私学での模擬授業による研修第2日目

私学の中高等学校での夏季研修の2日目です。この日は国語の模擬授業を行ないました。前日に続いて連続で参加してくださった方が何人かいました。また、1日目に参加して面白かったからと予定していなかった方に声をかけてくださる方がいて、飛び入りの参加もありました。ありがたいことです。

授業者は若手の先生で、自身の授業改善に積極的な方です。この日は、1学期の終わりから挑戦している、グループを使った現代文の授業です。題材は村上春樹の「鏡」でした。事前に本文を読む時間のなかった方もいるので、朗読をCDで聞いてもらいました。この様子がとても面白いものでした。最初からなかなか集中できない方、途中で何度か集中が切れながらも最後は集中していた方、集中力が切れると手遊びするのですぐにわかる方といろいろです。もちろん最初から最後まで集中力の切れない方もいます。朗読の終了後、何人かにその行動について聞いてみました。無意識の方もあれば、朗読のペースが遅すぎて自分で先に読んでしまってと詳細に説明できる方とこれもいろいろです。注意してほしいのが、集中力は切れたり戻ったりすることです。子どもの集中力が切れたからといってすぐに注意をするのはちょっと待ってください。戻るのか、切れたままなのかよく観察して、子ども自身で集中力を取り戻せるかどうか見極める必要があります。子どもを見守る姿勢を大切にしてほしいと思います。

用意したワークシートに従って授業が進みます。グループでいくつかの問について考えるのがこの日の活動ですが、「聞き合うこと」「答はグループで1つにする必要はない」といったグループ活動のルールを示します。また、答えるにあたって必ず本文に根拠を求めることを授業中に何度も確認しました。子どもたちにこういったことを徹底させることを現在意識しているのでしょう。
最初の問は、「主人公の年齢はいくつ(くらい)か?」です。年齢などの数を聞くのは、本文を根拠に考えさせるための有効な方法です。どこかでこの問を見つけたのかと聞いたところ、子どもたちに根拠を持って話し合わせるためにどうすればいいかといろいろ考えた結果、この問にいたったということでした。おそらく、何度かグループ活動をして話し合いが成立しない経験をしたのでしょう。ずいぶん悩み、考えたのではないかと思います。
授業者は、子どもたちに取り組ませる前に2つの根拠から年齢を求めることができると説明しました。こういう説明をすると、子どもたちは教師の考える答探しをしてしまいます。「できるだけたくさんの根拠を見つけて」といった指示がよいでしょう。

授業者は一つひとつの活動の区切りをしっかりつけます。全員の顔が上がるのをちゃんと確認してから次の活動に移ります。以前この授業者にアドバイスしたことを忠実に守っています。この素直さが伸びるための大切な要素です。
年齢とその根拠を発表させますが、根拠となる本文の場所が示されるとすぐに、「そうだね」と教師が正解かどうかを判断してしまいます。ここは、同じところを根拠にした人を確認し、もしそうでない人がいたら「納得した?」「なるほどと思った?」と納得したかを聞くとよいでしょう。あくまでも根拠を客観的に判断して、子ども自身が納得することが大切です。

最後の問は、主人公の性格について述べた文がいくつか用意されていて、本文から素直に考えて正しければ○、正しくなければ×をつけるという問題です。ここで授業を止めて、「素直に考えるとはどういうことかわかりますか?」と子ども役に聞いてみました。やはり、よくわからないという方がほとんどです。「素直」は国語の用語ではありません。そこから伝わるものは人によって異なります。こういう場合は、全体で問題を1つ解いてみることで、具体化されわかりやすくなります。
授業者がグループ活動を途中で止めて、困っているグループにどこで困っているかをたずねました。最後の文がどちらとも言えなくて困っていると答えます。そこで授業者は「いいことに気づいた」とほめて、この問題はどちらとも言えない不適切なものだと説明します。他の文が終わったら、最後の文がどちらとも言えない理由を考えるようにと指示して、もう一度グループに戻しました。
新たな課題が出てきたのに、他の問題をやってからというのはせっかく興味を持った子どものやる気を損ねます。課題が焦点化されたのですから、すぐに取り組むべきでしょう。ここは、他の文の確認をしてから、最後の文にじっくり取り組むべきです。困っているグループだけでなく、結論が出たグループもあるかもしれません。それぞれの意見を一度聞いた上で、もう一度グループに戻すことで考えが深まります。

授業の流れとは直接関係ありませんが、どちらとも言えないというのは×ではないかという意見がありました。試験の解答ルールは○でないものは、×というのです。確かにその通りです。試験では、×の意味は間違いではなく、正しいと言えないなのです。○、×で表現したために起こった問題です。授業者の意図に合わせるのであれば、「正しい」「間違い」という言葉を使った方がよかったでしょう。

この日も、参加者の皆さんは、子どもの立場で授業を受けることで多くのことに気づいてくれたようです。特にグループ活動に関しては、相談することで安心できるといった感想を聞くことができました。よい経験になったようです。
授業者の授業の進め方や細かい授業技術はまだこれからのところがありますが、だからこそ、参加者にとって学ぶことが多かったのだと思います。
この日も3時間を越す研修となってしまいましたが、皆さん笑顔で集中して参加してくださいました。この2日間の研修でこの学校の授業がよい方向に変わっていく確信が持てたように思います。2学期からの授業を見せていただくのがとても楽しみになりました。
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