見ていてうれしくなる授業

昨日の日記の続きです。

授業研究は若手の先生の授業でした。5年生の算数で合同な図形を描く場面でした。
子どもたちが授業者の指示に素早く対応します。指示に対応できると子どもたちは指でサインを出します。それを見て授業者も笑顔でサインを返します。子どもたちはとてもうれしそうにしています。先生が自分を見てくれていると実感できるからです。子どもたちを誰一人落とさずに見守るという強い思いがないとできないやり方ですが、見事にやり遂げていました。見ているこちらもうれしくなる場面でした。
子どもたちは授業者の合同についての問いかけによく反応します。内容を絞ってテンポよく確認していきます。この後子どもたちに考えさせる時間をとるために、短い時間で済まそうとしています。教科書の図から合同な三角形を写し取るのにどうすればいいかを問いかけ、全部なぞるのではなく頂点を3つ写せばいいことを押さえます。3つの頂点の位置がわかれば(合同な)三角形が決まることを復習のポイントに選んだことからも、よく教材研究をしていると思いました。
子どもたちにトレース用の紙を配って教科書の図の三角形と合同な三角形を写させたあと、この日の課題である、「合同な三角形をノートに描く」を提示します。ノートではうまく透けないため先ほどのやり方が使えないことを確認した上で、「何を使えそう?」と問いかけ、「分度器」「コンパス」といった言葉を出させて見通しを持たせます。
一人の子どもがやたら「教科書に書いてある」とつぶやきます。確かに教科書の同じページに3つの考え方が載っています。授業者は無視しましたが、「自分たちで考えてね」と個別でいいので一言返してやってもよかったかも知れません。

あとから考え方を整理しやすくするために、底辺を固定して最初に描くことを指示します。
書き方の説明もノートに書かせますが、その前に整理の仕方を確認します。「図」「式」「言葉」があること、「言葉」では、使うとよい言葉を「まず」「次に」「最後に」といった手順を示す言葉、「だから」「なぜなら」といった理由を説明する言葉、「例えば」といった例示の言葉の具体例を示します。いつもこういったことを意識させているのはよいことです。
子どもたちが鍛えられているのがよくわかります。説明をしっかり書くことができます。書くことに対しての抵抗感もありません。
子どもたちは一つ描き終ったら、じっと待っています。そのことに気づいて、他のやり方も考えるように途中で指示を追加しますが、徹底できませんでした。一度切れると、指示をしても集中が戻らない子どもが出てきます。活動の最初に指示をすることが大切です。

続いてグループでの聞き合いに入ります。グループの隊形にする前にグループ活動のルールを確認します。「聞く時は相手の顔を見る」「相手の話が終わってから書く」ことがいくつか箇条書きになっています。今はまだ、ルールを徹底する時期です。毎回確認することはよいことだと思います。こういった確認も授業者が一方的にするのではなく、子どもたちに問いかけて確認します。授業者が説明する言葉が昨年と比べてとても少なくなっているのを感じます。グループの隊形になると子どもたちはすぐに活動したくなります。その前に指示や確認をしたのはよいと思います。
子どもたちは、自分のやり方の説明をノートに描いた図を使って説明します。互い視線を上げるために、ノートを立てて友だちに見せます。とても自然な姿で聞き合っていました。友だちがしっかりと聞いてくれるので、どの子どもたちもとてもよい表情です。ノートに書いた説明をつかって活動し、認められる場面があるので、書くことに抵抗感がないのだと思います。

全体での発表場面では、指名された子どもが笑顔で前に出てきます。実物投影機を使ってムダな時間のない発表ができます。黒板に三角形の図を貼り、子どもの説明をもとに授業者がカラーペンで書き込みます。子どもの説明は言葉足らずのところがあるのですが、授業者はそれを理解し、確認しながら進めます。ここは、もう少し物わかりの悪い教師になってほしいところです。言葉が足りなければ、こうだねと間違えてみせるといったことが必要です。ここで、残念だったのが、辺を描く時に、「どことどこを結ぶ?」「頂点Aはどこ?」と導入場面で押さえた頂点という言葉を使わなかったことです。書き込み用の図には最初からAが書かれていましたが、3つの頂点の内残りの1つの頂点を求めていることを意識させるために、図にはAを書かずに、「Aはどこ?」と問いかけてもよかったと思います。

「似たような考えの人?」と同じ意見の子どもをつなぎますが、確認して終わりです。聞いている子どもたちを活動させたいところです。違うやり方をした子どもに、友だちの描き方を説明させるといった活動があってもよかったでしょう。
分度器を使って描いた子どもの測った角の大きさが、問題になりました。子どもによって大きさが異なるのです。分度器で測っているのですからどうしても誤差があります。角の大きさが何度かでちょっと子どもたちがもめました。測り直しても値が一致しません。間をとるということを授業者は提案しましたが、おさまりません。正確さは次の時間にやるからといって、その場を収めました。議論しても意味がありませんので、「分度器によって値が変わることがあるよ。先生のでは○○°だった」とすぐに決着をつければよかったと思います。

今回は、「3辺」「2辺とその間の角」「1辺と両端の角」が等しいことを使う考え方が上手く全部出ました。底辺を固定した場合、「2辺とその間の角」は2通りありますが、これは1つだけで終わりました。時間の関係もありましたが、「本当にこれだけ?」「もう他にはない?」と揺さぶれば、もう1つも出てきたかもしれません。そうすれば、やり方はたくさんあるが、考え方は3種類であることに気づかせることができたかもしれません。
黒板に書いた図に、使った値を書き込んで確認します。ここで、考え方を整理するためにも、「ここで使ったのは、こことこことここの3つの辺の長さだね」「ここで使ったのはこことここの2つの辺の長さとこの角の大きさの3つだね」「ここで使ったのはこの辺の長さと、こことここの2つの角の大きさの3つだね」と3つを強調することで、どんな場合でも3つ必要であることを意識させることができます。もしやり方が3つ以上でてきた時には、その内2つが、「2つの辺の長さと一つの角の大きさ」だと気づくことができると思います。
また、3つにこだわって、「3つの角の大きさがわかればできそうだね?」と揺さぶっても面白いと思いました。

授業者は謙虚な姿勢で先輩たちからのアドバイスを受け止めています。授業に対して真摯に取り組み、よく教材研究をしています。わずかな期間にずいぶん成長しました。授業者を取り巻く先生方がよく支えてくれていると思います。子どもたちの前に立つのが本当に楽しそうです。見ている私にとっても、心地よい授業でした。授業者のこれからの成長がますます楽しみです。

授業検討は付箋紙を使ってグループで行いました。先生方はよく授業を見ていたと思います。この授業のよいところをたくさん見つけることができていました。私からは、子どもたちのよい姿が、どのようにしてつくられてきたのかを意識してほしいことをお伝えしました。授業技術や子どもとの接し方、学級経営だけでなく、授業とその準備に取り組む姿勢もどのようであるかを想像していただけたらと思います。
今回の授業研究が他の先生方にどのような影響を与えるのか、ちょっと楽しみです。次回は夏休みの研修ですが、2学期の訪問が今から楽しみです。
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