社会の研究授業から学ぶ(長文)

昨日の日記の続きです。

社会科の要請訪問の研究授業は、2年生の地理、九州地方の学習の最後の時間でした。
最初に九州地方の北と南の違いを復習します。子どもが地図の「上」の方という言葉を使います。授業者は「上はないでしょう」と切り返すことで「北」に修正させます。ちょっとしたことですが、社会科の教師としてこだわるべきところをきちんとこだわり、子ども自身に修正させています。また、子どもの発言中は、しっかりと全体を見て、子どもたちの反応を確認しています。地味なことですが、基本がしっかりできていることがよくわかります。北は工業が盛んで、南は農業が盛んということが子どもたちから出てきます。それに対して「米は北でつくられる」という意見が出ます。子どもたちは学習したことをきちんと発表できます。「南は火山灰で米が作れない」「火山灰は水をためられないから米が作れない」ということを、まわりと相談させたり、子どもの言葉をつないだりしてしっかりと復習します。授業者は余計な言葉をはさまずに、子どもの言葉で授業を進め、どの子どもも意欲的に参加しています。過去の学習内容もしっかり定着しています。大したものです。しかし、ていねい進めたので、少し時間がかかってしまいました。授業者としては、北は工業が盛んであることを押さえるだけで先に進めたかったのですが、子どもの言葉を活かそうとして思わぬ時間を取ってしまいました。

北九州エコタウンを紹介します。「どこで区切る?」と問いかけ、「エコ」と「タウン」の意味を押さえます。その上で、エコタウンのパンフレットを子どもたちに配って見せます。しかし、時間が押しているせいか、エコタウンはどのような企業が集まっているといったことは押さえることをしませんでした。何となく、エコに関連する企業が集まっているのだなというくらいのイメージしか持てません。
子どもたちに列ごとに「A」「B」と書かれた2枚の紙のどちらかを配り、その違いを比べさせます。子ども同士を自然にかかわらせるうまい方法です。テンポを上げるために、列指名で聞いていきます。子どもからは「厚さが違う」「質が違う」「色が違う」「匂いが新聞紙っぽい」といった意見が出てきます、一人発表するごとにちょっと確認をするので、テンポが上がりません。ここは深く考えるところではないので、まずは1列全部言わせてから、確認するという方法もあります。子どもが素早く言えるように、違いをメモさせておいてもいいでしょう。

一方が再生紙であることに気づかせて、どちらの値段が高いかを考えさせます。ここで理由も含めて言わせようとするのですが、あくまでも根拠のない想像に過ぎません。子どもに興味を持たせると割り切って、で早く結論を教えるとよいでしょう。再生紙の方が高いことを確認し、どちらを使いたいかを聞きます。子どもたちは当然安くてきれいな普通の紙を選びます。ここで次の質問に移りました。

エコタウンの授業所数が増加していることをグラフで示し、その理由を子どもに考えさせます。ワークシートには、理由を書く枠が3つ作られています。他の学級で事前に授業を行なった時には大きな枠が1つだったそうですが、子どもたちから2つの視点が出てきたので、そのことを意識して作り直したとのことでした。ワークシートの裏には、「九州の北は工業と農業のどちらが盛んだったのか」「事業所が増えるということは企業にとって利益になる」「リサイクルには料金がかかる」とヒントが3つ書かれています。このヒントが手がかりになるのであれば(最初のヒントは復習で確認してあるが)、全体できちんと共有しておきたいところです。

話し合いの隊形(変形のコの字)にしてから、全体で考えます。子どもたちは発言者をしっかり見ています。集中して聞いているので、少し声が小さくてもちゃんと聞けています。
リサイクルは必要だからといった意見や、エコに力を入れると注目を浴びるからといった意見が出てきますが、それと事業所数の増加には直接つなげることができません。リサイクルしていると安くなるという意見も出てきます。授業者は「でも、再生紙の方が高いんだよ」と返します。これはおそらく「たくさん作っていると量産効果で安くなる」ということを言いたかったのだと思いますが、よくわかりません。「再生紙の方が高いけど、それってどういうこと?」と聞いてみたかったところです。「安くなるって大切なことだけど、他にもどうすれば安くなるのかな?」とコスト面に焦点化することができたかもしれません。リサイクルすると無くならないという言葉も出てきました。授業者は「何が?」と聞き返し、「ごみ」という言葉をつないで「材料」という言葉を引き出します。子どもたちに反応があったことを確認して、どういうことか他の子どもに説明させます。ここはついつい教師が説明したくなるところですが、あくまでも子どもの言葉で説明させます。なかなか見事です。しかし、リサイクルの必然性だけで事業所数の増加にまではつなげることができません。
「みんなに教えてくれる」とリサイクル料のことに気づいている子どもに声をかけます。こういう言葉のかけ方も上手です。

子どもたちからは予定通り、リサイクルが資源の有効利用につながることとリサイクルにはコストがかかることの2つの視点が出てきましたが、どうしても事業所数の増加の理由には行き着きません。この2つの視点は軸が違うのです。コストの問題があったにせよ、リサイクル(エコ)は社会の必然なのです。その大前提の上で、何がリサイクルの障害になるのかという視点で考えることで、コストダウンの問題が浮かび上がってきます。その解決方法がエコタウンにつながるのです。
この授業の流れを活かすのであれば、早目に子どもたちから2つの視点を引き出して整理させます。資源を有効利用するためにはリサイクルなどのエコを進めなければならないということを共有化し、それにはコストがかかることを確認します。「事業所が増えるということは利益を出せる見込みがあるんだ」と子どもに言わせると議論が焦点化されます。そこでもう一度最初の課題を考えさせると、子どもたちから答えにつながる言葉が引き出せたと思います。
授業者は、「理由をいろいろ調べたんだけれどどうやったと思う」とたずねます。子どもたちはすかさず「インターネット」と答えます。「インターネットではなかなか見つからなかったので、直接エコタウンンに電話して聞いたんだ」と伝えて、電話で聞いた話を資料として配ります。これには感心しました。インターネットは万能でないことや、直接話を聞くことの大切さを子どもたちに自然な形で教えています。情報教育で大切なのはこういうことではないでしょうか。

資料で大切だと思うところに線を引かせます。
エコタウンにある事業所は大企業の子会社や大企業と提携している会社である。今は法律でリサイクルが義務付けられているので、ごみ処理にもお金がかかる。それならば、発生した廃棄物を自分たちの企業のグループで処理した方がお金もかからないし処理した資源を再利用することができる。企業イメージも高めることができる。「物作り」から「リサイクル」まで行う、「持続可能な社会」を目指している。
また、再生紙を使わないと日本の紙の自給率が下がることにつながる。企業も努力するので、嫌わずに使ってほしい。
こういった内容です。

子どもたちは、「持続可能な社会」「自給率」「お金がかからない」といったことに線を引きます。子どもたちはしっかりと資料のポイントを押さえていました。授業者は「自給率」という言葉が出た時に「聞いたことあるね。いつ勉強した?」と問いかけます。過去の学習とつなげることはとても大切なことです。この授業者の基本がしっかりしていることがよくわかる一言です。
しかし、北九州エコタウンの事業所が増えている理由、またなぜ北九州かということの答は明確になっていません。地理の授業ではなく、公民の授業になっていたように思います。
授業は最後に感想を書かせて終わりました。一緒に参加していた指導員の方も指摘していましたが、ここは感想ではなく、学んだこと、わかったことといった向上的な変容を意識したことを書かせたいところでした。子どもたちは最後まで全員が集中力を切らさない素晴らしい姿を見せてくれました。指導員の方も子どもたちの姿をほめていました。この学級が特によい学級なのかと聞かれました。残念ながらすべての授業がそうであるとは言えませんが、この学校では、子どもたちがこのような集中を見せることは珍しくないことを伝えました。

検討会は、社会科の教員と教科指導員と特別に参加された他の学校の先生と私で行いました。子どもたちが真剣に取り組んでくれたので、授業技術に関することにはほとんど触れず、純粋に教科の内容について話し合うことができました。
教科指導員の方は事前にエコタウンのことを調べて、北九州は最初にできた4つエコタウンの1つで、取り組みが一番多岐にわたっていることを教えてくださいました。教科書が九州地方でエコタウンを扱った理由がわかります。これに限らず、とてもよい気づきをされていて、私も参考になることがたくさんありました。
この指導案をつくるにあたって社会科の教員すべてがかかわっています。チームワークのよさを感じます。自分たちがかかわって作った指導案での授業ですから、真剣に参加してくれます。この授業を通じてとても多くの学びがあったことと思います。
地理の授業として考えると、「持続可能な社会」についてはもう少し早く押さえた上で、どうして北九州エコタウンの事業所が増えているのかを考えた方が、焦点化しやすかったと思います。
再生紙の話から、「高くて質が悪いのにどうして再生紙をつくるの?」と質問し、資源の問題、自給率の問題などに目を向けさせ、「持続可能な社会」を目指す必要性を共有します。その上で、「だけど企業はもうからないとやっていけない。なのに、どうして事業所が増えているのか?」と問いかけるのです。資料としては、エコタウンの企業がどういう企業であるかを示すものを用意するとよいでしょう。こうすることで、「物作り」から「リサイクル」まで効率的に行うことでコスト面の問題をクリアしようとしていることに気づけると思います。その上で、北九州ではどのような業種の企業が多いのかと考えることで、北九州につくられた理由に気づかせるのです。

課題を考えるためには足場となる知識や情報が必要です。それをあらかじめ与えておくという方法もあります。また、子どもから出てくる可能性があるのなら、それを早い段階で引き出して、全員で共有して足場をそろえ、その上でもう一度考えさせる方法があります。教材研究では、子どもたちに考えさせるために必要な足場が何かをしっかり考えてほしいと思います。その上で、どう足場をつくるのかを考えると授業の流れが見えてきます。
私からは、このような話をさせていただきました。

教師も子どもたちも双方のレベルが高い授業だからこそ、とてもよい学びができたのだと思います。この先生の授業を久しぶりにじっくり見ましたが、目に見えて成長していました。個々の努力とチームワークでこの学校の社会科の先生方は大きく伸びていくと思います。
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