授業の進め方について考えさせられた1日(その2)

前回の日記の続きです。

6年生の算数は3年目の先生で、拡大縮小の授業でした。
子どもたちとの関係をつくることのできる方です。子どもたちが話を聞く姿勢になるのを待ち、最後の子どもの顔が上がった時に笑顔でうなずきました。経験年数の少ない方でこういったことが自然にできる方にはなかなか出会えません。ワークシートを配る時には「ありがとう」を言って子どもたちに手渡します。子どもたちも互いに受け取る時にありがとうを言います。よい習慣ですが、全員がありがとうを言えていないことが気になりました。おそらく最初は全員が言えていたと思いますが、しだいにゆるくなってきたのでしょう。先ほどの笑顔のように、何らかの評価をしてよい行動を強化維持することが必要です。
子どもたちに方眼紙を使わずに拡大縮小をするために「使えそうな道具」を考えさせます。前の時間に合同な三角形の描き方の復習をしたそうですが、もう一度最初に確認しておきたいところです。その日の授業で使う知識は最初に復習や確認をして、子どもたちの足場をそろえておくことが大切です。この授業であれば、拡大縮小の性質も押さえておきたいところです。
指名された子どもが「定規」と答えると、それに対して「いいです」と返ってきます。自分と同じ答だからいいではなく、算数的な根拠を意識させたいところです。数学の作図における定規は、直線を引くものです。長さを測るというのは、また別の使い方です。小学校ではあまりこだわる必要はありませんが、何に利用できるかは押さえておく必要があります。コンパスも、円を描く、同じ長さをつくるという2つのことを押さえておきたいところです。授業者は「定規」「コンパス」「分度器」以外の答も受容しますが、黒板には書きませんでした。受容はしているけれど結果的には無視です。それぞれがどういう理由で必要なのかといった根拠を元に、その道具がなくてもよさそうだと納得させる必要があるように思います。
指定した三角形の3倍の拡大図を個人で描かせます。途中で、できた子どもには他の描き方に挑戦するように指示します。最初に指示をしておくか、作業を中止させてから指示をすべきでしょう。授業者は3パターンあるという表現をしましたが、パターンという言葉が子どもたちどう伝わったかが気になります。元の三角形は、3つの辺の長さ、3つの角の大きさがすべて与えられています。従って、基本的に描き方は7通りになります。できるだけたくさんの方法で描かせて、それをパターンに分類することが算数的な見方・考え方を鍛える活動になります。授業者は、無意識に自分の考える結論に誘導しようとしていました。
続いて、グループで描き方を話し合うのですが、その活動の目標がはっきりしません。子どもたちは、自分の描き方を説明します。違うやり方の友だちに、自分の描き方をわからせようとテンションを上げる子どもの姿を目にします。できる子どもが自分の考えを友だちに教えることが目標のようになっていました。明確なゴールがないので、次第に子どもたちのテンションがおかしくなってきました。どの描き方がいいのかを話しているグループがありましたが、意味のない議論です。根拠がありませんから、テンションばかりが上がっていました。
指名した子どもが前に出て図を描きます。授業者は「描き方があっているか見ていてあげて」と子どもたち声をかけます。「あっているか」という表現はチェックの視点です。「自分の描き方と比べてみて」「同じかどうかよく見て」といった表現にしたいところです。
指名された子どもは、授業者の指示に従って基準となる長さを大き目にとって作図を始めたのですが、黒板での作業はとても時間がかかります。しかも、基準が長すぎて計算した長さにコンパスが開かなくて立ち往生してしまいました。授業者は事前に基準となる長さどのくらいとればよいかチェックしていなかったようです。焦った授業者は子どもを席に帰し、「○○さんと同じやり方で描く」と言って作図をしましたが、描き終ったあとに本人にこれでよかったか確認をしませんでした。○○さんと同じと言った以上、確認することが必要です。
大きく描くことは子どもたちにとってはとても難しいことです。実物投影機を使える環境にあったので、これを利用するとずいぶん状況が違ったと思います。
続いて他の描き方に移りましたが、今度は子どもに指示を出してもらって授業者が描きました。先ほどの子どもにもそうすればよかったところです。子どもの指示は決して正確ではありません。時間がなかったせいもありますが、授業者はとても物わかりのよい教師になっていました。「片方に角を・・・」と言われると子どもが思っている方に角を取ります。ここは、子どもたちに考えさせるためにも、物わかりの悪い教師になって、わざと角の場所を間違えたりしてほしいところです。反転した図や斜めの図を描いたりして、これではダメなのと聞き返すことで、子どもたちの視野も広がります。また、子どもたちのほとんどは、底辺を元に作図していましたが、こういった揺さぶりをすることで、他の辺を基準にしても描けることに気づいてくれたと思います。
時間がなかったせいもあり、拡大縮小の性質と、合同な三角形の作図を組み合わせて考えることの算数的な価値づけをすることができませんでした。授業のねらいを明確にし、そこを軸にして授業の構成や時間配分を調整することが大切です。算数の授業の基本的な進め方をもう一度勉強してほしいと思いました。
授業者の基本的な授業技術がかなりしっかりしていたので、教科の内容についてじっくりと考えることができた有意義な1時間でした。

もう一つの6年生の授業も算数で、表を使ってすべての場合を調べて考える単元でした。7年目の先生です。
前時の復習で、表を使うとわかりやすいということを子どもたちから引き出しました。しかし、「わかりやすい」がどういうことか明確になっていません。いろいろな場合がある時やすべての場合を調べなければいけない時に、過不足なく調べるためには表を使うとわかりやすいことを押さていません。おそらく、前時も「これで全部」「もう他にはない」といった揺さぶりをしていないのだと思います。
この日の課題は、与えられた数の板で地面を囲って花壇をつくったとき、面積を最大にするにはどうすればよいかというものです。問題文を読んでから教科書を閉じさせ、グループで問題の要素を確認させて問題把握をさせますが、この活動は覚えられなかった子どもは参加できません。友だちに聞いたからと言って正しいかどうかも判断できません。あまり意味のないグループ活動です。
挙手指名で子どもに発表させました。問題文の「面積」という言葉が足りなかった発言に対して、その言葉を足してくれた子どもを「すばらしい」とほめました。覚えていることをほめることは、算数の評価としてはあまり意味のあるものではありません。問題文を1回読んで覚えることができた子ども、挙手する子ども、一部の子どもだけで授業が進んでいきます。また、この問題は、要素を言葉でまとめても、状況がどういうものかを図に描けなければ理解できません。実際に板を用意して花壇をつくってみることが大切です。教科書のイラストで課題を把握してもいいですが、読み取る力をつけたいのであれば、問題文だけを見ながら、どういう状況か図に表わす作業を全員参加でていねいにするべきでしょう。
花壇の形は縦と横が変化すること、その面積は縦×横になることを授業者が説明します。全員が問題把握をできていないのに、一番肝心なところは全部授業者が教えていました。
変化するものを表にしなければいけないからと、「縦」「横」「面積」と項目が書きこまれた表を全員に配ります。表の項目をどうすればいいのかを考えるのが大切なのですが、これも教師が与えます。子どもは何も考えずに表を埋めるだけなのです。表の横の欄の数が1つ少なかったと訂正をしました。過不足のない表を最初から与える予定だったということです。「これで全部」「もう他にはない」といった発問は考えられていないということです。
表を埋めた後、グループになります。答の確認のために板の代わりのひごをグループに与えました。この道具は問題把握の場面で使いたかったところです。表から気づいたことを話し合うというのですが、答以外に何を話していいかわかりません。単なる作業の報告です。友だちの話を聞かずにひごで遊んでいる子どもいます。答の確認が終われば子どもたちはすることがありません。ムダ話をしている子どもとひごで遊んでいる子どもが目につきました。
この課題で何を考えさせなければいけないのか、課題解決に必要な力は何かを授業者は理解していませんでした。授業者の指示通り作業して答を出す時間になってしまいました。
答えが出ればいい。できるだけ間違えずに答を出せるように指示をして作業をさせることが大切。そんな授業観に感じる算数の授業によく出会います。自分で考え、困ったり、間違えたりすることを通じて、わかった、できた喜びを感じさせるような授業を目指してほしいと思います。

授業技術ではなく授業の進め方、教材研究について考えさせられた1日でした。教材研究はこうすればうまくいくというものを提示することがなかなかできません。「教科書をよく読んで」といっても、理解する力がなければ何ともなりません。私が単元すべてを一つひとつ解説するわけにもいきませんし、「自分で勉強して」と突き放してもなかなか難しいものがあります。仲間で学び合う風土をつくるくらいしかよい手が浮かびません。大きな課題を突き付けられたように思いました。
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