中学3年生の成長に驚く

中学校で授業アドバイスを行ってきました。研究指定を受けて来年度に発表を控えている学校です。この日のメインは全校での数学の授業研究でした。

授業研究の前に、何時間か学校全体の授業の様子を先生方と観察しました。うれしことに、希望して何時間も同行してくれる方が何人もいました。若手の先生がとてもよい表情で子どもたちの様子を見ていたのが印象的でした。
この日一番気になっていたのは3年生のようすでした。昨年の後半から落ち着いてきてはいましたが、まだまだ心配な様子があったからです。しかし、その不安は子どもたちを見て一掃されました。どの授業でも、わかりたいと真剣に参加している姿を見ることができました。先生との関係がよくなっていることが子どもたちの表情でわかります。
3年目の先生の国語の授業では、子どもたちが友だちの発言に盛り上がってテンションが上がる場面がありました。しかし、授業者がしゃべりだすとすっとテンションが下がり、体を前に傾けて集中して話を聞きます。授業規律もしっかりできて、とてもよい関係にあることがわかります。授業者は終始笑顔で授業を進めることができていました。
特定の学級だけでなく、どの学級でもよい姿を見ることができましたが、これは学年全体でいろいろなことに取り組めていることの証だと思います。3年生が最上級生らしい姿を見せてくれたことには感慨深いものがあります。というのも、この学年の子どもたちは小学校のころからいろいろなことがあったようで、入学時から落ち着かず、問題が多かったからです。先生方が、子どもたちと一生懸命にかかわった結果がここで実を結び始めたのです。
しかし、ここがゴールではありません、落ち着いて授業に取り組めるようになったからこそ、授業の内容が問われます。子どもたちの学力をどうつけるのか、より一層高いところを目指してほしいと思います。

2年生は昨年度のよさを引き継いていますが、授業者によって態度に差があるようでした。集中して話を聞く、考えるといったことを授業者が意識して求めれば応えられる子どもたちです。このことを意識してほしいと思います。
若手の理科の授業では、子どもたちはとてもよい姿を見せてくれました。授業者は落ち着いて子どもたちをよく見て対応しています。質量保存を考える実験でデジタル量りの上に実験の道具を載せ、この後実験したら質量がどう変わるかを子どもたちに問いかけます。この時点では、実験の結果何が起こるかもわからないのですから、単なる予想でしかありません。子どもたちに素早く「増える」「減る「変わらない」に手を挙げさせてから、実験を行いました。このあたりの進め方もなかなかです。実験をすると、ぼっと気体が発生します。子どもたちから「おー」と声が上がります。子どもたちの興味を引く演出でした。この間、どの子もとてもよい表情で授業に参加していました。
そのあと、デジタル量りの数字が減っているのを確認して、気体が発生したからと授業者が説明をしました。せっかくですから子どもたちに説明させたいところです。ここは、質量を確認した後、メーターをテープなどでふさいで見えなくしてから実験をして、子どもたちにもう一度問いかけるとよかったと思います。「どう?質量は減ったと思う?増えたと思う?それとも変わらない?考えを変えてもいいよ?」と問いかけ、考えを変えた人、変えなかった人に理由を聞くのです。そうすれば子どもたちに考えさせることができたと思います。もう一工夫することで、もっとよくなると思える授業でした。

1年生は、子どもたちが先生方をちょっと試しているように感じました。具体的には、授業規律がどこまでだったら許されるか、その綱引きをしているようなのです。隙あらばテンションを上げる機会をうかがっているような態度も見せます。先生と子どもたちの関係ができる前に、子ども同士の関係ができつつあるように思います。ここは、もう一度子どもたちとの関係を構築することを意識して授業に臨んでほしいと思います。素早く指示に従った子どもを固有名詞でほめる。指示が徹底できるまで待つ。できれば全体もほめる。できない子ども叱って減らすのではなく、できる子どもをほめて増やすこと意識してほしいと思います。

授業研究は3年生の数学の授業でした。平方根の計算の導入場面です。
ワークシートを配ってから説明を始めます。子どもたちの視線はどうしても下に落ちます。できれば実物投影機か拡大コピーを使って説明をしてから配りたいところです。
面積2cm2、8cm2、18cm2、32cm2の正方形を方眼紙に頂点と2辺を重ねて描かせます。方眼紙に対して辺が45°傾いた正方形が描かれることになります。
ここで気になる子どもが目につきました。他の子どもが作業を進めているのに一人だけ手がつきません。授業者が近づいた時に授業者の方を見ています。しかし、離れていったので再び顔が下がりました。隣をちらっと見て何とかやろうとしていますが、手が動くことはありませんでした。実は、その子どもは不登校傾向があり、この日は午後から出席したそうです。月曜日に来ることはまずないということでした。その子どもが授業研究でたくさんの先生が参加することがわかっていて登校したのです。断定はできませんが、授業者を気づかって登校したのではないかと思われます。それとなく助けを求めたことからも、授業者との関係はよさそうでした。授業者は、あえてかかわらないようにしたと思いますが、ここは声をかけてあげたかったところでした。その後も、頑張って授業に参加しようとしていたのが印象的でした。
3年生では不登校傾向の子どもが学校に出てくることが増えてきているそうです。先生方や友だちとの関係ができつつあるのでしょう。その一端を見たような気がしました。
図を描かせた後、子どもたちに正方形の辺の長さを確認します。一問一答で進みます。復習なのでテンポよく進みたいところですが、ここはその理由を言わせて、√の意味を確認したいところでした。
辺の長さは、それぞれ√2cm、√8cm、√18cm、√32cmとなります。方眼紙上なのでこれらの辺が等間隔に並んでいることがわかります。ここで、授業者は正方形の1辺だけを取りだして数直線のように横にして書き直します。端から√2cm、√8cm、√18cm、√32cmのところ印を打ちます。ここで、この日の課題、「辺の長さに注目して等式をつくろう」が示されます。あまりにも唐突です。子どもたちは何をすればいいのかわかりません。授業者は「これとこれを足したら・・・」と指示語を使って√2+√2が√8になることを例として言います。しかし、具体的な値を言わないので、何を言っているのかよくわかりません。そのため、子どもたちの手は動かない状況になりました。具体例を一つ挙げるべきだったでしょう。一番の問題は、方眼紙で図を描いたのに一つの辺をだけ取り出して方眼を無くしてしまったことです。方眼があれば、等間隔だということが明確にわかりますが、なければそのことには気づきにくいのです。もし、この流れでいくのなら、一つひとつの間が√2であることを方眼の図で確認して書き込むことが必要だったと思います。しかし、子どもたちはとにかく授業者が求めていることに答えようと頑張ります。ここでも、授業者と子どもたちの関係のよさがわかります。
ここは、等間隔であることを確認してから、√2+√2=√8となることを示して、「本当?これでいい?」と少し揺さぶり、「この図からこういう式をもっとつくれない?」と続けるとよかったでしょう。
授業者は、子どもの手が動かないので一人指名して例を挙げます。ここでも、結果を出すだけで根拠となる間隔が√2を押さえませんでした。求めるものが見えてきたので子どもたちの手は動き始めした。とりあえず式は出てくるのですが、納得感がありません。
√2×3=√6にならない理由をグループで考えさせますが、何を言っているかがよくわからないようです。塾で習ったのか、√a×√b=√abを使って、√2×3=√2×√9として説明する子どももいます。せっかくの図が、子どもたちが納得するための道具になっていなかったのです。
結局この後も子どもは納得感が得られず、授業者が一生懸命説明して説得する授業になってしまいました。とはいえ、子どもたちはわかろうとしてよく授業に参加していました。グループでもかかわることができています。要は最初の図の活かし方を間違えたのです。
今回のネタはけっこう有名だと思いますが、そのよさをきちんと理解できていなかったのです。一言でいえば教材研究不足でした。だからこそ、子どもたちのよさをしっかりと見ることができました。子どもたちがよいからこそ、教材研究が大切になることをあらためて思い知らされました。

授業者は素直に自分の授業の課題を受け止めます。子どもたちが頑張ってくれたことをうれしく思っていました。だからこそ、自分の課題をはっきりと意識できていました。この姿勢だからこそ、子どもたちは先生についてきているのです。次回はもう一段成長した姿をきっと見せてくれることだと思います。

今年度の人事異動で研究主任が変わりました。新しく来た方は戸惑いながらも前向きに取り組んでいます。この日も、研究に関してたくさんの質問をしてくれました。まだ、子どもたちがかかわりながら学ぶということが実感として理解できていないようです。自身の授業もまだまだ手探りの状態です。しかし、だからこそ、それを理解し実践できるようになる過程を誰よりも意識できると思います。自身の成長が研究の歩みとリンクするのです。この先生の成長がとても楽しみです。

この日は懇親会を設けてくださいました。その場で、たくさんの方から授業への思いを聞くことができました。皆さんとても前向きに自分の授業を改善しようとしてくれています。素直に聞く耳を持っています。学校の中に授業改善に取り組む文化が生まれてきたように思います。何年もかかわってきたからこそ、このことがとてもうれしく思われます。この学校の今後の変化がますます期待できそうです。楽しい時間をありがとうございました。
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