私学での模擬授業による研修第1日目

一昨日は、私学の中高等学校で夏季研修を行ってきました。2日間の開催で、先生方にはできるだけどちらかに出るようにお願いしました。1日目のこの日は英語の模擬授業を行なっていただき、私が解説するという形式です。

授業者は中堅の先生で、この学校で”Active Learning”を積極的に取り入れようとしている方です。参加者全員が子ども役です。この学校では、模擬授業形式の研修は初めてです。最初にこの研修のねらいを私から話させていただきました。「子ども役を通じて子どもの視点を意識する」「具体的な場面で教師、子どもの行動から授業のポイント考える」「自分の授業に活かす視点見つける」といったことです。

教室は最初からグループの形になっていて、机の上にはiPadと紙の辞書が1つずつ置かれていました。授業は”All English”で進みます。子ども役の先生方は真剣に聞こうとします。実は授業者も”All English”の授業は初めてです。この他にも日ごろの授業でやったことのないことにいろいろと挑戦しています。2学期の授業に活かそうと、模擬授業で試しているのです。同僚の前で授業するのですから、あまり冒険はしないという方も多いのですが、この姿勢は素晴らしいと思いました。
”All English”ですから、聞き取れない子どもも出てくるはずです。そこを補うために視覚を意識しています。パワーポイントで絵や、言葉を表示します。ICTを使うことで、時間が節約でき、授業のリズムを崩しません。
女の子が弓道をしている絵を見せて、何をしているか問いかけます。弓道の英単語を知らなければ、答えることはできません。一人の子ども役がすぐに辞書に手を伸ばしました。授業者が辞書を引いてもいいことを伝えたのはその後です。単語は知識です、知らなければ何ともなりません。自分で調べる習慣つけることが大切です。その意味では、授業者が言う前に辞書を引こうとしたことをほめるとよかったところです。指示されなくてもよい行動をすることを評価することで、自主性が育ってきます。
“Japanese archery” ”kyuudou”と子ども役が答えてくれます。今度は、その単語をもとに何をしているかという文をつくります。”play” ”do” ”practice”といった動詞の候補がでてきます。ここで、授業者は自分の望む答が出ると、すぐにほめて全体に共有しようとします。そうではなく、一つひとつを受容しながら子どもたちに判断させることも必要です。どれでもいい時には、今日はこれを使ってみようと言って先に進めばいいのです。
この絵の女の子が毎朝練習をしていることを伝えて、”She is diligent.” ”She is a hard worker.” “She is …….”と言葉を続けます。わからない子どももいるので、絵の横に単語と日本語の意味を同時に表示します。これでは、すぐに日本語に頼ってしまいます。そうでなく、何回か聞かせた後、授業者の発音に合わせてまず英単語だけ示して、どんな言葉を使っているのかを認識させる。そして何回か発音練習をさせてから、日本語の意味を表示するというように、場面を分けて、示すタイミングを意識するとよいでしょう。
いくつかの長所、美点を表わす言葉を表示した後、子ども役からこれらが”good points”であることを引き出させようとしますが、なかなか答えが出てきません。何を答えていいのかわからないからです。ここはそれほどこだわるべき場面ではありませんから、”These are her bad points?”というように問いかけて、”good points”を子どもから引き出すといった方法を取るとよいでしょう。

続いて、”good points”を表現する単語をできるだけたくさん見つけるように指示を出して、グループ活動させます。「できるだけたくさん」と助け合う必然性のある目標を与えます。”humor”か”humorous”か悩んでいるグループがあります。まず日本語をたくさん出してから調べようとして時間が足りなくなっているグループもあります。どのように対応するかが問題です。発表の場面で「困ったことはない」と聞いて、”humor”の問題を共有し、「どちらがいいのかわからないね」と、英和辞書やインターネットを使ってそれぞれの単語を調べさせます。用例まで読めば、結論は出てきます。辞書を使って判断する経験をすることで、学習の方法がわかってきます。最初のうちは少し時間がかかりますが、学習の手段を身につけさせることが大切になります。日本語をたくさんだすことから始めたグループには、「みんなにも助けてもらおう」と調べられなかった言葉を発表させて、他のグループに教えてもらいます。どのグループも調べていない言葉だったら、「どのグループも調べてない言葉だね。いいね。みんな調べてみて」とその場で全員に調べさせればいいのです。

調べた単語を使って、自分の長所を文にします。話型を使って長所を示す単語を入れて、その理由を英語で書きます。力のない子どもでも、単語入れるところまではできます。そこまででもいいと2段階の目標をつくることで苦しい子どもも参加させやすくなります。よい目標の示し方です。続いて自分のペアの長所を同じように文にします。それをもとに、ペアでの会話練習です。Aが自分の長所を言う、BがAの長所を言う、Aがそれに対して感想を言う。1往復半の会話です。ポイントとして、相手の顔を見ること、ワークシートを見ないことなどを示します。それぞれには”Buddy(相棒)”がいます。自分の”Buddy”が困った時に言葉を教えてくれたり、ペアが言ってくれた長所を自分に代わってメモしてくれたり。会話する時よりも”Buddy”の仕事の方が大変です。自分が友だちの役に立つことで頑張らせるのです。先生方も”Buddy”役は特に真剣な表情です。

この課題は、互いの長所や美点を言い合い、助け合う活動なので、子どもに自己有用感を与え人間関係をよくすることも期待できます。英語は、こういった人間関係づくりの要素を取り入れやすい教科でもあることがよくわかります。

休みなしで3時間を超える研修になりましたが、先生方の集中力は全く落ちません。感心しました。先生方が熱心なこともありますが、この模擬授業では子ども役の活動量がとても多いことがその大きな要因です。先生方が笑顔で一生懸命課題に取り組んでいる姿が印象的でした。先生方の人間関係もよいのでしょう。
最後に、一言ずつ感想を言っていただきました。それぞれの視点でこの研修から学ばれていることがよくわかります。自分の授業に活かそうとする言葉がたくさん聞けたのは、とてもうれしいことでした。授業者が積極的にいろいろなことに挑戦してくれたことで、私を含め参加者全員にとって学びの多い研修となりました。感謝です。
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