子どもが考える授業から学ぶ

昨日の日記の続きです。

1年生の社会の授業は4大文明でした。
4大文明に共通したことを子どもたちが調べて発表します。黒板には長い直線が引かれていて、西暦0年を中心に4大文明の発生した時期が示されています。どれほど古いことか感覚的にわかります。
授業者は子どもの発言をしっかり聞いて、同じことに気づいたかどうか他の子どもに確認します。受容することとつなぐことを忘れません。
子どもたちに「その中から(大切な)1つ選ぶとした何を選ぶか?」と質問します。興味深い質問です。基準が明確でないので選びようがありません。1つの答に収束させることがねらいであれば使ってはいけない質問です。しかし、選んだ理由を聞くことで視点を広げるのであれば、これは「あり」でしょう。要は、子どもが自由に答を言える雰囲気があるか、ていねいにその理由を聞くかどうかです。子どもたちは「文字」「都市」「王」「水」などを選びます。「文字」を選んだ理由からは「記録の重要性」、「都市」や「王」からは「人が増える、集まる」「権力」といった視点を子どもとやり取りしながら引き出していきます。どの子も真剣に参加しています。グループを使って子ども同士でこういうやり取りができるようになることが理想ですが、今の段階では難しいのかもしれません。そのための布石となる活動ととらえることもできます。
「水」については生活面からの意見しか出ません。水がなくては生きていけないということが強く意識づけられているのでしょう。授業者は農耕に結びつけるために、これまでの学習とつなげることを意識しました。「何時代?」と問いかけて「新石器時代」を確認し、この時代のキーワード「農耕・牧畜」から「水」の重要性に気づかせることができました。
共通なことを整理するのに、「因果」という発想もあると思います。「都市」ができたから「王」なのか「王」がいたから「都市」ができたのかは微妙ですが、「原因」と「結果」の視点を持ち込むと、「水」→「農耕」→「安定・定住」→「集落・富の蓄積」→「文化・国・王」というように「水」が文明の発生する大きな要因となっていることに気づけると思います。
また、共通のこととして「中緯度」ということも出てきていました。地理で学習したことが視点となっています。「中緯度」は暮らしやすいという意見が出ました。授業者はそのことにあまりこだわっていませんでした。しかし、地理的特徴も4大文明を考える糸口になります。乾燥地帯ですので決して暮らしやすいところではないのです。川があって初めて農耕が発展しました。農耕が発展すると食料が備蓄され富が生まれます。一方、低緯度地方は暮らしにくいのでしょうか?文明発達以前であれば、暮らしやすいのです。温かいから着るものもいりません。食物も豊富ですし、海のそばであれば魚にも不自由しません。環境がよいので、次のステージ移る必要がなかったのです。近年まで、南洋の人々が大昔とそれほど変わらない生活を維持していたことでもわかります。このことを授業で扱うべきかどうかはわかりませんが、子どもたちの発言は活かそうと思えばいくらでも活かせるものだと改めて気づかされました。

この日の授業研究は、ベテランと若手のTTで行う数学の授業で、「負の数のかけ算」でした。特に時間割をいじってはいないので、数学科以外の先生は自由参加ですが、多くの先生が都合をつけて参観されていました。とてもよい傾向だと思います。
ベテランのT1は「塾に負けたくない」という言葉を授業後語っていました。塾では「負×負は−と−で+になる」といった結果だけを教えている。その理由を聞いても答えられない。そんな子どもにしたくない。数学の教師としてとても正しい姿勢だと思います。そんな思いがあふれている授業でした。
最初に「数直線ゲーム」を行います。授業者が言った数を足したり引いたりして、数直線上の位置を指で示すのです。これがこの日の授業の布石になっています。ウォーミングアップのあと、「+2」「+2」と何回も同じ数を足します。今度は「−2」でというようにして、かけ算をイメージさせようというわけです。気になったのがT2の動きです。教室の後ろから授業を見ていました。ここは、子どもの手元を見ていなければいけません。実際に、何人かの子どもが間違った動きをしています。その場で注意するかどうかは別にして、把握していることは必要です。間違えている子どもがいるので、途中でとめて、隣同士で確認するとよかったと思います。
子どもたちは、この活動が後につながることだとはあまり思いません。少々露骨かもしれませんが、強く印象付けることが必要です。「どちらに動いたっけ」「おんなじ動きだね」、「+2を4回したけど、計算した方が速かったね。計算できる?」というようなやり取りを少ししてもよかったかもしれません。
続いて、九九の確認をします。2の段を言わせます。次に降順で言わせます。小学校の時によく練習したことなので、子どもたちは楽しそうにやっています。「・・・ににんが4、にいちが1。これで終わり?次はない?」と投げかけます。ここで、「2×3」「−2×3」「2×(−3)」「−2×(−3)」のどれが大きいかを課題として提示しました。2×3はすぐに計算できますので、残り3つがどうなるかを考えさせます。子どもたちは手がかりとなるものがわからないので悩んでいました。
この展開は数学的には問題があります。そもそも「−2×3」「2×(−3)」「−2×(−3)」は定義されていないのです。数を拡張した時に四則を自然に拡張できるかというのが本来の課題です。教科書はこのあたりを非常にあいまいにしていますが、「ひろげる」という言葉は使っています。導入の逆順の九九を授業者は「2×(−3)」の布石として考えていたようですが、逆順の九九から課題を見つけるとよかったと思います。「・・・にいちが1。これで終わり?次は?」から「2×0=0」を確認して、「この次はない?」から「2×(−1)」を言わせて、「小学校では負の数を扱わなかったけど、負の数もあっていいよね。でも、負の数を掛けてもいいの?」と課題にするのです。ここで、定義を考えるためのよりどころが必要です。言葉にはしませんが「自然な拡張」になる必要があります。今までのやってきた0以上の数の計算と矛盾しないことです。そこで、今までのかけ算について知っていることを整理します。小学校ではかけ算を「いくつ分」で定義しています。中学校の先生は小学校で今どのように教えているか意外と知っていません。2×3は2+2+2で定義していると思っています。そうではなく、2の3つ分だから2+2+2、九九は1つ分増えると2が増えると増分でつくっていきます。このことを押さえておいて、「0以上の数ではこうなっているけど、このルール(定義)は負の数でも使えそうか?」と手がかりを与えて考えさせるとよかったと思います。
子どもたちは、一生懸命考えていましたが、なかなか考えがまとまりません。指名した子どもは数直線を道具として説明します。数直線ゲームを通じて、数直線で数を考えることを積み重ねてきたことで、子どもたちに数を考える道具として数直線が定着しているのを感じました。どの子どもも真剣に聞いています。授業者は子どもの言葉で授業を進めようとしています。今年は、黒板には子どもの考え以外をできるだけ書かないようにしているそうです。子どもの言葉で授業をつくるという強い決意を感じます。子どもたちの言葉を重ねて、4つの計算の答を導き出しました。
この学校の数学科は若い先生が多いのですが、このベテランの授業に大いに刺激されたようです。数学科での授業検討では、負の数の計算について、深く考えていなかった、教科書の読み取りが足りなかったといった言葉が聞こえてきます。授業者の言葉の端々から、よい授業をしたいという熱意が感じられます。ベテランであっても、まだまだ授業を上手くなりたいという意欲に感心します。こういう先生と出会えたことは、若手にとっても幸せなことだと思います。

次回の要請訪問での授業者から社会科の指導案の相談を受けました。
これまでに、教科の他の先生に何回も相談しているようです。教科の仲間で一緒に指導案を考えることができています。授業者を孤独にさせていないのはとてもよいことです。子どもたちに日本と外国の農業を調べさせて伝え合うことが授業の中心で、調べたことをもとに考えることは従になっていました。その主従を逆転させることを提案しました。調べた結果をもとに考えることを主とするのです。そのためには魅力的で子どもが考えることできる課題が必要です。いくつかのアイデアは出しましたが、最終的には授業者が決めることです。どんな課題になっているのかとても楽しみです。

子どもたちがしっかり考える授業を見ると、こちらも一緒に考えます。この日もたくさんのよい授業を見せていただくことができました。そのおかげで、たくさんのことを学ぶことができました。先生方と子どもたちに感謝です。
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