子ども同士のかかわりに課題が見つかる(長文)

小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。
コの字型の隊形をとっているのですが、教卓が黒板の前に置かれている教室が目立ちました。コの字型は子ども同士が互いを見あうことがしやすいのが特徴です。反面、黒板の前に立つ教師を見る時は、体の向きを変えなければいけない子どもが多くなります。教師はできるだけ、子どもたちに近い位置で話す必要がありますが、教卓があるとじゃまになります。横にずらしておくとよいでしょう。
この日見た授業は、すべて算数でした。

1年生は話から式をつくる場面でした。
授業者は笑顔しっかりつくることができていました。子どもをほめることを意識していますが、一人ほめて終わってしまいます。できるだけ複数をほめるようにしてほしいと思います。
全体に対して質問して、子どもたちが全体で答える形で進んでいきます。一問一答形式で進むために子どもの活動量はどうしても少なくなります。個別に指名することも必要です。じっくり考える場面もないまま時間が過ぎるので子どもたちがだれてきます。1年生であれば、全体での学習場面は5分を目安にするとよいと思います。
指名して子どもが発表すると、「どうですか?」「いいです」で進んでいきます。一問一答の授業と本質的には変わりません。正解を判断するのが教師か、不特定の第三者かの違いです。声で進めれば、小数の反対意見はかき消されます。発表に対して、「同じ考えの人を確認し、発表させる」「違った意見がないかを確認する」といったことが必要です。全員が参加し、納得することを大切にして、ていねいに進めてほしいと思います。
鳩が飛んできて全部で何羽になるかという問題には、足し算の定義で使われた言葉はでてきません。イラストを使って、後から来た鳩を隠して何羽いる、次に後から飛んできたのは何羽と確認して、求めているのはどの数かを明確にします。イラストから、どのような操作であるかを考えて、足し算になることに気づかせます。言葉だけで考えると、どうしても「こういう言葉があるから」といった問題を解くための小手先の方法を教えてしまいがちです。そうではなく、文章に書かれたことから場面を想起させ(ここでイラストが有効になります)、求められているのがどのような操作活動の結果であるかを考えさせるのです。一旦半具象を経由することで、初めてどのような演算になるのかが明確になるのです。抽象と具象の間に半具象(図や数図ブロックなどの操作活動)を入れることで2つがつながっていきます。算数ではこのことを大切にしてほしいと思います。

2年生の授業は10を単位として数の大きさを考える場面でした。
「先生を見てね」と優しく注意を促すことができます。子どもをほめて育てようとしています。足をあげて座っている子どもに「おろそう」と優しく指示します。その子どもはしばらくしてから足をおろしましたが、その時は死角に入っていて授業者は気づきませんでした。できればその瞬間をほめたいところでした。あとで気づいた時に、笑顔でうなずいてもよかったと思います。
子どもがよい行動をとった時には即時評価をすることを意識してほしいと思います。目線を合わせて固有名詞でほめ、続いて同じ行動をとった子どもも必ずほめるようにすることでよい行動が広がっていきます。また、先生を見るように言ってもまだ手元を見ている子どもがいます。子どもをよく見て、全員が指示に従っているかを確認することが大切です。
どうやって考えたか、絵や文をかいて説明するように指示しますが、子どもたちは動けません。具体的にどのようなことをすればよいのか、全体で一度やってみることが必要です。
また、10を24個集めた数がいくつになるかの説明を考えるといっても、子どもたちには具体的なゴールがよくわかりません。隣同士で聞き合っても、評価がよくわからないので子どもたちはただ書いた物を読むだけです。相手に「納得してもらえる」ように、「読まないで、顔を見て話す」といった、目標と具体的な方法を明確にして活動させるようにするとよいでしょう。

3年生の授業は、大きな数の読み方の場面でした。
授業者は明るい表情で、上手に話せる方ですが、子どもたちが落ち着いていないのが気になります。話についてくる子どもはよいのですが、全員ではありません。子どもたちの様子を見ながら、全員が参加することを意識してほしいと思います。
授業が挙手で進むため、一部の子ども、参加する子どもだけとのやり取りで終わってしまいます。子どもたちは指名されることで達成感を味わっているようです。発表そのものに対する友だちの評価がないからです。
子どもの視線は発表者に向かいません。手元だったり、先生だったりします。友だちの発言を聞いてそのことについて問われることがないので、聞く必要がないのです。コの字の隊形で授業していることを活かしたいところです。
数の読み方を間違えた子どもに対して、「違います」という声が上がります。同じ「考え」、違う「考え」という意味での「違います」ならよいのですが、どうもそうではないようです。このように、即時に子どもが声を出すのはちょっと危険です。教師がコントロールする必要があります。こういう場面では、「なるほど」と授業者が受け止めて、「違う答の人いる?」と聞き直すとよいでしょう。違う考えが出ることを評価して、説明を求めます。説明を聞いて間違えた子どもに納得したかどうか確認して、その上で友だちの考えを聞いて修正したことをほめるのです。もちろん説明した人にも、納得してもらえる説明ができたことをほめるのを忘れてはいけません。
子どもは大きな数の読み方を4桁で区切って考えることをまだ知りません。読み方のルールをきちんと知らないので混乱するのは仕方がないのです。ここで、授業者はうまい方法があることを教えます。子どもからよい答が出ると「いいことを言った」とほめてすぐに説明を始めます。授業で使ったカードにも仕掛けがあることを説明します。これでは、子どもたちは先生が求める答探しをするようになってしまいます。また、この読み方のポイントを早く子どもたちに気づかせて、授業時間の後半は練習に当てたいのですが、最後になってしまいました。授業者中心の発想で授業を組み立てると、クライマックスを最後にもっていこうとする傾向が強くなります。子どもの集中力がある前半に大切な場面を持ってくるという発想も大切です。授業者はいつでも自分で説明できますから、そのことを封印して、子どもたちの言葉をつなぎながら、子どもたち自身で気づき、納得する授業をすることを意識していただきたいと思います。意識できればきっとうまくいくと思います。

4年生は、平行、垂直を使って長方形を描く場面でした。
授業者は、子どもたちが自分に注目できるまで待つことができます。TTでの授業でしたが、注意をする代わりに、T2に目配せでフォローをお願いしていました。上手な対応です。
用語の読み方をきちんと全員で言わせることもしています。基本をしっかり押さえようとしています。
長方形の描き方を考える場面で、子どもたちが困っています。子どもに見通しがないからです。必要となる、長方形の定義や性質と垂直・平行を事前に押さえておく必要がありました。授業者はヒントを子どもたちに言います。困っていると授業者がヒントを言うという形が定着すれば、子どもは苦しくなると考えるのを止め、先生がヒントをくれるのを待つようになります。ですから、先生がヒントを言うのはできるだけ避けたいのです。こういう場面では、子どもの「困った」を共有することが大切です。いったん全体を止めて、子どもの困っていることを聞き、全員で共有するのです。そこで、その「困った」ことの解決の見通しを子ども同士で持たせるのです。この場合であれば、どんな性質を使ったか、どんな道具を使うかといったことを子どもに言わせるのです。
先生が教えるのではなく、子どもたちが気づくための活動を意識して組み込むことで授業はぐっとよくなると思います。

5年生は、式と考え方の図を結びつける場面でした。
発表の様子が気になります。聞いている子どもたちは、しっかりと発表者を見ません。発表者も黒板を見て説明します。子ども同士がかかわっていないのです。発表に対して拍手が起こりますが、発表者がうれしそうな顔をしないことも要注意です。発表したことに対して評価されたとは思っていないのです。自分が拍手する時の状態から、それが形式的なものだと知っているのです。どこがよかったかを拍手した子どもに聞くようにする必要があります。子どもたちに対して具体的な評価を求めるのです。そうすることで、発表者も友だちにわかってもらおうとするようになります。また、子どもが評価できるようになるためには、教師が日ごろから子どもの発言をポジティブに評価してなければなりません。
発表が結論を言うだけなのも気になります。結論を聞けば理解できるわけではありません。理解できたからといって自分でできるようになるとも限りません。わからなかった子ども、できなかった子どもが、わかる、できるようになる場面をつくる必要があります。「最初に何を考えた?」「どんなことをやってみた?」という過程を子どもたちに問うことが大切です。
グループ活動の時に、子どもたちが先生を呼びます。自分たちで解決しようとせずに、先生に頼っているのです。先生はできるだけ自分で答えずに子ども同士のかかわりを促すようにすることが大切です。活動が終わっているのに次の課題がなかったので、子どもが時間を持て余しています。グループ活動が息抜きになっているようにも見えます。子どもたちのテンションが高くなっているのも気をつけたいところです。終わったあとの次の活動は常に考えておく必要があります。

6年生は円の面積の公式を導き出す場面でした。
子どもたちは、円を小さな扇形に分割して平行四辺形に近い形をつくります。操作で実感させるのですが、あくまでも感覚です。最後はCGを使った動画で、分割をどんどん細かくしていく様子をみせて納得させましたが、少なくとも、ポイントとなることは子どもたちから出させてから、動画で確認したいところでした。
具体的には、「円の定義から、扇形でつくった平行四辺形もどきの高さは一定になる」「底辺の長さは円周の半分に近いが、それよりは小さい」「平行四辺形のはみ出た部分(両端の扇形の半分)を除けば長方形に近い」「はみ出た部分は、分割を細かくすると小さくなる」「底辺の長さは、分割を細かくすると円周の半分に近くなる」といったことです。
こういった言葉をたくさん出させてから、分割をどんどん細かくするとどうなりそうかを子どもたちに言わせるのです。単に長方形に近くなりそうではなく、自分たちがやった作業をもとに辺の長さまで予想させるのです。そのための時間を取る必要があるので、細かい分割までやる必要はありません。感覚的に理解できる程度に実物で操作した後は、考えさせる時間に当てるとよいでしょう。CGの動画は、子どもから出てきた予想の確認程度よいのです。これを使って説明して納得させようとすると子どもたちがやった活動の意味がなくなってしまいます。あくまでも子どもの考えをもとに公式を導き出したいところでした。

この学校では、子ども同士がかかわり合う授業を意識しています。全体的には、先生と子どもの関係は良好で、先生方が子どもを認めよう、ほめようとする意識があります。基盤ができつつあるので、次のステップに進むことができると思います。しかし、「子ども同士がかかわり合うために、課題はどのようなものであるべきなのか?」「子どもの発言をつなぐためには具体的にどうすればいいのか?」といったことが、まだ先生方の中にストンと落ちていないように思います。先生方がこのことを課題として共有し、互いに相談し、学び合っていただけたらと思います。次回の訪問時にどのような変化が見られるか楽しみです。
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