面白い気づきの合った研修

先日は、市の授業力向上研修会で講師を務めました。同じ内容の2回の研修の2回目です。

最初の私からのお話は基本的に前回(市主催の授業力向上研修会参照)と同じなのですが、今回は代々木ゼミの規模縮小、リストラを話題にしました。個別指導に押されたことがその衰退の理由の一つであることから、学校における個別指導について話をしました。授業中に個別指導をすることがよくありますが、これに時間を取られると他の子どもは放っておかれることになります。できるだけ時間をかけないようにすることが必要です。小規模校でよくあることですが、個別指導に頼ると、教師が教えてくれることを待つようにもなってしまいます。また、特定の子どもをいつも教師が個別指導していると、他の子どもはその子は教師が面倒を見るから自分たちはかかわらなくてもいいと思うようになります。わからない子どもが友だちに「教えて」と言えるような関係をつくることを大切にし、子ども同士のかかわり合いを意識した授業展開を考えてほしいと思います。

今回の模擬授業は、小学校の国語と算数、中学校の道徳の3つで、それぞれのグループで検討します。グループごとに話し合いの視点が授業の進め方やめあてをどう考えるかであったり、子どもの言葉をどう引き出すかであったりといろいろでした。授業を考える視点はいろいろあることを感じます。

国語の模擬授業は「大造じいさんとガン」で大造じいさんが銃をおろす場面での気持ちを考える時間の導入でした。ここでは、前時の大造じいさんの気持ちを確認して、本時の課題に移るという展開です。この日の授業のめあては、「大造じいさんの気持ちを読み取ろう」です。単元を通じて同じであることは悪いことではないのですが、この時間のめあてがシャープになることが大切だと思います。大造じいさんの気持ちの「変化」を本文の「○○」に注目して読み取ろうというように、「変化」という言葉を足すことで前の場面を意識させたり、「○○」に注目してと視点を示すことで、読み取り方を身につけさせたりすることができます。○○の中は教師が言葉を入れてもいいですが、子どもに入れさせる発想もあります。子どもに意見を言わせた後に、「あなたは○○に何を入れた?」と聞くことで、読み取りの視点を意識させることができます。
授業者は、前の場面での大造じいさんの気持ちを発表させるのですが、一つ意見が出た後「別の言葉で」と返します。授業者は他の答を期待したのですが、今出た答を言い換えるとも受け取れます。戸惑う子ども役もいました。教師の思った通りに伝わるとは限らない例です。子どもにどう受け取られるかを意識することが大切です。

算数は、速さの導入場面でした。世界で一番速い人はだれかということで「ボルト」を引き出しました。100m走9秒58の記録を出して、小学校の教師の最速と比較します。しかし、「速さ」という日常用語を押さえていないので、この後定義する算数用語の「速さ」との違いを対比できません。日常用語の「速さ」について掘り起こしておく必要があるように思います。2人の子どもの50m走の記録を伝えて、表で示します。表には道のり、時間とあります。道のりという算数用語の確認もしておきたいところです。この時間はかかった時間であることも一言確認するとよいでしょう。どちらが速いかを確認した後、もう1人の子どもの記録を提示します。40mでの記録です。ここで、誰が1番速いかを考えるという課題が提示されます。意識してほしいのは、ここで扱われているのは平均の速さだということです。同じペースで走ることが前提としてあるのです。このことを押さえることで、割合の発想につなげることができます。速さは単位時間を基準とした進む距離の割合(比の値)と気づかせることで、他の教材とのつながりが見えてくるのです。
単位あたりの量という共通点を意識するのなら、100gあたりの砂糖の値段の表を提示して、どちらの砂糖が安いかというような問題をやっておいても面白いかもしれません。速さの定義や意味に気づいてくれると思います。
算数では日常的に使う言葉が用語として出てきます。用語を実感させることとその明確な定義を意識した授業を組み立てる必要があります。日常の言葉と算数用語を自在に行き来できるようにしたいものです。

道徳の授業は、「親切のできなかった日」という読み物資料を使ったものでした。主人公が、松葉づえを使っている人が、戸を開けられなくて困っているのを見て開けてあげようと思います。しかし、「いい子ぶるんじゃない」という最近まわりで飛び交っている言葉が思い出されて、結局何もしなかったことを、後から振り返って考えるというものです。
授業者は最初に電車の中に子どもたちがいるという設定で、自分が年寄りのまねをして車内に入っていきます。よぼよぼして、誰かが席を譲るのを待っています。一人が気づいてくれたところで、この場面を終わりました。授業者の意図に気づけなかった子ども役もいるでしょうが、せっかくですので、席を譲れなかった子ども役を何人か指名して、理由を聞きたかったところです。そのあとでこの資料に触れるとより考えが深まるのではないかと思います。
授業者は、子どもに指名して、資料の親切のできなかったところまでを読ませます。これ以上読ませると資料に書かれている主人公の考えに引きずられるので、よい進め方です。聞いている子ども役には、今読んでいるところ指で追うように指示します。読ませている間、机間指導をしながら子どもたちの様子を見ています。しかし、ここでは読んでいるかどうかしかわかりません。授業者はワークシートを使って、松葉づえのひとを見た瞬間の主人公の気持ちを考えさせます。こういった資料の読み取りに時間を使うことは道徳では避けたいところです。教師が解説をしながら範読をして、できるだけ早く資料の内容を子どもたちの中に落とし込みたいところです。私流の範読をして見せることにしました。途中で止めながら、「目を合わせないようにしたんだ。どうしてだろうね?」と子ども役に問いかけ、「そうだよね、目が合えば・・・」とやり取りをします。こうすることで、子どもに主人公の気持ちを理解させるのです。授業者に聞いたところ、子どもたちの様子を見たいので指名して読ませたということです。私の範読を見て、こういうやり方なら子どもの様子も見ることができるのでいいと言ってくれました。参考になったようでうれしく思いました。
この授業者は、子どもを見ることをとても意識していました。それは、模擬授業中の視線でもよくわかります。この方は実は体育教師でした。体育は子どもたちが広がって活動をするので、よく見ていないと事故が起こります。子どもたちを見ることが体に染みつくのです。

最後に、全員にこの日の研修の感想を聞きました。驚いたのが、予定外の話だった個別指導に関する話が印象に残ったという言葉がたくさん出てきたことです。先生方の中で個別指導はよい指導法だという刷り込みがあったということでしょうか。私にとっても面白い気づきの合った研修でした。
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