若手の授業で考える(その2)

前回の日記の続きです。

6年生の国語は同じ部分と同じ音を持つ漢字(形声文字)の学習でした。
授業者は明るい表情で、子どもたちを受容する雰囲気があります。パソコンをフラッシュカードとして利用して漢字の読みの練習をします。上手な使い方なのですが、パソコンにくっついて操作していることが気になります。ワイヤレスマウスを活用したいところです。
同じ部分を持つ漢字が入る穴埋め問題に取り組ませます。子どもはそのことを意識していません。手詰まりになった子どもは集中力が落ちます。そこで授業者がヒントを出すことで子どもの集中力は戻りました。全体で1問解いて、共通点を意識させてから取り組むとよかったかもしれません。
同じ部分や同じ音を持つ漢字を調べようという課題ですが、授業者は部首やつくり、音や訓という国語の用語をきちんと確認していません。また、これまで学習した漢字の成り立ちと関連付けていません。形声文字という言葉を最初に出す必要があるかどうかは別にして、どこかで押さえたいところです。
授業者は指示を出した後、ちゃんと確認していました。「早い人がいますね」とほめることも意識しています。しかし、6年生ともなると自我が発達していますから、漠然とほめても自分がほめられたとは意識しません。「○○さん早いね」と固有名詞でほめるようにするとよいでしょう。
男子のテンションが上がり気味です。授業者が反応を受け止めてくれるのでつい調子に乗るようです。男子のテンションに反比例して女子のテンションが下がります。何でも受け止めるのではなく、授業に生かせることは、全体の場で公的に発言させ、そうでなければ無視をすることも必要だと思います。
教科書の問題を解いた後、グループで穴埋め問題を作ります。漢字辞典を全員に配ります。漢字辞典を使う必然性があるよい課題です。漢字辞典の音訓索引を使うとよいとヒントを言います。ここでも音訓という用語をきちんと押さえませんでした。グループの代表を集めて発表用の用紙を配り、どのように使うかの指示をします。この間他の子どもは何もすることがありません。たとえ代表が書記の仕事をするにしても、全員が理解しておく必要はあると思います。全体に説明すればよいのです。
グループで発表するといっても、みんなで考える必然性はありません。どの問題がよいかという評価基準もありません。どうしても子どもたちのテンションは上がってしまいます。それぞれが作った問題がちゃんと条件にあっているか確認をするといった役割を互いに持つことが必要だと思います。
子どもたちは音訓表を見るだけで問題を作っています。一つひとつの漢字を調べてはいません。全体で一度、漢字辞典にどのような情報が載っているかを確認するとよかったでしょう。「形声」という漢字の成り立ちの種類も書かれています。音、訓、部首といった情報もあります。それぞれの用語を確認すれば、形声文字について理解でき、辞典を引く必然性がより大きくなったと思います。音と訓を混乱して、「会」うと「合」うで問題を作っている子どももいましたが、こういった勘違いも減ったと思います。
各グループが作った問題を全体で解くのですが、正解かどうかを授業者が行っていました。これは出題者にさせたいところでした。
授業者は子どもとの関係がよく、しっかり受け止めることができますが、まだ発言者や反応する子どもにしか視線がいきません。全体をよく見て、全員が参加できることを意識してほしいと思います。

授業研究は5年生の社会科の授業で行われました。日本の米作りの課題について考えるものでした。
子どもたちに朝食で何を食べたかをたずね、パンを食べている家庭が多いことに気づかせます。そこで、田んぼの一部が休耕田となっている写真をディスプレイに表示させ、気づいたことを発表させました。稲が植えられていないという発言に対して、授業者はうなずきながら「なるほど」としっかり受け止めます。何人かに意見を聞きますが、どの意見に対してもきちんと受容ができています。なかなかのものです。友だちの意見に対して、鳥がたくさんいることを付け加えた子どもがいました。授業者はその意見もちゃんと受け止めたのですが、最後に「みんな同じことを言ってくれた」とまとめました。みんな同じと言われると、違うことを言ったつもりの子どもにとっては、自分の意見が認められなかったと感じてしまいます。ここは、「共通して言っていることがあったね」とまとめるとよかったでしょう。
授業者はなぜ米を作らないのかという疑問を持たせた後、「三ちゃん農業」という言葉を表示しました。もちろん何のことか子どもにはわかりません。授業者はこの授業でわかるようになると、子どもたちに意識をさせるだけにして先に進みました。「三ちゃん農業」がキーワードとなって、この言葉を理解することがこの授業のねらいにつながるのなら、こういう提示もあると思います。
子どもたちにワークシートを配ります。ワークシートには「年齢別農業人口のうつり変わり」「農家数のうつり変わり」「米の生産量・消費量と古米の在庫量のうつり変わり」のグラフが印刷されています。資料を見て気づいたことをワークシートに書かせます。「気づいたこと」という発問では、よほど鍛えていないとなかなか資料を読み取ることができません。資料を読み取るための視点を明確にしておく必要があります。「グラフを見るときは、どこに注目すればよかった?」と問いかけ、今までの学習から「一番大きいところ、小さいところ」「増えているか減っているか」「変化の大きいところ、少ないところ」といったことを事前に整理しておきます。また、資料に使われている用語の意味などの確認も必要です。読み取るための足場を作っておくことが大切です。
授業者は気づいたことと言いながら、活動に入る前に「日本の農業のかかえている問題点の本質」を考えてほしいと付け加えます。資料を読み取ることと、読み取ったことをもとに考えることは別のステップです。今はどちらの活動かを明確にしないといけません。できた子への指示というのならよいのですが。
グループで気づいたことを聞きあうのですが、その活動の目標がはっきりしません。友だちの意見を聞いて自分のものに付け足すのか、意見を出し合って、その上で何かを考えるのかといったことが明確でないので、ただワークシートを読みあっています。子どもの目線が交わりません。
資料が3つなので時間が足りなかったようです。子どもたちから時間がほしいという声が上がりましたが、授業者は予定の時間で切り上げました。資料の読み取りがこの日の主課題ではないので、よい判断です。
子どもに気づいたことを発表させますが、子どもの言葉が足りなくても授業者がまとめて板書します。発表者も、他の子どもも授業者を見ています。授業者がまとめるので、聞く必要がないのです。授業者は「同じような意見の人」とつなごうとしますが、一部の子どもが手を挙げるだけでなかなかつながりません。気づいた結果だけを発表するので、つながらないのです。どこでそう考えたのか、資料に戻ることが大切です。その根拠を共有することで、「納得した?」「そう言える?」と気づかなかった子どもにも参加をうながせますし、「資料の同じところから別のことに気づいた人いる?」とさらに深めていくこともできます。
一人の子どもが、手元の資料を見ながら長い説明をしてくれました。しかし、ただ聞いていても何が言いたいのかよくわかりません。授業者は受容だけして、次の子どもを指名しました。これでは、子どもたちは友だちの考えを理解しようとしなくなります。本人を前に出させ、資料を一つひとつ確認しながら説明させてほしいと思います。
授業者は農業従事者が老齢化していることを押さえて、「三ちゃん農業」の説明をしました。ここでこの日の主課題「今後、米作りは必要なのでしょうか?」に取り組ませます。「日本の未来を考える」ことにつながると言いますが、子どもにとってはどういうことかわかりません。また子どもたちから出てきた疑問でもありません。「このままいったら、誰も米を作らなくなる?」「休耕田があったけれど、農家の人は米を作りたくないの?」といった揺さぶりをしてから、課題を提示したいところです。
さて、ここまで資料から読み取ったのは、農業人口が減っていること、老齢化していること、米の生産量も消費量も減っていることです。この日の主課題を考えるには、内容的にはかなり偏っています。輸入や自給率についての資料も必要です。子どもたちは資料をもとに考えをまとめることはできません。グループで活動しますが、客観的な根拠がないので、テンションが上がります。
子どもたちに考えを発表させます。「米を作らないとおすし屋がつぶれる」「米のパンを作れるから、米を作ればいい」といった面白い意見も出ますが、思いつきの域を超えていませんでした。授業者はここで、米の輸入のグラフを見せます。授業者がおいしいところを持っていきます。どんな資料がほしいかを聞いてから出すのならいいのですが、あとから出すくらいなら最初から出してほしいと子どもは思います。ここからは、まったく考えていなかった視点からの展開なので、多くの子どもは話し合いについていけません。手遊びが増えていきます。課題を焦点化してもう一度グループに戻して考えさせたいところですが、その時間も深めるための資料もありませんでした。授業者は、「(米作りを)変えていかなくてはならない」とまとめましたが、何が問題かは明らかにならないままでした。
最初に3つもの資料の読み取りをしないで、どれかひとつに絞って、先ほど述べたように、「誰も米を作らなくなるんじゃないの?」と問いかけ、おすし屋がつぶれるといった言葉を引き出し、そこから「米を輸入すればいい」「売ってくれないと困る」とつなげ、「米を作りが必要」「不要」についてそれぞれ何が問題なのかを資料をもとに考えさせればよかったように思います。
社会科の授業として何を考えさせたいのか、そのためにどのような資料が必要なのか、こういったことを意識して授業を組み立ててほしいと思います。

授業検討会では、この授業をもとに資料の使い方、グループ活動における必然性や目標、評価基準を明確にすることなどをお話しました。また、全体に共通なこととして、全員参加を意識してほしいことなどもお話しました。
皆さんとても前向きに話を聞いていただけました。この日お伝えしたことを何か1つでもいいのでやってみようと思っていただければ幸いです。
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