教師間の意識の差を感じる

中学校で授業研究のアドバイスをしてきました。今年度2回目の訪問です。

授業研究に先立って、校内の様子を1時間見せていただきました。
3年生は、総合的な学習の時間でした。教科以外の時間を見ることで担任と子どもたちの関係が見えてきます。子どもたちと担任との信頼関係がしっかりできている学級とまだできていない学級との差が出てきているように感じました。学級経営の基本は担任ですが、情報交換を密にして学年として支え合うことが大切です。
2年生では、授業によってテンションが上がってしまう場面を多く見ました。同じ学級でも、授業者によって子どもたちの姿が変わっているのではないかと思われます。子どもたちを受容し、積極的に活動する時間をつくっている授業では、落ち着いて参加できるのですが、受け身の時間が多い授業では、隙を見てテンション上げようとしています。求めればそれに応えることができる子どもたちです。どのような姿を求めているか伝え、それができれば認めてほめることをていねいにしてほしいと思います。
1年生は、全体的に子どもたちの集中が感じられません。ちょっとテンションを上げる子どもがいると、それに呼応してざわつく子どもが目につきます。先生と子どもたちの人間関係ができていないのに、子ども同士の人間関係が先にできあがってしまっているようです。行事がきっかけでこのような状態になることがよくあります。子ども同士がなかよくなって、その関係が授業の中にも持ち込まれているのです。まずは、4月の学級づくりと同様に授業規律と子どもたちとの人間関係を再構築してほしいと思います。具体的には、学級のルールを明確にし、それができればほめる。指示が全員に徹底できるまでしっかり待って、できればほめる。基本的なことをていねいにすることを心がけてほしいと思います。

昨年度に研究発表が終わったのですが、今年になって人事異動もあり、これまで取り組んでいたことが新しく来た先生方に伝わっていないように思います。一方的に教師が教える授業スタイルの方にとっては、この学校で進めている子どもの言葉を活かし、子ども同士のかかわりを大切にする授業と言うのがイメージできないのかもしれません。前回の授業研究で具体的に見せていただいたのですが、まだまだ浸透していないようです。
頭ではわかっているのにできないのか、それとも考え方そのものが理解できないのかは今一つわかりませんが、新しく来た先生方と研究に取り組んできた先生方との間に溝のようなものがあるように感じました。まずは、授業について互いに気軽に話し合うことをしてほしいと思います。

授業研究は2年生の英語で、不定詞の導入場面でした。
週末の授業者の生活をもとにして、話が進みます。その時に撮った写真で”situation”を伝えます。”I went to ○○.”、”I bought a book.”と場所の写真と本の写真を交互に見せながら英語で話します。次に2枚の写真を見せながら、”I went to ○○.”、”Why?”と続けて、”I went to ○○ to buy a book.”と話します。同じように、”I came to school.”、”I played tennis.”を示して、”I came to school to play tennis.”をつくります。続いて、”I drove my car to go ○○.”、”I went to restaurant to eat Yakiniku.”を示して、これらの文章をつくるために必要な単語は何かを聞きます。ここまで、子どもたちは理解しようと非常に高い集中力を発揮しています。パラパラと子どもたちの手が挙がります。「もう1回チャンス。手を挙げてくれた人たちごめんね。One more chance.」として子どもから”to”を引き出しました。子どもたちから言葉を引き出そう、一人ひとりの気持ちに寄り添おうとする姿勢は立派だと思いました。
「”to”があるとどうなる?」と続けると、「くっついた」という言葉が子どもたちから出てきました。ここで、”bought”を”buy”にするといた説明を始め、”to +原形”という形を教えました。ここで、先ほどまでの高い集中は終わりました。決して集中力がなくなったわけではありません。ただ、「これを覚えればいい」とわかったので、普通の集中になったのです。
ここはまず、最初の例文”I went to ○○ to buy a book.”の後、すぐに次の”I came to school to play tennis.”に移らずに、”I went to ○○.”、”I met my friend.”というように一文だけ変えて練習するとよかったでしょう。新しいことを学ぶためには”contrast”を1つにしないと、どうしても混乱してしまうのです。これで練習した後、”I went to ○○.”の文の方を変えるのです。一方的に授業者が話すのではなく、子どもにも言わせます。2枚の絵を使って”I went to ○○.”、“I bought a book.”と続いて言って、子どもたちに、”You went to ○○ to buy a book.”を言わせます。”contrast”に注意しながら、2つの文を与え、一つの文にすることを何度も練習させるのです。文法的な説明はここでは必要ありません。2つの文を”to”を使って一つにすることを自分で考えてできるようにすることが大切なのです。ここに多くの時間を割くべきだったのです。
授業者はこの後、どうやって日本語にするかを子どもたちにたずねます。最初に指名した子どもは「○○に行って、本を買いました」と答えます。”situation”を理解できています。しかし、英語の試験では○をもらえるか微妙なところです(最近は昔ほど細かい訳にはこだわらなくなっていると思いますが・・・)。次に指名した子どもは「本を買うために○○に行った」と訳しました。塾で習った子どもなのでしょう。普通はこんな日本語は使いません。「本を買いに○○へ行った」というのが自然でしょう。せっかく”situation base”で進めてきたのに、日本語の訳し方を教えることで、子どもたちは英語を英語として理解するのではなく、日本語で理解することになってしまいました。
この後の活動は、”I use computer”、”Let’s go to the zoo”といった文とそれに続く”to play games.”、”to see pandas.”といった不定詞句のカードを何種類か用意して、それらをペアで正しく組み合わせる活動をしました。これは、単に意味のつながる組み合わせを見つけるだけで、英語を理解したり、英文を作る力をつけたりすることは少し違います。極端に言えば単語がわかっているかどうかのチェックにしかならないのです。
せっかく”situation base”で学習してきたのですから、”I use computer.”、”I go to the zoo.”、”I play games.”、”I see pandas.”というようにいくつかの文を用意して、それらを組み合わせて一つの文をつくらせるべきだったでしょう(主語をどうするかという問題がありますので、絵の方がいいと思います)。”I use computer to play games.”、 ”I use computer to see pandas.”と2つ出てきてもいいのです。それぞれの”situation”がわかれば問題はありません。英語の授業として大切なのは不定詞を使って2つの文を1つにできることなのです。
子どもたちは、よい表情でペア活動をしています。よい人間関係がつくれているようです。
続いて、ペアでオリジナルの文をつくります。隣に助けてもらいながら自分の言いたい文をつくれている子どももいます。どんな文をつくればいいか手がつかない子どものために、”go to my friend’s house”、”visit Kyoto”といった動詞とその日本語訳の一覧表を配ります。日本語の訳がないと使えないのかもしれませんが、日本語で文を考える習慣がつくことが少し気になります。このあたりは、難しいところです。
最後に自分たちがつくった文を発表します。子どもたちは、どうしても先生に向かってしゃべります。わかったかどうかは、聞いていた子どもに日本語の訳をさせることで確認します。この活動には、2段階のステップがあります。発表者の話した英文そのものがわかること、その英文の”situation”を理解することです。まずは何と言っていたか、英文を確認する必要があります。指名した子どもに答えさせるのはいいですが、それで終わらず全員で”repeat”する場面が必要でしょう。英文が聞き取れなければ、その日本語訳を聞いてもわからなかった子どもには何の意味もありません。答を知っても、わかる、できるようになるわけではないからです。わかった子どものための確認ではなく、わからなかった子どもができるようになる場面をつくることを意識してほしいと思います。
指名した子どもの答が正解かどうかを本人に確認する場面がありました。確認した子どもの表情がよくなりました。ちょっとしたことですが、子どもの発言を正しく理解できているかどうかは、授業者ではなく本人が確認することが大切です。こういった基本がしっかりできていることが、この授業での子どもたちのよい姿をつくり出していると思いました。
この学校の英語科は、この授業者に限らず”situation”を意識した導入や活動を工夫しています。その意欲には頭が下がります。互いに工夫し合って共有することで、この学校の英語の授業の質が上がっていくことが期待できます。

授業検討会では、子どもたちの様子をしっかり見ていたことがわかる発言が、いつものように若手を中心に出てきました。子どもたちの事実をもとにした発言が続きます。しかし、ここでも教師間の温度差を感じます。積極的に学ぼうとしている方と、他教科のことだから自分には関係ないと傍観者になっている方とに分かれているようです。この状況について何人かの先生からも相談を受けました。この学校で目指している子どもの姿とそのためには何をしなければいけないかを共有することが必要なのですが、現実はなかなか厳しいようです。特に子どもたちのテンションが上がって、いろいろな場面で規律が無くなってくると、子どもとの関係を改善して解決しようとするのではなく、力で押さえようとする方が出てくる危険性があります。そうなると、ますます教師間の意志疎通が難しくなって、人間関係も崩れる心配があります。この危険性に気づいている方は校長を始め何人もいますが、立場や学年によって偏りがあるのが気になります。この1月がとても重要になってくると思います。
私の思うところは、各学年の先生方にもお話ししましたが、上手く伝わったかどうかは自信が持てません。私のできることはたかが知れています。先生方で力を合わせて、この壁を乗り越えていただきたいと思います。
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