習熟度が下位の子どもたちが全員参加する授業

私立の中高等学校で授業アドバイスを行ってきました。

中学で、教師が一方的にしゃべっている授業が多いことが気になりました。きちん起立して発言することを求めず、一部の子どもの反応だけを拾って進めていることも気になります。子どもが思いついたことを教師にしゃべり、それを受けて教師がすぐに説明をします。子どもの発言を全体で共有する場面がないのです。子どもの視線がバラバラで、集中していません。4月当初、1年生は授業に積極的参加しようとしていると感じたのですが、そのエネルギーが感じられなくなっています。
一方高等学校は、全体的に落ち着いています。ただ、教師による授業中の子ども姿の差が顕著になってきたのを感じます。子どもたちの様子をよく見ようとしている方の授業では子どもの参加度が高くなっているように思います。
教師間の情報交換、交流が進んでほしいと思います。

授業を見てほしいというリクエストが2人の英語の先生からありました。新しいことに挑戦しているので、外部の意見もほしいのでしょう。
1つの授業は、会話文をつくって練習する場面でした。高校3年生です。子どもたちは何時間かかけて与えられたテンプレートをもとにペアで会話文をつくり、それを暗記して発表できるようにします。1時間で完結しないので、相方が休むと個人では作業ができません。そのような子どもが気になりました。例え発表はペアでも何回か連続する活動であれば、グループでの活動にした方がよいでしょう。
1時間の授業での進度の目標はあるのですが、明確なチェックはありません。また、ペアで1時間の授業中ずっと集中するのは、彼らには難しそうです。集中力が切れて途中で雑談になったり、作業が止まったりしているペアが目につきました。ペアで行き詰った時には、助けを求める相手がいないので教師を呼んでたずねます。こういったことを考慮すると、グループで活動の形にし、中間発表の時間を毎回設けて子どもたちが相談したり、出力したりする場面をつくるとよいと思います。子どもたちの集中力を教師がコントロールする発想も大切です。

もう一つの授業は、3つに分けた習熟度編成で一番下のグループに対して、”ENHLISH THROUGH PICTURES”という、米国で使われている第2外国語としての英語指導法を取り入れることに挑戦したものでした。まだ、始めて数回でしたが、何より驚いたのが子どもたちの集中度でした。高校1年生ですが、”you”のスペルも怪しい子どもたちです。先生役の子どもは指示棒でスクリーンに映し出された4枚の絵を示して、子どもたちにその絵の状況を英語で言わせます。リモコンを使って順番に正解を示しながら進んでいきます。子どもたちで進めているのは、その方が集中度が高いからです。授業者は子どもたちの様子をよく見ています。反応した子どもを指名するように先生役の子どもに声をかけたりします。代名詞の使い方といった本当に基本的なことですが、子どもたちにとってはかなり難度が高いのです。真剣に考えないと何を答えればいいのかよくわかりません。しかし、どの子どももわかろうと必死です。なかなか口を開けない子どもを指名すると、それでも何とか答えようとします。子どもたちはこの授業であれば参加できる、何度も聞いていればわかると信じでいるようでした。
1通り終わってから、この日学習したことを書かせます。英語を書くことは彼らにとっても、もう1つの壁でのようです。ある子どもが、自分たちはもう1回やらないとできないと声を出します。できないからと教えてもらうのを待とうとするのではなく、自らできるようになるためにどうしたいかを伝えます。とても前向きになっているのを感じます。別の子どもが先生役になってもう一度進めました。最後まで誰一人集中力を失くしませんでした。
書くことに関しては、この日使った英語の単語を一覧にしたスライドを映すとよいと思います。「できるだけ見ないで」と指示をすれば、どの程度定着しているかもよくわかります。また、子どもたちは友だちの発言を聞いていますが、全体でリピートする時間をもっととるようにする必要があります。子どもが先生役では難しいところもありますが、工夫すれば可能だと思います。
この先生の行動力には毎回驚かされます。よいと思ったことはすぐに実行します。もちろん、初めから完璧にはいきません。しかし、実行するからこそ見える改善点もたくさんあります。急速に力をつけていることがわかります。

この授業に関して、英語科では賛否が分かれているようです。従来の文法的なことを教えたい先生もいるのです。大切なことは最終的に子どもがどうなっていくかです。この学校として目指す子どもの姿を再度共有して、そのためにはどのような授業が必要かを真剣に議論してほしいと思います。この学校が進化していくためには、このような過程が最も必要なものだと思います。

この学校から得られる刺激や学びが次第に大きくなっています。次回は、模擬授業を使った授業研究を有志で行う予定です。どんなものになるか、今からとても楽しみです。
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