勢がバラバラになっていきます。他の学級と同じ状態になるかと思っていると、スーッと集中力が戻っていくのです。気がつくと最初の状態に戻っています。これはすごいことです。試験の成績もよい学級ということですが、これはこれでちょっと怖い気もします。先ほどの場面などとあわせて考えると、やはり教師の顔色をうかがっている可能性があります。いや、それはちゃんと空気が読めているのだからいいという考えもあります。否定はしません。しかし、教師の働きかけや影響下で育ってきた結果でないとすると、何かあった時に教師がコントロールできない可能性があります。この学級がこの後どうなっていく気になるところです。次回の訪問時には集中して見てみたいと思います。

また、ある学級で授業による子どもの姿の違いに面白いものがありました。担任の授業ではほぼ全員が挙手します。答えやすい問題だったのかもしれませんが、どの子も笑顔で参加しています。次の授業では、同じく多くの子どもがわかっているはずなのに挙手は数人です。とはいえ、先ほどの授業ほどではないにせよ、それほど表情は悪くありませんでした。ところが3つ目の授業は、子どもたちの表情も悪いのです。面白くなさそうで集中していません。この違いは何でしょう。担任の授業では、人間関係ができているので子どもは安心して参加しています。次の授業は、おそらく挙手して発言することに安心感がないのです。教師が正解不正解を判断する一問一答式であることが影響していそうです。3つ目は教師が一方的に説明している場面だったので、受け身の時間が長いことが原因でしょう。ここで気になるのは、このような姿の違いに授業者は気づけないことです。3つ目の授業でも子どもたちは表面的には落ち着いています。比べてみなければ、特に問題と感じない可能性が高いのです。早目に修正していかないと学級経営、学年経営に支障をきたすことになります。

多くの先生が入れかわっても、「子どもたちを活躍させよう」「できるだけ受け身にさせないようにしよう」という授業を目指す先生がまだまだ多い学校です。そういう授業が一定数あると、説明中心の授業は子どもにとってなかなか受け入れられないものです。説明中心のスタイルでやってきた先生にとっては、今までやれたことが上手くいかない、やりにくいと感じる学校です。この日一緒に回った先生の一人もそのように感じていました。しかし、難しく考える必要はありません。

・子どもに身につけさせたい知識と考えさせたいことを明確に分ける。
・知識は教えるか調べさせる。
・考えさせたいことは教師が説明するのではなく、できるだけ子どもの発言で進める。
・その時間をつくるために、子どもから出てきたことを教師が再度説明しない、まとめようとしない。
・子どもが安心して発言できるように、正解不正解の判断を教師がしない。間違えても本人に修正させる。
・子どもの「うなずく」「首をかしげる」「つぶやく」といった反応をとらえて、「いまうなずいてくれたね。どういうことかな。聞かせてくれる」というように発言につなげる。

こういうことを意識すればいいのです。子どもたちはそういう授業に対する慣れがあるので、ある程度経験のある教師であれば、その気にさえなれば意外とできるものです。要は挑戦してみようとすることが大切なのです。

前回訪問時の現職教育では、子どもの発言の途中で板書をしないといった基本的なことを話しました。うれしいことにその時話したことを意識して取り組んでいるという言葉を何人もの先生から聞くことができました。素直で前向きな先生方です。授業による子どもたちのブレがよい方に揃っていくことが期待できそうです。

個々の授業で感じたことは明日にでも。

文部科学省で審査員を務める

昨日は文部科学省に「学校の総合マネジメントの強化に関する調査研究」の審査員としておじゃましました。応募者の説明を聞き、質疑応答を終日おこなったのですが、とてもよい経験をさせていただきました。

感心したのが審査員に対する準備です。筆記用具や付箋、メモ用紙も机上に用意されています。付箋はサイズの違うものが、筆記用具も色違いのボールペン、鉛筆に消しゴムもあります。こういったことは当たり前のことで特筆すべきことではないのかもしれませんが、相手意識を持った対応だと思いました。見習いたいことです。

審査の内容については詳しく書けませんが、学校マネジメントといっても、本当にいろいろな視点、切り口があるのだと思いました。また、応募者の属性によっても受ける印象が異なることも面白く感じました。大学の研究者はその調査研究に対しての思い入れが強く感じられます。シンクタンク系はクールで、その必要性を論理的に伝えようとします。企画書としては後者の方がわかりやすいのですが、前者も訴えるものがあり、どちらがよい、悪いというものではありません。研究者の世界にもいろいろなスタイルがあるということです。
他の審査員の方の質問やコメントも私にはない視点がたくさん含まれていて、とても勉強になりました。

この審査を通じて感じたのは、文部科学省の思いです。この調査研究が現場の学校マネジメントの強化に役立つかどうかを一番に考えています。そこには自分たちが指導して学校を変えてやるといった上から目線ではなく、現場の役に立つという支援の姿勢が感じられました。担当者の方も、学校現場の大変さを知っている、知ろうとしていることが言動の端々から伝わります。私が現場の教員であったときに感じた文部省のイメージとは全く異なる姿です。組織として感じることと個人の印象の違いなのかもしれませんが、実際に私がお会いする文部科学省の方々に共通する印象です。現場の先生方の文部科学省に対するイメージは、今でも私が感じていたような「上から押しつけてくる」といったものだと思います。このギャップが埋まってほしいと思いました。

この日1日、いろいろなことを考え学ばせていただくことができました。このような機会を得られたことに感謝です。

中学校で講演

昨日は中学校で講演をおこなってきました。学級経営を中心にこの時期チェックすべきことをお話しする予定でした。講演に先立ち学校全体の授業の様子を1時間参観させていただきました。

全体の印象は目指すべき授業規律を教師が具体的に意識できていないということでした。教師が黒板に向かって話す。子どもが板書を写しているのに話していたり、教科書を開くように指示しても全員がまだ開いていないのに指名したりといった場面を目にしました。子どもの話を聞く姿勢も気になりました。教師の方をしっかり見ている生徒が少なく、体が反っている子ども、取り敢えず体は起きているが教師の方を向いていない子どもが目立ちます。いわんや友だちの方を向いて話を聞いている姿はほぼ皆無です。子どもたちが話を聞くことに価値を見出していないことがよくわかります。一問一答形式で授業が進み、子どもが答えた後、すぐに教師が説明し、続いて板書します。最終的に板書を写せば困らないのですから、聞くことに意味がないのです。
先生方にやる気がない、いい加減というのではありません。どなたも一生懸命に授業に臨んでいることは伝わります。しかし、目指す子どもの姿が曖昧なまま授業を進めてしまっているのです。漠然と子どもが話を聞いてくれることを意識はしているのですが、子どもがどのような姿になっていればよいのかが明確になっていないのです。

今年度「生徒が主体的に活躍できる場を保障し、存在感や自己肯定感を育てる」ことを目標とされたそうですが、目標を達成する手立てもまだ共有化できていないと感じました。
そこで、講演は当初予定していた「この時期にチェックすべきこと」についての話を減らして、子どもが活躍できる場をどうつくるか、自己肯定感をどう育てるかについての基本的な部分をより多く話させていただきました。

まず第一歩は、安心して暮らせる学級をつくることです。その基本は学習・生活規律が守られていることです。そして、子どもが教師からも仲間からも認められことです。ここで気をつけなければいけないのは、教師が話して聞かせば規律が確立する、注意をすれば守られるようになるわけではないことです。ほんの少しでもできたことを認め、一人でもできればそれをチャンスととらえ広げる。足りないところを指摘するのではなく、進歩をほめる。こういう姿勢で臨むことが必要になります。また、教師だけでなく、友だちに認められる場面をつくることも大切です。
認められる場面をつくるには、子どもが外化してくれなければ話になりません。そのためには外化をうながすと同時に、外化したことに対してポジティブに評価することが必要です。常に、「わかった人」と問いかけられれば、わかった子どもしか答えられません。わからない子どもが発言できるような工夫が必要です。「困った人いない?」とわからない子どもに寄り添うことや、「今の○○さんの意見を聞いて、なるほどと思った人」と、わからなくてもちゃんと聞いていれば参加できるような問いかけが大切です。また、子どもが意を決して発言しても、誰も聞いていない、評価されなければ否定されたと感じます。まずは、子どもの発言をしっかり受け止めて、受容する雰囲気を学級全体につくる必要があります。子どもの発言に、教師が笑顔で「なるほど」とうなずく。指名する時も、「○○さん答えて」ではなく、「○○さんの考えをみんなで聞こう」と友だちの考えを聞くことをうながし、仲間が聞いてくれる環境をつくる。こういうことが大切になります。

時間の関係もあり、基本となることだけに絞りましたが、こういったことを意識するだけで子どもたちの表情は変わっていくはずです。まずは教室に安心感が生まれることを期待しています。

講演終了後、教頭と懇談する時間をいただけました。授業参観の時に同行いただいたのですが、その際に私が指摘したことに関することや講演の内容を具体化するための視点などをたくさん質問いただきました。また、担当教科が国語ということで、国語の授業の進め方についてもお話することができました。いろいろな研究会や研修に積極的に参加されている方です。私にとっても参考となる話をたくさん聞かせていただきました。今年度の異動で赴任されたのですが、この学校に新しい刺激を与えてくださることと思います。

次回訪問時に、学校にどのような変化が起こっているかとても楽しみです。学校の中に教師の笑顔も子どもの笑顔も増えていることを願っています。

授業参観と現職教育

先週末、中学校で授業参観と現職教育でお話をさせていただきました。その前の週にも訪問した学校です(子どもたちの姿から多くのことに気づく参照)。

前回と大きく印象が変わることはありませんでしたが、授業者による子どもの姿の差がより大きくなっていたように感じました。この時期は、子どもたちは新鮮な気持ちで授業にのぞんでいるため、教師が身につけてほしい授業規律を意識して指導すると定着しやすい時です。そのため、わずか1週間あまりでも教師の意識の違いが子どもの姿の差となってあらわれていました。

若手の1年生の英語の授業です。子どもたちが素晴らしい姿勢で教科書を読んでいました。教科書の角度までそろっています。このことにこだわっているのがよくわかります。子どもたち全員にきちんと口を開けて読んでほしいという授業者の気持ちがうかがえます。授業者は自分の教科書を見てはいますが、必ず目を上げて子どものようすを見ています。子どもたちをしっかり見ているからこそ、徹底できているのです。

社会科の授業で机をコの字にして子ども同士に意見を言わせていました。授業者が子ども同士が互いを見ながら聞き合ってほしいと考えていることがよく伝わりました。この教室ではコの字にすると真ん中の間隔が狭く、教師が中に入ることができません。そこで授業者は自分の目線を下げて子どもの視線から外れるようにしていました。その上で、友だちを見ていない子どもには友だちを見るように、目線や手で指示をしています。子どもたちは互いを意識して聞きあえるようになりつつあります。意見に賛成の人は拍手するように指導していました。このとき、拍手しない子どもがいました。その中の一人を指名して、その理由を聞きました。友だちの説明の中の「ファシズム」という言葉がわからないということです。そこで授業者は、「説明できる人」と問いかけ、挙手した子どもに説明をさせました。わからない子どもとわかっている子どもをつなげようとするよい場面でした。
ここで、「ファシズムがわからない人、ほかにもいる?」とわからない子ども同士をつなぐことで、より多くの子どもが授業に参加しやすくなります。その上で「助けてくれる人」とつなぎたかったところです。また、ファシズムの説明をした子どもは、教科書(資料集?)を読み上げました。そうであるならば、「どこに書いてある」と聞き、わからない子ども自身に読んで理解させるようにするとよいでしょう。こうすることで、どうやって知識を得ればよいかがわかりますし、受け身で聞くより理解しやすくなります。その上で、「どう、ファシズムがわかった?」と確認し、まだわからないようであればどこがわからないかをたずね、また子ども同士で解決させるのです。
とはいえ、わからない子どもを大切にしよう、子ども同士をつなげようという意識があるので、授業は確実によくなっていくと思います。

学級活動の時間でも、授業者の差はあらわれます。子どもたちに任せていても、教師が子どもを見ているかどうかは大きな影響があります。教師が何も言わなくても、子どもたちを笑顔で見ているだけで集中力が違います。この時期、子どもが育つまでの間は教師が見守ることがとても大切なことがよくわります。
1年生全体の部活動の人数調整の場面で、直接指導をしていないときもずっと笑顔の若手の教師がいました。簡単なようでなかなかできることではありません。目に入る姿がいつも笑顔であれば、子どもたちはその教師が自分たちを笑顔で受け止めていると感じます。教師が自分たちを受容していると感じ、安心と信頼感を持ちます。実はその教師は学年の生活指導担当です。若い生活指導の教師は、力で押さえようとする傾向が強いのですが、それでは反発を生んでしまいます。まず笑顔で受容しているからこそ、いざというときの指導に従ってくれるのです。このことをわかっているからこそ、意識して笑顔でいたのだと思います。

現職教育は、校務主任の道徳の模擬授業を研修主任がコーディネートして、この学校で大切にしているものを伝える試みでした。授業者は意図的によくない場面もつくり、コーディネータは参加者の気づきを拾い上げていきます。息の合った展開でした。道徳の教科内容ではなく、子どもを見ることにスポットを当てた研修となりました。生徒役の先生も、最初はぎこちなかったのですが、次第に集中しなかったり、おしゃべりをしたりして生徒の気持ちになって参加してくれました。答えられない生徒役に対して、授業者は否定せずにしっかりと受け止めてくれます。感想を聞いたところ、「受容してもらえると安心する」と答えてくれました。この学校で目指していることを肌で感じていただけたのではないでしょうか。おしゃべりをしていた生徒に対しての指導も、一律に注意するのではなく、状況をまず見極めたうえで対応することなども示していただけました。

最後に私の方から、この学校が目指しているものとそのために今の時期に大切にすべきことをお話させていただきました。
この学校で見られる「子どもが笑顔で集中する姿」というのは、なかなか他の学校では見られないものです。そのためには、子どもをしっかりと受容し、子どものよい姿を認めること。できないことを指摘するのではなくできたことをほめること。ほめるためには、そのような姿が見られるような活動をする必要があることなどを、前回と今回見たよい場面を例にして伝えました。具体的な例をこの学校の先生方の授業場面で伝えることができるのはとても素晴らしいことです。研究指定を受けたときに校長がおっしゃっていた「新しい伝統をつくる」ことができつつあるのだと思います。
今年この学校に赴任した方にとっては、この学校が目指すものを言葉で聞くだけでなく模擬授業でも見ることができて、とてもわかりやすかったのではないかと思います。皆さんがとても真剣に参加されているのがよくわかりました。この時期にこのような現職教育を企画した教務主任は立派だと思います。新しく異動して来た方が戸惑うことが多いことを予想した上で予定に組み込んでいたのです。その細かい内容は前回私が訪問した時の学校全体の様子をもとに企画されました。急なお願いにもかかわらず快く模擬授業を引き受け見事にこなした校務主任とそのよさを引き出した研修主任。ベテランだからこその力を見せてくれました。
人事的に厳しい状況ですが、新しい力を加えてよりよい伝統をつくり続けくれるものと期待しています。次回訪問時に子どもたちがどのような姿を見せてくれるのか、とても楽しみです。
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