市主催の授業力向上研修会

先週末は、市の授業力向上研修会で講師を務めました。同じ内容で2回行いますが、その第1回目です。

最初に、「全員が参加できる学級を目指して」というテーマで、学級づくりと授業の基本についてお話しさせていただきました。子どもたちが安心して暮らせる学級をつくることが一番の基本です。そのためには、学級のルールが守られていることが大切になります。学習規律、授業規律の徹底です。また、間違えても、失敗しても恥ずかしくない雰囲気づくりも大切です。目指す姿を明確にし、「できないこと、できない子どもを減らす」のではなく、「できること、できる子どもを増やす」発想でほめることを意識するようお願いしました。
参加者同士でいくつかの課題について考えてもらいましたが、いろいろな考えを聞き合うことができました。先生方の人間関係がよいことが印象的でした。このことは、次の活動でも強く感じました。

午後から4人の方に模擬授業をしていただくのですが、事前にその授業の検討をそれぞれのグループで行っていただきます。どのグループも積極的に話し合っています。代表の授業をよいものにしようというだけでなく、自分も学ぼうという姿勢を強く感じます。私が、ちょっとしたアドバイスをしても、授業者以外の方が自分のことのように聞いてくれることからもよくわかります。

模擬授業は、時間の関係もあり、それぞれ冒頭部分に絞って行いました。今回、偶然にも小学校の授業はすべて算数でした。
1年生の引き算の授業は、12−7の計算の仕方を考えるものでした。
最初に13は10と3というように、2桁の数の分解を復習します。既習事項ですからテンポよく進めたいところです。午前の話し合いで復習することにしたのでフラッシュカード等の準備ができませんでしたが、授業者はテンポアップを意識していました。
12個のパンから7個取った残りを求める問題です。授業者は12個の磁石を使って、7人の子どもたちに1個ずつ取らせます。この操作で、引き算であること、答が5であることがわかります。とすると、計算の仕方を考える必然性が無くなります。ここは、取るという操作だけをクローズアップして早く式を導き出し、一度抽象化した式の計算の仕方を考えることに力点を置く必要があります。
12個から7個取るという操作をだけを繰り返して見せながら、「12から7を取った残りは?」「12−7」とまず式を確認することをします。続いて、「12−7の計算の仕方を考えよう。計算の仕方を考えるのに、どんなものを使ったかな?」「計算の仕方を考えるのに、何を使うといいかな?」と過去の学習とつなげることを意識してブロックを導入するとよいでしょう。
授業者は、12は10と2と分解させてブロックを提示しました。ここで「昨日は何をやった」と質問し、10から引くことを子ども役から引き出します。こういう展開をすると、子どもはいつも10から引こうとするようになります。「10と2から7を引く」「どちらから引こう」「2から引けない」「10から引く」という論理の流れを押さえる必要があります。「2から引けない」「10から引く」この部分を何度も繰り返して言わせて確認するとよいでしょう。
10から7を引いて3とした後、2つのブロックのかたまりを指して「3」、「2」と言わせ、5と答を出しました。ここは、「『残り』は3『と』2」と「残り」を強調して引き算であること押さえながら、「と」と一言入れることで、引き算だけれど答は3と2を「足した」5になることを子どもに明確に意識させたいところでした。授業者は「3、2で」と順番に聞いて、答が5となることを確認します。一人「5個」と答えた子ども役がいましたが、そのまま次を指名しました。抽象的な数の5とブロックの数が5個あることが混乱しています。「5個?」と聞きなおしてもいいですが、「何が5個?」と問い返したり、「ブロックは5個だね。じゃあ12−7は?」と発言者の答を認めた上で、12−7の答を求めていることを確認したりするとよかったと思います。

3年生の算数の授業は、長さの補助単位kmの導入場面でした。
この単元では、時間と長さを扱います。何分何秒、何km何mという表わし方の考えが共通しているからです。このことを検討の時に話し合っていたので、時間の復習から始めることにしたようです。70秒が1分10秒になることを復習します。復習なので理由をあまりていねいに押さえませんでしたが、この日の授業で必要になる考え方は明確にしておく必要があります。「70秒と1分10秒は同じ時間?」「本当?」「絶対?」と子どもに迫ったりして、その理由を説明させます。「1分は60秒だから」「1分10秒は1分『と』10秒だから」といった言葉を子どもたちから引き出します。先ほどと同じく「と」にこだわることでこの表わし方の意味を明確にするのです。この授業者は午前中に私が話した授業技術を意識して使おうとしてくれました。うなずいたり、なるほどと認めたり、つなごうとしたり、まだまだぎごちないのですがその素直さがとても素晴らしいと思いました。きっと、大きく伸びてくれることと思います。

6年生の算数は、比例の導入部分でした。
ビーカーに水を入れている図を見せて、気づいたことを発表させます。資料から読み取る訓練としては悪くないのですが、この授業のねらいと照らし合わせると「?」がつきます。続いて時間が経過した図を見せて、時間と共に水の量が増えていることを確認します。
ここでは、時間と水の量の関係を演繹的に求めるのではありません。その関係を先に与えて、性質を確認する活動をするのです。何を調べているのかを素早く把握させるだけで十分だったと思います。
次に授業者は表を貼って、時間の欄を埋め、水の深さを途中まで埋めて止めます。2つの変量の関係で気づいたことをもとに、空欄を埋めさせようという流れです。気持ちはわかるのですが、これは数学的には根拠のない展開です。ここでは気づいた性質が必ず成り立つ保証がないからです。演繹的であれば、式を根拠にできます。しかし、単に途中までの値がわかっているだけでは、予想にすぎないのです。教科書では、表の空欄を埋める問題は、式や関係が明確な場合に限ります。例えば、紙の重さと厚さの関係を扱うのであれば、必ず2つの量が比例の関係にあるとあらかじめことわっているはずです。
また、ここでは、比例の関数的な性質、一方が2倍、3倍となると他方もそれに伴って2倍、3倍になることを押さえたいのですが、この視点はなかなか出てきません。指導書は、最初に自由に考察させるとなっていますが、「表を縦に見て、一定倍になっている」「表を横に見て同じだけ増えている」といったことしか出てきません。後者は1次関数の性質で、比例だけを特徴づけるものではありません。横に何倍という発想は過去にそういう視点で見る経験をしていなければでてこない、かなり特殊なものと言えます。指導書は自由に考察させてこの発想が出てくるように書いてありますが、かなり無理があります。教科書は、完成した表を与えて、時間が2倍、3倍、・・・になったとき水の深さがどうなるかを調べるとなっています。この発想が出にくいことをわかっているのだと思います。
もし子どもたちに気づかせたければ、そのための発問を用意しておく必要があります。「縦に見ると2倍になっている」といった発言に対して、「縦に見たんだ。2倍になっているんだね」「横ではどうかな?」「横で2倍になっているところはある?」というように切り返すと、気づく子どもが出てくるかもしれません。
授業者は、自分なりの工夫や準備をしっかりして臨んでくれました。だからこそ、授業のポイントが明確になるのです。おかげで、私自身もこの教材に対していろいろと気づき学ぶことができました。感謝です。

最後の授業は、中学校の学級活動の授業でした。体育大会で何を目指すか決めることを題材にして合意形成プロセスを体験するものです。エンカウンターや人間関係づくりを意識した授業です。
授業者は、「答えて」でなく「聞かせてくれる?」とIメッセージが自然に出てきます。子どもの発言に余計な言葉を足さずに、必ず同じ考えの人をつなぐようにしています。授業者のしゃべる量が少ないことに感心しました。授業者は、市全体で学び合いに取り組んでいる地区の中心的な学校で講師をしていた経験があるそうです。その学校は人間関係づくりのプログラムも自分たちでつくっています。そこでの経験をいかした授業でした。
子ども役は、「勝利」を目指す意見に対して、「団結」すれば「勝利」につながるというように、友だちの意見に対して、自分の考えを上手につないで発表してくれます。子どもたちにこうなってほしいと思う姿です。実際の授業でもこういった発言でてくれば、自然に自分の考えの主張の仕方を学んでくれると思います。
この地区では教育長が学び合い進めようとしていますが、スタートできるまでにまだ時間がかかりそうです。こういった授業が行われていくことで少しずつ理解が深まっていくのだと思います。参加者の皆さんにはよい刺激となったのではないかと思います。

最後に、この研修を通じてどんなことに気づいたかを何人かの方に聞きました。それぞれの視点で、これからやってみようと思うことがあったようです。
うれしことに、昨年に引き続き参加してくださった方が2人いました。内容的にはあまり大きく変わっていないので申し訳ないことをしたのですが、それにもかかわらず、よい気づきができたと話してくださいました。一人の方は昨年4年生の担任で、研修の後、子どもに「どう?」と発言を求めるようにしたところ、積極的に発言してくれるようになったそうです。結果、学級の雰囲気がよくなったとのことです。子どもたちは発言したがっていたのだと気づかれたそうです。とてもうれしい話でした。

参加された皆さんは、とてもよい表情で1日を終わられました。きっと得るものがあったのだと思います。授業について話し合ったり、見あったりすることから楽しく学べることを実感していただけたのなら幸いです。毎年のことですが、皆さんの模擬授業から私もたくさんのことを学んでいます。こういう機会をいただけることに感謝です。
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