授業を考えるよい材料となった模擬授業

昨日は小学校の現職教育に参加してきました。昨年度若手を中心に授業アドバイスを行った学校です。夏休みなので授業を見ることができませんから、模擬授業を行なっていただきました。教務主任が自ら授業者をかってでてくださいました。

社会科の明治時代の学制に関する授業でした。江戸時代の藩校の絵など興味深い資料を用意して大型ディスプレイを使って全体にわかりやすく提示しました。しかし、授業者のねらいがよくわかりません。資料を見せて気づいたこと話し合わせようとしますが、すぐにヒントを言ったりします。ヒントを言うということは、教師が求める答があるということです。こういうことには気をつける必要があります。また、子どもから期待した答が出てくると、すぐその後を引き取って解説してしまいます。これも、よくあることです。事前に教材研究をしているからどうしても話したいのです。ここをぐっと押さえて、「今の意見どう思う」と他の子どもにつなぎたいところです。

資料の読み取り方はきちんと指導しておく必要があります。「気づいたことは?」という発問ではなかなか気づくことができません。「どんな人がいる」「場所はどこ」と資料の基本情報を共有してから考えさせる。「今と比べて、何が同じ、何が違う」と比較の基準を与えるといったことも必要です。資料を使うたびにこういった視点をまとめておき、次に資料を見る時に「資料を見る時に大切なことはなんだっけ」と問いかけていくことで子どもたちの資料を読み取る力は育っていきます。「気づいたことは?」と発問するだけで答えることができる子どもになります。

子ども役が、3つの資料に対して長い意見を言う場面がありました。授業者はさえぎることなく話を続けさせますが、その間発表者を見ています。発表者も前を見ながら話しします。メモを取っている子ども役もいますが、何人かの集中力が落ちていきます。しかし、授業者は気づけません。授業者には常に全体の様子を把握することが求められます。長い説明は他の子どもが途中でついていけなくなります。途中で止め、そこまでを納得したか確認して、全体で共有する必要があります。

グループで話し合いをする場面で、授業者に質問した子ども役がいました。ここで、授業者は個別に対応しました。内容にもよりますが、全体に伝えるべきことであれば、みんなに対して質問を発表させ共有させる必要があります。個別の質問であれば、教師が答えるのではなく、グループの仲間で解決させるようにする必要があります。また、個別に対応しているとどうしても全体が見えなくなり、活動が止まって教師の支援が必要なグループに気づけなくなります。すぐに全体が見渡せるような位置取りを意識することも大切です。

教科書に載っている藩校について調べた文章を読んで、藩校で教えていたことに線を引くように指示ました。子ども役に発表させる場面で指名された子ども役以外の顔が上がりません。教科書をディスプレイに表示するだけで、子ども役の顔をあがったはずだと思います。授業者は儒学について補足の説明をしますが、そこでも子ども役の顔が上がりません。授業を止めて、子ども役に何を考えていたかたずねてみました。「どこに書いてあるのだろうと探していた」「ここには書いていないけれど礼儀も教えていたんじゃないかと考えていた」とバラバラです。聞いているようで意外と聞けていないものです。補足説明をしっかり聞かせたかったかどうかは別として、聞かせるためにはいったん話し手に対して集中させる必要があるということです。

最後に明治時代の学校についての動画を見せました。当時の授業風景を再現したりと、とても興味深いものでしたが、子どもには長いすぎるかもしれません。また、見る前に目的や目標を伝えなかったので漫然と見てしまうかもしれません。長い動画は後からポイントとなる場面を確認することが難しくなります。見終わったあとに質問しても、見逃した子どもには確認の手段がありません。結論を聞かせるだけになってしまいます。見る前に、どんな質問をするかを伝えておくといったことが必要になります。

社会科として、この日は何を考えさせたい、どのようなことに気づかせたい、どのような力をつけさせたいかが今一つはっきりしませんでした。子ども役から出てきたことから広げたかったのかもしれませんが、収束地点があまりはっきりしていなかったと思います。どのような意見を焦点化する、深めるといったことや、気づかせるための追加の発問などを考えておくためにも、ゴールを明確にしておくことが必要になります。

授業者がどこまで、意図的だったかを確認する時間がなかったのですが、資料や動画を使う授業やグループ活動での注意点を明確にすることのできる、授業を考える材料としてはとても素晴らしいものでした。参加された先生方が他人事ではなく、自分の授業でも同じような場面があると気づいてくだされば、とても学びの多いものになったと思います。

研修終了後、昨年アドバイスをした若手の2人が質問に来てくれました。今年の新任2人と一緒に話をする時間を持てました。今年1年生の担当になった方は、昨年のアドバイスを意識して学級経営をしたところ、落ち着いた学級になったとうれしい報告をしてくれました。また、今困っていることとして、学級活動で子どもの意見が対立した時の対処法をどうすればいいかという質問をしてくれました。互いが主張ばかりするようです。こうすればうまくいくという保証はできませんが、理由を発表させた後、賛成するかどうかは別にして、その意見に反対の人に言っていることが理解できたか確認する場面をつくるようにアドバイスしました。低学年では自分の意見を通したいと、相手の意見にかまわず自分の考えを言う傾向があります。そこで、いったん自分の考えではなく相手の考えを理解する場面をつくるのです。相手の考えや気持ちを理解しようとすることで、妥協点を見つけることができる可能性があります。
もう1人の若手からは、子どもに考えさせる場面をつくると授業のテンポが悪くなってだれてしまう。時間も足りなくなる。どうすればいいかという質問をされました。じっくり考える時間を与えるのは悪いことではありません。それで困るということは、テンポが単調になっている可能性があります。復習や確認の場面などテンポアップできるところでペースを上げ、逆にじっくり考えるべきところは、テンションを下げて時間を取るようにとアドバイスしました。どこでテンポアップするか、どこでじっくり考えるかは教材研究をしっかりしなければできません。そのことに気づいてくれたようです。
新任2人は先輩の話を、メモを取りながらしっかり聞いてくれました。前向きさを感じます。この日の研修と合わせて、どのようなことを学んで実践してくれるか楽しみです。次回の訪問の楽しみが一つ増えました。
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