算数の教科書を理解することの大切さを感じる

小学校の授業アドバイスを行ってきました。初めて訪問する学校で、全学級の授業を見せていただきました。

私に見せる授業はどの教科でもよいということだったそうですが、普通学級はすべて算数の授業でした。算数は教えやすいと思っている方が多いように感じられます。答を教えることは誰にでもできますが、考える力や問題解決の力をつけることは、教材研究がしっかりできていないととても難しい教科です。そのための第一歩は、教科書をしっかり読んで、教科書の意図を理解することです。残念ながら、この教科書を理解することができていないと感じる授業が多くありました。

1年生の20までの数を扱う単元で、「12−2」と「15−3」の計算を考える場面のことです。教科書では、12−2は10枚がセットになった折り紙とばらの折り紙2枚から2枚を取った残りを考えます。折り紙が10枚セットになっているので、具体物で考えても自然にばらから取ることに気づけます。授業者はここでブロックを使って確認をします。しかし、教科書では次の15−3で初めてブロックを使います。この意味を授業者は考えていませんでした。折り紙は最初から10の固まりと2になっています。それをブロックでわざわざ表現すると、10と2で12になると固まりを「合わせる」ことになります。ところが次の15では、15の固まりを10と5に「分けて」考えます。ブロックの扱いが違うのです。子どもたちを混乱させないために、ブロックの利用を固まりに分けることだけにしたのです。また、折り紙で10枚セットにしているのは、10枚から取らせないためです。授業者に確認したところ、そのことに気づいていませんでした。教科書の意図を理解した上でアレンジするのは悪いことではありません。むしろ、子どもの実態に合わせてどんどん工夫してほしいのです。しかし、そのためにも、教科書をよく理解することが必要になります。

3年生のあまりのある割り算の導入では、お菓子を皿に分けるのに教科書はあまったお菓子は皿に載せていません。これは、あまっていることを意識させるためです。このことはわかった上で、授業者はあまったお菓子を皿に載せて進めました。子どもに、あまりが載った1皿をどう扱うかを考えさせたいのです。このことは決して悪いことではありません。しかし、きちんと理解させないと混乱する可能性があります。子どもたちがこの皿は勘定に入れないことを納得できた段階で、「じゃあ、このお菓子は皿に載せてはいけないね」とあまったお菓子を皿の外に出すといった動作をさせたりする必要があります。「このお菓子は皿に載せない」つまり「あまった」ということを動作させることで強く印象付けるのです。残念ながら、そういった活動はありませんでした。もう一歩踏み込んで教科書の意図を活かすこと考えれば、とてもよい授業になったと思います。

6年生の変わり方を調べて考える授業も、教科書(指導要領)の意図がわかっていない授業でした。2人が道の両方から歩いていつ出会うかという、いわゆる出会い算の問題です。ここでは、表を使って規則性を見つけその関係から答えを導く流れです。帰納的な考えを大切にする教材です。しかし、授業者は、双方の距離が毎分どれだけ減るかを説明して考えさせます。その上で、表を埋めて考えるように指示します。演繹的に考えるのなら表は必要ありません。かえって混乱します。この単元では、与えられた条件を理解して、いくつかの関係を表に表わす力をつけることが必要ですが、その説明や練習はありませんでした。関数の考え方や活用する力を身につける単元なのですが、まったくそのことを理解していませんでした。

この他にも、教科書の意図を理解していないと思える場面が多くありました。下手にアレンジするぐらいなら、教科書を忠実になぞる授業の方がまだよいように思います。もちろん、教科書のキャラクターの吹き出しは、自学を意識したものですから、そこは子どもから引き出したり、子どもの言葉でまとめたりするようにしてほしいのですが・・・。

全体に先生方の表情がかたいことが気になりました。笑顔をあまり見ることができません。先生方と話していて、どうやら私に授業を見られるということで相当緊張していたということがわかりました。子どもたちにもそれが移って、いつもより雰囲気が重たかったのかもしれません。

共通していたのが、子どもをほめる言葉があまりなかったことです。どうしても、気になる子どもを注意することに意識が向くようです。
指示を徹底させることもあまりできていません。子どもたちの動きをいったん止めることができないまま、指示を出している場面に多く出会いました。また、子どもの言葉を拾うのですが、全体で共有しません。それを受けてすぐに説明を始めます。基本的に、わかる子どもの言葉と教師の説明だけで授業が進みます。ハンドサインも一部の学年を除いてほとんど機能していません。子どもたち全員が意志表示していないのに、先に進んでいきます。ハンドサインに限らず全員参加が意識されていないと感じる場面が多くありました。

中には、子どもたちの困ったことを共有して進めようとしている先生もいらっしゃいました。この先生は笑顔がとても多く、子どもたちをしっかり受容しようとしていました。子どもに対して「ありがとう」の言葉も出てきます。ただ、困っているところの解決を先生が説明したのが残念でした。困っていない子どもにとっては、この時間は退屈に感じる可能性があります。わかった子ども、困っている子どもをつなぎながら双方を活躍させることを意識すれば、とても素晴らしい授業になると思います。

また、ある場面を指摘するだけで、自分で何が課題か、どうすればよかったかに気づける方もいました。素直で前向きな方です。経験が浅くても、今後大きく伸びてくれることと思います。

気になる子どもにかかわりすぎて、他の子どもとかかわる余裕を失くし、子どもたちとの関係が上手くいっていない方がいました。まじめな方なので、気になる子どもをなかなか無視できないのでしょう。しかし、まずは全体との関係をつくることが優先です。思い切って気になる子どもにかかわる時間を減らして、他の子どもとの関係をつくることを意識するようにお願いしました。

特別支援学級は、この日は担当の先生2人でそれぞれ2人の子どもを教えていました。一人は、昨年まで別の学校でアドバイスをさせていただいた方でした。以前の学校でも特別支援を担当されていたのですが、着実に進歩していることを感じました。子どもを笑顔でしっかりと受け入れ、よくほめています。子どもに寄り添い、子ども同士もつなげようという姿勢を強く感じます。子どもが安心して暮らせていることがよくわかります。
もう一人の方は、2人の子どものうちどちらか一方に注意が集中する傾向がありました。子どもが発表する場面では、どうしても発表者に注意がいってしまいます。もう一方の子どもがきちんと聞けているのであれば、それを評価してあげてほしいと思います。評価することで、子どもと教師の関係だけでなく、子ども同士の関係もつくることができます。

外部の人間に授業を評価されることは初めての経験なので、皆さんやや緊張気味でしたが、とても素直に私のアドバイスを聞いていただけました。教科内容についてのアドバイスをすぐに活かすことは難しいかもしれませんが、学習規律や全員参加については比較的取り組みやすいことが多いので、少しでも意識していただけたらと思います。
次回の訪問では、緊張も少し緩んで、先生方のよいところたくさん見られるのではないかと期待しています。
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