道徳の授業で子どもの心に迫る難しさを感じる

前回の日記の続きです。

研究授業は2年生の道徳でした。主人公が年上の子どもに勇気を出して注意をする話をもとに、よいことを進んで行おうとする心情を養う授業です。
授業者は少し緊張気味でしたが、よい表情で子どもたちと接しています。授業者はあえて資料を印刷したり、範読したりしません。自分の言葉で話します。状況がわかりやすいように絵や、言葉を印刷したものを黒板に貼りながら進めていきます。資料の内容把握の時間を省略するためには面白い工夫だと思います。
主人公の気持ちを問う場面で、指名した子どもの発言をすぐに板書して「他には?」と聞きます。気になったのは、発言によっては板書しないものがあったことです。その場で板書したりしなかったりがあると、板書されなかった子どもは自分の発言が教師の求めたものではなかったと感じます。その場で板書するのなら、すべて書くようにするべきです。意図的に選択したいのであれば、一通り発言させた後、「全部は書けないけれど」として、「こんな意見が出てきていたね」とすると、子どもの感じ方は変わると思います。
一問一答になっていて子どもの考えをつながないので、挙手しない子どもは参加できません。「似た考えの人いるかな?」と手が挙がらない子どもも参加できるような工夫が必要です。
資料を読まずに状況が客観的に話されるので、子どもたちが主人公に思い入れできていないように感じました。時には、「主人公はみんなが言ってくれたように、○○、△△、・・・といった気持ちだったんだね。それなのに××したんだ」というように、子どもに迫るような話し方も必要になります。
授業者は、主人公が○○した理由といったことよく問います。これは一つ間違えると読み取りになってしまいます。客観的な答を求めることになるような聞き方や活動はひかえた方がよいでしょう。自分に引き付けて考えさせることが大切です。
ペア活動の前に、ペアで意見を聞くことは「勉強」と言います。こういう言い方も、答を求めることにつながってしまいます。「勉強」という言葉は道徳ではあまり使いたくはありません。また、ペアでの聞き合いの時に机が離れたままでした。机をしっかりとつけさせてから始めるとよかったでしょう。
主人公が年上の子どもに「危ないから遊んではダメ」と言えた理由を「心が成長している」と答えた子どもがいました。「心が成長した」というのは抽象的な表現です。まずは、本人にどういうことか説明を求めたいところですが、そのまま次に進めていきます。「強い」とい言葉に子どもたちは反応しますが、授業者は発言者だけを見ているのでその反応を拾うことができません。「心が成長」がポイントだと子どもたち伝えます。これでは、ここに気をつければ答が見つかると言っているようなものです。子どもたちは授業者の求める答探しを始めてしまいます。子どもたちはどういうことを求められているのかがわかったので、揺れることがなくなったようです。「主人公は心が強いから」といった、他人事の答がでてきます。また、子どもたちから友だちの意見に対して「賛成」という言葉が出てきます。これも客観的に判断している場合に出やすい言葉です。注意したいところです。
この読み物では、主人公が勇気を出して注意をしたことに対して、年上の子どもたちが言うことを聞いてくれました。そこで、主人公が笑顔になったのですが、その理由を聞きます。授業者の意図は、素直に人の意見を聞くことの大切さに気づかせたいのですが、主人公に焦点を当ててはなかなか出てきません。「いいことをした」といった答が続きます。ここは、言うことを聞いてくれたという結果を伝える前に、注意された時の年上の子どもたちの気持ちを聞くとよかったでしょう。「生意気だ」といったネガティブな気持ちや「そうだな」という素直な気持ちが子どもたちから出されることが大切です。
授業者は子どもから期待した意見が出ると、「とってもいいことを言ってくれた」と評価します。道徳では、授業者ではなくできるだけ子どもに評価させたいところです。そうでないと、授業者の求める道徳観を表面的になぞった意見ばかりが出てしまいます。結局、最後は授業者が「主人公の勇気と・・・」とまとめてしまいました。
子どもたちに迫るのであれば、「あなたなら、年上の子どもに注意するか?」と問いかけ、この結論を聞いた後、「もし、同じような場面に出会ったら、今度はどうするか?」と聞くと面白いでしょう。子どもの考えが変化したらその理由を問うのです。その上で、「もし、年上の子どもが言うことを聞いてくれなかったらどう?」と揺さぶるのです。子どもが揺れれば、「聞いてもらえなかったら、めげるよね」と認めて、素直に人の意見を聞き入れることが相手の心に影響することにつなげていくとよいでしょう。1時限という短い時間でここまでできるかはわかりませんが、子どもたちの気持ちにどう迫るかを意識したいところです。

道徳の授業で、子どもたちの心に迫り、耕すことの難しさを考えさせてくれる授業でした。基本的に授業者と子どもたちとの関係がよく、いろいろと工夫をしてくれていたので、道徳の授業の発問や進め方に焦点を当てて考えることができました。私を含め、参観された方にとって学びの多い授業だったと思います。よい学びをさせていただいたことに感謝です。
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