研修の模擬授業を楽しむ

市の教員研修の1講座を担当しました。模擬授業と講演という形で何年も企画させていただいています。例年は知り合いの先生に授業者をお願いしているのですが、今年度は学び合いをテーマにすることになったことや、運営上の問題もあって私自身が授業者になることにしました。ここ数年初任者の必修講座になっているので、子ども役はその方たちにお願いすることになりました。その他にも20名ほどの希望参加がありましたので、その方たちには模擬授業中は子ども役の観察をお願いしました。
今回の講座の進行担当者は、学生時代から私がよく知っている若手の先生です。学び合いを進めている、これも古くからの知り合いの校長の学校に今年異動になったそうです。今年度のテーマを考えるにあたって、自身の課題として学び合いについて知りたいというリクエストあったので、このテーマになりました。

模擬授業をプロデュースすることはたくさんあるのですが、自身で授業を行なうことは本当に久しぶりです。授業の1シーンに限定するとはいえ、ちょっとしたプレッシャーです。日ごろお願いしている先生方にこんなプレッシャーを与えているのだと、申し訳ない気持ちにもなります。
用意した授業は2本です。算数の入試問題と社会科の地理の資料から考える場面です。

算数の授業は、中学入試の問題を1問用意して、全員に考えてもらいました。入試で満点を取ろうと思うと、この問題にかけられる時間はわずか2分です。先生方なら、最初は戸惑っても少し時間を与えればすぐに答が出るだろうと考えて選びました。問題は、一部深さの異なる(段差がある)水槽に仕切りをつけて、真ん中の部分に一定の割合で入れます。わかっているのは、真ん中の部分の幅とそれぞれの深さだけです。真ん中の部分の水の深さの変化と経過時間の関係のグラフが与えられていて、仕切られたもう一方の部分の幅を求めるという問題です。

4人グループで先生方に問題に取り組んでもらいます。相談してもよいことを伝えておきましたが、最初は自分で黙々と解こうとします。しかし、どうも手がかりがつかめないようです。どのグループでも、誰かが耐え切れず口火を切って相談が始まります。額を寄せ合いながら意見交換が始まります。しばらくすると、テンションが上がり始めました、どうやら行き詰まってきたようです。直接問題と関係ないことが話題になり始めているように見えます。そこで、いったん作業を止めました。このままだと集中力がなくなってしまうからです。
答はまだ出ていませんから、ここでの対応は迷うことはありません。どのグループも話し合っていましたから、「どんなことを話した?」とたずねます。最初のグループは、図を指さしながら、「最初は水がここにたまって、ここまでくると今度はこちらに水が広がっていって、仕切りまでくると今度はあふれて水がこちらにたまる。こちらが、いっぱいになるとまた水が増えてくる」というように、問題の状況がどのようになるか説明してくれました。問題文は図の容器に一定の割合で水を入れるという説明だけです。それがどのような状況になるのかを具体的に話し合ったわけです。問題把握の第一歩です。全体に納得したかをたずねて、しっかりうなずいてくれたのを確認して、もう一人にもう一度説明してもらいました。自分たちの言葉で確認することが大切です。ここで私が解説をすれば、それが答えにつながるものだ、正解の発想だということになります。そうではなく、自分たちの考えとして共有することが大切です。別の人に再度説明してもらうことで、よりしっかりと理解できます。
次のグループは、グラフについて話し合ったようです。「だんだん増えていって、ここで同じままで、また増えていっている」と説明しながら、グラフが一定のところを強調しました。ここに何かあると思ったようです。これもよい視点です。先ほど同様に確認した後、もう一度説明をしてもらいます。

2つの考えを理解して、何かつながらないかと考えている様子が見て取れます。ここで、もう一度グループに戻しました。ここで一気に答を見つけられるかと思ったのですが、しばらくすると、また動きが鈍くなります。その中で1グループに動きが出てきました。何かに気づいたようです。しばらく待つという判断もあるのですが、他のグループの動きが止まっているので、もう一度止めて全体で進めました。
「何か気づいたようですね。どんなことに気づいたか聞かせてください」とそのグループに発表してもらいました。先ほどのグラフの一定の部分が、仕切りからあふれている時だと気づいたのです。最初の2つの考えがつながったようです。ここでも確認して、再度他の子ども役に説明してもらったのですが、子ども役に動きが出てきました。ペンを持って解こうとしている人が何人もいます。全体で進めることは止めて、すぐにグループに戻しました。互いに説明し合いながらどうやら解けたようです。表情が明るくなったのでわかります。子どもと同じで、とてもうれしそうでした。自分たちで解いたという充実感があったようです。

ここで、一気に答を確認しました。1グループずつ聞きます。自信を持った表情で「32cm」と答えてくれます。「本当、絶対?」とグループの他の子ども役に聞いても、うなずきながら「32cm」と答えます。先ほどよい気づきをしてくれたグループは違う答です。比の計算で、比を逆にとってしまったようです。簡単に修正させることはできますので、ここは「面白いね。違う答えが出てきた」と受け止めて、残りのグループに同じように聞きます。このグループも自信を持って「32cm」と答えてくれました。ここで答を修正するところまでやってもよかったのですが、予定の時間を過ぎていたので、ここで模擬授業はいったん終わりました。答が気になる方もいるようでしたので、簡単に解説をすることにしました。式としては、たった1つで終わる簡単な計算の問題で、問題把握と式の読み取りから必要な情報を選択できればすぐに解けることを伝えました。

もし続けるとすれば、どのように対応したでしょうか。間違っているグループに説明させて、他のグループに指摘させる方法もありますが、正解のグループが自信を持っていたので、彼らに間違いを指摘させるときつい言い方になる可能性があります。正解のグループの一つに説明させ、その上でもう一つの正解のグループにも説明させて、間違えたグループに確認するという流れでいくことになったと思います。間違えたグループに自分で修正させて、どこで間違っていたか発表させ、自分で修正できたことをほめます。もちろん正解のグループも、きちんとみんなに理解してもらえる説明ができたことをほめます。
もし最後までやれば45分フルに使うことになったと思います。初任者の先生方にとってちょうどよいジャンプの課題だったようです。大人だからちょうどよかったので、子どもたちには難しすぎる課題だと思う方もいらっしゃるかもしれません。もちろん普通の学級の子どもたちではこうはいかないと思います。今回は学び合うことはどういうことか体験してもらうための模擬授業なので、この課題を選んだのです。普通の学級の子ども用の課題であればすぐに解けて、学び合いのよさに気づいてもらえないと思ったからです。このこともあって、今回は私が授業者になったのです。

さて、初任者でない参加者の先生方の様子はどうだったでしょうか、実は子ども役を観察するというより、自分が問題を解くことに一生懸命でした。自然にまわりの方と相談しています。学び合いは放っておいても起こるといういい例です。聞き合うことで人間関係ができることは、模擬授業の後で、振り返りのグループ活動を行った時の先生方の様子でよくわかりました。初任者は色々なところで関係を持っているので話し合いがうまくいくのは不思議ではありませんが、他の参加者も非常によい雰囲気で話し合いができていました。自然に関係ができていたからだと思います。

事前に模擬授業のコメントを進行役に頼んでいたのですが、かなりプレッシャーだと言っていました。どのようなコメントが出てくるか、これも秘かな楽しみでした。進行役は、最初に問題の把握とグラフの変化についての意見が出た時、自分なら「やった!」と説明をして、答に導いたと思う。そこで何も説明せずに子ども役に戻し、最後まで自分で説明せずに答を引き出したことがすごい。そんなコメントをしてくれました。すごいかどうかは別にして、私が意識していたことを的確に指摘してくれました。自身が学び合いをどう進めていけばよいか日ごろから悩んでいるからこそ気づけることでしょう。彼の成長がとてもうれしく、また頼もしく思えました。

この模擬授業は、課題が決まった段階でほとんど準備をすることはありません。大切なのは子ども役から出てきたものをどう活かすかということです。出たとこ勝負です。だからこそ、授業で大切なものが何かがよく見えるのではないかと思って選びました。受けの部分です。

次の社会科の模擬授業は、算数とは逆に資料を選んだあと、発問や展開の計画が大切になるものです。この模擬授業と講演については明日の日記で。
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