若手の模擬授業による夏期研修(その1)

昨日は、中学校の夏期研修で講師を務めました。先生方全員が子ども役になって、社会科の若手の講師2人がそれぞれ導入部分の模擬授業を行なってくれました。その模擬授業を止めながら授業技術や授業構成について解説しました。
学力下位と上位の子ども役をそれぞれ2名ずつ決めて、開始です。

最初の授業は、下位の困った子ども役の指導で授業者が苦戦しました。前を向くのを待っているのですが、なかなか向いてくれません。後ろの子ども役が注意をしてくれているのですが、それをうまく活かすことができません。「○○さんが声をかけてくれてよかったね。○○さんありがとう」といった声をかけると、態度が変わったかもしれません。
「今日は何日?」と先ほどの気になる子ども役に質問します。「わからん」と答えました。ここで授業の進行を止めてその理由を確認しました。何の意味があるかわからない質問です。わざわざ自分に質問するということは、意図的なものを感じたのです。授業者は、この子どもでも答えられる質問をして参加させようとしたのですが、子どもから見るとバカにされている、狙い撃ちをされているように感じるのです。
こういった子どもを参加させるためには、復習などの場面でその子どもにあたるような列指名をします。正解が出ても、正解と言わず何人にも聞きます。同じ質問をその子どもにすれば、かなりの確率で答えてくれるはずです。みんなと同じ条件での参加をうながす工夫が必要です。

「全員が先生の目を見るまで話さない」と宣言して、子どもに顔を上げさせようとする場面がありました。この言い方では、命令のように聞こえます。反発する子どもは意地でも前を向かないかもしれません。「大切なことを話すから、先生を見てくれるかな」と軽く指示し、「○○さん、目が合ったね、素早いね、ありがとう」「△△さんも、□□さんも、ありがとう」と声をかけ、よい行動を増やそうとするとよいでしょう。授業者は、子ども役が全員前を向くと話し始めますが、その前に一言もありません。最後の一人に向かって「○○さん、見てくれたね、ありがとう」「みんな待っててくれてありがとう」「○○さん、待っててもらってよかったね」といった言葉がほしいところです。すぐに効果があるとは限りませんが、よい行動を増やす発想が大切だと思います。

朝食に何を食べたかを聞きます。子ども役にていねいに聞いていきますが、このこと自体は考えることでもありません。テンポよくやる必要があります。挙手などさせずに、順番にどんどん指名していけばいいのです。授業の本質に関係ない場面はできるだけテンポアップして、時間をかけない工夫が必要です。
この日のめあてを板書しますが、子ども役の方を振り返りません。子ども役はノートに写したり、板書を見たりとバラバラです。授業者は何も言わなくてもノートに写してほしかったようです。自分の授業では、そういうルールになっていたとしても、子どもの方を見て確認することが必要です。そうすれば、この状況に気づいて書くように指示することもできたはずです。

「○○の秘密」というめあてですが、その中に何が入るかを考えさせます。といっても考えるための手がかかりもありません。こういうことに時間をかけるのはムダです。授業者は納豆のパックの写真をみせてこれが何か子ども役に聞きます。納豆を食べない子どももいます。知らない子どもは答えられません。「これ何か知っている」「納豆」「はい、正解」と簡単に済ませればいいのです。
○の中に納豆と書き込みました。下位の子ども役が「読めん」と声を出します。白と赤のチョークしかなかったので赤で書いたのですが、たしかに赤では読めません。「ごめん、ごめん」と言って書き直します。下位の子どもがこういったことを言ってくれたのであれば、「板書を読もうとしてくれたんだね。ありがとう。書き直すね。読める?」と指摘してくれたことをポジティブにとらえた評価をするとよいでしょう。

「3つの質問を考えてもらいます」と言って「Q1 最近1〜2年の納豆の変化は何でしょう」と板書をして写させます。実は、納豆の「たれ」を袋に入れなくてもいいように工夫していることに気づかせ、その理由を考える展開をしたいのです。とすれば、そこに気づくのに時間をかける意味はありません。できるだけ早く次に移ることを考えるべきです。
授業者は、A4に印刷した、2枚の納豆のパックの中身の写真を見せて変化を聞きます。資料が小さくて見えないと不満の声が上がります。たまたまなのか、いつもなのかはわかりませんが、資料は大きなものを見せる必要があります。また、子ども役から、「どちらが古いの?」というつぶやきがあります。「どっちも新しい」という声も上がります。これは取り上げるべきつぶやきですが、授業者はひろうことができませんでした。今回の資料を見る視点は変化ですが、日ごろから納豆を食べていない子どもには基準となるものがありません。この資料はどちらも最近ものでした。すると以前のものの資料を準備しておくことが必要です。
子ども役の言葉をひろって「いいこと言うね。資料を見る時はそれがいつかを知ることは大事だね」と評価すれば、資料を見る視点を共有することができます。どっちも新しいといった子どもに、どこでわかるか聞けば、すぐに工夫を引き出すことができます。子どもの言葉を活かすことを意識してほしいと思います。

いずれにしても比較の対象を明確にしておけばすぐに出てくることです。ある子ども役の先生が、自分の見つけたことをとても言いたかったと教えてくれました。手を汚れないような工夫をしていることが絶対正解に違ないと思ったからです。しかし、授業者はこの場面ではきちんと指名もせず、なんとなく意見を言わせていました。おそらく自分に都合のいいつぶやきが出るのを待っていたのだと思います。この授業では、この発問に時間をかける必要がありませんが、一般的にはたくさんの子どもが意見を言いたい状況であれば、ペアやまわりと意見の交換をさせることで、かなり満足させることができると思います。
子ども役の先生から、納豆の「変化」では納豆に目がいってしまし、何を答えていいかわからないという指摘もありました。確かにそうです。「納豆をつくる人の工夫」といった表現の方がよかったかもしれません。

ここで時間となりましたが、授業者はこのあとなぜこのような変化があったのかを考えさせる予定でした。授業者は、原油価格が高騰したので材料費を減らそうとしたという理由を出させたかったようですが、視点が明確でないと手を汚さない工夫しか出てこないと思います。以前に商品をつくる側の工夫をやっていたのなら、その時の視点を思い出させる。今回が初めてであれば、「商品をつくる側はどのような工夫をしているかな」といった予備の発問をして、「買ってもらえるようにする」「おいしくする」「簡単に食べられるようにする」「安くする」といった言葉を引き出すとよいでしょう。商品の「質」と「価格」といった視点にまとめてもいいでしょう。もちろん、こういったやり取りをしないで、子どもたちから出た意見を整理する過程で、キーワードとしてまとめるといった方法もあります。この授業であれば、コストカットから原油の高騰にまでつなげたかったので、事前にキーワードを出した方が時間を短縮できるのでよかったと思います。

授業者は、子どもたちの興味関心を引くような授業を意図してくれていました。だからこそ、本質でないところに時間をかけないようにする必要があります。興味を引き付けるためだけに、考えても意味のないことに時間を使っては、肝心のことを考える時間がなくなってしまいます。導入はできるだけコンパクトにするべきなのです。
何を考えさせるのか、そのために必要な知識は何か、その知識は教えるのか調べさせるのか。こういったことを考えて授業を組み立てる必要があります。

もう一つの模擬授業については明日の日記で。
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31