校長の働きかけの大切さを感じる

小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小学校での授業アドバイスの一環で、この学校から今年度第2回目となります。

1学年1学級の学校ですが、今回は全学級の授業を見た後、全員に個別アドバイスをしました。
前回の訪問から夏休みを挟んで3ヶ月しか経っていませんが、子どもたちの様子はずいぶん違って見えました。以前は教師が板書すると写すことに意識がいって、話を聞いていない子どもが目立ちました。しかし、この日はほとんどの学級でそのような姿は見られなくなりました。特に指示をしなくても教師の話を集中して聞いています。もともと子どもたちを受容できる先生が多かったのですが、先生方が子どもたちをよく見るようになったことがよい影響をもたらしているように思いました。

前回訪問時に子どもたちの授業規律がうまくつくれなくて苦しんでいた1年生の学級は、この日見た算数の導入場面では、全員が集中して参加していました。子どもたち全員をよく見て、発言をしっかり受け止めていたのが印象的です。子どもたちの変化の手ごたえを感じていると同時に、今の自分に足りないところをきちんと認識していました。これからも、進歩していくことと思います。

2年生の担任は、基本がしっかりとできている先生ですが、前回訪問時に子どもたちをつなぐことを課題と指摘しました。今回見た国語の授業では、つなぐことを含め前回指摘したことを改善しようと意識していることがよくわかりました。隣同士で伝えあったり、わからなかった子どもを参加させようとしたりしています。ただ、まだ挙手する子どもが主体になって進む場面があるので、挙手しない子どもを参加させることをもっと意識してほしいと思いました。
利き腕をケガしている子どもがいました。左手でワークシートに書こうとするのですが、うまく書けません。授業後悔しくて泣いていたそうです。授業者はどう対応すればよかったのか悩んでいました。できないことを無理してやらせるのではなく、できることで活躍させる場面をつくってあげることが重要です。ワークシートに書けなくても考えることはできます。「ワークシートは書かなくていいけれど、発表できるようにしっかり考えてね。あとで発表してもらうからね」とできることで頑張らせるのです。「ワークシートなしでも、しっかり発表できたね。よく頑張ったね」とほめてあげれば、これからも積極的に授業に参加できるはずです。

3年の担任は子どもたちをしっかり受容できる方です。ほめることもできます。ただ、全体に対してほめることや「○○している人がいるね。いいね」といったほめ方が多く、固有名詞があまり出てきません。3年生くらいになると、だんだん自分がほめられたとは思わなくなるので、固有名詞でほめることを意識してほしいと思います。指示に対して子どもたちは素早く対応します。しかし、それでも若干の個人差があります。授業者は最後の子どもまで確認せずに次の指示を出すことがありました。動きの遅い子どもがついていけなくなる可能性があります。早い行動をうながすことと全員の確認をセットにしていただければと思います。

4年生の担任は、子どもにどうあってほしいかを意識でいる場面とできていない場面でのギャップが大きいことが気になりました。子どもにこちらを向かせたい時は、「おへそをこちらに向けて」と指示をすれば子どもはすぐに従います。「いいね」とほめる言葉もでてきます。しかし、授業者が意識していない場面では集中力がすぐに落ちます。
子どもに発表させた後、子どもに「いいですか」と確認します。答を板書して次の子どもを指名すると子どもたちは板書を写していて、友だちの発言を意識していません。授業者もそのことを気にせず、「いいですか」と確認もしませんでした。この場面でどうあってほしいかがしっかりと意識されず、指示が恣意的になっているのです。
また、作業でどのシールを貼るかという確認の場面で、子どもが口にした言葉が分かれました。前の時間に伝えてあることですから、子どもたちに活動させるよい機会です。しかし、授業者自身が確認して答を言ってしまいました。子どもたちで解決させることをしないと受け身になって、学習意欲が高まりません。この後グループでの作業に移ったのですが、子どもの動きが鈍いことも気になりました。子どもの意欲を引き出すことを意識してほしいと思います。

5年生の授業は、お弁当のミニチュアをつくる図工の授業でした。子どもたちにどんなものを作ればよいか考えを出し合い、まとめていく場面です。いろいろな弁当の写真をサンプルとして黒板に貼って進めます。子どもたちがよいと思う弁当の下にはそれを選んだ子どもの名前が貼ってあります。
子どもたちは自分の考えを思いつくままに言います。それを授業者がひろうのですが、他の子どもにつなぎません。次第に一部の子どものテンションが上がっていき、他の子どもとの差が顕著になります。
「彩りのいい弁当」という視点を与え、子どもたちに彩りがいいとはどういうことかを問いますが、どう答えていいかわからない子どももたくさんいます。どうしても一部の子どもだけで授業が進んでいきます。具体的に答えやすい発問でできるだけ多くの子どもが参加するようにする必要があります。例えば、「この中で。彩りがいいと思う弁当を教えて?」「じゃあ、彩りが悪いと思う弁当は?」と具体的に比較する対象を明確にして、その2つについてどう違うかを子どもに言わせれば、多くの子どもが参加できると思いました。

6年生の授業は、用意された例文を正しい敬語表現に直すものでした。授業者は子どもを見ることをとても強く意識していました。子どもの反応を見逃しません。「首をひねっている○○さん」と言って指名します。いろいろな場面で反応を求めています。授業者は子どもの発言を板書していても、ときどき首をひねって子どもたちの様子を見ています。子どもたちはしっかり板書を見ていますが、だれも写しません。授業者が求める子どもの姿がとてもよくわかる場面でした。
ちょっと話を脱線して子どもたちのテンションが上がっても、「(話を)戻すよ」と言うだけですぐに子どもは落ち着きます。とてもよい関係をつくれています。
また、発言者を見る子どもが増えていますが、まだ授業者を見ている子どもがいます。この授業者であれば、子どもたちにどういう姿になってほしいかを意識すればすぐにそろっていくと思います。
子どもの発言をつなぐことも意識できていますが、発言を全体に共有する場面がありません。そのため、どうしても一部の子どもの意見だけで進む傾向があります。話し合いの足場になるような発言は、何人にも繰り返して言わせて共有化してから、次に進む必要あります。

どの先生も、自分なりの課題を持って授業に取り組んでいることがよくわかります。個別にアドバイスする時に、意識していることをおたずねするのですが、どなたも非常に明確に答が返ってきます。前回ベテランの方には個別にはアドバイスの時間を取っていなかったと思うのですが、全体に対して指摘したことも含め、細かいところまで意識されていました。不思議に思っていたのですが、校長のお話を聞いて納得しました。前回の私のアドバイスをそれぞれにまとめさせて、全体で共有したということです。学校全体が一度に変わることは非常に珍しいのですが、このような手立てをしていたことがうまく作用したようです。
今回も、全員のアドバイスの場面に校長が同席してくださいました。時として、私のアドバイスに対して補足の説明をしてくださいます。口を挟むというのではありません。私が先生方の性格や個性をしっかりと把握できているわけではないので、ストレートに伝えた方がいいかどうか判断しかねるところがあります。そんな時に、一人ひとりをよく理解している校長が、より伝わりやすようにと補足をしてくださるのです。この学校をよくしたい、先生一人ひとりに成長してほしいという校長の思いを強く感じます。この思いが学校を変革していく原動力になっているように思います。

共通してできていることが増えてきたので、次の共通の課題がより明確になってきました。子どもの発言を共有し、考えをつなげ、全員参加を目指すことです。ここで、ポイントとなるのが、考えを深めるための足場となる発言は、意図的に何度も繰り返し言わせたりして確実に共有しなければならないことです。教師がどのような発言が足場となるのかを瞬時に判断する必要があります。そのためには、単なる授業技術だけでなく、教材研究が不可欠です。ハードルがより高くなります。
しかし、この校長と先生方であれば確実にクリアしていくことと思います。今後が楽しみな学校がまた一つ増えました。
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