次回が楽しみになった研修会

一昨日は、市の授業力向上研修会でした。参加者の一人が授業者となって模擬授業を行ない、他の参加者は子ども役です。次回11月に同じ授業者が同じ教材で授業研究を行います。

授業は中学3年生の天体の単元です。教科書に載っていない流星群が教材です。授業者は塾で予習をしてあらかじめ知識をもっている子どもたちを「あれっ」と困らせたいと思っているそうです。そのこともあって、教科書にない内容を扱ったようです。
授業者が授業で目指すものもはっきりしています。既習事項をもとに子もたちが考えることと話し合いに積極的に参加することです。この視点を意識して模擬授業を見ました。

ネットの動画を利用して、既習事項の復習をします。「恒星」「惑星」を確認します。「惑星」の確認で、指名した子ども役が「星のまわりを回る・・・」と説明しました。授業者は受容せずに他の子どもにも聞こうとします。確かに正解ではありませんが、完全な間違いというわけでもありません。できれば本人に修正させたいところです。「なるほど、ほ・しのまわりを回るんだ」と星を強調したり、「ほしって物干し?どんな星?」とぼけたりして星に注目させると、「恒星」のまわりと修正してくれるかもしれません。
「公転」に続いて、地球の速度について確認しますが、子ども役は周期と混乱しました。授業者もそのことを修正しませんでした。用語は正しく使うように意識する必要があります。
太陽のまわりを惑星が自転しながら回っているモデルが動画で示されます。とてもわかりやすいのですが、距離や大きさの比率が実際とは著しく違っています。私が学んだ化学の教師は、原子の大きさに対していかに原子核が小さいかを、「水素原子をヤンキースタジアムまで拡大したとすると、その中心にある原子核は蚤ほどの大きさだ」と教えてくれました。その例えで原子核が相対的にとても小さいことを実感したことを覚えています。原子とは逆に天体はスケールが大きすぎて実感がわきません。子どもが実感できる例えを準備しておくとよいでしょう。
最後に「彗星」について、動画で確認します。彗星が氷や塵でてきていることも押さえます。
既習事項をもとに考えるということは、これらのことを活かすということです。子ども役の先生方は、予備知識がありません。ここで確認したくらいでは使えるようにはなりませんから、主課題ではなかなか考えることができませんでした。実際の授業では、子どもたちに既習事項がどれだけ定着しているかで授業の様子は大きく変わるはずです。11月の授業研究では、そこも注目のポイントです。

「身近な天文現象について考える」と、流れ星の話をします。天文現象と言われてもピンとこない子どもが多いのではないでしょうか。この用語が今までに使われていたのなら、「どんな天文現象があった?」と簡単に確認する。もし、ここで初めて使ったのなら、月の満ち欠けといった、それこそ身近な具体例を挙げながら説明するべきでしょう。
流れ星は理科用語では「流星」であると説明し、流星が光って消えていく様子をビデオで見せて、流星がなぜ光るかを問いかけます。考える時間を20秒ほど与えました。この場面の意味がはっきりしません。既習事項から考えることができる内容ではありません。3年生なので摩擦は学習しているので、摩擦熱を思い浮かべることはできるかもしれませんが、大気圏の知識も必要です。実際には摩擦熱ではなく、大気の分子が圧縮されてプラズマ状態になることで発光するのですが、特別に知識を持っている子ども以外答えられることではありません。ここに時間をかける必要はありません。この知識が必要ならば教えるしかありません。考えようのないことを考えろという活動をすると、そのうち、はなから考えようとしなくなってしまいます。
ここで、授業者は流星が光ることを説明します。猛スピードで大気にぶつかると流星の前にある物質は逃れられなくなって圧縮され、圧縮されると高熱になり、プラズマ状態になって発光するとていねいな説明です。理科的に正しいのですが、子どもたちは物質が逃れなくなるといった感覚や圧縮で熱くなることはピンとこないかもしれません。(危ないのでよくないのですが)車の窓から手を出した経験や自転車の空気入れが熱くなる経験などを例に出したりするとよいかもしれません。問題は、この説明にどれだけ時間をかけるかです。流星が光る理由の細かい説明がこの授業の目標からすると必要なのかどうかです。この日の主課題は流星群が毎年同じ時期に出現する理由を考えることです。そのために必要な知識は、流星の正体が氷や塵であることです。光る理由を正しく説明したい気持ちはわかりますが、主課題にかける時間とのバランスを考える必要があります。

ふたご座流星群の毎年の出現の時期を提示します。気づいたことを聞きますが2人しか手が挙がりません。なぜ手が挙がらないか聞いてみました。毎年微妙に日がずれていて、その規則が見つからないというのです。数学で規則性を見つける時は、そういうずれはあってはいけません。その感覚が授業者の期待した「毎年同じ時期」という答にたどり着かせなかったのです。授業者は、「理科はザックリ」という言葉を使いました。面白い言葉だと思います。こういう言葉をキーワードとして、いつも意識するようにするとよいでしょう。「理科でデータを見る時は?」「ザックリ」といったやり取りをすることで、理科の視点が身につくと思います。

流星群が毎年同じ時期に出現する理由をグループで考えさせます。最初は個人で考えているので、静かな状態です。個人で考えても手がつかないので、自然に聞き合いが始まります。頭を寄せ合って落ち着いて話し合っています。ところが、途中で急にテンションが上がります。手がかりがないので行き詰まり、集中力が切れて無責任な意見が出てきたり、雑談が始まったりしたのです。どこかのグループのテンションが上がると、伝染していきます。子ども役に聞くと、手がかりとなるものがどこにもないので困ったということです。最初に復習した既習事項を、考えるための材料としてどこかに残しておく必要があったかもしれません。
手がかりとなる考え方を与えて見通しを持たせることも必要です。ここでは、似たような現象を考えるという科学的な見方・考え方を使うとよいと思います。こういう科学的な発想を理科の授業を通じて常に意識させることが大切です。具体的には、「毎年同じ時期に起こる天文現象にどんなものがあるか」と問いかけるのです。天文現象という用語を使ったことがこの発問に活きてきます。「夏至・冬至」「春分・秋分」といった毎年同じ時期で微妙に違う日に起こる天文現象に気づけば、公転と関係ありそうだと見通しを持てるはずです(中学理科のカリキュラムではこの後で学習するのですが、小学校での知識があれば出てくるのではないかと思います)。

授業者は考える手がかりにと、ボールと小さな緩衝材を用意して、地球と塵に見立てて説明した後、子どもたちにも渡しました。しかし、子ども役の先生方からはどう使うのかわからなかったという声が聞こえてきました。地球(ボール)を固定して塵(緩衝材)が落ちてくるように見せて説明すると、塵の方からやってくるというイメージです。逆に塵を固定して地球をそこに移動させると、地球が塵のあるところにやってくるというイメージになり、公転と結びつきやすくなります。それでは、ヒントとして露骨だというのであれば、両方を移動させてぶつけるという発想もあります。いずれにしても、見せ方を工夫することが大切です。

グループごとに発表をします。最初のグループは、「流星スポットがあって、毎年地球がそこに来ると、彗星がそこを通って彗星の塵や氷が流星群になる」という説明です。次のグループの説明は、「前のグループと同じようですが」と前置きをして、「流星のもとがある流星ゾーンがあって、毎年地球がそこを通って流星群になる」というものです。ここで授業者は次のグループの発表に移ろうとしたのですが、ここは2つの意見を比べたいところです。「同じようと言ってくれたけれど、どこが同じ」「じゃあ、違うところはどこ」と対比させると、最初のグループは流星のもとになるものがどこ(彗星)から来たのかも説明していることに気づくと思います。形式的に次々進めると、こういったことを見逃してしまうかもしれません。最初のグループは、既習事項である彗星が氷と塵でできていたことを流星とつなげたのです。「彗星がここを通るってどういうこと」とたずねることで、このことを引き出すことができると思います。「なるほどと思った人?」「どう納得する?」と子どもたちに問いかけることで、子どもたちこの考えを評価させるとよいでしょう。

授業者は完璧な説明が子どもたちから出ることは期待していませんでした。この後の学習へのつながりとして、公転との関連に気づいてくれればよいと考えていたようです。
最後に、流星群の説明の動画を見せて終わりました。そこでは、ふたご座流星群のもとになった彗星が33年周期という説明がありました。先ほどの彗星との関連に気づいたグループの先生が、その説明を聞いて、流星のもとになる物質が太陽のまわりを回らずにそこに留まっているのはなぜかと疑問を持って授業者に聞いたそうです。実際の授業でも子どもたちはそのような疑問を持つかもしれません。どうなるかちょっと楽しみです。

子どもたちが考えるために、既習事項をどのように整理するかということが、課題として浮かび上がってきました。それ以外にも、多くの課題が見つかりました。当然です。教科書にない内容でつくられたものだからです。よくわかっている教材で無難な授業をすることもできます。そこをあえて新しい教材に挑戦したことが素晴らしいと思います。この日の授業の未完成さがとても好ましいものに思えました。未完成だからこそ多くのことが学べたと思います。次回の授業研究と合わせて、授業をつくっていくとはどういうことかを全員で経験することができると思います。私も含め、参加者全員が次回の研修を待ち遠しく思っていることでしょう。よい学びの機会が持てることに感謝です。
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