学校の次のステップが見えてくる(長文)

昨日の日記の続きです。

4年生の算数は、長方形を平行、垂直を使って作図する授業でした。
指示に対して子どもの動きが遅い場面が気になります。「あと10秒で」といった後、「10秒経ちましたので」と説明を始めますが、まだ準備ができていない子どもがいます。「教科書を閉じて」と何人も個別に指示をする場面もありました。
子どもが席を立って何かを取りに行こうとしました。授業者は「後にしてください」と言って止めさせます。子どもが何か言いたそうにしているのに対して「それは大事なことですか?」と子どもの言葉を封じました。授業者に余裕がありません。そのことが子どもにも伝わっているように思います。ここは、「どうしたの?」と子どもが何をしようとしているか聞いてあげて、「なるほど」と受けた上で、「みんなが待っているから、後にしてくれる」と席に着かせるといいでしょう。席についたら「ありがとう」と一言足すことを忘れないようにします。
長方形を提示して、どんな形か子どもに問いかけます。「長方形」という答に対して子どもたちから「いいです」と反応が返ってきます。しかし、この授業では長方形を作図することが目標です。そのためには、長方形の定義や性質が重要になります。これを復習しなければ意味がありません。「本当?そう見えるだけじゃない?」と揺さぶり、「どうすれば長方形だと確かめられる?」と発問して、定義や性質につなげたいところです。
平行や垂直の言葉を簡単に確認して、長方形の中の垂直な辺、平行な辺の組を問いかけます。前時にやったことなのですが、子どもたちは挙手しません。教科書やノートで確認させて発表させますが、子どもたちはノートに書いてある答を読み上げます。発言に合わせて授業者が黒板で確認するので、子どもは友だちを見ずに黒板を見ています。ここは、平行や垂直の定義を確認して、「この辺と垂直な辺は?平行な辺は?」と定義からもう一度復習するべきだったと思います。
子どもが発言の途中で混乱する場面がありました。授業者は「誰か助けてくれる」といって他の子どもを指名しました。こういう場面では多くの場合子どもの表情は悪くなります。「助けてもらう」といっても、自分の代わりに誰かに発言の機会が移り、自分の活躍の機会はなくなります。「外した」「失敗した」という気持ちになってしまうのです。このあと、授業者はその子どもに「思い出したよね」とわかることを強制しています。わからなければ置いていくわけにはいかないので、何とか思い出してもらわないと困るのです。隣の子どもが、「(その子は)わかっていない」と言います。本人も「わからない」とつぶやいていました。その子どものことがよくわからないので何とも言えないのですが、少なくとも本人の口から再度答を言えるまではかかわりたいところでした。
全体的に授業者が何かに追われているように見えました。子どもたちとじっくり考える時間を持つ余裕がほしいところです。進度などが気になるのかもしれませんが、まずは子どもがしっかりと理解することが優先です。子どもの理解が進めば、授業のペースを上げることもできるようになるはずです。

4年生のもう一人の先生は、理科と社会科の授業を見せていただきました。
理科はNHKの動画を使って電池のつなぎ方と電気自動車の動きとの関係を考えさせる場面でした。子どもたちから問いかけがあっても考える時間はありません。授業者は動画を見ながら子どもたちに問いかけて考えさせようとしますが、動画はお構いなしに進んでいきます。発問する前に再生を止めて、通常の授業のようにやり取りをすればいいのです。必要に応じて続きを再生したり、場面をとばしたりといった使い方をするとよいでしょう。
面白かったのが、黒板の横に乾電池と豆球がぶら下がっていたことです。電池が直列だと1個の時と比べて明るいことがすぐにわかるのですが、並列だと違いがわかりません。そこで、子どもたちから、時間が経ったら違いが出るか見てみたいということになったようです。直列は数日で豆電球が消えたようですが、並列は1週間ほどたってもまだ点いています。こういう実験を子どもたちとしているのはとてもよいことだと思いました。
社会科は水の大切さを考える場面でした。
砂漠地帯の写真などを見せながら、「森がない」といった言葉を引き出します。世界には水が不足しているところがあるということに気づく活動ですが、森がないことと水の関係を明確にしていないようだったのが気になります。相関関係と因果関係の違いを意識したいところです。
「限りある水を使い続けるために私たちはどんなことができるだろうか」とう課題で資料をもとに考えさせます。「限りある」という言葉にはちょっと抵抗がありました。水は循環しています。節水につなげたいのでしょうが、子どもたちは水が不足した経験があまりありません。ここで言う「限りある」とは上水の供給能力です。このことをまずどこかで押さえておきたいところでした。「私たち」という言葉も注意が必要です。導入で他の国を取り上げています。そのため、「私たち」は人類という大きな枠でとらえる可能性もあります。この授業では、この市の資料をもとに考えたので、自然に身近な自分たちの意味になりましたが、ちょっと気をつけたいところです。
資料はこの市の人口の変化と、水の使用量の変化の2つのグラフです。このグラフを見てわかることを書かせます。一つ書いて終わる子どももいます。「できるだけたくさん」といった量的な目標、「水を使い続けるために何をしているのか、グラフから読み取ろう」といった質的な目標などを与えることも必要でしょう。
友だちに自分のわかったことを「言う」場面がありますが、子どもはノートを読んでいます。「聞き合う」として、ノートは困った時に見ることにし、できるだけ互いの顔を見ながら聞き合うようにさせたいところです。資料を読み取った後、それをもとに考える時間を取る必要がありますが、読み取りに時間をかけすぎたように思いました。
資料の読み取りについては、視点を持つことが大切です。資料を読む時には「何に注目するとよいかを今までの経験から言わせてから始める」「子どもの読み取りの視点を価値づけする」といったことが必要です。今回であれば、市の人口の増加に対して水の使用量の増加が少ないことがポイントです。複数の資料に対しては「どんな関係がありそうか考える」「変化の違いに注目する」といった視点がありますが、どこかでそのことを整理したいところでした。
授業者は子どもの言ったことをすぐに板書しません。姿勢を低くして発表を聞いています。子どもが発表者に注目するように意識しています。とてもよいことだと思います。基礎的な授業技術がついてきているように思います。これからは教材研究の力が求められてくると思います。子どもたちにどんな力をつけたいのか、そのためにはどのような活動が必要で、どんな目標を与えればいいのか。こういうことを大切にしてほしいと思います。

5年生の算数の授業は、4列の十字型に並んだ苺の数を、区切り方を変えて式を考える場面でした。
子どもたちは、授業者が準備したその図を描いた紙に、自分が考えた数え方の区切りを書き込み、その裏に式を書きます。なかなか面白いやり方です。
自分と同じ図を描いている人を探させます。子どもたちはうれしそうに教室の中を移動します。通常このような場面はテンションが上がりやすいのですが、落ち着いた状態で活動します。自分と同じ図を探すのではなく、同じ考えの人を探す感覚だったのかもしれません。同じ図の人とは式を比べてみるとよかったと思います。同じ考え方でも式はいろいろと出てくる可能性があるからです。子どもたちの考えを広げることができます。
友だちの発表に対して、「賛成」「なるほど」といった声が上がります。ここで注意してほしいのは、同じ答でも、違う答でもこのような声が上がる可能性があるということです。ここは、子どもたちに「○○さん、賛成って言ってくれたけど、あなたは同じ式?」と聞き返して、いろいろな式や考えを出させてもよかったと思います。また、ハンドサインを全員が出していないことがあります。そういう時には、出していない子どもに「あなた、どうだったの?」と参加を求める声かけをすることも必要です。
いろいろな図を発表させるのに、お隣の紹介をさせました。ペアでの活動を活かすよい方法だと思います。隣の人と説明し合ったりと、子ども同士をかかわらせ、活動量を増やそうとしていました。
同じ図に対して、式を一つひとつ書いている子ども、かっこを使って一つにまとめている子どもがいます。それらを紹介して、「どの式がいい」と問いかけます。式が「いい」とはどういうことでしょうか?この評価の基準がないので答えることはできません。それぞれの式のよさを子どもに言わせて比較したいところでした。そのよさのどれを選ぶかは子どもに任せればいいのです。
授業にいろいろな工夫が見られます。授業者の向上心が感じられます。これからますます力をつけることを期待します。

6年生の算数は、分数÷分数の計算のまとめの問題練習の場面でした。
「小数は分数のかけ算にする」とまとめていました。これは要注意です。確かにこの時間の計算問題はこのやり方で解けます。しかし、小数のまま計算した方がよい場合もあります。教科書は「・・・することができる」という表現をしています。考え方、やり方の選択肢の一つなのです。手順を教えるだけでは思考力はつきません。数学的・算数的なものの見方・考え方を意識することが大切です。
この日の練習問題は複雑で長い問題です。グループで考えさせますが、これは個人でやるべき問題です。個人作業のグループ化で、わからなかったら友だちに聞きながらやればいいのです。グループで答を出すことではなく、一人ひとりが友だちの助けを借りながら自分の答を出すことが大切なのです。
この計算をするためにはいくつかのステップがあります。途中でつまずいてしまうとそこから先がおかしくなります。小数と分数が混じっていることをまず意識させ、小数を分数に直すところまでを確認する。続いて分数÷分数を分数×分数に直す、約分するといったスモールステップに分けて考えることが必要です。しかし、これを手順として教えるのは疑問です。ステップごとに式をみて、「分数だけの計算になったね?この計算はどうすればいい?」と式を見ながらどのように計算するのかをその場で考えることが大切です。手順として機械的に計算する癖をつけると、それが通用しない時におかしなことになってしまうからです。
教科書の「・・・することができる」といった表現を大切にしてほしいと思います。教科書は一字一句よく考えられています。読み込むことで授業のポイントが明確になることを知ってください。

この学校では算数の時間に少人数授業を取り入れています。少人数の利点を、一人ひとりを個別に指導する機会が増えることととらえる方が多いのですが、いくら子どもの数が半分になってもそこには限界があります。子どもが全体で発言する機会が倍になったと思ってください。全員が全体の場で発言することができるように授業を組み立ててほしいと思います。

この日は中学校区の研修会になっていました。中学校と小学校で同じ授業ルールにしていることもあり、この小学校に同じ中学校区の先生方が集まって全学級の公開授業を見あうのです。とてもよい取り組みだと思います。しかし、廊下の教室と反対側のじゃまにならない場所でぼんやりしていたり、小声で話をしたりしている方が目につきました。ちょっと残念な光景でした。
この校区の中学校は授業規律の形にこだわっていますが、この小学校は形ではなく、その中身を問うフェーズに入ってきていると思います。校長はそのことを強く意識されていました。授業を大切に考え、どのようにすれば学校がよりよくなるか、常に次のステップを考えておられます。お話ししていて私もよい刺激を受けています。この学校のこれからが楽しみです。
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