若手の模擬授業による夏期研修(その2)

昨日の日記の続きです。

2つ目の模擬授業は「ふらっと九州」というタイトルで、地理の九州地方の学習の導入場面でした。タイトルを板書して、子ども役に写させます。その際に机間指導をしました。書いていない子ども役に書くように指示をします。気になる子ども役に対して個別に指導しようという気持ちが感じられます。どうしても、チェックに行ってしまうのです。机間指導をするならチェックするのではなく、よいところをほめてほしいと思います。タイトルを写すだけですから、机間指導まですると時間がムダになってしまいます。よい行動を増やす発想で、全体を見て早い子どもをほめるようにすればいいでしょう。気になる子どもに対して何かしたいのであれば、隣同士で確認するというやり方があります。ここではそれ以上のことを無理にしようとすると、時間ばかりがムダに過ぎます。100%を目指すのですが、気になる子どもに対してかかわりすぎるのも問題です。

九州のイメージについて、子どもたちに考えさせます。行ったことのない人も想像して答えるように指示しました。考える時間を取って挙手をさせたところ、1人しか手が挙がりません。指名したところ「暑い」と答えました。授業者が対応に困ったことが表情からわかります。すぐに言葉が出てきませんでした。授業者としては自然に関することを言ってほしかったのですが、気候についてでてきたので困ってしまったのです。この対応で発言者は外したと感じます。他の子どもは、こういうことは言ってはいけないんだと教師の意図を探り出します。ここは、「なるほど、寒いでなくて暑いイメージなんだ。同じようなイメージの人いる」としっかりと受け止めてあげることが必要です。そうすることで次の挙手が増えるはずです。
次に指名しようとした時も挙手は1人でした。ここで授業を止めて、子ども役にどうして手を挙げなかったのか聞いてみました。「イメージと言われて、何を答えていいかわからない」と発問の曖昧さを指摘する方や「他の子ども役がどんなことを言うか聞いてからにしよう」と空気を読んでいる方もいました。実際の授業でもおそらく子どもたちは同じようなことを考えるでしょう。よい気づきだと思います。どう答えたらいいのかわかる場面、子どもが安心して答えられる雰囲気をつくる必要があります。今回であれば、まわりの人と聞き合わせれば、気楽に考えを言えますし、「ああこんなことを言えばいいのか」と自信を持つことができます。このあとであればかなり挙手が増えるでしょう。「どんなことを話し合った?」と聞けば、答えやすくなります。挙手しない子どもでも指名できます。一人ひとりの発言を肯定的に受け止めれば、子どもたちは次第に挙手してくれるようになるでしょう。

ここで、できない子ども役の先生から、「できない子どもの気持ちになってみたら、九州はどこだろうと思った。そうなるとどうにも参加できない」という意見が出ました。その通りです。先生は子どもたちに知識がある前提で発問をすることがよくあります。当然こんなことは知っていると思って授業を進めると、思わぬところでつまずいてしまいます。授業で最低限必要となる知識をきちんと確認することが大切です。この授業であれば、日本地図で九州はどこか確認してから発問すべきだったでしょう。ICT環境が整っていれば、Google Earthを使って日本全体を見せ、そこから九州にズームインしてもおもしろいかもしれません。衛星写真を見ることで、授業者の意図した自然に視点がいくかもしれません。

授業者は、自然について考えてもらうといった説明するのですが、途中で産業、名産品といった言葉も出てきます。聞いている方は混乱してしまいます。発問や説明は簡潔にして、ブレがないようにする必要があります。
「○○の数」と板書して、九州の県名、学校のある県名と単位のない数が書かれた表を書いて写させます。この数を写すのに意味があるのならいいのですが、そうでなければムダな時間です。手元にある必要があるのなら印刷して配ればいいのです。九州の県は4,000台、2,000台、1,000台と大きな数が並びますが、学校のある県は100台です。地図を資料として渡してグループで考えさせます。地図の記号を見て発電所だという声が上がります。そんなに多いわけないだろうと次第にテンションが上がるグループが出てきます。当然です。答を出すための根拠となるものが何もないのです。地図の上の方に吹き出しで「九州には火山が多く、温泉も・・・」といった記述があるので、そのことに気づいた子どもは温泉地の数とわかるかもしれません。しかし、これでは根拠を持って考えたというより、教師のねらいを想像しただけにすぎません。意味のないグループ活動です。子どもたちが考えるための材料や知識がない活動がどれだけムダかを実感していただけたと思います。
温泉を子どもたちから出させたければ、火山の数や河川の数といったいくつかの県別のデータを与えて、そのデータと表のデータとの相関性から火山に関係があると気づかせるといった活動が必要になります。

先生方が子ども役になりきって授業を受けてくれたので、子どもの気持ちがよくわかったと思います。今回の模擬授業が子どもの視点で授業を見るきっかけになれば幸いです。

最後に先生方からいくつかの質問をいただきました。

「遊びにならないグループ活動にするためのポイント」
子どもたちに「ゴールはどこか」「そのために何をすればいいか」を明確にして活動を行うことが大切です。目標をはっきりさせ、子どもが自分で達成できたと判断できるような具体的な評価規準を与えることです。何をすればいいかという手段は、あらかじめ与えておくか、活動の途中でどのようなアプローチをしているかを進んでいるグループに発表させて共有し、再度グループ活動をさせるとよいでしょう。

「身近な話題を出そうとすると知識の差が大きい」
知識をもとに考えることが大切です。身近な話題でも、考えるための知識はできるだけ早く共有する必要があります。この課題を考えるために必要な知識は何かを明確にして、それを与えるのか調べさせるのかといった共有手段を考えておけば、知識の差はあまり気にする必要はないと思います。

「学力のない子どもをどう授業に参加させるか」
授業に参加できるための基礎的な力が不足しているのであれば、授業中に何とかしようというのはとても難しくなります。教師の負担が大きいのですが、参加できるための力を授業外でつけることを考えることも必要になります。授業後に補充をする。次の単元で必要となる基礎知識をまとめたものを準備して課題として与える。こういう対応が求められます。
また、わかった人と答を聞いたり、知っている人しか答えられないような知識をたずねたりしていては、学力のない子どもは参加できません。「今、○○さんの言ったこともう一度言ってくれる?」「なるほど思った?」、まわりの人と相談させて「どんなことを話し合ったか聞かせてくれる?」といった、聞いていれば参加できるような問いかけをすることも大切です。もし、答えられなかっても、「聞けなかった?もたいなかったね。○○さん、いいことを言ってくれたから、もう一度聞かせてくれるかな」と再度機会を与えたり、「まわりの人助けてくれる?」と友だちに助けてもらって答えさせたりすることで、必ず最後はほめて終わるようにします。その子なりに参加できる場面を意識することが大切です。

半日の研修でしたが、若い先生が積極的に模擬授業に挑戦してくれたのでとても充実したものになりました。2人とも自分なりの工夫をいろいろしてくれたので、授業において大切なものがより明確になったように思います。参加した先生方も、素直に子どもの気持ちになって子ども役をやってくださり、とても明るく楽しい雰囲気で研修を終わることができました。よい学びの機会をいただき、とても感謝しています。ありがとうございました。
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